SPnet 選任業務編



・警備員新任教育-基本教育レジュメ案





選任の皆様、警備員教育を楽しんでますか?
教える方が楽しくなければ、教えられる方も楽しくありません。
教えられる方が退屈なのは、教える方が退屈しているからです。
教える内容をもっと勉強しましょう。教える内容も整理しましょう。教える方法も検討しましょう。
基本教育のレジュメ案を書いておきました。参考にしてください。


指導教育責任者の警備員教育に対する考え方を変える
教える内容を検討する-自分自身の理解、何を教えないか、経験に裏打ちされた話
基本教育レジュメ案

※2019年改正で警備員教育の教育期・教育時間数が変更されました。 → こちら
この頁の内容は以前の「新任教育は基本教育15時間・業務別教育15時間の合計30時間」
「現任教育は前期に基本教育3時間・業務別教育5時間の合計8時間、後期も同じ」の時のものです。

   
1.まずは指導教育責任者の考え方を変えましょう


「警備員の新任教育は煩わしいものだ。」これが指導教育責任者の本音でしょう。
未経験者で30時間・4日間を費やさなければなりません。
『どうせ30時間使うのなら、現場で研修させた方がよほど効果がある。』誰もがそう思います。

しかし、法律上認められている現場研修(実地教育)は30時間のうちの8時間だけ。
どうしても、22時間は学校のように教えなければなりません。

・教える相手は警備経験者ではありません。
・今までの教育環境もさまざまです。
・検定講習や指導教育責任者講習の受講生のように、はっきりとした目的意識を持っているわけではありません。

彼らに教えることはなかなか難しいことなのです。


そこで、指導教育責任者は「まあ、30時間付き合わせばよいか‥」という安易な方法に流れてしまいます。

『警備業がネ‥。世間に知られるようになったのは東京オリンピックのことなんだ‥。』から始まり、
10年使い古した教育内容を「立て板に水を流す」ように流暢に淡々と話していきます。

話している自分がおもしろくないのに、聞いている相手がおもしろいわけがありません。
みなが眠そうな顔をしているのを見て、こう付け加えます。
『新任教育は法律で決まっているので、どうしても30時間はたいくつな講義を聞かなければならないンだよ‥。』


まずは指導教育責任者の「新任教育に対する考え方・姿勢」を変えなければなりません。

・彼らにこんな機会はもう与えられない。
・彼らはこれから現場に出て毎日酷使されるンだ。
・新任教育は「会社が警備員に与える最初で最後の平穏」なのだ。
・精一杯楽しませてやろう。
・彼らに「知る楽しさ」を与えてやろう。警備員として必要な基本知識をできるだけ教えよう。

指導教育責任者自身が「新任教育は楽しくて仕方がない」と思うものでなければ新任教育は無駄になってしまいます。
指導教育責任者の皆様!もっと新任教育を楽しみましょう。
     

2.教える内容を検討する



教えるためには、次のことが必要です。 → ※参考「教える」とは「伝える」ことではない

・教える内容をより深く理解すること
・自分も疑問を持ち、相手の疑問を予測すること
・相手が理解できる言葉で話すこと
・ときめき感覚を与えること」が必要です。

さらに「何を教えないか」も大切です。
あれもこれも話していたら焦点がぼやけてしまいます。
指導教育責任者は30時間・四話連続のドラマを作らなければなりません。
教える内容を検討しなければなりません。

警備業法では警備員教育の教育項目と教育方法が決められていますが、各教育項目の教育時間は決められていません。
教育項目も大雑把なもので、それに関することならなんでもOKです。
工夫すればおもしろいドラマが作れます。

経験に裏打ちされたことを話すのも必要です。
「耳学問」では相手の心に届きません。
指導教育責任者なら「その警備業務経験が3年間」あります。
その経験を絡めればよいのです。


えっ?『経験3年間といっても 実際に現場に出たのは10回程度だから‥』ですって?
そんな「経験3年」で指導教育責任者資格がもらえるわけがないじゃないですか!
嘘の従事証明で資格を取ったら資格剥奪・警備業法違反ですよ‥。

偉そうなことを言う私も、実務経験のない警備業務の指導教育責任者資格を持っています。
もちろん、合法的なもので嘘の従事証明で資格を取ったわけではありません。

私の持っていた指導教育責任者資格は旧資格。
旧指導教育責任者資格は1号~4号のどれかの実務経験が3年あれば取ることができ、1号~4号のすべての指導教育責任者となれました。
平成17年の警備業法改正で指導責任者資格が1号~4号の四つに分かれ、各々に各号の実務経験が3年必要になりました。
旧資格者は特例講習を受けて1号~4号の新資格に切り替えたのです。

私は1号~4号の指導教育責任者資格を持っていますが、実務経験があるのは1号と2号だけです。
しかも2号に関しては1年半くらいの実務経験しかありません。
1号に関しては10年間の実務経験がありますが、それは「保安警備員・万引きGメン」という特殊なものです。
施設常駐警備などしたことはありません。

そこで、施設・交通・雑踏・貴重品運搬の検定二級資格を取りました。
実務経験のない警備業務について教えることがあるからです。


実務経験が乏しい指導教育責任者にとってこの二級検定資格講習は役に立ちます。
テキストを参考にして、自分が教えられたことを教育内容にすればよいのです。
基本動作・実技訓練だけでなく警備員としての立ち振る舞い・受講態度も徹底的に教え込まれます。
指導教育責任者の皆様、検定二級を取りましょう。

えっ?『会社が検定講習の枠を与えてくれない・アンタは指導教育責任者だから現場の検定資格は必要ないと言われた。』ですって?

会社に割り振られた枠をもらおうとせずに、キャセル待ちで申し込めばいいじゃないですか。
もちろん自費ですよ。
有休なんか使わずに休日出勤の代休を使いましょう。
自分自身の研修なのだから会社を当てにしていてはダメですよ!

自分自身の研修を忘れた指導教育責任者は、「能書きだけの教育係」として隊員に馬鹿にされながら会社にしがみついていなければなりませんよ。
     





3.基本教育のレジュメ案

まずは「30時間・四話連続ドラマ」の前半二話分です。


①.警備業務実施の基本原則に関すること(講義)

※警備業法の規制・意味の理解。警備員と一般人の違い・警備員に課せられている制約に重点を置く。
※所要時間1時間。


a.警備業務とはなにか・警備員とはなにか

・「警備業とは他人の需要に応じて、人の生命・身体・財産に対する侵害の発生を警戒し防止することを営業として行うこと」(警備業法2条1項・2項・3項)
・他人の需要に応じて→自社警備・自社保安は警備業ではない。
・営業として→ボランティア警備は警備業ではない。

・「警備員とは警備業者に雇われている者で警備業務に従事する者」(警備業法2条4項)
・警備会社の事務員さん・営業専属は警備員ではない


b.警備業・警備員は特別な規制を受ける

・警備業法で規制が定められている

・どんな規制があるか
・護身用具規制→一般人には携帯が認められるが警備員には認められない護身用具→警棒実物を見せる。
・警備業をできない人(警備業法3条)→簡単なものだけ例示
・警備員になれない人(警備業法14条1項)→身分証明書・住民票・診断書が必要なわけ
・警備員教育→新任教育・現任教育→新任教育の説明・現任教育の説明
・指導教育責任者を置かなければならない
・法定備付書類・立ち入り
・警備業は認定制・営業停止処分・両罰規定
・警備業法に違反したら、最悪は5年間の警備業界追放

・自社警備・自宅警備・警備会社の事務員サンは警備業法の規制を受けない→おもしろおかしくたとえ話。。


c.警備業法の制定経緯・改正経緯

・東京オリンピックの話は受講生を警備業法に引き込んでから。
・警備員の犯罪→自分の見聞きした警備員の犯罪例を加える→平成21年度の統計
・警備業者と警備員数の統計→警察官+自衛隊員数と同じ


d.警備業務の基本原則(警備業法15条)

・何ができるのか→施設管理権・正当防衛・現行犯逮捕

施設常駐警備員は施設管理権と正当防衛で飯を食っている。
万引きGメンは現行犯逮捕で飯を食っている。
交通誘導警備員は「お願い」で飯を食っている。


②.警備員の資質の向上に関すること(講義又は実技)

※礼式・基本動作の体得
※厳格に徹底して実技訓練をする。
※新任教育期間を通じて実践させる。
※所要時間2時間


a.警備員は安全を護り安心を与える仕事

・警備員は立ち姿で決まる。
・礼式と基本動作が安心を与える。

b.礼式の実技訓練

・室内の敬礼・室外の敬礼
・答礼と答礼しない場合
・書類を渡す場合と渡される場合
・団体での礼式

c.基本動作の実技訓練

・きおつけ・敬礼・なおれ
・基準・集合・分かれ
・回れ右・右向け右・左向け左・半ば右向け右・半ば左向け左


③.警備業法その他警備業務の適正な実施に必要な法令に関すること(講義)

※憲法・刑法・刑訴法をやさしく・おもしろく理解させる。
※所要時間5時間。
※基本教育1日目終了。


a.憲法で保障された基本的人権と刑法・刑事訴訟法の位置づけ

・なぜ、基本的人権を説明するのか-警備員は一般人の基本的人権を侵害する危険がある(警備業法15条)
・基本的人権とはなにか
・基本的人権の制約-無人島に一人でいるのではない
・罪刑法定主義→刑法・刑事訴訟法はなぜあるか


b.刑法の理解

・犯罪とはなにか
・犯罪にならない場合-違法性阻却事由・責任阻却事由
・正当防衛の要件
・緊急避難の要件
・正当行為の要件
・自救行為とは
・責任能力
・教唆・幇助幇助犯
・共同正犯・共謀共同正犯

※教える者の理解に応じてかみ砕いて教える。
※実経験があればそれを加える。


c.刑事訴訟法の理解

・現行犯逮捕の要件
・現行犯逮捕では何ができるのか・何ができないのか-実例
・現行犯逮捕の要件と正当防衛の要件の違い-実例
・施設管理権に対する正当防衛-実例
・任意捜査と強制捜査-捜索令状・押収令状・職務質問-万引きして掴まったらどうなるか
・違法収集証拠排除説と判例の推移-万引きしてから1時間以上たって店外したら掴まった。どう逃げ切るか。
・疑わしきは被告人の利益による・刑事裁判の鉄則-万引きGメンの現認はなぜ必要なのか。


④.事故発生時における警察機関への連絡、その他応急の処置に関すること(講義及び実技)

※所要時間4時間

a.警察機関・消防機関への連絡要領(講義)

・110番通報の仕組み・119通報と救急車到着時間
・六何の原則
・巧遅より拙速・追加連絡
・警察機関への連絡-連絡内容・誰が何を連絡するのか
・消防機関への連絡内容


b.警察機関・消防機関への連絡(実技)

・映画から事件・事故シーンを抜き出して観させ、受講生に実際に連絡させる。
・実技訓練をすることが必須


c.現場保存の方法(講義)

・警備員の事故遭遇-実例・飛び下り自殺
・現場保存の方法

d.負傷者の搬送・心肺蘇生法(実技)

・心肺蘇生法の習得
・負傷者の搬送-2級検定実技


④.護身用具の使用方法その他の護身の方法に関すること(講義及び実技)

※所要時間3時間+α

・警備員に認められる護身用具とその制限(講義)
・警棒の取扱方法(実技)
・警杖の取扱方法(実技)
・護身術実技-検定2級での実技試験内容-この護身術では役に立たない(講義・実技)
・役に立つ護身術は「離れること」(講義・実技)
・逮捕術・制圧術-矯正護身術から「腕ひしぎ・腕絡み」(実技)
・格闘技経験者のパンチとキック体感(実技)-日本拳法の防具を付けさせ格闘技経験者の打撃を経験させる。


4.その他


以上はあくまで私がする教育内容のレジュメです。
刑法・刑事訴訟法が好きで、若い頃に格闘技経験があり、警備員になって10年間を万引きGメンとして現行犯逮捕で飯を食っていた者の教育内容です。

指導教育責任者はそれぞれ「持っているもの・経験」が違います。
「警備とは何か・警備員の職責とは何か」の考え方も違います。
自分の主義に沿って自分の経験と得意分野で教育内容と時間配分を決めてください。

教育とは「教え・育てる」ことです。
その熱意が警備員の資質向上につながります。

リーダーの要件は「自分を超える者を育て、自分の職責を譲る」ことです。
そのためには私もあなたも警備員教育に対してまだまだ改善の余地があります。

警備員指導教育責任者とはなかなかおもしろい仕事です。


つづく。




前へ/「犯罪とは構成要件に該当する違法・有責な行為」の説明   次へ/1号業務別教育①レジュメ案   選任業務編目次へ   警備総索引   SPnet2.TOP   SPnet   SPnet番外