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店長のための 「保安のイ・ロ・ハ」

前書き

伝承されたGメンルールを 次の世代へ

店長さんは読まないでください。
読むと小難しくて腹が立ちます。
私服保安教育担当者さんだけ読んでください。





1. 私服保安警備は 「 攻める警備 」


警備はすべて顧客を護ることを目的としています。

しかし、私服保安警備は他の警備とは違った方法で顧客を護ります。

私服保安警備で顧客を護る方法は 「万引き犯人を捕まえること 」 で す。

野球の守備で投手だけが 「 攻めて守る 」 のと似ています。

「 私服保安は現行犯逮捕で飯を食っている 」 と言われるほど 「 攻める警備 」 なのです。


だから、私服保安警備では 「 犯人検挙時の違法行為 」 や 「 犯人に対する人権侵害 」 の危険が大きくなります。
これらは他の警備と比べ物になりません。


警備業法15条は警備業務実施の基本原則を定めています。

「警備業者及び警備員は、警備業務を行うに当たつては、
  この法律により特別に権限を与えられているものでないことに留意するとともに、
  他人の権利及び自由を侵害し、又は個人若しくは団体の正当な活動に干渉してはならない。」


この基本原則を一番心しなければならないのは私服保安です。


2.職人Gメンの作り上げた “ ルール・規範 ”


私服保安は 「 闇の仕事 として行われてきた 」 と言えるでしょう。

いわゆる “ 職人Gメン ” が、その経験と失敗からいろいろなルールを作り上げました。
そして、それを弟子に伝承してきました。

「 棚取り現認 ( 着手現認 ) ・ 入れる現認 ( 現認 ) ・ 追尾に中断のないこと ( 注視 ) ・ 単品禁止 」 の四大検挙要件。
「 店外10mでの声かけ ・ 犯人に触れるな 」 という 逮捕ルール。
「 逃げたら追うな ・ 同行中に手をかけるな ・ 警察連絡まで30分 ・ 独りで帰すな 」 という声かけ後のルール。

私服保安は、これらを不文律 ・ 鉄則 として教えられ、教えてきました。


私服保安の世界では
「 これらのルールを厳守すること 」 がすべてで、その理由・根拠を論議することはタプーとされてきました。

私は新人のころ師匠に尋ねました。

『 なぜ 棚取り現認が必要なのですか? 』

師匠は 『 そんな態度では悪徳Gメンにしかなれない! 』 と怒りました。

もちろん、その理由を教えてくれませんでした。

師匠も その理由を教えられずに 厳守することだけを教えられてきたのでしょう。


3.Gメンルールは魔法の薬


Gメンルールにはいろいろなものが混在しています。

上で挙げたルールで言えば、

四大検挙要件は犯罪立証と誤認しないためのもの。
「 店外10m 」 は犯罪故意立証のためのもの。
「 犯人に手を触れるな ・ 逃げたら追うな ・ 独りで帰すな 」 は問題が起こって顧客に迷惑をかけないためのもの。
「 同行中に手をかけるな 」 は違法行為を防ぐためのもの。
「 警察連絡まで30分 」 は違法行為を疑われないためのもの。

これらルールは良く作られています。

まさしく 「 これを厳守してさえいれば優秀Gメンになる 」 という魔法の薬です。

魔法の薬は 「 ただ飲むだけ 」 でよく、 「 その成分は何か 」 など考える必要はないのです。


4.伝言ゲーム


この魔法の薬は非常に良く効く薬ですが、その成分が明らかにされていません。

成分が明らかでないので、
師匠から弟子へ、弟子からその弟子へと伝えられる内に少しずつ成分が変わっていきます。

教えられた者の勝手な解釈が少しずつ入っていくのです。

これは伝言ゲームに似ています。

そして、魔法の薬に 「 違法行為を起こしてしまうような成分 」 が含まれるようになります。


たとえば、 「 店外10mでの声かけ ・ 逮捕 」。
これを厳守するあまり 「 建物外 10mでの声かけ・逮捕 」 になり、現行犯逮捕の時間制限・距離制限を超えた違法逮捕になってしまう。

また、「棚取り現認 」の「 誤認しないため 」 だけが伝えられ、「 犯罪立証のため 」 が抜け落ちてしまう。
そして、 「 誤認しないような状況 」 があれば、棚取り現認がなくても捕まえるようになる。
その結果、犯罪が立証できなくなる。
犯罪が立証できないような事案は警察が事件として扱わない。
警察が事件として扱わなければ犯人は無罪放免となり、誤認逮捕と同じことになる。


これらの弊害をなくするためには、Gメンルールの成分を明らかにしなければなりません。
伝承されてきたGメンルールを検証して、その目的と理由を明らかにしなければなりません。

『 ウチは店外 5mだよ!』 ・『 いやいや、敷地外に出なければダメだよ!』

こんなレベルでの議論ではいけないのです。


5.不十分な教材


刑法に関する書物は図書館にどっさりあるのに、万引き検挙に関する書物は一冊もありません。

その理由は次のようなものです。

万引きが小心者の犯罪であり、犯人は簡単に自供してしまいます。
だから、裁判で犯罪の成立を争われることがありません。

また、Gメンによる万引き犯逮捕は、私人によるもので公権力による強制行為ではありません。
刑法学者・刑訴法学者は「公権力による個人への権利侵害 ・ 権利濫用 」 を防ぐことに生きがいを感じています。
だから、私人による私人への権利侵害・権利濫用について研究する学者はいないのです。


では、警備会社は何を教材にして私服保安教育をしているのでしょう?

誰もが思いつくのが 「 警備員指導教育責任者講習教本 ( 全国警備業協会/編集発行 ) 」 です。
指導教育責任者がこの教材で教えられたのだから当然のことです。
しかも、この教本には 「 警察庁生活安全局生活安全企画課/推薦 」 というお墨付きも付いています。

「 警備員指導教育責任者講習教本Ⅱ ・ 実務編 ・ 1号業務 」 では 保安警備業務について23頁分説明しています。
※第3章 保安警備業務 122頁~144頁 ( 平成18年4月18日/初版4刷 )

しかしその記述は抽象的で具体的なものではありません。
Gメンルールの根拠もその正当性も説明してありません。
総じて 『 お前たち民間人が余計なことをするな。すぐに警察に通報して警察に任せなさい!』という論調です。

これではGメン教育の教材として役に立ちません。


それどころか、この教本には「間違いだと思われる記述 」 もあります。

別の教本では、
『 犯人を逮捕のために追跡中、他人の住居に逃げ込んだ場合、他人の住居に無断で入って犯人を逮捕すれば住居侵入罪になることがある』 としています。

しかも裁判例の一部だけを引用し、「 裁判でもそうなる 」 と誤解させるような記述をしています。

しかし、法律書では 『 犯人を見失っていなければ、他人の住居に無断で入って犯人を逮捕しても住居侵入罪に該らない。 』 とされています。

教本には 『 住居侵入罪になることがある 』 と曖昧な記述で逃げていますが、
この教本を読んだ指導教育責任者は『 住居侵入罪になる 』 と読み取ってこれを教えるでしょう。

ある警備会社で観た教育用 DVD では、
他人の敷地に入り込んだ犯人がGメンに “ アッカンペェ~ ” をしていました。

※この点につき詳細な説明を一番下に参考として挙げておきます。


また、この教本には、
現行犯逮捕の例外である 「 準現行犯逮捕に時間制限があること 」 を説明しながら、
「 現行犯逮捕に時間制限があること 」 を説明していません。

しかも、「 判例が、準現行犯逮捕の時間制限を現行犯逮捕の時間制限よりなぜ緩くするか 」 についての考察もなされていません。

「 どこかの書物の一部分をそのまま引用しただけじゃないの?」 と言われても仕方がないお粗末さです。

警備員指導教育責任者講習教本1-74頁(平成17年2月15日発行六訂初版)


6.保安教育のための教材を作らなければならない


我々は次の世代に “ 正しい私服保安ルール ” を伝えなければなりません。

そのために、自分が教えられたGメンルールを検証しなければなりません。

そして、私服保安が違法行為や人権侵害を起こさないようにしなければなりません。

それが、私服保安を教育する者の務めです。


私の検証は SPnet私服保安教本 にまとめてあります。

私服保安教本は 一年間の無料公開し、現在では有償公開としています。
興味本位の読者がその内容を誤解・曲解して、間違った情報を拡げる危険があるからです。


「店長のための保安のイ・ロ・ハ」では、小売店の店長さんが興味を引くような問題を取り上げていきます。

しかし、それは私服保安ルール検証のための問題提起でもあります。

この問題提起を機に、より多くの関係者が議論を高め、 “ 正しい私服保安ルール ” が作り上げられることを願っています。


※参考

警備員指導教育責任者講習教本1-77頁(平成17年2月15日発行六訂初版)には次のように書いてあります。
機械警備業務管理者講習教本64頁(平成19年11月17日全国警備業協会編集発行・2版2刷 ) も同じ。

『…(刑訴法220条1項1号の規定からみれば)、一般私人は現行犯人を逮捕することはできるが、
 現行犯人を逮捕するために人の住居等へ立ち入ることはできないと解すべきである。

  一般私人の場合は、
  現認した現行犯人を逮捕のため追跡中、犯人が他人の住居に逃げ込んだ場合には、
  その逃げ込んだ住居権者の承諾を得たときに限りその住居内に立ち入って逮捕することができるにとどまる。
  真に現行犯人逮捕の目的であっても、承諾なく勝手に他人の住居に侵入するときは、その行為が住居侵入罪を構成することがある。

  裁判所も
  「何人でも現行犯を逮捕し得るが、
   司法警察院・検察官・検察事務官等でない通常人は、逮捕することを義務づけられていないし、
   また、通常人は逮捕するため住居に侵入することは許されない。」旨判示している。 』



しかし、
ある法律書には次のように書いてあります。

『本号による捜索は、被疑者を発見するための処分である。

  したがって、いまさら被疑者の発見を必要としない場合、すなわち、被疑者の追跡が継続されているときは、
  被疑者を追って人の住居・建造物等に立ち入ったとしても、それは逮捕行為そのものであって、捜索ではない。

  そのような行為については、本号の適用がなく、また捜索に関する各種の制限も適用されない(伊藤・実際問題78)。

  追跡者がいったん被疑者を見失った後においては、本号によらなければならない。』

 
※注釈刑事訴訟法第二巻・立花書房・昭和54年1月20日発行初版4刷・203頁・伊藤栄樹執筆部分「被疑者の捜索(刑訴法220条1項1号)」


この書物によれば、

刑訴法220条1項1号の“捜索”とは「犯人を捜すこと」であり、

「犯人を見失っておらず、犯人を捜す必要がない場合」は“捜索”に該らないことになります。

そして、

「見失っていない犯人を人の住居に入って逮捕すること」は刑訴法220条1項1号の対象外となります。

つまり、

「犯人を見失っていなければ人の住居等に入っても現行犯逮捕権の行使(正当行為・法令行為)として住居侵入罪が成立しない」ことになります。


なお、教本の挙げる裁判例は“名高判昭和26.3.2集4-2-148”でしょう。

この裁判例は多数の法律書に挙げられています。

『捜査機関以外の私人が現行犯逮捕のために他人の住居に入ることは許されない。(名高判昭和26.3.2集4-2-148)』
※刑事訴訟法(改訂版)現代法律学全集28・高田卓爾著・青林書院新社・323頁

『(住居侵入罪の)「故えなく」というのは…違法性の原則を表現したものであるから、
  正当防衛・緊急避難・自救行為等の違法性阻却事由が存在する場合には、正当の事由があったということになろう.

  …通常人が現行犯逮捕の目的で承諾をえずに他人の住居に侵入した場合(名高判昭和26.3.2集4-2-148)…などは
  いずれも侵入行為の違法性は阻却されない。』
※注釈刑法3-各則1・有斐閣・昭和50年10月30日発行初版第10刷・240頁・福田平執筆部分


この裁判例の事案は、
違法なもてなしが行われている料亭に、もてなしをしている者(県知事)を一般私人が現行犯逮捕するために料亭に押し入ったものです。
犯人を追跡して見失っていない場合ではありません。


学説や裁判例は、それが実際に裁判で問題とならなければ争われたり論じられたりすることはありません。※下記に判旨抜粋

「犯人を見失っていない場合に人の住居に入って犯人を現行犯逮捕することが刑訴法220条の“捜索”に該るのか、現行犯逮捕の逮捕行為に該るのか」について実際に争われたことがないようです。

もし、それが争われた場合、通説や下級審・最高裁が上記注釈刑事訴訟法にあるように「“捜索”に該らずに“逮捕行為”に該る」と解釈するかどうかは分かりません。
つまり、「見失っていない犯人を人の住居に入って現行犯逮捕することが住居侵入罪になる可能性がある」ということです。

警備員はその業務を行う場合、他人の権利を侵害することのないようにしなければなりません。
この点から警備員指導教育責任者教本は「できるだけ警備員の行為を制限する」ように書いたとも思えます。

しかし、
「追跡中の犯人を見失っていない場合にも、承諾を得ないで他人の住居に入れば住居侵入罪が成立する」と判断した裁判例があるように書き、
そして、あの「アッカンベェ~ビデオ」。

もしかして、法解釈論を無視した短絡的記述なのかも知れません。


施設警備の検定講習や指導教育責任者講習で講師に質問するとよいでしょう。



※名高判昭和26.3.2集4-2-148) より抜粋


原判決挙示の証拠によれば、
被告人等がG知事等の政令違反の現行犯を逮捕するための目的で原判示H館に侵入したこと
並に被告人等が現行犯逮捕のためならば、何人も他人の住居その他建造物に侵入するも、違法でないと信じていたことを認むることはできない。

被告人等は、
G知事等が大学設置問題に関し文部省関係係官を招致し饗応していることを聞き、
これは政令違反(飲食営業緊急措置令違反)であるとしこれが摘発であると主張して、
右H館に乗り込みG知事等にいやがらせを為して、政治的効果をねらつたもので、
真に現行犯逮捕以外に他に何等の意思もなかつたとは認められない。

これと同趣旨の認定をした原判決には、判決に影響すること明らかな事実誤認はない。

然し原判決は通常人が現行犯逮捕する場合でも、他人の住居に侵入し得るように解しているが、これは誤りであり、
控訴趣意も同様の誤りをおかしているから、この点につい<要旨>て説明する。

現行犯人は、何人でも、逮捕状なくして、これを逮捕することができるものであることは、刑事訴訟法第二一三条に規定するところであるが、
司法警察職員、検察官及び検察事務官でない通常人は、現行犯人を認めても逮捕することを義務づけられてはいないから、
一旦逮捕にとりかかつても中途からこれをやめることもできるわけである。

然し右の通常人は現行犯逮捕のため、他人の住居に侵入することは認められていない。
このことは、刑事訴訟法第二二〇条によつても、明らかである。

即ち、検察官、検察事務官又は司法警察職員は、
現行犯人を逮捕する場合には人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすることができる旨を規定しているところから見れば、
通常人に対しては右の行為をすることは禁止せられているものと解すべきものである。

われわれの住居は侵すことができないもので、これを侵しても違法でないとするためには、憲法並に刑事訴訟法に規定してある場合でなければならない。

通常人が現行犯人を逮捕し得ることは、憲法並に刑事訴訟法でもこれを認めているが、
この逮捕のため、他人の住居に侵入し得る旨を規定した法律は存しない。

従つて通常人は、屋外若しくは自宅で現行犯を逮捕するか又は住居権者等の承諾ある場合に限り、佳居内で現行犯人を逮捕し得るのである。

若し論旨の如く、
通常人でも現行犯人逮捕のためならば、自由に他人の住居に侵入し得るとするならば、われわれの住居は一日も平穏であることはできない。

従つて真に現行犯人逮捕の目的であつても、承諾なくして、他人の住居に侵入するときは、住居侵入罪が成立するものと解すべきものである。

而して住居とは、一戸の建物のみを指すのではなく、
族館料理屋の一室と雖これを借り受けて使用したり、又は宿泊したり飲食している間は、そのお客の居住する住居と認むべきもので、

本件においては、原判示H館の奥座敷に岐阜県知事Gその他が居て宴席を設けていたのであるから、刑法上、同人等の住居と云うことができる。

被告人等が現行犯人逮捕と主張して、右奥座敷にG知事の招きによらず、無断で入り込んだのであるから、住居侵入罪が成立する。

従つてこの点について論旨は理由がないが、
原判決も前記のように現行犯人逮捕のためならば、住居に侵入し得る旨解し、その旨判示したのは、違法で此の点において、原判決は破棄を免れない。
 


2012.08.23

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