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万引き検挙の実際例 その3 

 

 

棚取り現認・入れる現認・中断なし・単品ではない。そして、犯人が店外する。

遂に万引き犯人を捕まえるときである。


新人Gメンが夢にまでみた場面である。

 



しかし、ここからが大切である。


これからはGメンが犯人に対して「アクションを起こす」からである。


一旦アクションを起こせば、後には引けない。


「犯人とのガチンコ勝負」の始まりである。


この勝負に「判定勝ち」はない。相手を「KO」しなければこちらの負けとなる。

 


そのためには次の点を注意しなければならない。    

 

Ⅰ なぜ“店外10m”なのか

Ⅱ 犯人を出させよ

Ⅲ 犯人を逃がすな

Ⅳ 逃がしたら追うな      

Ⅴ 犯人が商品を捨てたらどうするか

Ⅵ “立ち合い負け”するな

Ⅶ 裏技がある

Ⅷ “従業員ルール”も使える

 

これを順次説明していく。


 

大切なのは、

「法律上何が認められて、何が認められないのか」を充分に理解することである。

Gメンが法律の限界を越えれば、それは犯罪となるからである。

 

-中略-

 

 




Ⅲ 声かけしたら犯人を逃がすな 

 

(1)現場はドラマとは違う

 

“万引きGメンドラマ”がTV放映されたことがある。

魅力的な女優さん演じる女性Gメンが、万引き犯を呼び止める。

『お客様…。何か、お忘れ物はございませんか…。』

憂いを秘めた美人女性が首をうなだれる。

『…。スイマセン…。つい…。』

 

実際の現場では、こんなことは滅多に起こらない。

ドラマと現実はまったく違うのである。

声かけ・逮捕の現場を再現してみよう。

 

 


事例19:『抵抗するな!』

 

R店。研修生のギャルGメンLから連絡が入る。

L『あのぅ…。いま、H&BCで男の人が女性化粧品をバッグに入れました…。』

私はH&BCに向かった。

 

この店はショッピングセンターの核店舗であり、専門店街とはっきりエリアが区別されている。

そして、1Fの専門店街出入口の両側にH&BCと婦人靴売場がある。

Lは婦人靴売場にいた。

 

私『どの男だ?』

L『あの三人です。』

女性化粧品棚の前に、25歳くらいの東洋系男性が三人いた。

手前の男は黒いバッグを持っている。

真ん中の男は何も持っていない。

一番奥の男は黒い布製の袋を肩にかけている。

彼らは「ワイワイ・ガヤガヤ」と楽しそうである。

 

私『三人の中のどの男が化粧品を入れたンだ?』

L『奥の男です。黒い袋を肩にかけています。』

 

研修生の現認は万引き逮捕の際にカウントされない。

指導Gメンが自分の目で現認しない以上検挙はしない。

私は彼らが楽しそうにしているので,「盗った」というのが少々疑問だった。

しかし、Lは冷静でしっかりと見ることができる研修生である。

私は暫く様子を見ることにした。

 

ここで、私はLを少々脅かしておいた。

『東洋系三人か…。チョット“やばい”なぁ…。』

外国人万引き犯の主流は南米系と東洋系である。

南米系は体が大きくて力が強いので、検挙には覚悟が必要だ。

しかし、注意しなければならないのは東洋系である。

それは、プロが混じっているからである。

「彼らは逃げない。いきなり、刃物で首筋に斬りつけてくる。」

これがGメンの常識となっている。

 

三人は女性化粧品から離れて男性化粧品コーナーに移った。

そして、シェービングクリーム・T字シェーバーの棚に来た。

この棚はH&BCレジからは見えない。

しかし、我々のいる婦人靴コーナーとは通路を一つ挟んで真正面である。

私とLには彼らの行動が手に取るように分かる。

 

三人は商品棚の前にしゃがんだ。

そして、バッグを持っている男がバッグを床に置いて、その口を大きく拡げた。

真ん中にしゃがんでいる男が、両手を伸ばして棚に掛かっている「二枚刃交換式T字シェーバー」を一掴み取り、それをバッグの中に入れた。

 

私はLに警備室へ応援要請をさせた。

『専門店街出入口を出たところで、外国人を捕まえるから待機してほしい。

  制服警備員を見ると逃げ出すから、山河が犯人に声をかけるまで出てこないように。』と。

 

私はLが連絡している間も三人を見続けている。

彼らは楽しそうである。小声で話ながらはしゃいでいる。

真ん中の男が、更にT字シェーバーを一掴み取って入れた。

そして、また一掴み。

T字シェーバー棚は、その部分だけが空っぽになってしまった。

バッグのチャックを締めて三人が立ち上がった。

 

彼らはH&BCから通路に出た。

何やら話をしている。

そして、三人は二手に分かれた。

「T字シェーバー入りのバッグを持った男」と「手ぶらの男」が専門店街出入口の方へ、「女性化粧品入りの袋を肩にかけた男」が食品売場の方へ。

 

追うのは、私が現認した「T字シェーバー」である。

「女性化粧品の男」はLに尾行させることにした。

 

二人がスーパーマーケットゾーンから専門店街に出た。

専門店街のスイングドアの向こうに「待機している警備員」の制服が見える。

私はその警備員に合図をしようとした。

しかし、彼はこちらに背中を向けているではないか!

 

二人もう「10m」を越えている。

私は二人に小走りで近づいた。

そして、バッグを持っている男の肩を後から「トン、トン」と叩いた。

 

男が振り向く。

私は言った。

『保安係や…。』

男は体を硬直させた。

 

『抵抗するな!』

私は男の両肩を前から掴み、右足を男の両脚にかけて思いっきり男を引っ張った。

男の体はきれいに一回転して床に落ちた。

目をまん丸くしている男に、私は上から顔を近づけて、もう一度自分の身分を告げた。

ホ・ア・ン、じゃ!

 

これからが一苦労だった。

私は学生時代に空手をやっていたが、それは“寸止め空手”。

身についているのは「突き・蹴り・受け」だけ。

いま流行りの“フルコンタクト”なら、“さばき”や“関節技”も修得する。

しかし、私にはそれができない。

「男をうつ伏せにさせた」まではよいが、それから先が分からない。

男の右腕を背中にねじ上げようとするのだが、これがなかなかできない。

あちらこちらに男の腕を動かすたびに男が痛がって叫ぶ。

 

やっと男の右腕をねじり上げた。

「やれやれ」と私が顔を上げると…。

たくさんの人が我々を取り囲んで見下ろしていた。

近くにLが恥ずかしそうに立っている。

ここで、やっと制服警備員が駆けつけてきた。

 


私は取り押さえた男を制服に任せて、Lに尋ねた。

私『化粧品の男は?』

L『途中から走って逃げました。』

私『まあ一人捕まえたからいいか…。』

 

保安室で男にバッグの中味を出させる。

T字シェーバーが18個出てきた。

彼は日本語が分からない。事情聴取はさっぱり進まない。

警察官到着。

 


私は警察官に男を任せて、別の場所でLの書類作成をチェックする。

警察官の大声が聞こえてくる。苦労しているようだ。

 

Lの書類作成を終わったので、私は男と警察官の所に戻った。

机の上に“折り畳みナイフ”が置かれていた。

警察官が笑いながら私に言った。

『こいつのズボンの右ポケットから出てきたよ。

山河さん、刺されなくてよかったねぇ~!』

男は警察官に連れられて行った。

 

後で、男たちの会社の責任者が通訳を伴って謝罪に来た。

私が捕まえた男と逃げた二人の男も一緒だった。

三人は海外研修生とのこと。

男の一人が盗って逃げた化粧品12点も持ってきた。

責任者がシェーバーと化粧品の全額を支払った。

 

L『あの男の人、抵抗したンですか?』

私『ん?…まあ…。抵抗しようとしたンだよ…。』

 


こんなことが度々ある訳ではない。

しかし、現場には現場のやり方がある。

 

 

 『逃がしたら、追うな。』        -略-

 

  犯人が商品を捨てたらどうするか   -略-

 

Ⅵ 立ち合い負けするな          -中略-

 

 

 


 (2)女性Gメンは必死

 

『声かけした以上、何が何でも捕まえろ。絶対に逃がすな。逃がしたら誤認となるゾ!』

私はこのことを研修生に徹底的にたたき込む。

 

犯人を逃がすと、商品を取り返すことができない。

犯人が逃げるときに怪我をしたり事故にあったり、一般客に怪我をさせたりする危険がある。

 

それだけではない。

逃げた犯人が『万引き扱いされた。』と文句を言ってくるのだ。

 

Gメンが万引き犯に声かけする。

犯人に逃げられる。

翌日、その犯人が『万引き扱いされた。』と文句を言ってくる。

子どもは、「万引きしたこと」が発覚するのを恐れて親にウソを言う。

それを親が真に受けて文句を言ってくる。

 

商品を持っていった犯人は文句を付けてこない。

文句を付けるとヤブヘビになるからだ。

商品を持っていけなかった犯人が文句を付けてくる。

「盗れなかったこと」が悔しいのであろう。

電話で文句を言ってくる“弱虫”も多い。

商品を持って逃げ、それをどこかに置いて戻ってきて文句を付ける図々しい犯人もいる。[※事例38]

 

犯人を捕まえていないのだから、「犯人が万引きをした」ことの証拠も証人もいない。

逃げた犯人が文句を付けてきたら、それが通ってしまう。

犯人に声かけしたときは絶対に捕まえなければならないのである。

 

また、犯人は抵抗するときに物凄い力を出す。

75歳の老女が若いGメンを突き倒すこともある。

警察OBから助言をされたことがある。

『捕まえるときは相手の2倍の力が必要だ。』

 

犯人を捕まえることは、屈強な男性Gメンでも「それ相応の覚悟」が必要となる。

ましてや、体力に劣る女性Gメンは「決死の覚悟」ある。

 

ある女性Gメンは太ったオバサン万引きの腹にしがみついて、引きずられても絶対に離さなかった。

その女性Gメンは、食ってかかる女性万引きを大声でどやしつけた。

そして、それを見ていた店関係者に「あそこまでする必要はないのではないか。」と店内会議で非難された。    ( J『私のことですか…?』 )

 


女性Gメンはブルテリアやスッポンでなければならない。

食いついたら絶対に離れないのだ。

 

 

 


事例25:“150㎝女性Gメン”対“180㎝・90㎏男”

 

Kは独り立ちしたばかりの女性Gメンである。[※事例9に登場]

身長150㎝・体重40㎏程度のメガネをかけた小柄な女性である。

 

その日は同じショッピングセンターに私・Jさん・Kが勤務していた。

私は1F北端のスポーツ店。Kは2Fの書店。Jさんは南端のスーパーマーケットR店である。

 

Kから私に連絡が入る。

K『前に漫画単行本をシャツの下に入れていった男が来ました。』

要注意人物としてマークしている男である。

以前にKと私が現認不足で見送ったこともある。

男は40歳前。

「怠け太り」のようだが、180㎝・90㎏くらいはある。

 

私『一人で捕まえるのは苦労するから、現認したらすぐに連絡しろ!』

 

5分後Kから連絡。

K『前と同じように単行本5冊をシャツの下に入れて店を出ました。』

私『すぐに行くから男を追え!』

 

私はスポーツ店から出て2Fの書店に走った。

書店近くにKの姿はない。

前に男を見送ったときには、男は書店を出てエスカレーターで3F立駐に出た。

常習万引きの手口と逃走経路は変わらない。

私は書店の近くにあるエスカレーターで3F立駐に急いだ。

しかし、ここにもKと男はいなかった。

 

私はKに連絡した。

私『逃げられたのか?』

K『今!今!エスカレーターで1Fに降ります。走って逃げています!』

 

「スーパーマーケットR店のエスカレーターのことだな。」

私はR店の1Fに急いだ。

しかし、そこは平穏だった。

 

再びKに連絡。

Kのケイタイに出たのはJさんだった。

 

私『捕まえたのか?』

J『今、皆で保安室に連れてきました。』

私はR店の保安室へ向かった。

保安室の机をはさんで、例の大男とKが座っていた。

男はうなだれ、Kは「運動会帰り」のように上気していた。

 

私『ブツは?』

J『犯人が逃げるときにシャツの下から落としたそうです。』

私『すぐにサービスカウンターに電話して、落とし物として届いていないか確認!』

「男が盗った商品」がなければ誤認逮捕となってしまう。

 

商品はサービスカウンターに届いていた。

Jさんが「単行本5冊・靴の片方・壊れたメガネ」をもらってきた。

 

私はJさんに尋ねた。

私『この靴は何?』

 

Kが答えた。

K『私の靴です!』

 

Kの足元を見ると、片方の足に靴がない。

私『すると、このメガネもそう?』

K『そうです!』

 

状況は次のようなものだ。

 

男は書店を出て、Kの尾行に気づいて走り出した。

Kは追いかけた。

男は専門店街2FからスーパーマーケットR店2Fに逃げ込んだ。

そして、R店のエスカレーターで1Fに逃げた。

 

KはR店1Fで男に追いついた。

ちょうどそこにJサンがいた。

 

Jさんの目撃談である。

『物凄い立ち回りでしたよ。

  Kさんは男を掴んで離さない。男はそれを振り回す。

  Kさんのメガネが飛んでいく。

  振り回されたKさんが男のジャージズボンにしがみつく。

  男は逃げようとKさんを引きずっていく。

  Kさんの靴が片方飛んでいく。

  男の生尻が半分見える。

  半ケツ男が必死になってズボンを上げる。

  それでもKさんが男のズボンを離さない。

 

  Kさんには悪いけど、笑いだしてしまいました。

  制服警備員がやってきて、皆で男を取り押さえました。

  そのあと、男からKさんを引き離すのに苦労しました。』

 

Kは右手の人指し指を捻挫していた。

強盗傷害罪だが、Kの配慮で窃盗罪として警察に連絡した。

男はKの治療費とメガネ代金を支払うことを約束した。

 

私はKに注意しておいた。

『犯人や一般客が怪我をしなくても、我々Gメンの方が怪我をしてもいけない。

  それがスキャンダルとなれば、店のブランドや信用を下げることになる。深追いは絶対にしてはいけない。』

 

しかし、私は内心でKに拍手を送っていた。

 

 

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