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第12講.間接正犯と「子供に万引きをさせる親」





今回は「自分の命令通りに動く人」を使って犯罪を行う間接正犯。
「自分の命令通りに動く人」は道具と同じだから、自分が犯罪行為をやらなくても犯罪行為をしたとみなされる。
この「自分の命令通りに動く人」について、判例は「善悪の判断ができる14歳未満の者」を含めている。
つまり、刑事責任能力がない14歳未満の者に犯罪を行わせれば自分が犯罪を行ったことになる。

よくあるのが子供に万引きをさせる親。
こんな親にどうやって対処するか?
私服保安なら誰でも直面する問題である。
「間接正犯」や「不作為による窃盗」は立証が難しいから、刑法256条(盗品譲受け等)で処理する方がよいだろう。
それで親の「子供に盗らせた」という自供が得られればラッキーである。
しかし、その自供が得られなくても「母親を保安室に同行した」ことは違法とならない。、
本項は私服保安には必須の法律知識である。
最後に実例をあげておいた。


どういう場合が間接正犯になるか?
子供に万引きをやらせる親はどうなるか?
実例-「私は知らなかった」と言い張る母親


     
3.間接正犯  -自分の命令通りに動く者にやらせたら「自分がやったこと」になる


相手を傷つける場合、自分自身が相手の体に触れる必要はない。
手足で殴打したり口でかみついたりする以外の方法でも相手を傷つけることができる。

石を投げたり猛犬をけしかけたりしても相手を傷つけることができる。
犯人が“道具”を使う場合である。

道具は物ばかりではない。
人間も道具として使うことができる。

人間を道具として犯罪行為をすることを“間接正犯”という。


a.「道具」としての人間  -道具は「思い通りに動く」


・道具は意思を持っていない。
・そして、道具を使う者の思う通りの結果を引き起こす。

そんなものであれば、それが物であろうと人間であろうと“道具”である。

「どんな状態の人間」が道具なのだろうか?

次のようなに説明されている。


・①.幼児・精神病者のように、「善悪の判断ができない者」

母親が3歳の息子に『あの口紅を持ってきて。』と頼んで、化粧品売場から口紅を持ってこさせる。


・②.催眠術にかかった者・軍人・強い脅迫を受けた者のように、「そうすることを抵抗できない程に強制された者」

その者の奥さんを縛り上げ、『あの店から炊飯器を盗ってこなければ、お前の女房を殺すぞ!』と脅迫して、炊飯器を盗ってこさせる。


・③.情を知らない者・それが正当防衛であると思っている者のように、「故意がない者・犯罪 にあたらない場合であると思っている者」

・売場にある炊飯器をカートに載せて放置する。
・友達に『今、あの店で炊飯器を買ったけれど、カートに載せたまま売場に忘れてきてしまった。
  僕はこれから仕事に行かなければならない。悪いけど取ってきてくれないか?』と頼んで持ってこさせる。

・『助けてぇ~ッ!あの男に買ったばかりの炊飯器を無理やり持っていかれたの!あの男 から炊飯器を取り返してヨ!お願い!』と警備員にウソを言って、
  警備員に男から炊飯器を取り上げさせる。


・④.14歳未満の者(刑事未成年者)

判例は「14歳未満の者に盗らせる場合」をすべて間接正犯とする。
14歳未満の者が小学高学年で「善悪の判断ができる者」でも、ヨチヨチ歩きの幼児で「善悪の判断ができない者」でも、一律に“道具”としている。

学説は次のように判例に反対している。

「善悪の判断ができる者」は、「盗ってこい」と言ってもその通りに行動するとは限らない。だから、“道具”とは言えない。
それは「そそのかして盗らせた」のであり、間接正犯ではなくて教唆犯である。
※教唆犯は正犯と同様に扱われるので結果的には大差がない。
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b.子どもに万引きをやらせた親はどうなるか?  -よくあることだから理論武装しておこう


子どもを使って万引きをする親がいる。

・子どもが捕まっても刑事未成年者だから子どもは犯罪者にならない。
・「自分が盗らせた。」と疑われたら、『私の育て方が悪かった。こんなことは二度としないようにきつく叱っておきます。』と反省してみせれば済む。
・また、そんなときのために、子どもに『「親が盗ってこいと言った」とは絶対に言うなよ。』と言い含めておく。

万引き犯人もいろいろと工夫しているようだ。

そんな親にどんな犯罪が成立するのだろう。


イ.例1


・母親と子どもがカートを押して玩具売場に来た。
・子どもはヨチヨチ歩きの幼児だ。
・子どもが商品のTVゲームをカートの下段に載せた。
・母親はそれを見ていたが、TVゲームをカート下段に載せたままカートを押して店外した。

これは「地震の揺れで炊飯器がカートに落ちてきた場合」と同じである。

母親は子どもがカートに載せた商品が店のものであることを知りながら、カートを店外まで押している。
これが「窃盗行為」である。

母親は作為によって窃盗罪を行ったことになる。


ロ.例2


・例1の場合で、母親は「子どもが商品をカートに載せたこと」を知らなかったとする。
・母親が家に帰ってその商品に気付き、子どもに問い質した。
・そして「子どもが勝手に載せた」ことが分かった。
・しかし、母親は商品を店に返さずにそのままにしておいた。

母親には商品を店に戻す義務がある。
それをしないそのままにしておいたのだから、母親は「不作為による窃盗罪」となる。


なお、
・母親が車に商品を積み込むときに「子どもの載せたTVゲーム」に気づいた。
・そして、「子どもが勝手に載せた」ことを知った。
・しかし、そのままにして車を発車させれば例1と同じになる。

「作為による窃盗罪」である。


ハ.例3


・母親は子どもがTVゲームを欲しがっていることを知っていた。
・子どもに買ってやりたいが、買ってやれない。
・そこで一計を案じた。
・『この子はまだ3歳だから、他人のものと自分のものの区別がつかない。
    玩具売場に連れて行けば、欲しがっているTVゲームを勝手に持ってくるに違いない。
    善悪判断のつかない子どもに、「あれを持っておいで」と言って持ってこさせると、間接正犯となり自分が盗ったことと同じになる。
    しかし、子どもに何も言わなければ、間接正犯とはならないはずだ。この手でいこう。』
・母親は家のそばにあるスーパーマーケットの玩具売場に子どもを連れて行った。
・そして『お母さんは買い物をして先に家に帰っているから、アンタは適当に家に帰ってきてネ。』と子どもと離れた。
・母親の思惑通りに、子どもは商品のTVゲームを持って家に帰ってきた。
・母親はそれを知ったがそのままにしておいた。

この母親はどんな犯罪を行ったのだろうか?


・不作為で子どもにTVゲームを盗らせたから不作為による間接正犯?
・母親の行動を全体として判断して間接正犯?

受講生と皆でいろいろと考えていただきたい。
ここで大切なのは「答えを知る・教えること」ではない。「考えること・考えさせること」である。
「考えること・考えさせること」によって「法律を身近なもの」と感じることである。
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ニ.例4


・母親と娘がスーパーマーケットの化粧品売場で商品を見ていた。
・娘は善悪の判断ができる小学6年生。
・カートには食品売場で買った食料品が載せてある。
・二人は化粧品を何点か選んでカートに載せた。
・母親は娘に1万円札を渡し、『お母さんは専門店街のトイレに行くから、あんたは化粧品の支払いをしておいて。』と頼んだ。
・そして、母親は娘にカートと化粧品の支払いを任せて、スーパーマーケットゾーンを出て専門店街のトイレに入った。
・娘は化粧品の代金を支払わずにカートを押してスーパーマーケットゾーンを出て、母親の入っているトイレに行った。
・母親は娘に『化粧品のレシートとお釣りをちょうだい。』と言った。
・娘がうつむく。
・母親は娘を問い質す。『あんた、支払ってこなかったの?』
・娘が頷く。

・母親には「娘の盗ってきた化粧品をスーパーマーケットに返す義務」がある。
・しかし、母親は娘を万引き犯人にするのを嫌って、化粧品を売場に返さずにカートを押してショッピングセンターの建物外に出た。
・私服保安が二人に声をかけた。

娘は刑事未成年者だから窃盗罪とはならない。

母親はどんな犯罪になるのか?


・不作為による窃盗罪の間接正犯?

14歳未満の刑事未成年者に犯罪を行わせた場合、判例はこれを間接正犯と扱う。
しかし、母親は「娘に盗らそう」と思っていない。
だから、間接正犯ではない。


もちろん、母親が
「娘には万引き癖がある。1万円札を娘に渡して支払いを頼んでも、私がいなければ支払うはずがない。娘はこの化粧品を万引きするに違いない。
  それを利用しよう。娘がそうしても構わない。」
と思っていたとしたら「不作為による間接正犯」または「間接正犯」となる。

※「善悪の判断ができる刑事未成年者に犯罪を行わせた場合」を間接正犯ではなく教唆犯とする立場では
  この場合が「不作為による教唆」となるかどうかが問題となるだろう。 → 4-a

もっとも、そうであっても母親の内心を外部的事実から証明することはできない。


・娘の窃盗行為を助けたのだから共犯(幇助犯)?

後で説明するが、正犯が犯罪行為を完成した後でそれを助けることはできない(事後従犯)。

・娘の窃盗行為はスーパーマーケットゾーンを出たときに完成している。
・母親は娘の窃盗行為を助けたことにはならない。

母親は窃盗罪の幇助犯ともならない。

母親の行為は娘のやった窃盗罪とは切り離されてしまう。


では、母親の行為はどんな犯罪となるのか。
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・まず、“犯人蔵匿罪”が問題となる。


※(刑法103条(犯人蔵匿)
  「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、二年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。」 


母親は、万引きをした娘を「かくまった」・「見つからないようにした」のか?
母親はそんな行為をしてはいない。単に黙認しただけである。


では、「かくまう・見つからないようにする」という行為を不作為によって行ったのではないのか?

「母親に作為義務があるかどうか」が問題となる。

母親に『娘が万引きをやりました。』と娘を警察に突き出したり、警察に連絡したりする義務があるか?
母親の職業が警察官ならそんな義務もあるだろうが、普通の母親にそんな義務はないとされている。
※判例はその者を逮捕する義務のある警察官が、逮捕しなかった場合に「不作為による犯人蔵匿罪」を認めている。

作為義務がなければ「不作為による作為犯」は成立しない。
母親に犯人蔵匿罪は成立しない。


もし、母親に作為義務が認められ犯人蔵匿罪が成立したとしても、犯人が身内の人間であればその刑が免除されることがある。

※刑法105条(親族による犯罪に関する特例)
  「前二条の罪(103条・104条)については、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができる。」


・次に問題となるのが“盗品等に関する罪”である


※刑法256条(盗品譲受け等)
  「1.盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物を無償で譲り受けた者は、3年以下の懲役に処する。
    2.前項に規定する物を運搬し、保管し、若しくは有償で譲り受け、又はその有償の処分のあっせんをした者は、10年以下の懲役及び50万円以下の罰金に処する。」 

母親は「その化粧品を娘が盗ってきたのを知って」その化粧品を運搬している。
だから盗品運搬罪となる。


しかし、これにも「親族による特例」がある。

※刑法257条(親族等の間の犯罪に関する特例)
  「配偶者との間又は直系血族、同居の親族若しくはこれらの者の配偶者との間で前条の罪(256条)を犯した者は、その刑を免除する。」

・母親は娘の直系血族である。
・母親の「盗品運搬罪」が成立しても、その刑は免除される。
・親族が犯人蔵匿罪を犯した場合は「刑を免除することができる」に対して、こちらは「その刑を免除する」と規定されている。
  「免除することができる」は免除してもしなくてもよい。「免除する」は絶対に免除しなければならない。
・母親に刑罰は与えられないことになる。


そもそも、母親は『娘が盗ったことを知らなかった。』と言い張るだろう。
そして、その主張を周囲の状況を証拠としてひっくり返すことはできないだろう。
だから、「犯人蔵匿罪・盗品運搬罪・親族に関する特例」などは初めから問題とされないだろう。

「子どもを使って万引きをする親」がここまで刑法を知っているとは思えない。

多分、実戦経験で体得したものだろう。

万引き犯人をあなどってはいけない。
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ホ.実際の事例


例4は私が取り扱った事例である。ただし、母親は娘にお金を渡していない。

受講生が法解釈で法律が嫌いになりそうだから、実例を参考にしていただきたい。

私服保安入門・事例40.先に店外した母親は「私は関係ない」と主張した。


つづく。






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