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万引き検挙の実際例  その2

 

 

(7)万引き犯は「自分の手口」を変えない。                                

 

「万引き犯の手口とカバンは変わらない。」

 

我々は、「万引きしている者」の全てを捕まえるわけではない。

検挙基準(第二章)が揃わなければ捕まえない。

 

このような検挙候補者を「貯金」と呼ぶ。

Gメンは、この「貯金」をいつも20人以上持っている。

 

我々は彼らの顔を覚えてはいない。

皆似たりよったりで覚えられないからである。

「顔写真」など何の役にも立たない。

 

しかし、万引きは所詮「アマチュア犯罪」である。

やり方が雑である。

彼らは「盗る手口」を変えようとしない。

「カバン」まで同じものを使う。

Gメンは「貯金」をその手口とカバンで覚えている。

万引きをするならもっと工夫してもらいたいものだ。

 

    事例3:「そのレジ袋はもう渡していないゾ!」とんまな常習犯。    

 

食品のマネージャー(mgr)から連絡が入る。

『いつも、寿司とビールを盗っていく男がいる。毎晩9時頃にやってくる。捕まえてほしい。』

 

話を聞くと、

『メガネをかけた40歳くらいの男が、寿司とビールを「緑色のレジ袋」に入れて持っていく。

  園芸出入口から食品に入り、園芸出入口から出ていく。毎週火曜日にやってくる。』とのこと。

 

「緑色のレジ袋」は、この店が所在する市の「生ゴミ用指定袋」である。

この店では、火曜日にだけ「通常の半透明のレジ袋」ではなく「緑色のレジ袋」を渡していた。

最近、火曜日も「半透明のレジ袋」を渡すようになった。

その男はレジで金を払ったことがないから、「レジ袋が変わったこと」を知らないのである。

 

火曜日の夜9時前。

私は食品売場の前にあるベンチに腰を下ろした。

食品売場の向かって左側は「パン・酒」である。

「パン・酒」の手前に園芸売場がある。

私は園芸売場と「パン・酒」の見える位置にいる。

 

園芸の方からメガネをかけた細身の男が、「ルンルン~♪」と入ってきた。

「コイツだな…。」

私はベンチに座ったままその男を見ていた。

男は酒コーナーの冷蔵ケースから「生絞り500㎖缶」4本を取り出した。 

そして、それらを冷蔵ケース前に積んである箱入りビールの上に置いた。

男は缶ビールをそのままにして、弁当コーナーで寿司2パックを手に取った。

さらに、惣菜1パック。

 

男は寿司と惣菜を持って缶詰の通路に入っていく。

私はベンチから立ち上がり、レジの外から男を見た。

男は缶詰の前でゴソゴソしている。

 

私は、「男がこれからすること」を推測した。

男は缶詰通路に「寿司2パックと惣菜1パック」を持ち込んだ。

酒コーナーには「生絞り4本」が置いてある。

缶詰通路で寿司・惣菜をレジ袋に入れたあと、酒に戻って生絞りを入れて出ていくのだろう。

 

しかし、男は手ぶらで缶詰通路から出てきた。

そして、そのまま正面出入口から出ていった。

「えっ?」

 

男は私には気づいていない。

「なぜ出ていったのか?」

 

答えはすぐに分かった。

男が再び正面出入口から小走りで入ってきたからだ。

男の手には、「今は渡されていない」緑色のレジ袋。

「楽勝だな…。」

 

万引き犯の「盗るもの・手口・店外する場所」が分かっていれば、簡単に先が読める。

男はどこから店外するのか?

正面出入口か園芸出入口か?

考えるまでもない、「万引きは入ったところから出ていく。」からだ。

 

男はスキップをするように缶詰前に行き、何やらしている。

「次は、生絞りだな…。」

男が緑色のレジ袋に何かを入れて酒にやってきた。

寿司パックが透けて見える。

男が「生絞り」を袋に入れた。

 

私は男より先に園芸出入口を出た。

 

男が出てきた。

男の持っている緑色のレジ袋に「生絞りと寿司パック」を確認。   

次の瞬間に男は「地獄」に突き落とされた。

 

私は男の行く手を(さえぎ)った。

私『オィ!盗るならもっと工夫せいヤ!』

男は目をまん丸くしている。

2~3秒後、男は事態を理解して逃げようとする。

すかさず、私の足払い。

私は男の顔を上から覗き込んだ。

男の目はまん丸いままだった。

 

42歳。寿司・惣菜・ビール500㎖缶4本。計2000円強。

警察渡し。前科・前歴なし。

 

2~3週後の火曜日、食品レジに並んでいる男を見かけた。

男はレジで半透明のレジ袋を手渡されていた。

 

 

 事例4:『これは“ドライ”やッ!』と胸を張る常習犯。            

 

「想い出の検挙」がいくつかある。

新人の頃の検挙はよく覚えている。

この「モルツ男」もそうである。

 

アルバイトの品出し係が私に言った。

『いつもサントリーモルツ500㎖缶を盗っていく男がいるンです。捕まえてください。』

若いアルバイト君やパートさんは売場を守る気持ちが強い。

彼らからの情報はGメンにとってありがたい。

 

男は30歳代。

ジャージのズボンポケットに入れていくという。

 

その日から張り込み開始。

男がやってきた。

なるほど、モルツをポケットに入れた。

そして、正面出入口から出ていった。

まずは「犯人・手口・逃走経路」を確認するだけ。

今度来たときに、ゆっくりと料理すればよい。

 

次の日。

私は食品売場前のベンチに座って男を待つ。

定刻にモルツ男がやってきた。

男は店内カゴを持たずに酒コーナーに入った。

 

Gメンは売場のところどころに「のぞき窓」を作っておく。     

犯人の行動を近くで見るためだ。

常習は「盗るもの・入れる場所」が決まっているから、のぞき窓を作るのは簡単だ。

私はそこに移動した。

 

男は冷蔵ケースからロング缶4本を取り出し、ジャージのズボンポケットに入れた。

「ロング4本が入るンだ!」

男のズボンを想像できるだろうか?

どのようになるのか試してもらいたい。

男のジャージポケットは大きく垂れ下がった。

 

次に、男は惣菜2パックを手に取った。

「ロング4本」を見ているから、「惣菜が何であるか」は気にしない。

 

男は惣菜パックを持ったまま平然と食品売場を出ていく。

男のポケットは垂れ下がったままである。

男が正面出入口から店外し、自転車にまたがった。

私は男に声かけした。

 

私『金を払ってもらわなければ、困るンだヨ!』

男は平気である。

ビックリしないのは「常習万引き」である。

 

私は男のズボンポケットを指さして言った。

私『ここに、モルツが4本入っとるだろうが~!』

 

男はジャージのズボンからロング缶を取り出した。

そして、偉そうにこう言った。

 

男『モルツと違う!これは“ドライ”やッ!』     

 

なるほど、それはドライの500㎖缶だった。

“モルツ”の横に“ドライ”が並んでいたのだ。

もちろん、そんな言い訳が通用するはずはない。

 

35歳男性。ビール500㎖4本・惣菜1パック。自動車窃盗の前科あり。

男は警察官に逮捕された。

 

私は男に聞いた。

私『いつも“モルツ”を盗っていくのに、なぜ今日は“ドライ”なんや?』

男『たまには別のビールを飲んでみたかったから…。』

 

私はさらに聞いた。

私『なんで、ケース入りのビールを持っていかないンや?毎日盗るのはめんどうだろう?』

男『ケース入りのビールは冷えていないから…。』

 

この店は男の冷蔵庫なのだ。     

 

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