spnet保安-誤認逮捕と刑事責任、事実の錯誤と法律の錯誤、違法性阻却事由の錯誤



店長のための 「保安のイ・ロ・ハ」


その 4

誤認逮捕をしても犯罪にはならないが‥

店長さんへ
今回は小難しい内容になりました。読むとイライラしますので読まないでください。
お店の保安担当に読ませて、あとで要点だけ教えてもらってください。





1. 再会


『 あれっ? こんな店で会うとは驚きですね。前回に小学生万引きを捕まえて逆に逮捕監禁罪で緊急逮捕されたGメンさんじゃないですか!』


G 『 もうそのことは言わないでください。あれにはまいりましたから‥。』


『 緊急逮捕された後、どうなったのですか?』


G 『 警察は私の逮捕状を取りました。 しかし、あの小学生の保護者が被害届を出さず、送検はされませんでした。』


『 なぜ、小学生側が被害届を出さなかったのですか?』


G 『 あの小学生は以前にも別の店で万引きをしたことかあるそうです。

      保護者は裁判になって息子のことが世間に知られるのがいやだったようです。

      私のしたのは違法逮捕だったけれど、保護者から 「 よく捕まえてくれた 」 と感謝されました。』



★知っていて損はない雑学 - 任意の指紋採取に気をつけよう★



『 しかし、留置場に入れられたでしょう?』


G 『 自由を拘束されるのが、あんなに惨めなものだとは思いませんでした。

      それに、プレートを持たされて顔写真を撮影され、指紋を採られました。

      映画に出てくるシーンそのままですよ。』


『 万引き犯人の気持ちが少しは分かったでしょう? いい経験になったじゃないですか。』


G 『 しかし、指紋を警察に登録されることは嫌なものですね。

      自分の指紋が警察に登録されていても、悪いことをしなければ何も問題はないのですが‥。』


『 やってはいけない悪いこともできるから、精神的な自由を感じるのですからね。』


G 『 私が以前に捕まえた万引き犯人も同じ気持ちを味わっているのかと思うと、少し同情したくなりますよ。』


『 えっ? 顔写真や指紋をとられるのは、犯人が警察に逮捕された場合だけですよ。

   万引きは再犯であったり、被害金額が大きかったりした場合でなければ警察に逮捕されません。

   逮捕という身柄拘束をせず任意取り調べをしますから、顔写真や指紋をとられることはありません。』


G 『 そうなんですか!』


『 指紋・足型・身長・体重・写真・入れ墨・ホクロ・アザ・唾液などを調べることを身体検査といいます。


   この身体検査をするためには特別な身体検査令状が必要です。( 刑訴法 218条1項 )

   これらを調べることは個人の尊厳に関わりますからね。

   ただし、逮捕によって身柄を拘束している場合はこの身体検査令状を必要としません。( 刑訴法218条2項 )

   身体検査が捜査のために必要であるし、この程度のことは 「 身柄を拘束することに含まれている 」 と言えるからです。』


G 『 私は逮捕されたから顔写真や指紋をとられたのですか!

       万引き犯人が任意で取り調べられる場合は顔写真や指紋をとられないのですか!』


『 まあ、そこは手練手管の警察ですから、任意取り調べでもしっかりと指紋や顔写真をとりますがネ。』


G 『 そんなこと違法行為じゃなんですか!』


『 令状が必要な身体検査でも、強制しなければ違法行為になりません。任意取り調べをする警察官はちゃんと “ お願い ” しています。

   「 今から鑑識で顔写真と指紋を
とってきてもらいたいンや!そこにいる警察官といっしょに鑑識へ行ってくれ!」 と。

   この “ お願い ” に犯人が応えてくれたのですから “ 強制 ” ではなく “ 任意 ” となります。

   任意の身体検査だから身体検査令状がなくても違法ではありません。』


G 『 こんなの “ ダマシ ” じゃないですか!取り調べ警察官にそう言われて、誰が “ お願い ” だと思いますか!』


『 「 消防署の方から来ました。消火器の点検をしますのでお願いします。」 と言って信用させ、消火器を売る手口と似ていますね。

   しかし、 結局は騙された方が悪いのですから注意しましょう。

   そうそう、供述調書に拇印を “ お願い ” されても騙されてはいけませんよ。

   拇印を押させることも身体検査ですから身体検査令状が必要ですからね。』



2..誤認逮捕をすると刑事責任を問われるか?



a.現行犯逮捕できると思っていたが実際はそうではなかった場合は違法逮捕にならない?




G 『 質問があるのですが‥。』


『 どうそ。』


G 『 警備員教育で 「 誤認逮捕をしても刑事責任はない。

      現行犯逮捕できると思っていたが実際はそうではなかった場合は違法逮捕にならない。」 と教えられたことがあります。

      前回、私が小学生万引きを現行犯逮捕したのは、 「 小学生でも現行犯逮捕できる 」 と思っていたからです。 しかし、実際はそうではなかった。

      だったら、私のした現行犯逮捕は違法逮捕にならないのではないですか?』


『 なかなか骨のある警備会社じゃないですか。ふつうそんなことは知っていても教えないのですがねぇ‥。』


G 『 SPnet さんは、もっと細かな点まで教えているじゃないですか!』


『 それは、ウチが “ 普通の警備会社 ” ではないからですよ。

  

b. 「 熊じゃなかったの?」 と 「 してはいけないことだったの?」



『 これは錯誤論といって法律の素人サンには少し難しい部分なのです。

  素人サンに分かるように大雑把に説明します。法律を勉強したことのある方は説明の間違いに目をつぶっていてくださいね。』

※「故意の成立に違法性の意識が必要か否か」については論争がありますが、旧来の判例が採る「違法性の意識不要」とうい立場から説明しています。
※「それが事実の錯誤か法律の錯誤か」についてもいろいろな考え方がありますが、 大雑把に「構成要件の要素に関する錯誤は事実の錯誤、要素の解釈に関する錯誤は法律の錯誤」」としています。

※違法阻却事由の錯誤についても、「それを構成する要素を知らなかった ・ 間違っていた」場合だけでなく 「その要素の解釈を間違っていた場合 」も法律の錯誤としています。
※以下では、何の権限も持たない警備員が他人の権利自由を侵害しないように、「行為者( 警備員 ) の錯誤が故意を阻却しない方向・ 犯罪が成立する方向 」で説明してあります。



G 『 素人に分かるようにお願いします。』


( 事実の錯誤 )


『 錯誤とは “ 思い違い ” のことです。

   たとえば、人を熊だと思って鉄砲で撃ち殺した。 人を熊だと思い違いをした場合です。

  殺人罪 の殺人とは 「 人を殺す 」 ことです。

  殺人罪が成立するためには 「 人を殺す 」 という故意が必要です。

   つまり、「 相手が人であること 」 ・「 相手を殺す行為 をすること 」 を知っていなければなりません。

   しかし、人を熊だと思った場合は、「 相手が人であること 」を知りません。

   だから、殺人の故意がなく、殺人罪が成立しません。

   ただ、 「 人を熊だと思い違いをしたこと 」 に過失があれば過失致死罪が成立します。

   これを “ 事実の錯誤 ” といいます。

   殺人罪を構成する要素である事実に関して思い違いをした場合です。』


( 法律の錯誤 )


 『 では、「 殺人罪があることを知らなかった 」 ・ 「 人を殺したら犯罪になることを知らなかった 」 場合はどうでしょう。

  「 相手が人であること 」 ・ 「 相手を殺す行為をすること 」 を知っていたが、「 それが犯罪になること 」 を知らなかった場合です。

  これを “ 法律の錯誤 “ とか ” 禁止の錯誤・違法性の錯誤 ” といいます。

   この法律の錯誤の場合は 「 殺人の故意がなかった 」 とされず、殺人罪が成立します。

   犯罪の成立・不成立に、 こんな個人的事情まで含めたら複雑になりますからね。

   「悪いことだとは思っていなかった」 という個人的事情は刑を決める ( 量刑 ) 段階で考慮されます。
    いわゆる “ 情状酌量 ” ですね。

    刑法はこのことを条文に明記しています。』

  ※ 刑法38条3項
  「 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を置かす意思がなかったとすることはできない。
     ただし、情状により、その刑を減軽することができる。」


G 『 ちょっと待ってください。 「 殺人が悪いこと・犯罪であること 」 は誰でも知っているでしょう?

      法律の錯誤が問題となる場合なんかないのじゃないですか? 』


『 誰でも知っている殺人罪を例にしましたからね。

   刑法に盗品譲り受け罪 というのがあります。

   ※刑法256条1項
    「 盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物を無償で譲り受けた者は、三年以下の懲役に処する。」

    この規定を知らなくても、それが盗品であることを知って、それをもらった場合は盗品譲り受け罪の故意があったとされます。

    つまり、盗品譲り受け罪が成立するのです。


    犯罪は刑法だけに規定されているのではありません。

    たとえば銃刀法 ( 銃砲刀剣類所持等取締法 ) が改正され、平成21年1月5日より施行されました。

    改正点は 「 刃渡り5.5㎝以上のタガー ( 両方に刃のついている両側の形が対称のナイフ ) の所持禁止」。

    従来は 「 刃渡り15㎝以上のタガーの所持禁止 」 です。

    今回の改正で、今まで所持が認められていた 「 刃渡り5.5㎝以上 15㎝未満のタガー 」が所持できなくなりました。

     「 所持 」 とは 「携帯 」 ではありません。
     「 自分の支配下に置くこと 」 です。自宅の金庫の中に入れておいても 「 所持 」 です。

    この銃刀法改正をしらず、 「 刃渡り5.5㎝以上 15㎝未満のタガー を所持していても銃刀法違反にならない」 と思っていても、
    銃刀法違反になり、3年以下の懲役または50万円以下の罰金となります。


    ※タガーの定義 ( あくまでも警視庁の解釈です )  と 刃渡りの定義 ( あくまで警視庁の解釈です )


     このように、犯罪は特別法や条例にも規定されています。
     なかには 「 そんなことが犯罪になるのか!」 と思われるものもあります。

     だから、法律の錯誤は我々の身近にあるのです。』



c 「 お父さんだったの? 」 は セーフ



『 ここから、少し難しくなりますよ。』

G 『 はいっ! 覚悟しています。』


( 正当防衛 )


『 違法性阻却事由とは何ですか? 』


G 『 犯罪構成要件に該る場合でも、その違法性がなく犯罪が成立しない場合です。

      簡単に言えば、その行為が犯罪であるように見えても、その行為をしたことが悪いとは言えない場合 です。』


『 どんなものがありますか?』


G 『 正当防衛、緊急避難、現行犯逮捕、正当行為などです。刑法に規定されている場合もありますが、社会通念上認められているものもあります。』


『 よく勉強していますね。  まず、正当防衛を例にとって考えてみましょう。

   正当防衛とは 「 急迫・不正の侵害に対して自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為 」 ですね。

   このような行為は人間の防衛本能によるものだから、犯罪になりません。。』


G 『 相手が殴りかかってきたら、自分の身を守るために相手を突き飛ばしても正当防衛として暴行罪にならないのですね。』


( 誤想防衛 )


 『  ここでも、「 正当防衛ができると思って正当防衛行為をしたが、実際は正当防衛ができる場合ではなかった 」 ことが起こります。

  
  ・男が泣き叫ぶ子供の手を引っ張っている。
  ・あなたは 「 その男が子供を誘拐しようとしている 」 と思った。
  ・あなたは、その子供を助けるために男を突き飛ばして男にケガをさせた。
  ・しかし、その男の人は泣き叫ぶ子供の父親だった。

   この場合、あなたに正当防衛が成立するでしょうか。』
   
   
G 『 これは正当防衛が成立するでしょう! 』


『 そうです、正当防衛が成立します。 でもそれはなぜですか?』


G 『 ‥‥。』


『 ヒントを与えましょう。 あなたは 「正当防衛ができる場合 」 だと思い違いをしたのですが、どの部分を思い違いしたのですか?』


G 『 「 父親がむずかる子供の手を引っ張っている 」 のを 「 男が子供を誘拐しようとしている 」 と思い違いしたことです。』


『 そうです。 男が子供を誘拐しようとするのは “ 不正の侵害 ” ですが、
   父親がむずかる子供の手を引っ張っていくのは “ 不正の侵害 ” ではありません。

   あなたは “ 不正ではない侵害 “ を “ 不正な侵害 ” と思い違いをしたのです。』


G 『 あっ!それなら、 “ 事実の錯誤 ” じゃないですか!』
  

『 なぜ、事実の錯誤なのですか?』


G 『 正当防衛が成立するのは、「 急迫+不正+侵害+自己または他人の権利を護るため+やむを得ない行為 」 です。

      不正の侵害は正当防衛を構成する一つの要素です。

      正当防衛を構成する要素である “ 不正の侵害 ” について思い違いをしたのだから事実の錯誤です。

      それは殺人罪を構成する要素である “ 人 ”  を  「 人ではない 」 と思い違いした場合と同じです。』


『 よく気がつきましたね。その通りです。

   この場合は、事実の錯誤として正当防衛が成立します。( 判例 )』



G 『 でも、殺人罪の場合の事実の錯誤と正当防衛の場合の事実の錯誤とは少し違うような気がしますね。』


『 なかなか、細かい点まで気がつくじゃないですか。

  判例は 「 事実に関する錯誤だから事実の錯誤 」 と単純明快です。
   しかし、学説は 「 違法性阻却事由に関する事実の錯誤 」 として単なる事実の錯誤とは区別しています。

   もっとも、事実の錯誤として正当防衛が成立するのは同じです。』


G 『 ?、?、?‥。なぜ学説はそのような区別をするのですか?』


『 これ以上説明すると、店長さんが読む気をなくしますから止めておきます。』


店長 『 もう、読む気をなくしているワイ!』



d. 「 できなかったの?」 は アウト



『 「 正当防衛ができると思って正当防衛行為をしたが、実際は正当防衛ができる場合ではなかった 」

      このようなことは、上で説明した場合とは別の場合がありませんか?』


G 『 分かりました、分かりました。この辺で “ 法律の錯誤 ” が出てくるのですね!

      ということは、「 正当防衛の規定をしっかりと理解していなかった場合 」 あるいは 「 正当防衛の規定を間違って理解していた場合 」 ですね。』


『 その通りです。

  「正当防衛の規定を  しっかりと理解していなかった ・ 間違って理解していた 」 とは、結局 「正当防衛の規定を知らなかった 」 ことになります。

    つまり、法律の錯誤がある場合です。』


G 『 具体的に言うとどんな場合ですか?』


『 たとえば、

  ・アナタの後を歩いていた男が、追い抜きざまにアナタの頭を殴った。
  ・アナタは男を追いかけ、正当防衛として男の頭を殴った。
  ・アナタは正当防衛を 「やられたら、やりかえしてもかまわない 」 と思っていたのです。
 
 
  もちろん、正当防衛はそんな規定ではありません。
  
  正当防衛の条文は 「 急迫不正の侵害に対し‥ 」 と明記しています。

  正当防衛は 「 不正の侵害 」 に対して行えますが、それは “ 急迫 ” のものでなければなりません。

   “ 急迫 ” とは 「 差し迫ってくる 」 ことで、「 まだ到達していない 」 ことです。

  不正の侵害が到達してしまったら、もう “ 急迫 ” とは言えません。

   だから、不正の侵害が到達してしまったら、もう正当防衛は行えないのです。


  上の例で言えば、男がアナタの頭を殴ったのは不正の侵害です。
   しかし、男はもうアナタを殴ってしまったのだから、男の不正の侵害はアナタに到達しています。
   もう、アナタは男に対して正当防衛ができないのです。

   ところが、アナタはまだ正当防衛ができると思い違いをして、その男を追いかけて男を殴った。

   これも 「 正当防衛ができると思って正当防衛行為をしたが、実際は正当防衛ができる場合ではなかった 」場合です。
  
   この場合も、アナタに正当防衛を認めてよいでしょうか?』


G 『 認めてやりたいのはヤマヤマですが、
      結局 「 正当防衛の規定を知らなかった 」 ことが原因ですから、法律の錯誤として正当防衛を認めるわけにはいきませんネ。』


『 そうです。この場合は正当防衛が成立せず、アナタはその男に対する暴行罪、男はアナタにたいする暴行罪になります。』



e. 「 盗っていなかったの? 」 は セーフ



『 さて、本題の誤認逮捕の問題に入ります。  もう、答えが見えているでしょう? 』


G 『 現行犯逮捕の規定の要素について思い違いをした場合 と 現行犯逮捕の規定をよく知らなかった場合 ですね。』


『 そうです。事実の錯誤 と 法律の錯誤 の場合です。もう答えが見えていますね。

   まず、現行犯逮捕の規定を言ってみてください。』


G 『 ・現に罪を行い、または、現に罪を行い終わった者を現行犯人とする ( 刑訴法212条1項)
      ・現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕できる ( 刑訴法213条 )   です。』


『 現行犯逮捕は正当防衛と同じ違法性阻却事由です。

   「 人の身柄を拘束すること 」 は逮捕監禁罪になりますが、現行犯人を現行犯逮捕する場合は違法性がなくなり逮捕監禁罪になりません。』


G 『 正当防衛 と 現行犯逮捕 は同じ違法性阻却事由だから、思い違いについて同じことが言えるのですね。』



( 誤認逮捕は違法逮捕にならない )



『 そう先を急がず、ゆっくりと話を進めましょう。』


G 『 ゆっくりとしっかりと聞きます。』


  『 Gメンの誤認逮捕とは、万引きをしていない者を 「 万引きをした 」 と思い違いをして現行犯逮捕する場合です。

    上の現行犯人・現行犯逮捕規定の どの部分を思い違いした場合ですか?』


G 『 「 万引きをしていない 」 のを 「 万引きをした 」 と思い違いをしたのだから、「 現に罪を行い終わった者 」 の部分ですね。

      「 現に罪を行い終わった者でない 」 のに 「 現に罪を行い終わった者だ」 と思い違いした場合です。』


『 そうです。例を上げましょう。

   ・ある男性が 「 同じ薬を買おう 」 と、いつも飲んでいる薬のパッケージを持ってきた。
     そして、このパッケージを手に持って、同じ薬を捜していた。
 
   ・ 同じものがないので、捜すのを止めて手に持っていたパッケージをポケットに入れた。
 
   ・ これを見ていたGメンが、男性が薬を万引きしたと思い違いをした。

   Gメンは 「 その男性が 現に罪 ( 窃盗罪 ) を 行い終わった 」 ・ 「 その男性が現行犯人だ 」 と思い違いをしたのです。

   そして、Gメンはその男性を現行犯逮捕した。

    しかし、男性は盗っていないので、誤認逮捕になった。

    Gメンの現行犯逮捕は違法ですか? それとも違法ではないですか?』


G 『 ずばり答えます。 違法逮捕ではありません。』


『 なぜですか? 』


G 『 Gメンは 現行犯の規定を構成する要素である 「 現に罪を行い終わった 」 について思い違いをしたのです。

      つまり、違法性阻却事由に関する事実について思い違いをしたのだから “ 事実の錯誤 ” になります。

      事実の錯誤がある場合は、その錯誤どおりに評価されます。だから、現行犯逮捕は適法なものとなり、違法逮捕とはなりません。』


『 その通り! Gメンのした現行犯逮捕は適法なものになりますから、Gメンに逮捕監禁罪は成立しません。』


G 『 ということは、「 誤認逮捕をしても  おとがめ なし ですね!』



( 過失犯が問題になる )


『 いえいえ、刑法はそんなに甘くありません。

   Gメンにそのような思い違いをしたことに過失があれば、過失犯として処罰されます。

   過失とは 「 通常人としての注意をしなかったこと 」 です。』


G 『 それはそうですね。

      棚取り現認や追尾が不完全だったり、単品で検挙した場合は、「 通常のGメンとしての注意をしなかった 」 ことになりますものね。』


『 逮捕監禁罪の刑罰は 3月~7年の懲役です。

   では、過失逮捕監禁罪の刑罰を刑法の条文で調べてください。』


G 『 逮捕監禁罪が刑法220条だから、その辺にありますね。 どれどれ‥、あれっ? 過失逮捕監禁罪などありませんよ?』


『 そうです。刑法に過失逮捕監禁罪はありません。』』



G 『 ということは‥、誤認逮捕をしたGメンにどんなに過失があっても “ おとがめなし ” ですか?

     それなら、棚取り現認なし・入れる現認なし・追尾では犯人を見失う、それでも捕まえたら誤認逮捕だった。

     これでも “ おとがめなし ” ですか!

     それなら、Gメンが怪しいと思った相手を片っ端から捕まえることになりますよ!』


『 仕方がありませんね。刑法に過失逮捕監禁罪がないのですから。』


G 『 そんなの、刑法は甘すぎますよ!』



( 民法の過失責任が問題になる )



『 「 Gメンの誤認逮捕に過失があっても刑法が問題にしない 」 というのは 「 そのGメンが刑務所に入らなくてもよい 」 というだけのことです。

  Gメンの過失は民法の不法行為責任として追及されます。

  そこで、精神的損害・名誉信用毀損による損害などについて責任を問われます。』


G 『 ということは、Gメンが通常Gメンとしての注意をしたけれど誤認逮捕した場合は、過失がないので民法でも “ おとがめなし ” になりますよ。』


『 “ 通常Gメン ” の基準が低下していますが、少なくとも “ いわゆるGメンルール ・ 検挙条件 ” を守っていれば過失は認定されないでしょう。

   もっとも、それを守っていれば絶対に誤認しませんがネ。』



( Gメンとしての責任が問題になる )


『 Gメンの誤認逮捕に過失がなく民法上問題にならなくても、顧客に対する責任は問題となります。

   顧客は 「 今回の誤認はGメンに過失がなかったが、今度は過失で誤認するかも知れない。」 と考えます。

   そして、別のGメンに変えてくれるよう要求します。

   これで済めばよいのですが、警備会社に対する信頼をなくして契約解除にもつながります。

   何よりも、誤認したGメンは職人としての信頼・信用をなくしてしまいます。

   これが、プロとしてもっとも大きな代償になりますね。

   もっとも、 「 誤認の一つや二つ、一人前になるためには仕方がない。誤認は勲章の一つだ!」 と思っているGメンもいますがね。』



f. 「 捕まえてはいけなかったの?」 はアウト



『 もうここまでくれば、前回あなたがした “ 小学生の現行犯逮捕 ” が なぜ違法逮捕になるかが分かるでしょう?』


G 『 分かります。

       私は 「 現行犯逮捕できる場合だと思い違いをして現行犯逮捕した 」 が、「 その思い違いは事実の錯誤ではなく法律の錯誤だった 」 からです。』


『 それを詳しく説明してください。』


G 『 私は あの小学生が乾電池を棚取りし・それを持ってきたレジ袋に入れたのを見ました。
       だから、私は その小学生が 現行犯 ( 刑訴法212条1項 ) の要素である 「 現に罪を行い終わった者 」 だと思ったのです。

      しかし、現行犯逮捕は令状逮捕の例外であり、犯罪が成立することがハッキリしている場合にだけ認められるものです。

      現行犯(刑訴法212条1項 ) の 「 現に罪を行っている者 ・現に罪を行った者 」 とは 「 その者の行為によって犯罪が成立することがハッキリしている場合 」なのです。
      
      つまり、現行犯(刑訴法212条1項 ) の 「 現に罪を行っている者 ・現に罪を行った者 」 には、
       「 その者がその行為を行っても犯罪が成立しないことがハッキリしている場合は」含まれないのです。

      私は現行犯 ( 刑訴法212条1項 ) の要素である 「 現に罪を行い終わった者 」 の解釈を間違ったのです。

      だから、私の思い違いは事実の錯誤ではなく法律の錯誤なのです。』



『 通常の誤認逮捕が 「 現に罪を行っていな者 」 を 「 現に罪を行った者 」 と間違った場合、

   あなたは、「 現に罪を行った者 」 の解釈を間違った場合なのですね。』


G 『 そうです。私は違法性阻却事由の要素 を知らなかったことになり、それは法律の錯誤となるのです。』


『 まあ、そう言うことですね‥。』
 

G 『 えっ?私の説明の どこかに間違いがあるのですか?』


『いやいや、OKですよ。』

※・この事例では、現行犯人の規定の要素である 「現に罪を行っている者 ・ 現に罪を行った者 」 の解釈を間違った場合です。
     これは、正当防衛の要件を知らなかった場合 ( 上記 d で 正当防衛の要件である “ 急迫 ” を知らなかった場合 ) とは同じではありません。
      正当防衛で言えば、 正当防衛の要件である、 “ 急迫 ” の解釈を間違った場合と同じです。
    ・ 「違法性阻却事由の要件を知らなかった ・ 間違った 」 場合に違法性阻却事由が認められないことに争いはありません。
       しかし、「 その要件の解釈を知らなかった ・間違った 」場合に違法性阻却自由が認められるかどうかには争いがあると思われます。
     ・ここでは、そのような点に触れず、「 より警備員に不利な結論になる 」 よう、 「 違法性阻却事由の要件の解釈を知らなかった・間違った 」 場合も、
      「 違法性阻却事由の要件を知らなかった・間違った 」 場合と同じように解釈し、法律の錯誤としました。 

     
     

G 『 質問です!』


『 どうぞ  ( お手柔らかに‥) 。』


G 『 現行犯逮捕には時間制限 ・ 距離制限があり、その制限を超えた現行犯逮捕は違法逮捕になりますよね。』


『 犯行から時間が経ったり、犯人が犯行現場から離れたりすると、犯人を人違いしたり証拠が散逸したり隠滅されたりする恐れがありますからね。』


G 『 つまり、その者が犯人だとハッキリしなくなる ・ 犯罪の成立がハッキリしなくなる 場合ですね。』


『 そんな場合にまで令状なしの逮捕を認めることは危険ですからね。

   これは現行犯人の要素である 「 現に 」 の部分に含まれています。』


G 『 ということは、この時間制限 ・ 距離制限 を知らなくても、法律の錯誤で違法逮捕になるのですね。』


『 アナタが 「 現に罪を行い ・現に罪を行った 」 の解釈を知らなかった場合と同じですからそうなりますね。』



G 『 法律の解釈を知らなかったり思い違いをした場合も、法律の錯誤になり罰せられるのなら、Gメンは法律の解釈をよく知らなければなりませんね。』


『 そうです。自分が罰せられるだけなら自業自得ですが、相手の人権や顧客の信用を傷つけてしまいますからね。

   警備員の中で万引きGメンや保安警備員は犯罪に直に接する職業です。

   しかも警備員は何の権限も持たない一般人です。

   同じ一般人である相手の権利・自由を侵害しないよう、しっかりと法律とその解釈を知っておく必要があります。』


G 『 警察官は権限があるから、一般人や犯人の権利・自由を侵害しても許される。

      しかし、警備員は何の権限もないから、一般人や犯人の権利・自由を侵害することは一切認められない。

      警備員は基本的人権にやさしい職業なのですね!』


『 警備員の仕事は警察官の仕事より難しいのです。

   警備員には警察官の持っている以上の法律知識と節度が必要なのです。

   刑事ごっこを楽しむような態度や 正義の味方を気取るのは 厳に慎まなければなりません。』


G 『 いまの言葉、よぉ~く心に刻んでおきます!』




つづく。



2012.10.20


目次にもどる    top    万引きGメン実戦教本