SPnet 選任業務編



・警備員1号・2号業務別教育-遺失物法 その2・施設内での拾得





今回は警備員が関係する施設内での拾得です。
スーパーの駐車場もイベント会場も施設です。警備員はお客さんや来場者から拾得物を手渡されることが少なくありません。
そんなときに、「施設内での拾得」についての遺失物法の定めを知っていないと大変なことになります。
たとえば、拾得者が拾得物を渡す相手は施設の警備員や従業員で警察ではありません。遺失者が現れても遺失者に返還してはいけません。
しかも、拾得から24時間以内。これを守らないと報労金も3カ月後の権利取得もできません。
また、警備員が拾得物を手渡されたときは必ず拾得者と一緒に中身を確認して、
拾得物預かり書(メモ書きでもOK)にその内容を書いて拾得者のサインをもらうこと。
取得者が請求したのに拾得物預かり書を渡さないと、その警備員だけでなく店の方も30万円以下の罰金。
中身を確認しておかないと「持ち主が中身が減っている」と言えば警備員が疑われて大スキャンダル。
「警備員は拾得物に関わるな」が鉄則ですが、危機意識のない親切なオッチャン警備員が間違った常識で処理して大問題となる場合があります。
新任教育ではしっかりと教えておきましょう。


遺失物法が「施設内の拾得」と「施設外の拾得」を区別する理由
「施設内の拾得」と「施設外の拾得」の違い
施設とは
施設占有者とは
拾得者・施設占有者の権利と義務-手続の流れ
拾得者の権利喪失と施設占有者の権利喪失の関係
警備員が拾得者から拾得物の交付を申し出られたときの注意
新任警備員へのワンポイントアドバイス

     

1.施設内の拾得と施設外の拾得



a.遺失物法が「二つの場合を区別して取り扱う」理由


遺失物法は「どこで拾ったか」によって二つの場合を区別して、その取扱方法を異にしています。
「施設の中で拾った場合」と「施設以外の場所で拾った場合」の二つです。

前回説明した「公道での拾得」は「施設以外の場所で拾った場合」です。

施設内での拾得を区別して取り扱うのは「拾得物をできるだけ早く遺失者に返還するため」です。

※運用基準 第1
「施設における物件の取扱いについては、施設占有者に一定の義務が課せられているが、
  これは、施設において物を遺失した遺失者は、まずはその施設に問い合わせをすることが多いことから、
  施設において拾得をした物件を施設占有者に交付することとすれば、遺失者への早期の返還が図られることによるものである。‥」
施設占有者とはその施設を運営する者です。


しかし、本音は別の所にあるかもしれません。

「拾得物を何でもかんでも警察に持ち込まれたらたまらない。
  施設を使って利益を上げている者に少々手伝ってもらっても構わないだろう。」

警察の拾得物処理事務を軽くするために、施設を運営する者を警察窓口としたのでしょう。

上の運用基準 第1は続けて次のように書いています。
「したがって、施設占有者において法に基づく措置が円滑かつ適切に行われるよう、
  本基準のうち特に施設占有者に関係する部分については懇切に説明するとともに、
  法の運用に当たっては、施設占有者の意見もよく聴くなどして、これと緊密な連携を図る必要がある。」

施設占有者にそっぽを向かれたら困りますからネ。

平成18年改正では特例施設占有者制度が新設されました。

この制度が「施設占有者を警察の窓口にする」ことの最たるものでしょう。
要件を備えた施設占有者が申請すれば特例施設占有者となれます。
特例施設占有者には拾得物に関する一定の処分権限を与えられますが、さまざまな義務や罰則が課せられます。

ショッピングセンターの方から言えば『今まで通り拾得物をみんな警察に持っていけばいいじゃない!』
この制度は今のところあまり浸透していません。
通常のショッピングセンターは特例施設占有者ではありません。
しかし、警察の事務処理軽減のためにこれからはこの制度が一般的になっていくでしょう。

ここでは、通常の施設占有者について説明します。
     

b.「施設内の拾得」と「施設外の拾得」の違い


「施設内での拾得」と「施設外での拾得」の違いは、拾得者と遺失者・警察の間に施設占有者が入ることです。


イ.手続き上の違い

・拾得者は拾得物を24時間以内に施設占有者に提出する。
・施設占有者は拾得者に拾得物預かり書を渡す。
・施設占有者は遺失者が分かれば遺失者に返還し、遺失者不明の場合は公告をする。
・施設占有者は一週間以内に遺失物を警察に提出する。

警察に提出した後の手続は「施設外での拾得」と同じです。
報勞金・管理費用請求・所有権取得・権利放棄・権利喪失についても同じです。


ロ.取得する権利の違い

・報勞金は拾得者と施設占有者が半分ずつ。
・所有権は取得者

施設占有者に手間をかけるので報勞金の半分を渡すのでしょう。


c.警備員にとって身近な施設内での拾得


警備員がショッピングセンターの駐車場や店内で警備をしていると、来店者が拾得物を託すことがあります。

この時に「施設内での拾得」について理解していないと、拾得者の権利を害することが起こります。
拾得者の権利を害すれば、警備会社への信用や世間の警備員に対する信用を下げてしまいます。
何よりも、店の信用を害することになります。

施設内での拾得手続を理解することは、警備員が業務を適正に行うために不可欠なものです。

なお、警備員が業務中に施設内で一億円拾っても警備員には一円も入りません。
今回は儲かる話ではなく、警備員としてためになる話です。
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2.施設・施設占有者とは


※遺失物法 2 条 5項・6項
「5.この法律において「施設」とは、建築物その他の施設(車両、船舶、航空機その他の移動施設を含む。)であって、
    その管理に当たる者が常駐するものをいう。
 6.この法律において「施設占有者」とは、施設の占有者をいう。」


a.施設とは


イ.運用基準の説明

次の二つのことが必要です。

①建築物その他の施設(移動施設を含む)
②管理に当たる者が常駐している

これだけでは具体的によく分かりませんね。

運用基準は次のように定めています。

※運用基準 第2-5 -施設(法第2条第5項関係)
「建築物」とは、土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱又は壁を有するもの(これに類する物を含む。)をいい、
  具体的には、駅、空港、百貨店、スーパーマーケットその他の商店、ホテル、旅館、娯楽施設、飲食店、官公庁施設、オフィスビル、学校等が該当する。

・建築物以外の工作物が「施設」に該当するか否かについては、
  法では、施設において物件の拾得をした場合には施設外における拾得の場合と異なる取扱いをすることとしており、
  また、施設内で物件が遺失され、及び拾得されることを想定していることから、
  当該工作物が他の場所と物理的に区分されているもの(柵等によって周囲と区別された土地等を含む。)であって、
  人がその内部に入ることができるだけの大きさを有するか否かによって判断するものとする。
 
・「移動施設」とは、自力、他力を問わず、場所を移動する「施設」をいい、
・「車両」には、自動車、鉄道の用に供する車両、軌道の用に供する車両等が該当する。

・「管理に当たる者」とは、店員、駅員、職員、警備員等、当該施設における人の出入り等の管理に係る職務に従事する者を広く含む。

・「常駐」とは、施設にいつでも所在していることをいうが、
  巡回、配達、本社との連絡等によってたまたま「管理に当たる者」がその施設を不在にすることがあっても、
  当該施設は「管理に当たる者が常駐する」施設に該当する。
  また、その施設を利用する者が利用可能な時間帯に「管理に当たる者」がいれば足り、24時間常駐していることまでは要しない。
  他方で、警備員が、施設外の場所を拠点にしてテレビカメラ等を使用して監視し、
  又は一時的に施設に立ち寄るだけの施設は、「管理に当たる者が常駐する」施設には該当しない。

余計分からなくなりましたね。


ロ.具体例

  「①建築物その他の施設(移動施設を含む)」の具体例は

・建物
・公園、神社の境内、駐車場、牧場、田畑、建設現場、分譲中の宅地、柵で囲まれた空き地
・船、飛行機、宇宙船、タイムマシン、どこでもドア、
・電車、バス、タクシー、人力車、自家用車

  ②は
・そこを管理する者がいること
・管理者は24時間いる必要はなく、たまに不在にしたり営業時間外はいなくてもかまわない。

※機械警備で警戒して、異状発報の場合は警備員が駆けつける場合は「管理者が常駐している」とは言えないとしていますが、
そのような施設 ( 事務所・工場・一般家屋 )には別の管理者がいますから施設となるでしょう。
ここでの除外は無人の施設を機械警備で管理している場合のことでしょう。

・民家の敷地や家屋内も施設にあたります。


・「そこが遺失物法の施設にあたるかどうか」は、最終的に「一般の場所との拾得と異なる取扱をする目的・趣旨」から判断されることになります。
  つまり、「一般人が落とし物をすることが多い場所で、拾得者がその場所を管理する者に拾得物をすぐに渡せるような場所」が施設になります。

  「施設管理者の常駐」を要件としているのも、そうでないと拾得者が拾得物をすぐに渡せないからです。


・しかし、「拾得した場所が遺失物法の施設に該るかどうか」は拾得者にとって大きな問題になります。

施設内で拾得した場合、拾得者は24時間以内に拾得物を施設占有者に渡さなければなりません。
24時間を超えると拾得者は報勞金や拾得物の所有権を得ることができません。

施設内で一億円拾ったが、その場所を一般の場所だと思った。
そして、「一週間以内に警察に届ければよい」と思って三日後に警察に届けた。

この場合、拾得者は遺失者が現れても報勞金をもらえません。
遺失者が現れず三カ月経っても一億円もらえません。

大金を拾った時はすぐに警察に届けるのがベストです。
※施設占有者に渡さずに警察署に持っていってもOKな場合もあります(後述)。しかし24時間は変わりません。
     

b.施設占有者とは

誰が施設占有者なるかは、誰が報勞金の半分をもらえるのかに関係します。

たとえば、あなたが貸しビルの一室を借りて喫茶店をしていた。
お客さんが一億円入りのカバンを忘れていき、別のお客さんがこれを見つけてあなたに手渡した。
一億円を忘れたお客さんが戻ってきたので、あなたは一億円を手渡した。

報勞金は一億円の5%~20%で500万円~2000万円。
これを拾得者と施設占有者で半分ずつ。

あなたが施設占有者なら、あなたに250万円~1000万円。
貸しビルのオーナーが施設占有者なら、あなたには一円も入らない。

あなたが施設占有者なのか、貸しビルのオーナーが施設占有者なのか。
遺失物法2条6項は「施設の占有者」とだけしか定めていません。

運用基準では‥、
※運用基準 第2-6  施設占有者(法第2条第6項関係)
「施設の占有者とは、施設を自己のためにする意思(民法第180条)を持って事実上支配していると認められる者のことをいう。
  具体的には、例えば、駅や鉄道車両であれば鉄道事業者、商店であれば商店主が施設占有者に該当する。
  他方で、商店の従業者たる店長や鉄道の駅長は、占有代理人(民法第181条参照)に過ぎず、自己のためにする意思がないことから、施設占有者には該当しない
  また、貸しビルのテナントのように施設を所有者から賃借している者がいるような場合には、
  所有者ではなく賃借人が、自己のためにする意思を持って現実に当該施設を支配しているため施設占有者に該当する。」

よかったですねぇ、あなたが施設占有者です。
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3.拾得者・施設占有者の権利と義務-手続の流れ


手続の順を追って説明します。

・①.拾得者が拾得物を施設占有者に交付する


ここで拾得者とは「その施設の従業員や施設占有者の施設の権限を代行する者」以外の者です。
その施設を警備する警備員は「その施設占有者の権限を代行する者」ですから、ここでの拾得者にはなれません。

施設の従業員や施設の警備員が施設内で拾得した場合は施設占有者が拾得したことになります。
施設警備員が仕事中に施設内で一億円拾っても何も手に入りません。

※運用基準 第2-3   拾得者(法第2条第3項関係)
「施設占有者の代理人、使用人その他の従業者が、
  当該施設占有者が占有する施設において物件の占有を始め、又はこれを発見した場合には、
  当該施設占有者が拾得者となる。」


・拾得物は施設占有者に速やかに交付しなければならない ( 4条2項 )

・24時間以内に交付しないと権利を失います ( 34条3号)。
1月1日の10時に拾ったら、1月2日の10時までに施設占有者に渡さないと報勞金・所有権を得られません。

・その施設の従業員や警備員に渡しても施設占有者に渡したことになります。(検定テキスト)

・犬・ネコなどの動物は施設占有者ではなく都道府県・政令指定都市の動物係に交付してもよい ( 4条3項 )。

・拾得者は遺失者が分かっていても遺失者に渡してはいけません。施設占有者に渡さなければなりません。( 4条1項と4条2項の文言比較 )
この点は施設外での拾得の場合と大きく異なります。

拾得者は拾得物を24時間以内に施設占有者に渡さなければ権利を得ることはできません。
遺失者に渡したら何の権利も得ることはできません。

あなたがスーパーの食品売り場で買い物をしていた。
あなたの横で果物を見ていた年配の紳士がカバンを忘れていった。
あなたは、そのカバンをもって紳士を追いかけて『忘れものですよ』と紳士に渡した。
紳士は『ありがとう!ありがとう!このカバンには一億円入っているンだ。助かったよ!』

これで終わりです。
あなたは何ももらえません。

あなたは施設内での拾得物を施設占有者ではなく遺失者に渡したからです。
あなたがこのカバンを食品売り場の係員や警備員に渡せば、あなたは250万円~1000万円の報勞金をもらえたのです。


・拾得者が拾得物を警察署に持っていった場合の取扱

あなたが休日に家族とあるスーパーマーケットに買い物に行った。
買い物を済ませ、車に家族を乗せて帰ろうとしたら、駐車場に膨らんだバックが放置されていた。
バッグをあけると一億円入っていた。

あなたの奥さんは『三カ月後には一億円ヨ!』と喜んだ。
あなたは店に戻るのがめんどうなので、そのバッグを帰る途中の警察署に届けた。

警察官はそのスーパーマーケットに電話をかけて『受け取ってもよいかどうか』尋ねた。

ここで、スーパーが同意すれば、あなたは拾得物の一億円を施設占有者に渡したことになります。
また、施設占有者もあなたから渡された一億円を警察に渡したことになります。

しかし、警察からの電話に出た店長はなぜか同意しなかった。

警察官はあなたにこう言った。
『施設占有者の同意がないので、警察で受け取ることはできません。スーパーに戻ってスーパーの方に渡してください。
  注意しておきますが、あなたが拾ってから24時間以内にスーパーに届けないとあなたは拾得者の権利を得られませんよ。
  あなたがこの一億円を拾ったのは今日の18時、あなたは明日の18時までにスーパーに届けなければなりませんよ。』

家に帰って皆で一億円の使い道を考えた。
奥さんが珍しくビールをたくさん飲ませてくれた。
もうこれで貧乏生活とはおさらばだ。

明日は早い。仕事が終わってからあのスーパーに届けに行こう。

次の日、あなたは16時に仕事が終わった。
急いで家に帰り、押し入れに隠してあった一億円入りのカバンを車に乗せてスーパーに向かった。

途中で車がパンクした。
18時まであと一時間。
少し焦ったが何とかタイヤ交換をしてスーパーに向かった。

スーパーは特売日、スーパー駐車場に入る幹線道路は大渋滞。

残り15分。
あなたは車を止めて、一億円入りのカバンを持ってスーパーに走った。

スーパーのサービスカウンターには店長がニコニコしながら待っていた。

あなたが店長に一億円入りのカバンを渡そうとすると、店長はサービスカウンターの時計を指さした。
18時2分。

時間切れで一億円の夢は消えた。

なぜ、店長がニコニコしていたのでしょう。
施設内での拾得で拾得者が権利を失うと、施設占有者が拾得者になるからです。(※遺失物法33条・34条3号 )
三カ月後、一億円はスーパーに手渡された。

※遺失物法33条(施設占有者の権利取得等)
「第4条第2項に規定する拾得者が、その交付をした物件について第30条若しくは前条第2項の規定により権利を放棄したとき
  又は次条第3号に該当して同条の規定により権利を失ったときは、
  当該交付を受けた施設占有者を拾得者とみなして、民法第240条の規定並びに第30条並びに前条第1項本文及び第2項の規定を適用する。
  この場合において、第30条中「警察署長(第4条第2項に規定する拾得者にあっては、施設占有者)」とあるのは、「警察署長」 とする。」

※遺失物法34条(費用請求権等の喪失)
「次の各号のいずれかに該当する者は、その拾得をし、又は交付を受けた物件について、
 第27条第1項の費用及び第28条第1項又は第2項の報労金を請求する権利並びに民法第240条若 しくは第241条の規定又は第32条第1項の規定により所有権を取得する権利を失う。
  一.拾得をした物件又は交付を受けた物件を横領したことにより処罰された者
  二.拾得の日から1週間以内に第4条第1項の規定による提出をしなかった拾得者(同条第2項に規定する拾得者及び自ら拾得をした施設占有者を除く。)
  三.拾得の時から24時間以内に交付をしなかった第4条第2項に規定する拾得者
  四・五 略」

※運用基準 第3-2-(2)-施設において拾得をした拾得者が物件を直接警察署又は交番等に持参した場合の対応
「施設において拾得をした拾得者(当該施設の施設占有者を除く。)が物件を直接警察署又は交番等に持参した場合において、
  当該施設の施設占有者の同意が得られたときは(あらかじめ文書により包括的に同意を得ることとしても差し支えない。)、
  当該拾得者が当該施設占有者に法第4条第2項の規定による交付を行ったものとみなすとともに、
  当該拾得者が当該施設占有者の使者の立場で法第13条第1項の規定による提出をしたものとみなして取り扱うものとすること。
    なお、当該拾得者が当該施設占有者に法第4条第2項の規定による交付を行ったものとみなされるのは、
  当該拾得者が物件を直接警察署又は交番等に持参し、かつ、当該施設占有者の同意が得られたときであり、
  したがって、拾得者が拾得の時から24時間を経過した後に警察署又は交番等に物件を持参した場合や、
  施設占有者の同意を得ることができず、かつ、施設占有者に物件を交付しないまま拾得の時から24時間を経過した場合には、
  当該拾得者の物件に関する権利は失われる(法第34条第3号)。
    また、当該施設占有者が、遺失者からの問い合わせに適切に対応できるようにするとともに、法第16条の規定による掲示等を行うことができるようにするため、
  物件の種類及び特徴並びに拾得の日時及び場所を当該施設占有者に通知すること。
    なお、当該施設占有者の同意が得られなかった場合は、拾得者にその旨を説明し、
  法第4条第2項の規定に基づき物件を当該施設占有者に交付すること
  及び拾得の時から24時間以内に施設占有者に物件を交付しなかった場合には物件に関する権利が失われる旨を教示すること。」
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・②.施設占有者が拾得物預かり書を拾得者に渡す


※遺失物法14条 (書面の交付 )
「第4条第2項の規定による交付を受けた施設占有者は、
  拾得者の請求があったときは、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。
  一.物件の種類及び特徴
  二.物件の交付を受けた日時
  三.施設の名称及び所在地並びに施設占有者の氏名(法人にあっては、その名称及び代表者の氏名)」

・拾得者の請求がなければ拾得物預かり書を交付しなくてもよい。 (14条本文 )
  ただし、預かり書がいらないのか確認すること・特に拾得者が権利放棄をしていない場合は交付するのが望ましい。( 運用基準 第20-1・2 )

・拾得物預かり書の様式は定められていない。名刺の裏に書いてもよい。(運用基準 第20-3 )

※運用基準 第20- 施設占有者による書面の交付(法第14条関係)
「1. 趣旨
    施設において拾得された物件については、拾得者から当該施設占有者に交付され、 当該施設占有者から警察署長に提出された後、
    物件の所有者が判明しなかった場合には、拾得者が物件の所有権を取得して警察署長からこれを引き取ることとなるが、
    このとき、拾得者は、警察署長に対して自らが真の拾得者であることを明らかにする必要がある。
    また、法第34条第3号の規定により、施設において拾得をした拾得者は、
    拾得の時から24時間以内に物件を施設占有者に交付しなければ、物件の所有権を取得する権利を失うこととなることから、
    拾得者がこの期間内に物件を交付したことを明らかにする必要がある。
      そこで、拾得された物件の所有権を取得する拾得者の権利を保護するため、
    当該物件の交付を受けた施設占有者は、拾得者から請求があったときは、
    当該物件に関する事項、物件の交付を受けた日時等を記載した書面を交付しなければならないこととされたものである。
 2.拾得者に対する説明
    法第14条中「拾得者の請求があったとき」とは、
    拾得者から施設占有者に対して書面の交付を求める意思表示があったときをいうが、
    拾得者は必ずしもこの規定を熟知しているとは限らないことから、
    拾得者に対し、書面の交付を希望するか否かについて意思を確認することが望ましい。
    特に、拾得者が物件に関する権利を放棄しない旨の意思を表示しているときは、書面の交付をすることが望ましい。
 3.交付する書面
    交付する書面は施設占有者の任意のものでよく、
    例えば、店舗の名刺を活用してその裏面に所定の事項を記載してこれを交付するなどの便宜な方法を取ることとしても差し支えない。
    法第14条第1号に掲げる物件の「種類」及び「特徴」については、第9の2(1)を参照すること。
    ただし、交付する書面に記載する物件の「種類」及び「特徴」については、施設占有者と拾得者の間における紛議を避けるため、
    公告の場合とは異なり、製造者名、模様、材質等詳細に記載することが望ましい。
    他方で、交付する書面には、法第14条各号に掲げる事項のみ記載すればよく、それ以外の事項を記載する必要はない。」


・拾得者が請求したのに施設占有者が拾得物預かり書を渡さなかったり、拾得物預かり書に嘘のことを書いたりすると 30万円以下の罰金。 (42条1号 )
・この場合、応対した施設の従業員が拾得物預かり書を渡さなかったり、嘘のことを書いた場合は、その従業員だけでなくその施設(会社)にも30万円の罰金 (43条 )


③.拾得者は権利放棄ができる (遺失物法30条 )


・拾得者が権利放棄すると施設占有者が拾得者となる。( 遺失物法33条 )


・④.施設占有者は遺失者が分かれば遺失者に返還


・遺失物届が出ていればその遺失者に、運転免許などで持主が分かる場合には持主に連絡する。(15条)

拾得者は遺失者に返還できませんが、施設占有者は一般の拾得者のように遺失者に返還できます
  もちろん、法的に所持が禁止されているものは遺失者に返還できません。

・施設占有者は拾得物をぞんざいに扱ってはならない。(15条 )

※遺失物法15条(施設占有者の留意事項)
「施設占有者は、第4条第2項の規定による交付(以下第34条までにおいて単に「交付」という。)を受けた物件については、
  第13条第1項の規定により遺失者に返還し、又は警察署長に提出するまでの間、これを善良な管理者の注意をもって取り扱わなければならない。」

・善良な管理者の注意とは「自己の物を取り扱う場合よりも慎重かつ適切にという程度の注意」です。( 運用基準 第21 )


・⑤.施設占有者の公告 (16条 )


・施設占有者は遺失者不明の拾得物について、警察に届けるまでの間 ( それまでに遺失者が現れればその時まで)公告をする。(施行規則27条・運用基準 第22-3 )

・公告するのは不特定多数が利用する施設の場合だけ

・会員制の施設は不特定多数が利用する施設ではない。(運用基準 第22-1 )

・公告は掲示板でしてもよいし、拾得物一覧簿を備えつけて閲覧できるようにしてもよい。

・警察署が公告を「拾得物一覧簿の閲覧」で行うばあい、365日・24時間、閲覧できなければなりませんが、
  施設の場合は営業時間だけでOK。(運用基準 第22-2 )

・施設従業員が拾得した拾得物も公告が必要。

※遺失物法16条(不特定かつ多数の者が利用する施設における掲示)
「施設占有者のうち、その施設を不特定かつ多数の者が利用するものは、
  物件の交付を受け、又は自ら物件の拾得をしたときは、
  その施設を利用する者の見やすい場所に第7条第1項各号に掲げる事項を掲示しなければならない。
 2.前項の施設占有者は、第7条第1項各号に掲げる事項を記載した書面をその管理する場所に備え付け、
  かつ、これをいつでも関係者に自由に閲覧させることにより、前項の規定による 掲示に代えることができる。」

※遺失物法施行規則 27条(施設占有者による掲示等の期間)
「法第16条第1項の規定による掲示及び同条第2項の規定による書面の備付けは、
  法第4条第2項の規定により物件の交付を受け、又は自ら物件の拾得をした日から当該物件の遺失者が判明するまでの間
  又は当該物件を警察署長に提出するまで(保管物件にあっては、公告の日から3箇月を経過する日まで)の間、行うものとする。」

※運用基準 第22- 不特定かつ多数の者が利用する施設における掲示等(法第16条関係)
「1 法第16条第1項関係
  「不特定かつ多数の者が利用する」施設とは、
  具体的には、駅(有人駅)、空港、百貨店、スーパーマーケットその他の商店、ホテル、旅館、娯楽施設、飲食店、
  公共交通機関の車両(鉄道の用に供する車両、軌道の用に供する車両、旅客自動車運送事業の事業用自動車等)、船舶又は航空機、官公庁施設等の施設が幅広く該当し得る。
  他方で、特定の者が利用する施設としては、会員制の施設等が考えられる。
    なお、「多数」とは、施設の利用者が互いを個別に識別することができない程度の数をいう。
  「自ら物件の拾得をした」とは、施設占有者がその占有する施設において物件の拾得をしたことをいうが、
  施設占有者の代理人、使用人その他の従業者が物件の拾得をした場合(第2の3参照)も含まれる。
    掲示は、掲示すべき事項を記載した書面を掲示場に掲示したり、掲示すべき事項を記載した黒板を掲出するなど、施設占有者の任意の方法で行えばよい。
  また、掲示は、法第7条第1項各号に掲げる事項について行う必要があるが、これらの事項については、第9の2を参照すること。
 2.法第16条第2項関係
  「いつでも」とは、「関係者」が書面の閲覧を求めて来たときにはいつでもという意であるが、当該施設がその利用者の利用に供されていない時間帯や、
  「落とし物取扱所」等当該施設とは別の場所に書面を備え付けている場合において
  当該場所が開設されていない時間帯にまで書面を「閲覧させる」ことを求めるものではない。
    「その管理する場所」とは、例えば、駅舎の外に所在する事務所に設けられた「落とし物取扱所」のように、
  施設占有者が占有する「施設」でなくても差し支えないが、
  物件を遺失し、これを探すため書面の閲覧を求める者が利用しやすい場所であることが必要である。  以下略
 3.掲示等の措置を継続する期間
  法第16条第1項又は第2項に規定する措置は、規則第27条の規定により、
  当該物件の遺失者が判明するまでの間又は当該物件を警察署長に提出するまで
  (保管物件にあっては、公告の日から3か月を経過する日まで)の間行うものとされているが、
  これは、物件の遺失者が判明するときか、
  物件を警察署長に提出するとき(保管物件にあっては、物件の保管期限である公告の日から3か月を経過する日の午後12時)のいずれか早いときまで行う
  ことを意味する。」


・⑥.施設占有者は、拾得者から交付を受けてから一週間以内に警察に届ける


・施設占有者は遺失者不明の拾得物につき速やかに警察署長に提出する。(13条1項 )

※遺失物法13条(施設占有者の義務等)
「第4条第2項の規定による交付を受けた施設占有者は、
  速やかに、当該交付を受けた物件を遺失者に返還し、又は警察署長に提出しなければならない。
  ただし、法令の規定によりその所持が禁止されている物に該当する物件及び犯罪の犯人が占有していたと認められる物件は、
  速やかに、これを警察署長に提出しなければならない。
 2.前節の規定は、警察署長が前項の規定による提出を受けた場合について準用する。
  この場合において、第5条中「前条第1項」とあるのは「第13条第1項」と、
  「拾得者」とあるのは「施設占有者」と、
  第11条第2項中「拾得者の同意」とあるのは「拾得者又は施設占有者の同意」と、
  「拾得者の氏名」とあるのは「その同意をした拾得者又は施設占有者の氏名」と、
  同条第3項中「拾得者」とあるのは「拾得者又は施設占有者」と読み替えるものとする。」


・届け出る事項が決められています。(施行規則 )

※遺失物法施行規則 26条(施設占有者による物件の提出)
「施設占有者は、法第4条第1項又は法第13条第1項の規定により警察署長に物件を提出するときは、
  次に掲げる事項を記載した提出書を当該警察署長に提出しなければならない。
 一.物件に関する事項
  イ.物件の種類及び特徴
  ロ.物件の拾得の日時及び場所
  ハ.物件の交付の日時
 二.施設占有者及び拾得者に関する事項
  イ.施設占有者の氏名等及び電話番号その他の連絡先
  ロ.拾得者の氏名等及び電話番号その他の連絡先
  ハ.施設占有者及び拾得者の費用請求権等の有無
  ニ.同意の有無  」

施設占有者は警察から、これら内容を記載する複写式の拾得物届書を渡されます。
この拾得物届書に記載して、複写の方を拾得物と一緒に提出し、原本( 自筆 ) の方を控として保管します。


・施設占有者は拾得者から交付を受けた拾得物を一週間以内に警察に提出しなければ権利を失う。(34条4号)

※遺失物法34条 (費用請求権等の喪失)
「次の各号のいずれかに該当する者は、その拾得をし、又は交付を受けた物件について、
 第27条第1項の費用及び第28条第1項又は第2項の報労金を請求する権利並びに
  民法第240条若しくは第241条の規定又は第32条第1項の規定により所有権を取得する権利を失う。
 一.拾得をした物件又は交付を受けた物件を横領したことにより処罰された者
 二.拾得の日から1週間以内に第4条第1項の規定による提出をしなかった拾得者(同条第2項に規定する拾得者及び自ら拾得をした施設占有者を除く。)
 三.拾得の時から24時間以内に交付をしなかった第4条第2項に規定する拾得者
 四.交付を受け、又は自ら拾得をした日から1週間以内に第4条第1項又は第13条第1項の規定による提出をしなかった施設占有者(特例施設占有者を除く。)
 五.交付を受け、又は自ら拾得をした日から2週間以内
     (第4条第1項ただし書及び第13条第1項ただし書に規定する物件並びに第17条前段の政令で定める高額な物件にあっては、1週間以内)に
     第4条第1項又は第13条第1項の規定による提出をしなかった特例施設占有者(第17条前段の規定によりその提出をしないことができる場合を除く。)」

・施設占有者が一週間以内に警察に届けなかった場合は、施設占有者は権利を喪失しますが拾得者は権利を喪失しないでしょう。(後述4)


・⑦.拾得物が警察に提出されたあとは「施設外での拾得」と同じ


・警察が拾得物預かり書を渡す → 遺失者の捜索・返還 → 遺失者不明の時は公告 → 三カ月経過して拾得者が所有権取得。
・放棄、権利喪失に関しても同じです。
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4.拾得者の権利喪失と施設占有者の権利喪失の関係


施設内での拾得は拾得者と遺失者・警察の間に施設占有者が入ります。
拾得者と施設占有者に対してはおのおの権利放棄・権利喪失が定められています。
拾得者と施設占有者のどちらかが権利放棄や権利喪失をした場合、他方の権利はどうなるのかが問題となります。
上で説明した部分と重複しますが、ここでまとめておきます。


a.通常の場合

・拾得者 → 所有権 (民法240条)・報労金1/2 (28条2項)・管理費用請求権 (27条)
・施設占有者 → 報労金1/2(28条2項)・管理費用請求権(27条)


b.拾得者が24時間以内に施設占有者に交付しなかった場合で、施設占有者が拾得者の交付から一週間以内に警察に提出した場合

・拾得者 → 権利喪失(34条3号) → 所有権・報労金・管理費用請求権なし
・施設占有者 → 拾得者とみなされる(33条) → 所有権・報労金1/2・管理費用請求権

※施設占有者の報労金が1/2のままである理由
33条は「施設占有者を拾得者とみなして、民法240条(所有権取得)・30条(事前の権利放棄 )・32条1項(遺失者権利放棄による所有権取得)
・32条2項(事後の権利放棄)を適用する」としているだけで、28条1項(5%~20%の報労金請求権)を挙げていない。
よって、施設占有者の報労金については28条2項(28条1項の半分の報労金請求)が適用される。(運用基準 第41)


c.拾得者の事前の権利放棄(施設占有者に交付する際に権利放棄をした場合 )

・拾得者 → 権利喪失(30条)
・施設占有者 → 拾得者とみなされる(33条) → 所有権・報労金1/2・管理費用請求権


d.遺失者が権利放棄をした場合

・遺失者 → 管理費用・報労金の支払い義務なし(31条 )
・拾得者 → 即時に所有権を取得(32条1項) → 管理費用支払い義務発生(27条) → 権利放棄できる(32条2項 )
  →施設占有者が所有権を取得(33条) → 施設占有者に管理費用支払い義務発生(27条) → 施設占有者は権利放棄できる(33条による32条2項の準用)


e.拾得者が24時間以内に施設占有者に渡したのに、施設占有者が一週間以内に警察に提出しなかった場合

・拾得者 → 権利を失わない(34条3号に反していない) → 所有権(民法240条)・報労金1/2(28条2項 )・管理費用請求権 (27条 )
・施設占有者 → 権利喪失(34条4号)


f.拾得物を返還された遺失者に一カ月過ぎても報労金・管理費用を請求しなかった場合

拾得者の報労金・管理費用請求権と施設占有者の報労金・管理費用請求権は各々独立しています。
一方が報労金・管理費用請求権を喪失したからといって、他方がその権利を引き継ぐことはありません。

・拾得者が請求しなかった場合 → 拾得者の権利喪失(29条) → 報労金0・管理費用請求不可
・施設占有者が請求しなかった場合 → 施設占有者の権利喪失(29条) → 報労金0・管理費用請求不可


g.拾得者が所有権の取得から二カ月過ぎても拾得物を引き取らなかった場合

・拾得者 → 所有権喪失(36条)・管理費用支払い義務なし(36条 )
・施設占有者 → 関係なし

※施設占有者が所有権を取得するのではないのか?

民法240条は「遺失物法定めるところに従い‥これを拾得した者がその所有権を取得する。」としています。
そして、遺失物法は33条で施設占有者が所有権を取得する場合として、拾得者の交付義務違反と拾得者の権利放棄を挙げています。

つまり、拾得者ではない施設占有者が、拾得者に代わって所有権を取得するのは、拾得者の交付義務違反の場合と拾得者の権利放棄の場合だけです。
拾得者が期間経過により所有権を喪失しても施設占有者に所有権が移るわけではありません。

この点について運用基準に見当たりません。
以上はあくまで私の解釈です。

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5.警備員が拾得者から拾得物の交付を申し出られたときの注意


留意しなければならないのは「拾得者の権利を害さないこと」、「施設占有者に不利益を与えないこと」、そして「自分が疑われないこと」。


a.拾得者の権利を害さないこと

拾得者がどこで拾ったのかによって、拾得者の義務が違ってきます。
施設外での拾得なら、一週間以内に遺失者に返還するか警察に届けないと拾得者は権利を失います。
施設内での拾得なら、24時間以内に施設占有者に交付しないと拾得者は権利を失います。

まず、「どこで拾ったか」を尋ねましょう

それが施設外なら「すぐに警察に届ける」よう助言します。
拾得者は一週間以内に届ければ権利を失いませんが、遺失物法での拾得者の義務は「速やかに‥警察署長に提出すること」です。

それが施設内の拾得なら、「すぐにサービスカウンターに届けるよう」依頼します。
そして店関係者を呼んで拾得者に引き合わします。
それが無理なら、拾得者をサービスカウンターまで案内します。

「すぐにサービスカウンターに届けてください」と依頼しただけでは、拾得者の権利を守ったとは言えません。
拾得者がサービスカウンターに着くまでに事故や盗難が起こるかもしれません。

その事案に関わった以上、それを店関係者に引き継いで初めてその事案は警備員の手から離れます。
それが「安全と安心を護る」警備員の務めです。


(ありそうな事例で怖い)

スーパーの駐車場で警備員が交通誘導をしていた。
女性客が、『この財布が私の車の近くに落ちていましたよ。』と財布を差し出した。

警備員はその財布を受け取らずに、『サービスカウンターの方で手続をしてください。今からご案内します。』と言った。

その時、男性客が血相をかえて走ってきた。
『警備員さん、警備員さん。今財布を落としたンだ!見なかったかい?』

女性客が拾った財布を男性に見せた。
『もしかしてこの財布じゃない?』

男性客は言った。
『ありがとう、ありがとう。この財布なんだ。拾ってくれたのですね!
 財布の中に健康保険証とキャッシュカードと名刺が10枚くらい入っている。
 現金は一万円札が5枚と千円札が6枚。あとは小銭が少々。』

そして男性客は免許証を見せた。

女性客は免許証の住所・氏名と写真を確認し、財布の中に入っていた健康保険証とキャッシュカード名義を照らし合わせた。
財布の中身も男性の言った通り一万円札が5枚と千円札が6枚。

女性客は男性客に拾った財布を渡した。

男性客は女性客に名刺を渡した。

そして、、ポケットの中からアメ玉を取り出し女性客にこう言った。

『ありがとうございました。助かりました。これはお礼です。』


もう分かりますね。

スーパーの駐車場は施設です。女性客は財布を施設占有者に渡さなければなりません。
財布を拾った女性客は、拾得物を遺失者に返還してしまったのです。
遺失者に渡したら拾得者としての権利がなくなってしまいます。

女性客は財布をまだ警備員に渡していません。
警備員や店の従業員に渡せば施設占有者に渡したことになります。
女性客はまだ拾得物を施設占有者に渡していないのです。

女性客はアメ玉一個のお礼に文句を言うことはできないのです。

女性客の不満はどこにぶつけられるでしょう?

『アンタ、警備員でしょうッ!
 警察官のような格好をして!中身はただの“立っているだけのオッチャン”じゃないッ!
 なンで助言してくれなかったのッ!』

※ただし、女性客は警備員に財布を手渡していませんが、
  状況を総合すると「女性客は警備員に財布(拾得物)を遺失物法に定める交付をした」と判断されるかもしれません。


b.施設占有者に不利益を与えないこと


「警備員は拾得物に関わるな」が警備業界の鉄則です。
拾得物(金銭)がなくなった場合に警備員が疑われること。さらには警備員が横領する事例があるからです。

しかし店側の強い要望に、「拾得物に関わる怖さ」を知らない警備会社営業マンが押し切られる。
そして、警備員が拾得者から拾得物を預かるということが契約の中に入ってしまう。
こんな場合もないとは言えません。

このような場合、拾得物を預かる場合の手順を店側と確実に決めておかなければなりません。
特に拾得物預かり書についての取り決めは不可欠です。

拾得者が警備員に拾得物預かり書を求めた。
警備員が『店から拾得物預かり書の件は聞いていません』と拾得物預かり書を渡さなかった。
その警備員は30万円以下の罰金です。( 42条1号 )

警備員だけでなく店も30万円以下の罰金となります ( 43条 )

店が拾得物に関して罰金刑を受けたら、世間はなんと言うでしょう?どんな噂が立つでしょう?


c.自分が疑われないこと


契約内容に警備員の拾得物受け取りが入っていて、警備員が拾得物を受け取る場合、
警備員は拾得者と一緒に中身を確認しなければなりません。

そして、その内容物を拾得物預かり書に書いて、「以上確認しました」という拾得者の署名をもらわなければなりません。
できれば、他の警備員がこれに立ち会うことが必要です。

拾得物の中身が壊れていたり、財布の中身が減っていたりしたら、疑われるのは警備員です。


これは業務中に警備員自身が拾得した場合でも同じです。

警備員が巡回中に財布を拾った。
サービスカウンターに持って行って、係の者と中身を確認したら10万円入っていた。
遺失者が現れて財布を受け取り、中身を確認してこう言った。
『えっ? この財布の中には20万円入っていたはずだよ!』

疑われるのは警備員です。

問題がこじれてマスコミが嗅ぎつけたら大変なことになります。
事の真偽に関係なく、問題が一人歩きしてしまいます。

こうなったら、契約解除は必至です。

    
6.新任警備員のためのワンポイント


・①.施設内で拾得したら、拾得者は「施設の者」に届けないと権利がなくなる。
・②.「24時間以内」に届けないと権利がなくなる。
・③.警備員は拾得物に関わるな。
・④.拾得者をサービスカウンターに連れて行く。
・④.拾得者と一緒に中身を確認して拾得物預かり書を渡す。
・⑤.拾得物預かり書に拾得者の確認サインをもらう。
・⑥.疑われるのは、まず自分。
・⑦.警備員はスキャンダルのネタ。

※参考
・遺失物法等の解釈運用基準 (平成19年8月10日 警察庁通達)
・警察庁遺失物取扱規定 ( 平成19年11月15日 警察庁通達 )


つづく。




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