SPnet私服保安実務の基礎知識

 





★初めに★

この教育資料は、私が私服保安員育成を始めたころに書いたものです。
その後、実務経験と検挙事例をふまえて、万引きGメン実戦教本を書きました。
この教育資料は万引きGメン実戦教本の原典になります。

今まで公開していた万引きGメン実戦教本は、電子出版準備のため公開中止としました。
その代わりとして、この資料を急遽公開します。

当時の原文のままで校正してありません。
字体・体裁も調整してありません。
検挙実例も入っていませんので、一般の方にはおもしろくありません。

なお、私服保安経験のある方の参考になるような目新しいことは書いてありません。
私服保安経験のない1号指導教育責任者の方の教育資料としてください。

文中でSPとは私服保安員のことです。

2012.01.24

 

 

1】検挙要件-現行犯逮捕の時に、犯人が万引きした商品を持っていなければならない

 

 

①万引き犯人の持っている商品が“動かぬ証拠”となる

 

ある店の商品を盗った男が店の外に出ます。

 

SPが声をかけます。

『ちょっとすいません!この店の保安係ですが…、そのバッグの中の商品はまだ清算していませんよねぇ?』

 

男は答えます。

『えっ?ちゃんと払いましたよ…。』

 

SPは語調を強めます。

『とぼけては困りますねぇ。あなたは文具売場で腕時計をバッグに入れ、ボールペンだけ支払ったじゃないですか!私はしっかり見ていたンですよ!』

 

男は反論します。

『何のことか私には分かりません。あなたは私がこの店で腕時計を盗ったと言うのですか?』

 

SPは自信タップリに言います。

『往生際が悪いんとチャウか!ネタは挙がっとるンや!そこまで言うンやったら、そのバッグの中身を見せてみいや!腕時計が入っとるやろっ!』

 

男は言います。

『いいですよ。』

 

男はバッグの中身を出します。

 

(場面1)

 

男のバッグからSPの見た腕時計が出てきます。

 

SP:『この時計や!この時計をバッグに入れたやないか!』

 

:『これは別の店で昨日買ったものですよ!ここにレシートもあります。

     私はこの店の文具売場にもまったく同じ時計があるのを知っていましたから、見比べていたのです。』

 

SP:『えっ?この腕時計はこの店の商品じゃなかったの…。』

 

(場面2)

 

男のバッグからは腕時計は出てきません。

 

SP:『腕時計が入っとる筈や!お前、腕時計をどこかに捨てたな!』

 

:『おっしゃっている意味がよく分かりませんねぇ。

     さあ、どうしてくれます?私は万引き扱いされたのですよ!上の人を呼んでもらいましょうか…。』

 

腕時計を盗った万引き犯を現行犯逮捕するためには、犯人がその腕時計を持っていなければなりません。

犯人の持っている腕時計が万引きの“動かぬ証拠”になるからです。

 

腕時計を持っていなければ“誤認逮捕”となります。

 

「腕時計を盗った万引き犯がその腕時計を持っていない」

それは、見間違い・勘違いでも起こるし、

万引き犯が腕時計を売場に戻したり、途中で捨てたり、仲間に渡したりすることによっても起こります。

 

これを防止するために、

我々SPは“着手・現認・注視”という作業をし、さらに“単品”での検挙をしないのです。

 

②「着手・現認・注視」とは

 

“着手”とは「犯人が、その店の商品を手に取るところを見たこと」です。

“着手現認”とか“棚取り現認”とも言われます。

 

“現認”とは「犯人が手に取った商品を、バッグやポケット、店内カゴ等に入れるところを見たこと」です。

“入れる現認”とも言われます。

 

“注視”とは「犯人に声かけするまでに、犯人を見失っていないこと」です。

“中断なし”とも言われます。

 

この三つの作業をしっかりとやらなければ、「声かけした時に犯人が商品を持っていない」ということが起こる危険性があります。

 

    a.棚取り現認

 

犯人が手に取った物は“その店の商品”でなければなりません。

 

お客が売場で、以前に自分が買った物と商品を見比べる事は少なくありません。

 

化粧品売場では口紅の色を合わせたり、衣料売場ではスカートが自分のセーターに似合うかどうか確かめたりします。

他の店で買ってきた炊飯ジャーの値段を比べるために、それが同じ型番かどうか確かめたりもします。

 

だから、犯人が商品を手に持っているところから見たのでは、その商品がその店のものでない場合があります。

 

それがその店の商品であるためには、犯人がその商品を棚から取るところを見なければなりません。

 

 

「手ぶらの男が石油ストーブのコーナーに入って行って、買い上げシールの貼ってない段ボール入りの石油ストーブを持って出てきた」

これを見ただけでは“棚取り現認”にはなりません。

 

その男が“陳列してある段ボール入りの石油ストーブの列”からそれを持ち上げるところを見ていなければなりません。

なぜなら、その石油ストーブは少し前に買って通路に置いてあったのかも知れないし、

その通路で奥さんの買った石油ストーブを受け取ったのかも知れないからです。

 

『そうでない可能性が少しでもあれば見送る』のが“誤認防止”のための鉄則です。

 

b.入れる現認

 

入れる現認には「入れたに違いない」や「入れたとしか考えられない」では不足です。

「入れたところ」を自分の目ではっきり見なければなりません。

 

電卓のコーナーで、男が電卓を棚から手に取ります。

通路で男が一回転します。

こちらを向いた時には男の手から電卓が消えていました。

付近に電卓は落ちていません。

男は棚から離れていたので電卓を戻したとは考えられません。

男は電卓をポケットかどこかに入れたに違いありません。また、そうとしか考えられません。

 

この場合も入れる現認不足です。当然見送りです。

 

「入れたところ」を見ない以上、「入れなかった」可能性があります。

「入れたに違いない」・「入れたとしか考えられない」という判断には自分の主観が入ります。

主観が入れば自分の思い込みが入ってしまいます。

思い込みは誤認の危険性を孕んでいます。

 

我々SPは「盗ったに違いない」、「盗ったとしか考えられない」から犯人を捕まえるのではありません。

「盗ったところを見た」から捕まえるのです。

 

「盗ったに違いない」、「盗ったとしか考えられない」と思われる場合には、ほとんど「盗って」います。

しかし、僅かだけれど「盗っていない」場合もあります。

その“僅かな場合”が怖いのです。

 

99%盗った」という判断では「1%の盗っていない場合」が発生します。

つまり、「99%盗った」で検挙すれば、100件の内1件が誤認となります。

 

しかし、その1件は99件の次に来るとは限りません。

10件の次に来るかも知れないし、今この場合がそれなのかも知れません。

 

誤認逮捕を避けるためには、「盗ったところを見た」のでない以上見送らなければなりません。

 

c.棚取り現認・入れる現認の要件

 

「商品棚から商品を手に取り、それをポケットやバッグや店内カゴに入れるところをしっかりと見た」と言えるためには次のことが分かっていなければなりません。

 

・どんな商品列の何段目の棚から取ったか

・どんな色の何という商品だったか

・どちらの手で取り、どちらの手でどこに入れたか

 

このくらい事細かに犯人の動作を見る余裕がなければ、しっかりと見ていないのです。

 

誤認事故のほとんどは“棚取り現認・入れる現認不足”が原因です。

これらが不確かであれば、後の作業をいかに完全にしても何の意味もありません。

 

d.中断なし

 

犯人が商品を手に持ったままだったり、店内カゴにいれたりして、商品が見えている場合は簡単です。

犯人を少しくらい見失っても、その商品が見えている限り大丈夫です。

声かけする時にその商品が確認できればOKです。

 

しかし、犯人が商品をポケットに入れたり、バッグに入れたりして商品が見えない場合は厄介です。

 

ポケットやバッグが見えなくなった時があれば、商品を捨てたり戻したりした可能性があります。

ポケットやバッグを常に視界に入れていなければなりません。

犯人が商品棚の陰になって見えなかった時があれば見送りです。

 

犯人がトイレに入った場合は、

その商品がトイレに流せるものでなく、さらに、犯人が入っていたトイレに商品が残っていなければ、犯人はまだ商品を持っていることになります。

しかし、SPは自分がトイレ内をチェックしている間は犯人を見ていません。

この時に商品を捨てたり戻されたりする可能性があります。

 

SPが二人いて、一人はトイレをチェックし、もう一人はトイレから出た犯人を監視する場合であれば別ですが、一人の場合は見送らなければなりません。

 

犯人が食堂に入ったり、やエレベーターに乗ったりした場合も同じです。

犯人を視界に入れておくためには、SPも食堂に入り、エレベーターに乗り込まなければなりません。

 

但し、商品が見えている場合はここでも、もっと簡単です。

犯人がトイレや食堂から出てきたり、エレベーターから降りてきたりした時に、その商品を持っていればOKです。

 

e.単品禁止の原則

 

「単品で挙げる」とは「犯人が商品を一つ盗った場合に検挙する」ことです。

 

SPは「単品で挙げる」ことを原則として禁じられています。

これを「単品禁止」とか「複数点主義」と言います。

 

単品禁止も誤認逮捕を防ぐためのものです。

 

一品でも「棚取り現認・入れる現認・中断なし」を完全にしていたら誤認はあり得ません。

 

しかし、「完全にやった」と思っていても、緊張から錯覚をすることがあるかも知れません。

まばたきした瞬間に商品を捨てられたかも知れません。

安全のために、もう一品について「棚取り現認・入れる現認・中断なし」をするのです。

 

「はめこみ」の危険も考えなければなりません。

 

「はめこみ」とは万引きを装って現行犯逮捕をさせ、誤認逮捕であったことをネタに金品を要求することです。

一品ではなく二品・三品を待てば、それだけ「はめこみ」の危険性が下がります。

 

但し、箱入りのストーブを担いでいくような場合は、はっきりしていますから単品でもOKでしょう。

もっとも、「はめこみ」の危険性は残ります。

しかし、「はめこみ」と「万引き」は雰囲気が違います。

『はめこみかも知れない』と注意していればまず大丈夫でしょう。

 

二品以上の棚取り現認・入れる現認・中断なし。

いよいよ、お待ちかねの“声かけ”です。

 

その前に、不審者の発見方法と監視について少し説明しましょう。

 

2】不審者の発見とその後の監視

 


a.「不審な行動をしている者を見つける」のではない

 

不審者を発見するには「不審な行動をしている者を見つけよう」と思ってはなりません。

そんな場面に出くわすのは稀だからです。

 

客の一人一人の行動を観察して「この客の行動は不審ではない」、「この客の行動は大丈夫」と一人一人を除外していって、「不審な行動をする客」に到達するのです。

 

不審者を見つけるためには、客を観察しなければなりません。

See(視界に入る) やlook(見る)ではなくて、watch(観察)をしなければならないのです。

 

たとえば、大きなバッグを持っている男を見かけます。

この男を観ていると20%引きの商品と値引きなしの商品のどちらを買おうか迷っています。

この時点でこの男はパスです。

盗る気なら迷わず値引きなしの商品を選ぶからです。

 

次に、子供を乗せたベビーカーに商品をたくさん積んでいる女性を見かけます。

しばらく観察していると、商品の中からバナナを売場に戻しました。

もう少し観ていると紙おむつのコーナーで割引券を取り出しました。

この時点でパスです。

盗る気なら商品を戻したりしないし、割引券も必要ないからです。

 

このように出会った客を“取捨選択”していって“不審者”に到達するのです。

 

b.フィルターをかける。

 

しかし、出会う客すべてをいちいち観察して取捨選択していたのでは大変です。

あらかじめ大雑把な選別をしておく必要があります。

出会う客に“怪しいフィルター”をかけるのです。

 

このフィルターは経験を積めば積むほど精密なものになってきます。

フィルターが精密なものになれば少しの労力で不審者・万引き犯を見つけることができます。

 

初心者は先ず次のようなフィルターをかけることから始めてください。

つまり、次のような者の行動を観察するのです。

 

大きな黒いバッグを持っている。(黒い大きなバッグは万引き犯の定番)

バッグのチャックが開いている。(商品を入れる準備ができている)

バッグを左に掛けている。左に掛け替えた。(右利きであれば商品が入れやすくなる)

バッグをカートに引っかけている。(商品をバッグに入れやすい。)

店内カゴにレジ袋や生物用のポリ袋を入れて売場に入る。(この袋に入れて出ていく)

シワの寄ったレジ袋に何か入っている。(もう盗ってきました)

※最近では「ノーレジ袋・マイバック」ですからその点を差し引きましょう。

 

店内カゴに、レジ袋に詰めた商品を入れている。(買い物忘れ?安いものを買って高いものを盗っていくの?)

商品をカートに満載している。(このまま一気にダッシュ)

商品をドンドン入れる。(盗るのだから迷いません)

米10㎏袋を二袋以上カート下段に載せている。(普通、二袋は必要ない)

独り言を言ったり、店員に話しかけたりする。(自分の盗る気を悟られまいとしている)

売場でわざとらしくケイタイをかける。(これも盗る気を悟られまいとしている)

売場に入る前に財布を見えるように持っている。(これもカモフラージュ)

手に取ったアイライナー等をパタパタしている。ヘアブリーチを放り投げたりしている。(カモフラージュ)

何度も売場に来る。(盗ることを迷っている。)

何度も同じ商品の所に来る。(その商品を盗るチャンスを伺っている。)

我々SPと目が合う。(やましい証拠)

怖い顔をしている。(万引き犯は真剣)

サンダルや汚い靴を履いている。(靴売場で新しい靴に履き替えていく)

いやに薄着である。(上着を着ていく)

カートに紙おむつやトイレットペーバーを積んでいる。(これを陰にして自分の袋に商品を詰める)

通路でやたらと店内カゴの商品を整理している。(必要な物とそうでない物を選別している)

食品パック等を縦に詰めている。(たくさん詰められる。)

同じサイズ・色の服を試着室に持ち込む。(一方を盗って一方を戻す)

 

代表的なものです。

公にはできないものもあります。

先輩に教わってください。

 

しかし、最後は自分の目で確かめて、自分のフィルターを作らなければなりません。

このフィルターは何度も試行錯誤を繰り返して自分の中に作り上げていくものです。

それが“勘”になっていくのです。

 

c.手口を知る

 

客の行動を観察し、「不審行動かそうでないか」を判断するためには万引き犯の手口が参考になります。

 

古典的な手口です。

 

カート上のカゴに商品を満載して、そのままカートを押して売場を出て行く。(カゴ抜け)

カート上のカゴに商品を入れ、その上にティッシュ、レジ袋、上着、バッグを載せて売場を出て行く。(何かを載せたいらしい)

紙おむつの通路で持参のレジ袋に商品を詰める。(仕事場・蟻地獄)

カートに米やビール箱をたくさん積んで、エレベーターに乗る。(流行っています)

カートに吊るしたバッグにカートに載せた商品を通路で詰める。(食品)

左肩に掛けた黒いバッグに、左腕に通した店内カゴから右手で商品を詰める。(あっ、こうやるのか)

カート上段のカゴから下段のマイバッグやマイバスケットに商品を移す。(食品)

ポケットからレジ袋を取り出して、商品を入れる。(食品・少額)

缶コーヒーや弁当をバッグや帽子の下に隠して持っていく。(食品・単品)

清酒ワンカップを素早く手に取ってボケットに入れていく。(食品・単品)

一人が数点レジを済ませ売場に入り、もう一人の持っている商品を袋に入れる。(食品・常習)

割引シールを他の商品に貼る。(食品・値札替え)

箱入り炊飯ジャーをそのまま持っていく。(チョット失敬!)

エァコンの室内機と室外機をカートに載せて持っていく。(堂々としていれば)

ビデオカメラの防犯タグを無効にして短時間で盗っていく。(セミプロ)

展示してある液晶テレビをカートに載せて持っていく。(セミプロ)

新しい靴に履き替えていく。(古い靴は丁寧に箱に入れて置いていく)

展示してあるバッグをそのまま提げていく。そのバッグに他の売場で商品を詰める。(現地調達)

帽子をかぶっていく。上着を着ていく。セーターや下着を着込んでいく。

店員の使っているノートパソコンを持っていく。

化粧品やアクセサリーを袖に入れる。(ズーム防犯カメラでしっかり見えてます)

展示してあるマスカラ・口紅を通り過ぎざま一つ持っていく。(堂々としてアッパレ)

バッグに60点・20万円分の下着を詰めていく。さらに車には膨らんだバックが二つ。

大きなラジコンの箱を二人が一つずつ持って、エスカレーターで3F立駐に出て持っていく。

グループでやって来て、2Fでランジェリー50万円分、1Fで化粧品50万円分を盗っていく。(プロ・窃盗団)

 

d.不審だと思った者は徹底的に尾行する

 

一旦、不審だと思った者に対しては、徹底的に店外するまで尾行・監視をしましょう。

 

その者がレジに並んだからと監視を止めてはなりません。

レジに並ぶ素振りを見せて、SPを安心させてレジ抜けする場合もあります。

 

最後まで尾行して、その者が万引き犯でなかった場合は、なぜそうでなかったのかを考えましょう。

「そう言えば、商品を取るテンボが遅かった」とか「廉価商品を選んだ」等々。

 

そして、それを不審者発見の資料として蓄積しましょう。

それらの資料によって、不審者発見の基準がより正確なものになっていきます。

 

現認不足で見送る場合にも、徹底的に尾行しましょう。

犯人の店外経路や車を停めている場所を知るだけでも次の参考になります。

 

e.クレームを出してはならない

 

露骨な尾行・監視に対しては必ずクレームが来ます。

 

クレームは正常な客からだけでなく万引き犯からも来ます。

 

店はクレームに対して敏感です。

店はクレームが来ればとにかく謝り、頭を下げます。

そして、そのツケは我々SPに回ってきます。

 

不法駐車のヤンキー娘にやさしく注意したり、置き引き警戒で置き引き容疑者を監視したりしただけで、彼らから匿名のクレーム電話が入ります。

これらに対し店は謝罪し、SPに『もっと穏便にやれないのか!』とお叱りが来ます。

クレームがあれば、それだけSPの店に対する信頼が無くなっていきます。

店の信頼が無くなれば、少しのミスで“お役御免”になってしまいます。

 

不審者に対する尾行・監視はクレームが出ないように密やかに行わなければなりません。

「売場の中から他の売場を観る・遠くから観る・現認するには近づいて隠れて観る」のが鉄則です。

 

通路から売場を睨み付けるようなことをしたら、即クレームが来ます。

 

f.時間はある。もう少し待て!じっと我慢して店外に出せ

 

えっ?「早く“声かけ”に進んで下さい。僕は“声かけ”をやりたくて仕方がないのです。」ですって?

まあ、まあ、声かけの前にもう一つすることがあるのです。

それは「あと少し待つ」ことです。

 

若い二人組の男が家電売場にやって来た。

一人がカートを持ってきて売場の棚から、結束してあるヒモを切ってコンポの箱を載せた。

そして辺りを伺いながら慎重に出口に近づいていく。

 

もう一人は離れた所から店員の動きを観ている。

昨日も若い二人組にコンポを盗られたと言う。「コイツらだ!」

 

カートを押した男は南出口のドアの前に立った。

ドアが開いて男は風除室に入った。

 

もう一人の男が、本屋で監視している私の方に近づいてきた。

 

私は風除室の男めがけて走っていた。

男はびっくりして固まっていた。

 

『オイッ!チョット待ってくれるか!』

男は『お母さんに、「この店でコンポを買ったので持ってきてほしい」と頼まれた。』と見え透いた言い訳。

 

『とにかく保安室に来いや!』と男を引っ張って来る。

 

しかし、したたかな常習犯は簡単に自供しない。

男は店の外に出ていないのである。窃盗故意を立証することはできない。

警察官を呼んでも男の言い訳が通ってしまう。男はそれを知っている。

男に一筆書かせて、後々の紛争を避け商品を売場に戻すのが精一杯である。

 

「なぜ、風除室の二番目のドアが開いて男が店の外に出るまで待てなかったのか!」

「距離にして3~4m。時間にして1~2分。なぜ、待てなかったのか!」

 

一人前のSPはこんな経験を何度かしているはずです。

 

常習犯は店外するのに慎重です。

出口の前や風除室の中で立ち止まったり、出口を出たところで立ち止まったりします。

 

この時に尾行を気づかれると、商品をその場に置いていったり、売場に戻って商品を戻したりします。

 

犯人と商品を押さえることができても、店外10mに達していないから犯人の言い訳が通ってしまいます。

犯人が『俺を万引扱いした。』とごねればそれが通ってしまいます。

 

最後の最後にバラしてしまわないために、「あと少し待つ」ことが必要です。

 

高ぶるアドレナリンを抑え、走り出しそうな脚をグッと踏ん張って我慢しましょう。

そして、自分に言い聞かせましょう。

『店を出てからでも充分間に合う。

  犯人は店の外に出て、カートを自分の車の所に押していき、車のドアかトランクを開けて商品を積み込む。

  それまでには充分時間がある。』と。

 

万引き犯を店外させることは魚釣りの“合わせる”ことにあたります。

 

「商品をバッグに入れたり、カートに載せたりして出口の所まで来た」だけでは“餌をつついている”段階に過ぎません。

ウキはピクピクと動いていますが、ここで合わせても針が魚の口に引っかかりません。

 

ウキの動きを観て合わせのタイミングを待ちます。

『犯人が風除室から出た。まだまだ…。イチ、ニッ、サン…。今だっ!』思いっきり竿をしゃくります。

犯人の口には針がしっかりと食い込んでいます。

もうどんな言い訳も通りません。

 

この“最後の待ち・合わせ”を冷静に確実にやれるようになるためには、何度も失敗して逃がしてしまう経験を積むことが必要です。

場数を踏めばどんな大きな魚に対してでも正確に合わせることができるようになります。

それまでは、何度も落ち込んで自己嫌悪に陥ることを覚悟しましょう。

 


3】店外10mでの“声かけ”

 

お待たせしました。さあ、いよいよ“声かけ”です。

 

“声かけ”は“店外10m”ですることは誰でも知っています。

しかし、「なぜ店外10mなのか」を知っている人は多くありません。

判例にもないし、関係省庁の指導・通達にもありません。

なぜなのでしょうか?

 

a.窃盗罪の着手時期と既遂時期

 

ショッピングセンターでの窃盗罪の開始(実行の着手)は「商品を棚から手に取った時」、

窃盗罪の完成(既遂時期)は「その商品をポケットやバッグに入れた時」、

又は、「商品の清算をするべきフロアつまりその店のゾーンから出た時」です。

 

現行犯人とは「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者」ですから、

その現行犯人を現行犯逮捕する始まりとしての“声かけ”は、

「犯人が商品を棚から手に取った時」、「商品をポケットやバッグに入れた時」、「犯人がその店のゾーンから出た時」にできるはずです。

 

なぜ、声かけを“店外10m”まで待たねばならないのでしょうか?

 

b.窃盗故意の立証

 

窃盗罪の成立には犯人の窃盗故意が必要です。

犯人に“盗る気”がなければ窃盗罪は成立しません。

 

そして、この窃盗故意は立証できなければなりません。

 

「疑わしきは被告人の利益による」というのが近代刑事訴訟の鉄則です。

犯人に言い訳ができる余地があれば、その言い訳が通ってしまいます。

 

ショッピングセンターでは客が自由に商品を手に取って、それをレジに持っていき代金を支払うというシステムを採っています。

客は商品を店内カゴに入れて持っていく必要はありません。

それをポケットに入れて持っていこうと自分のバッグに入れて持っていこうと自由です。

 

犯人に“盗る気”があったとしても、商品を手に取ったり、ポケットやバッグに入れたりしただけでは、“盗る気”は立証できません。

犯人は『今からレジで支払おうと思っていた』と言い訳するからです。

 

それでは犯人がその店のゾーンを出た場合はどうでしょう?

 

犯人はこう言い訳します。

『えっ、もうここはあの店じゃないの?』

『あの店を出たことは知っていたが、あの店の商品はショッピングセンターの中ならどこでも清算できるのでしょう?

  だって一つの建物じゃない!』

 

犯人にこんな言い訳をさせないために、建物外10mまで待つのです。

 

c.“店外10m”原則は絶対的なものではない

 

店外10m原則は法令に定められているものでも判例で認められたものでもありません。

警備会社が過去の経験から作り上げた原則に過ぎません。

場合によってはこの原則を厳しくしたり、緩和したりする必要があります。

 

(常習犯にはもう少し待つ)

 

常習犯はしたたかです。店外10mで声かけしても言い訳をします。

『外の空気を吸いにきたンだ。』

『車で待っている女房にこのセーターが似合うかどうか聞きにきたンだ。』

『車の中に財布を忘れたので取りにきたンだ。』等々。

 

そして、こんな言い訳が通ってしまうのです。

常習犯には「店外10mを過ぎて商品を車に積み込むところ」まで待たなければならないでしょう。

 

(パッケージを破って捨てた場合は緩める)

 

店外10m原則はショッピングセンター特有の代金清算システムから生じたものです。

だから、その代金清算システムを働かさないようにした場合はこの原則による必要はありません。

 

パッケージから商品を取り出して、そのパッケージを捨てた場合は、その商品の代金を清算することができません。

このような場合には、パッケージを捨てた時点で犯人の窃盗故意が充分立証できます。

犯人がそのままその店のゾーンを出たら、完全に窃盗故意が立証できます。

この場合は犯人がその店のゾーンを出たら声かけしてもいいということになります。

 

犯人が商品の値札を外して捨てた場合も同様です。

 

しかし、パッケージを破ったり、値札を外したりしても、そのパッケージや値札を持っている場合つまり捨てない場合は違います。

まだ商品の清算ができるからです。

試着室で商品を着込んだ場合も同様です。

食品売場でコロッケのパックを破ってコロッケを食べたり、清涼飲料のふたを開けて飲んだりした場合も同様です。

そのコロッケの入っていたパックや清涼飲料のビンを持っている限り、それらの代金清算は可能だからです。

 

“法律編”で述べたように、現行犯逮捕は犯行の場所から遠く離れたり、犯行の時から時間がたったりしては“違法逮捕”になることがあります。

また、犯人が建物外に出るまで何時間も見失わないように尾行するのは大変な労力が要るだけでなく、その間は売場が無防備になってしまいます。

 

これらの点から、店外10m原則を緩和できる場合は緩和していくことが必要です。

 


4】検挙

 


  a.SPには検挙と見送りの二つしかない。その中間はない。

 

現認不足や中断で万引き犯を見送るのは悔しいものです。

 

しかし、それは自分の力不足が原因なのです。

 

“いかさま”も見破られなければ“いかさま”ではありません。それは“技術”なのです。

 

現認不足で見送る時は、潔く自分の力不足を認めましょう。

そして、次の機会を待ちましょう。

 

悔しさから、当てつけに万引き犯を露骨に追い回したり、「盗っただろう。分かっているンだぞ。」という仕種をしたりしても何の利益にもなりません。

こちらの顔を知られて次回の検挙が不利になるばかりか、万引き犯からクレームが来ることにもなります。

 

我々SPは万引き犯を確実に倒せる“検挙”という鉄砲を持っていますが、弾は一発しか入っていません。

この一発で相手を完全に仕留めなければならないのです。

撃ち損じや半矢はクレームとなります。

 

また、相手に鉄砲を向けて威嚇することもしてはなりません。

威嚇だけでは何の成果もないばかりか、クレームという反撃が待っています。

 

SPが万引き犯の前に立つのは検挙の時だけです。

“検挙しない・できない時”はスッパリと諦めて“次”を待ちましょう。

 

b.“声かけ”したらとにかく保安室へ連れてくる。

 

HBCで女子高生が化粧品のパッケージを破って中身を取り出していた。

とっさに『そんなことをしては駄目じゃない!』と声かけしてしまった。

その女子高生は『すいません。買いますから…。』と素直に謝って支払いをしていった。

 

食品で男子高校生が清涼飲料水のボトルをバッグに入れたようである。

現認不足で見送らなければならないのがシャクで、露骨に尾行してその高校生にプレッシャーをかけた。

高校生は『すいません戻しますから…。』と商品を元の所に戻した。

SPは『もう、こんなことをするなよ!今度は捕まえるぞ!』と高校生に諭して勘弁してやった。

 

こんな中途半端なことをしてはいけません。

彼らは盗れなかった腹いせに、また、店から学校や親に言いつけられるのを恐れて、

『今日、あの店で万引き扱いされた。』と親に話します。

 

親が怒って店に文句を言ってきます。

『子供が店の保安係に万引き扱いをされた。どうしてくれる!』

 

さあ、あなたはどう反論しますか?

 

犯人の自筆の署名もない、店側の立会人もいない。具体的な商品のリストもない。

これでは、『このような状況だった。だから、私は客を万引き扱いしたのではない。』と親や店を納得させることができません。

 

声かけをしたら、必ずその相手を保安室まで連れてこなければなりません。

そして店の人間に立ち会わせて、商品リスト(集計表)を作り、集計表に犯人の『以上に相違ありません。』との署名を取っておきましょう。

これがあれば、文句を言ってきた親や、クレームに対して敏感な店を納得させることができます。

 

c.検挙に不安はつきもの。「挙げよう。」と思ったら思い切って行く。

 

二品以上の着手・現認・注視OK。

犯人が店外した。

『さあ、声かけだ!』

 

誰でもここで“不安”が生じます。

 

『バッグに入れたハンドクリームとマスカラは、絶対に捨てられていない。

  でも…、捨てたかも知れない。

  入れるところを見たけれど錯覚じゃなかっただろうか?

  あのバッグの中を覗いてみたい。いっそのこと倒れる振りをしてあのバッグの中身をばらまかせてやろうか…。

  声かけしてバッグから商品が出てこなかったらどうしよう…。

  今回は見送って、次にしようかな…。

  もう一点盗ってくれないかな…。

  あっ、エレベーターに乗ってしまう。どうしよう…。』

 

検挙時の不安は次から次へと出てきます。

しかし、三点・四点目を待ったり、次の機会を待ったりしても、また同じ不安が出てきます。

 

「二品の着手・現認・注視OK」なら誤認することはまずありません。

 

検挙要件が少しでも欠けていれば、潔くさっぱりと見送り。

検挙要件が揃っていれば、迷わず検挙です。

 

思い切って声かけしてください。

 

d.“声かけ”したら、言い訳する・ごねる・逃げる。だから、SPはガツンとかます。

 

(言い訳する・ごねる・逃げる)

 

店外10mで声かけ、

『店の保安係なンだけど…。まだお金を払っていない商品があるよネ?』

 

素直に『すいません、盗りました。』と自供するのは小学生だけです。

ほとんど、次のように反応します。

 

『財布を忘れたので車に取りにきたンですよ。もちろん、今から支払います。』と、言い訳する。

 

『えっ?私はこんな商品は知りません。これは子供がカートに載せたものです。すいません、お返しします。』と、とぼける。

 

『このビールは別の店で買ったンや!』・『万引きなんかしとらへん!』と、かたくなに否認する。

 

『お前、俺が万引きしたとでも言いたいンか!俺はチョットたばこを吸いに来ただけじゃ!

  俺を万引き扱いしてただでは済まんぜぇ!落とし前はキッチリつけてもらうさかいな!』と、居直る。

 

『こんな“あや”を付けられた商品なんかいらんワィ!』・『返せば文句はないンでしょう!』と、商品を置いて立ち去ろうとする。

 

若い男のほとんどは、声かけした瞬間に商品をその場に捨てて一目散に逃げていく。

保安室への同行途中でも隙があればダッシュで逃げていく。

 

(何としても保安室へ連れてくる)

 

ここで退いてはいけません。

 

「商品さえ取り戻せばいいか…」と自分に言い訳し、

『今度からこんな紛らわしいことはしないで下さいね!』等と説教して代金を支払わせたり、商品を返してもらったりしてはいけません。

 

万引き犯も代金を支払ったら“お客”になります。

今までのしおらしさはどこへやら、『保安係が泥棒扱いをした!』と手のひらを返して反撃してきます。

 

居直った万引き犯はこちらが弱気を見せたら『どうしてくれる!店長を出せ!』と噛みついてきます。

 

商品を返した万引き犯や商品を置いて立ち去った万引き犯は、見つかった悔しさで匿名のクレーム電話を入れてきます。

 

万引き犯に声かけをした以上、必ず相手に「万引きしたこと」を認めさせなければなりません。

そして、保安室まで同行させて、店側の立会人を立てて書類を作らねばなりません。

それらができなかった場合は相手にポイントを取られてしまいます。

どうかすると相手にKOされてしまうことになります。

 

(まず、ガツンとかます)

 

素直に認めない万引き犯にはガツンとかますことが必要です。

 

『何を言っとるンや!ここまで来たらもう言い逃れはできへんのや!

  そんな言い訳が通るとでも思っとるンか!こっちはプロなンじゃ!なめとったら痛い目にあうぜぇ!』

 

『なんやったら、ここへパトカーを呼んで連れて行かしたろかぁ~!

  それまで、力ずくでお前をここに止めておくからな!窃盗罪の現行犯逮捕やからそれができるンじゃ!

  皆が見ていくぞ。知り合いが居たら格好悪いンとちゃうか!

  保安室へ来た方が身のためやゾ!』

 

『商品を返してそれで済むとでも思っとるンか!

  お前は、窃盗罪で現行犯逮捕されとるンやゾ!分かったか!このボケがぁ~!』

 

『オイ!逃げたら罪が重くなるのを知っとるな!』

 

『オット!抵抗したら強盗罪になるぜぇ~!強盗罪は最低でも5年の懲役だぜ!』

 

少々、荒っぽいことを言っても構いません。言葉は後に残りませんから。

とにかく、一発かまして相手の出鼻をくじきましょう。そして、相手の腰をひかせましょう。

 

迫力・演技力が必要です。日頃から場面を想定して練習をしておきましょう。

 

(次に、なだめる・安心させる)

 

声かけをされた万引き犯は恐がっているのです。

犬が牙を剥いて吠えるのは“恐怖の仕種”なのです。

 

ガツンとかまして、出鼻をくじいた後はやさしくなだめて安心させ、恐怖心を取り除いてやりましょう。

 

たとえば、

 

『あなたに言い分があるのは分かりました。それを保安室でゆっくりと伺いましょう。』

 

『私はこの店の人間で警察官じゃありません。私は商品さえ戻してもらえばそれでいいのです。』

 

『このままあなたを帰すわけにはいかないンですよ。こちらにはこちらの手続きがありますから。

  まあ、そんなに時間はかかりません。一応の書類を作るだけですから。』

 

『こっちも忙しくてねぇ。こんな少額の万引きに時間をそんなに使えないンですよぉ。

  手続きだけですからパッパとやってしまいましょうよ。』

 

こう安心させておいて、警察渡しにしても構いません。

『警察渡しにはしない。』等とは一言も言っていませんからネ。

 

(洗脳する・観念させる・自供させる)

 

万引き犯に『盗りました。』と自供させれば、万引き犯は観念して素直になります。

落とせば事後の手続きがスムーズに運びます。

 

かまして、なだめて、安心させれば、ほとんどの万引き犯は“盗ったこと”認めます。

 

同行途中に少しずつ“洗脳”しておきましょう。

 

『とにかく、素直にやってくださいよ。

  嘘をついたり、変な言い訳をしたりすると余計にややこしくなりますからネ。警官の心証を悪くしてしまいますよ。』

 

『素直に協力してくれたら、それで済みますから…。』

 

これで、万引き犯は完全に観念してしまいます。後はあなたのなすがままです。

 

(逃げたら追うな)

 

万引き犯が逃げた場合、これを追いかけてはいけません。

相手が逃げたら本能的に追いかけてしまいますが、追いかけてはいけません。

もっとも、必死で逃げる相手に追いつける筈がありませんが…。

 

法律的には現行犯逮捕する場合、逃げた相手を追いかけて捕まえることは“逮捕の内容”として認められています。

 

しかし、犯人を追いかけている途中に、犯人が転んだり、車にぶつかったりして怪我をした場合、

また、他の客にぶつかって怪我をさせたりした場合、SPの行き過ぎが問題となります。

 

SPに行き過ぎがあれば、SPの使用者である店の責任が問われます。

 

SPや店の責任が問われなかったとしても、そんなことが問題になったことだけで店のイメージに傷がつきます。

 

又、この様な事件はマスコミが面白がって取り上げます。

マスコミに取り上げられたら真実が何であれ、店のイメージ低下は避けられません。

イメージ低下による店の損失は莫大なものになります。

 

『そんなリスクを負ってまで、万引き犯を捕まえて欲しくはない。』

これが店の考えです。

 

だから、逃げたら絶対に追ってはなりません。

 

しかし、商品は取り返さなければなりません。

 

そのためには、声かけする時に商品の入っているバッグやレジ袋を掴んでしまうことです。

そうすれば、犯人を逃がしても商品だけは取り返せます。

 

e.捕捉後の処置は全て任意

 

SPは一般人です。権限を持った警察官ではありません。

 

SPのできることは万引き犯を現行犯逮捕して警察に引き渡すことだけです。

 

それ以外のことは全て犯人の任意(自由意思)でやらなければなりません。

犯人が拒否すれば、無理やりやらせることはできません。

無理やりやらせたら、こちらが強要罪や逮捕監禁罪に問われてしまいます。

 

しかし、“強制”しなければいいのです。

「犯人の許可があったり、犯人自らがそれをしたりする」のであれば問題は起こりません。

 

“お願い”してみましょう。『○○をしてくれるか?』とか『○○をするぞ、ええな?』と。

 

(車の中も調べてしまえ!)

 

捕捉するのは、犯人が自分の車のドアを開けて商品を積み始めるまで待ちましょう。

 

車の中に、万引きした商品が載せてあるかも知れないからです。

 

そして、“お願い”してみましょう。

『車のトランクを開けてくれる?』

 

トランクや車の中に膨らんだバッグや袋を見つけたら、続けて“お願い”しましょう。

『この袋に入っているものは何?袋の中を見せてくれる?』

 

ついでに、『チョット、ダッシュボートを開けてくれるかな?』とお願いして、ダッシュボードの中も点検しましょう。

ナイフなんか出てきたら銃刀法違反も追加できます。

警察官は喜んで飛んできます。

 

怪しい商品が出てきたら、これまた“お願い”しましょう。

『この商品も保安室へ持ってきてもらうよ。いいね?』と。

 

そして、『警察官も同じことをするからね。』とだめ押ししておきましょう。

 

(免許証や学生証も預かりましょう。これでもう逃げません。)

 

『免許証か学生証を持ってる?チョット見せてくれるかな?』

と身分証明書の提示を“お願い”しましょう。

 

そして、『チョット預からせてもらうよ。いいね?』と“お願い”して取り上げてしまいましょう。

 

これで、犯人は逃げられません。身元が割れてしまったからです。

 

身分証明書等が入っているだろうバッグを預からせてもらうのも“手”です。

 

(保安室への同行)

 

保安室へ連れてくるのは、強制的な“連行”ではなく、犯人の自由意思による“同行”です。

 

犯人の腕を掴んだり、衣服を掴んだりしてはいけません。こうすると“連行”になってしまいます。

 

しかし、店の商品の入っているバッグや衣服を掴むのは構わないでしょう。

 

また、『チョット持たせて貰うよ。いいね?』と“お願い”すれば、腕や衣服を掴んでも許されるでしょう。

 

同行させる時は、犯人を先に歩かせて、斜め後ろを歩きましょう。

そして、犯人が逃げ出す時に備えましょう。

 

もちろん、犯人が逃げたら実力を行使して捕まえることができます。

一度逃げた場合は、逃げる可能性ありという理由で、犯人の腕を掴んだり、衣服を持ったりすることは、現行犯逮捕の内容として認められるでしょう。

 

(持ち物は全て調べましょう。)

 

保安室へ着いたら、犯人の持ち物を全部調べましょう。

もちろん“お願い”して。

『その鞄の中身を全部出してくれる?』

 

SPが鞄の中身を出してはいけません。

後で、『保安係が勝手に鞄の中身を調べた。』と言われるからです。

犯人に出させましょう。

 

財布が出てきたら、

『その財布の中身を見せてくれる?』と“お願い”して財布の中身を調べましょう。

入っているお金が少なく、万引きした商品を買える額でない時は、窃盗故意があったことの証拠になります。

 

ボケットの中も調べましょう。

万引きした商品やナイフが出てくるかもしれません。

 

(怪しい物が出てきたら取り上げましょう。)

 

万引きしたらしい商品やナイフ等の凶器が出てきたら、取り上げましょう。

 

もちろん、『これはチョット預からせてもらうよ!いいね?』と“お願い”しなければなりません。

 

(住所・氏名等を書かせましょう。)

 

集計表に犯人の氏名や住所等を書かせるのも任意です。強制はできません。

 

だから、書かせる時も“お願い”しなければなりません。

『ここに、名前と住所等を書いてくれるかな?』と。

 

集計表に犯人が自筆で氏名等を書いたことが、万引きを自供した証拠になります。

もちろん、書くことを拒む者を強制することはできません。

 

(“お願い”をきかない犯人に対しては。)

 

したたかな常習犯は我々の“お願い”を断ります。

 

『何でそんなことをしなければならないの!あなたたちはそんなことを強制できないでしょッ!』

 

こんな“偉そう”な奴には、静かにこう言いましょう。

 

『よく知っているじゃないですか。そうです、強制はできませんよねぇ。いいですよ。しなくても…。

  でもね、逮捕後の態度が悪かったということで警察官や検察官の心証を悪くしても知りませんよ。

  私達は警察や検察にこの事件についての供述調書を取られるんです。そこで、あなたと逮捕後の言動を聞かれます。

  警察官や検察官の心証を悪くすると、送検されないものが送検になったり、起訴猶予が起訴になったりしますよ。

  悪くすると実刑を喰らうかも知れませんよ。

  窃盗罪は1カ月~10年の懲役ですよ。

  おとなしくやってくれた方があなたのためになると思いますがねぇ…。

  まあ、私はどちらでも構いませんが…。』

 

これで相手はおとなしくなり、こちらの“お願い”をきいてくれます。

 


5】保安室での手続き

 


a.手順

 

次のような手順で処理します。(実際には順番が前後することがあります。)

 

①鞄・持ち物・所持品の検査(任意)

 

『免許証か何かありますか?』と身分証明書を出させて、

『チョット預からせてもらいますよ。いいですね?』と取り上げておく。

 

これで、犯人の氏名等が本当かどうかチェックする。

 

②盗ったらしい商品が出てきたら、強く問い質して“盗ったこと”を白状させる。

 

“盗ったこと”を否認する者にはこう言いましょう。

 

『あなたネェ…。素直にやってもらわないと警察官や検察官の心証を悪くすると言ったでしょうッ!

 なんなら、商品のバーコードを調べましょうか!

 支払っているものか支払ってないものかは直ぐに分かりますよ!』と“かまし”ましょう。

 

盗ったことをすんなりと白状しますから。

ちなみにバーコードを調べても支払ったかどうかは分かりません。これは内緒です。

 

③商品を机の上に並べて、改めて『この商品はどうしたのですか?』と尋ね、“盗った”ことを確実に自供させる。

 

ここで否認する者はいません。

 

④集計表の「犯人氏名等」の欄に、氏名・生年月日・住所・勤務先等を書いてもらう。

 

  書くのを拒む者には書かせなくてもいい。

 

⑤総務課長・副店長・売り場マネージャーに連絡して保安室に来てもらう。

 

※店長に連絡するのはいけない。万引き程度の事案を店長に持ち込んではいけない。

 

『保安係です。いま×××(決められた万引き名称)を確保して保安室へ来てもらっています。保安室までお願いします。』

 

犯人が女性の場合は、処理手続きの間、SP以外の女性に居てもらわなければならないので、その旨も連絡する。

『×××が女性なので、誰か女性の立会人をお願いします。』

 

⑥立会人に犯人と商品を見せ、状況を簡単に説明して、警察送りかどうかを尋ねる。

 

犯人が常習であったり、質の悪い者だったりして、

SPが「犯人を警察送りにした方が良い」と考える時はあらかじめ立会人にその旨を告げておく。

 

改めて犯人の前で処分を尋ねる。

『どうされます?いつも通りに警察送りにしますか?』

『いつも通りでお願いします。』

『分かりました。』

 

⑦立会人に被害商品の処理方法を尋ねる。

 

  被害品の処理方法には、買上げ、売場戻し、廃棄がある。

 

買上げとは犯人が商品を買い取ること。

売場戻しとは商品をそのまま売場に戻すこと。

廃棄とは店の負担で商品を捨ててしまうこと。

 

「一旦棚から取り出した生物は売場に戻さない。」のが店の方針。

 

だから、生物については買上げが原則となる。

汚したり、着たりした衣服等も売り物にならないので買上げとなる。

パッケージを破った場合も、中身だけでは売り物にならないので買上げとなる。

犯人に経済力が無くて、買上げをすることができない場合は廃棄となる。

これら以外はたいてい売場戻しとなる。

 

“買上げ”は店が犯人に強制できるものではありません。

 

商品の鮮度が落ちたり、汚れて商品の価値が落ちたりした場合、店はそれだけの損害を犯人に与えられたことになります。

 

その損害に対する賠償を犯人が拒んだ場合、店は犯人を相手取って“不法行為による損害賠償請求”を裁判所に訴えます。

 

そして、裁判で「犯人がその損害を与えたこと・その損害額がこれだけになったこと」を店が証明した場合にだけ、

店の主張が認められ、犯人に「その損害額を賠償しなさい。」という判決が出ます。

 

ここで初めて店は損害を犯人に支払わせることができるのです。

 

SPはこのことをしっかりと認識していなければなりません。

 

SPが買上げを迫ったり、立て替えたりして買上げに介入してはなりません。

買上げはあくまで店と犯人の間の問題なのですから。

 

立会人にはここで帰ってしまう。

但し、犯人が女性の場合は女性の立会人にずっと居てもらいます。

 

⑧警察へ連絡する

 

被害商品の点数と合計額を大雑把に算出する。

 

犯人が未成年者の場合は被害総額5000円以上、成年者の場合は被害総額10000円以上で“通常の事件”として扱われる。

5000円未満・10000円未満の万引きは“微罪”となり“通常の事件”にならない。

 

微罪なら、警官は犯人にお灸を据えて帰せばいい。

通常の事件ならたくさんの書類を作らなければならない。

警察はこの点を知りたがるので、大体の合計額が必要となる。

 

また、犯人の前歴を調べるために、犯人の氏名・住所・生年月日が必要となる。

警察へ連絡する時は、犯人の氏名等が書いてある集計表を用意する。

犯人が黙秘している場合は、その旨を告げる。

さらに、警察はこちらの電話番号を尋ねてくる。これも直ぐに言えるようにメモしておく。

 

『○○警察署ですか?私は○○店の保安係の○○です。万引き犯を捕まえましたのでお願いします。』

警察が犯人の氏名・住所・生年月日・被害点数・金額を尋ねてくるからこれに答える。

 

この“警察連絡”が“犯人の警察引き渡し”となる。

“声かけ・捕捉”からこの“引き渡し”迄を1時間以内で終わらなければならない。

犯人を保安室へ連れてきてから警察連絡まで大体40分位がリミットである。

 

これ以上時間がかかると、「“任意”の域を越えている。」と判断されて、不法逮捕・監禁になってしまう。

 

警察連絡後、警察官到着までに時間がかかってもそれは構わない。

 

⑨商品のスキャン・値段調べ

 

商品リストを作るために商品の売価が必要である。

 

被害商品を売場か事務所に持ち込んで“スキャンテスト”をしてもらう。

 

レジスターから出てくるレシートを各商品にテープで貼り付けておくと後の処理が楽になる。

スキャンは総務に持ち込むのがベストである。

売場に持っていくと、忙しいので嫌がられる。快く応じてくれてもお客が優先されるので時間がかかってしまう。

 

商品は警察官が到着するまで、留めておかなければならない。それが証拠品だからである。

売場に戻してはいけない。

 

⑩集計表・顛末書の作成

 

集計表とは被害者氏名等、被害の日時等、犯人の氏名等、被害品目・金額を書いたリストである。

この集計表を参考にして警察官が正式な被害届を作成する。

 

顛末書とは『こんな事がありました。状況はこうでした。』と事件の顛末(様子)を書いたものである。

簡単な供述書である。

 

集計表作成には時間がかかる。

警察官は忙しいから待たされるのを嫌がる。

警察官が到着し、犯人からの聴取が終わっても作成できない時は、『後で FAXで送る。』ことを警察官に了解してもらう。

 

集計表も顛末書も刑事手続上の正式な文書ではない。

 

集計表はあくまで“被害届作成”の資料に過ぎず、顛末書も正式な“供述書”ではない。

起訴ともなれば、警察官がやって来て正式な供述書を取ったり、検察庁に呼ばれて供述書を取られたりする。

 

だから、集計表と顛末書の作成に余り神経を使う必要はない。

『顛末書の誤字・脱字の訂正は許されない。誤字・脱字の時は初めから書き直さなければならない。』と指導するSPもいるが、

そんなに神経を使うほどの書類ではない。

 

⑪被害商品の処理

 

買上げの場合は、商品をレジに持っていき支払いを済ませる。

この手続きは店の者に頼んだ方が良い。

 

売場戻し・廃棄の場合は店の者にその商品を引き渡す。

各売場に持って行ってもいいが、事務所に一括して引き渡すのが簡単である。

 

この処理をした時には、集計表の「被害商品処理」欄に処理者・受取人に署名・押印してもらう。

被害商品を証拠品として警察官が預かっていく場合もある。

この時は警察官に署名・押印をしてもらう。

 

なお、SPは被害商品を保管してはならない。

被害商品を保管していると紛失等で思わぬ問題が生じる。

被害商品に専門店の商品が混ざっており、既に専門店の営業が終わっていた場合でも、その商品をSPが保管してはならない。

そんな時は事情を説明してショッピングセンターの総務に引き渡して専門店に返還してもらうべきである。

 

どこにも引き渡しができない場合は、常駐警備の方に引き渡してしまう。

 

SPが被害商品を保管することは絶対にしてはならない。

もし被害商品が紛失したら「万引きの上前をはねる万引きGメン」とスキャンダルになる。

 

⑫書類の引き渡し、犯人の警察署への連行、現場写真

 

集計表のコピーを取る。

コピーは犯人の個人情報が書いてある集計表№1は1枚、商品リストの集計表№2~は2枚必要である。

集計表№1と№2~のコピーを店へ提出し、集計表№2~のコピーを警備会社へ提出する。

集計表と顛末書の原本を警察官に渡し、警察官は犯人を連れて行く。

 

これでSPの万引き処理は終了となる。

 

あとで、警察官が被害届を作成して店長の署名・押印をもらいに来る。

 

『この商品はここで盗った。』という現場写真撮影の“指さし”を頼まれることがあるので協力しましょう。

 

 

⑬保護者引き渡し、説諭後帰宅させる場合

 

どこの店でも「犯人がいか年少であれ、被害額がいかに僅少であれ、万引き犯は警察に引き渡す。」のが通常。

 

警察に引き渡しておけば、後々ややこしい問題が生じないからである。

 

しかし、犯人が小学低学年で被害額が僅かの場合や、

犯人が大人でもほんの出来心でちょっとした物を盗ったに過ぎない場合は、

警察に連絡せずに保護者に引き渡したり、説教して帰したりすることがある。

 

但し、保護者引き渡しの場合でも保護者に連絡がつかない時は警察渡しに変更した方が良い。

また、説諭後帰宅させる場合も、本人の氏名・住所が確認できない時は警察渡しに変更した方が良い。

 

これらの場合、手続きはほとんど同じである。

但し、後々の争いを避けるため、

集計表№1の下欄に『以上の事実を認め、今後このような事をさせないよう、しっかりと監督・指導致します。』とか

『以上の事実を認め、今後このような事をしないことを誓います。』と自書させて、署名させることが必要である。

 

b.注意すること

 

捕捉から手続き終了迄、早くても1時間、遅ければ優に2~3時間かかってしまいます。

SPはこれを独りでやらなければなりません。

 

警備は興味本位に事件の内容を聴いてきます。

犯人は取り乱して『警察だけは勘弁してほしい。家族には連絡しないでほしい。』と懇願します。

 

しかし、そんなものに一々取り合っていたのでは手続きが進みません。

とにかくテキパキと処理を進めなければなりません。

 

商品スキャンは売場長クラスを呼んで頼んだ方が良いでしょう。

事務所に持って行って『スキャンができたら保安室までお願いします。』と頼むのもいいでしょう。

こんな時に周囲の者が協力してくれるように、日頃から信頼関係を作り上げておくことが必要です。

 

万引き犯に“説教”するSPがいます。

 

それはSP各人の勝手ですが、説教していては書類作成のスピードが落ちます。

又、話の内容に依ってはこちらが名誉棄損等の罪に陥れられる危険もあります。

 

万引き犯とは必要以外のことは話さないのが得策です。

 

SPの仕事は“万引き犯を捕まえて、警察官に引き渡す。”ことです。

“万引き犯を更生させたり、人生相談に乗ってやったりする”ことではありません。

 

どうしても説教したければ、書類作成と必要な処置を済ませてからやればいいでしょう。

 

 

5】経験を積んだSPにだけ許されること


 

a.完全な着手・現認・注視の原則を崩さなければならない時がある。

 

「犯人が商品を棚から手に取る→それをバッグに入れる→声かけするまでバッグを見失っていない」

これが完全な着手・現認・注視です。

 

誤認逮捕を避けるためには、100%の着手・現認・注視が必要です。

 

『我々SPは“盗ったところを見た”から捕まえるのである。

  “盗ったとしか考えられない”とか“盗ったに違いない”とか“盗ったらしい”から捕まえるのではない。』

と常に自己を律しなければなりません。

 

しかし、この原則を崩さなければならない場合があります。

 

常習犯を検挙する場合がそれです。

なぜなら、常習犯の手並みは巧妙でバッグに入れるところを見せないからです。

 

また、状況によって“見送ってはまずい”場合があります。

 

こんな場合は、「盗ったとしか考えられない+α」・「盗ったに違いない+α」で検挙しなければなりません。

 

ここで注意しなければならないのは必ず「+α」が必要なことです。

 

この「+α」は経験を積み場数を踏んだSPにしか判断できません。

だからSP初心者は真似してはいけません。

 

また、経験を積んだSPも「これが例外であり、仕方なくそうするものである。」ことをしっかりと認識しなければなりません。

そして、原則を崩した後には原則に戻しておかなければなりません。

それをしないと、際限なく原則は緩められていき、遂には誤認逮捕を生じさせてしまうことになります。

 

b.仮想事例1-常習犯

 

毎日というくらい食品売場で万引きしていく子連れ女性がいる。

食品をカートに載せ、その一部をカート上のバッグに入れ、残りを支払うという手口である。

バッグに入れる時は子供を前に立たせて壁にする。

前からは見えず、後ろからでは何を入れたのか分からない。

完全な現認ができずに何度も見送っている。

しかし、こんな常習を野放しにしておく訳にはいかない。

 

さあ、今日もやって来た。

カートに店内カゴとバッグを載せて食品売場に入ってくる。

バッグはペッチャンコ。

 

白菜、シメジ、シラス干し、塩サバ。

対面販売の高価な肉を2パック。

そして、鰯団子がカゴに入る。

 

暫くして女は人気のない通路で、店内カゴの商品をバッグに入れているようだ。

 

後ろから見ているだけなので、何をバッグに入れたのか、本当にバッグに入れたのかが分からない。

 

通路から出てきた女のカートから高価な肉2パックがなくなっている。

 

女は別の通路に入り、また商品をバッグに入れている。

今度は前から見たが女の子の陰になってはっきりと見えない。

 

しかし、やっと赤い箱をバッグに入れるところを見ることができた。

 

女はレジに並んだ。

すぐ後に並んでレジ清算される商品を確認する。

 

シラス干し、塩サバ、鰯団子が出てこなかった。

そして、バッグは膨らんでいた。

 

私は状況を整理した。

 

①棚取り現認は白菜、シメジ、シラス干し、塩サバ、対面販売の肉2パック、鰯団子。

②入れる現認は赤い箱の商品。しかし棚取り現認なし。

③シラス干し、塩サバ、肉2パック、鰯団子がなくなっている。

④商品をバッグに入れるしぐさを何回もしている。

⑤ペッチャンコだったバッグが膨らんでいる。

⑥バッグに上着などの所持品を入れたのではない。

⑦何度も同じ手口で盗っているようである。

 

①~⑦から考えて“盗ったに違いない”。

しかし、が決定的なものは何一つない。

“不確かな事実”をいくつ集めても“不確かなもの”が“確かなもの”になることはない。

原則通りにやるなら“見送り”である。

 

しかし、私は声をかけた。

女はあっさりと認めた。

バッグの中からは棚取り現認したシラス干し、塩サバ、肉2パック、鰯団子とその他の食品が出てきた。

合計14点・8470円。

赤い箱の商品は“ふりかけパック”だった。

 

ここで“+α”は何だったのだろうか?

強いて言えば④、結局は検挙経験から得た“勘”であろう。

 

c.仮想事例2-見送ってはまずい場合

 

小学低学年の男子がトレーディング・カードをバッグに入れるところを現認。

三度繰り返したから確実である。

 

男の子を尾行して店外まで待つ。

 

男の子は階段を降りていく。

3F→2F、2F→1F、ここで尾行に気づいた。

 

男の子は階段を走り降り1Fに消えてしまった。

1Fのトイレ、出口付近を探すが男の子の姿はない。

 

「逃げられたか…。」と諦めて、店内巡回に戻った。

 

10分くらい後。

私はエスカレーターで1Fに降りてくる途中で、サービスカウンターの中で男の子が隠れているのを見つけた。

男の子は私を見ると身を伏せた。

 

男の子を見失ってから10分が経過している。

バッグの中のカードは捨てられているかも知れない。

中断がある。

原則通りなら、迷わず“見送り”である。

 

サービスカウンターの係員に事情を尋ねる。

10分くらい前に、あの男の子が「変なおじさんに追いかけられた」と言って駆け込んできた。

  そして、ずっと隠れている。』

 

ここで、原則通りに男の子を見送れば大変なクレームを生じさせることになる。

 

男の子は親に『今日、あの店で変なおじさんに追いかけられた。』と言う。

親は心配になって、『子供が安心して買物を楽しめるよう警備を厳重にしてください。』と店に要望する。

店が調べる。

そして、その“変なおじさん”は保安係であることが分かる。

 

このまま、この男の子を見送ったのではこちらが不利になる。

 

私は状況を整理した。

 

①男の子はカードをバッグに入れた。

②尾行途中で、男の子は2Fから階段を駆け下り、サービスカウンターに逃げ込んだ。

③サービスカウンターにずっと隠れていた。

 

男の子を見失っているが、サービスカウンターにずっと隠れていたのだからバッグの中のカードは捨てられていないだろう。

 

しかし、これだけでは「カードがバッグの中にあるに違いない」というに過ぎない。

あと“もう少しのもの”が欲しい。

 

私は、男の子の持っているバッグを見た。

男の子は恐怖の眼差しを私に向けながら、バッグの口を両手でしっかりと握っている。

 

私は男の子にバッグを開けさせることに決めた。

 

『おじさんは警察ではないよ。警察には言わないから正直に話してくれる?

  そのバッグの中に何が入っているの?開けて見せてくれる?』

 

男の子は渋々バッグを開けた。そこには私の現認したカードがたくさん入っていた。

 

『このカードはどうしたの?』

 

男の子は泣きながら盗ったことを認めた。

男の子は小学3年生(9歳)。カード42枚6081円。

 

約束通り警察を呼ばずに保護者を呼んで帰宅させた。

 

d.仮想事例-その他

 

①棚から赤い箱を取ってバッグに入れたようだ。

  しかし、背後からだったので赤い箱がバッグに入るところが見えなかった。

 

犯人は店外した。

そして、犯人はバッグから赤い箱を取り出した。

 

②常習の女子中学生2人組が試着室でトレーナーを着込み、赤いTシャツをバッグに入れてエレベーターに乗った。

  SPはエレベーターに乗らず、エレベーターが屋上駐車場止まるのを確認したあと、階段で屋上駐車場に行った。

 

  女子中学生達はバッグから赤いTシャツを取り出して値札をちぎった。

 

③常習犯の化粧の濃い女。

  HBCで小さい商品を手に取りバッグに入れる。

  しかし、バッグに入れる時にハンカチをかぶせるので、その商品がバッグに入るところが見えない。

 

今日も女は口紅を商品棚から手に取って、ハンカチの下に隠し、バッグに入れたようである。

近づいてバッグの中を見ると、棚取りしたのと同じパッケージ入りの口紅が入っている。

 

④食品の常習犯女性。

  カートに商品を取り、一部をカート上のレジ袋とバッグに入れ、一部をあちらこちらに捨て、一部を支払う。

今日もやって来た。

 

私は女と同じ行動をした。

女がタマネギとトマトをカートに載せれば、私もタマネギとトマトを載せる。

女がタマネギを捨てれば、私もタマネギを捨てる。

女が食パンをカートに載せれば、私も食パンを載せる。

 

女は通路でバッグに商品を入れているようだが、放っておく。

女はレジに並ぶ。私は後に並ぶ。

そして、女がレジで支払った商品を私のカートから除外する。

残った商品が女のバッグに入っている筈である。

 

 

①・②では、棚取りした商品とバッグから出てきた商品が同じものであるとは断言できません。

①では、商品の赤い箱を入れずに、初めからバッグの中に同じような赤い箱が入れてあったのかも知れません。

②では、エレベーターの中で何があったのかが分かりません。

棚取りした赤いTシャツは同乗していた見知らぬ子供にやったかも知れないし、エレベーターのどこかに隠したかも知れない。

そして、バッグから取り出して値札を破った赤いTシャツは別の店で買ってきたものかも知れない。

 

③も同様です。

棚取りした口紅はどこかに置いてハンカチだけをバッグに入れたかも知れない。

バッグの中に入っていたパッケージ入りの口紅はチョット前に買ったものかも知れません。

 

④で「残った商品は女のバッグに入っている筈である。」と判断できるのは、完全な尾行・監視ができた場合のことです。

女はバッグに入れるような仕種をしたが、本当はバッグに入れずに、捨てたのかも知れません。

バッグに入れるところを見ていない以上、それがバッグに入っているとは断言できません。

 

どれも「盗ったに違いない」場合です。

 

しかし、これらの場合、経験豊富なSPは必要なら検挙します。

 

「+α」を犯人の態度・様子等から判断します。

そしてその信頼性と「検挙の必要性」を総合判断して検挙を決めます。

 

もちろん、次回を待てるのであれば、もっと確実になる次回を待ちます。

 

これには総合的な判断力と冷静さが必要です。

初心者が安易に真似してはいけません。

 

ここで、一つ確認しておいて欲しいことがあります。

 

それは、②~④のどの場合も、犯人が“棚から商品を手に取るところを見ている”ということです。

 

いかに経験を積み、いかに「+αの信頼性」を判断できるようになっても、

また、いかに検挙の必要性があっても、棚取り現認がなければ見送らなければなりません。

 

棚取り現認はすべての始まりであり不可欠なものです。

そして、誤認事故のほとんどが棚取り現認を欠いた場合に起こっています。

 

食品売場でカート上の商品をバッグにドンドン詰めている女を見掛けた。

その女はオドオド・キョロキョロしながら走って売場を出て行った。

 

若い男がダイニング売場に居た。

バリ・バリという音がするので若者を見ると、若者は庖丁のパッケージを破っていた。

そして、その庖丁を上着の下に隠して売場を出て行った。

 

これらの場合は潔く“見送り”です。

いかに“盗ったらしい”と思われても“見送り”です。

なぜなら、棚から商品を手に取るところを見ていないからです。

 

このような場合に経験豊富なSPは裏技を使います。

 

しかし、裏技はあくまで裏技です。

“有効”や“効果”を合わせて“判定勝ち”するようなものです。

SPは“綺麗な一本勝ち”を目指すべきです。

初心者SPは先ず正々堂々とした一本勝ちを習得しなければなりません。

 

 

【6】新しい店では客に慣れるのに時間がかかる

 

SPが新店に入った場合、万引きを捕まえるためには、経験を積んだSPでも1~2カ月が必要です。

 

これは「店の構造を知り、客の動向を知るため」だけではありません。

 

「安全客・不審客のリスト」を自分の内に作り上げる必要があるからです。

 

盗りそうな客を見つけて尾行します。

しかし、その客は盗りませんでした。

この客を「安全客のリスト」に入れます。

 

不審行動をとる客を尾行します。

『あれっ?レジ抜けしたぞ!』しかし、現認不足で見送。

この客を「不審客リスト」に入れます。

 

このようにして「安全客・不審客のリスト」が自分の内にでき上がります。

そして、より多くの客をゆっくりと観察することができるようになります。

それまでに時間がかかるのです。

 

新店に入ったら、まずこのリストを作り上げなければなりません。

検挙を焦ったり、検挙できないことでやる気をなくしたりしてはいけません。

リストが自分の内にできあがれば必ず検挙できます。

 

それまでは足を棒にして「安全客の尾行」を続けなければならないのです。

 

 

【7】トラブル対処法


 

a.客にクレームを受けたら

 

保安係に対する客からの苦情(クレーム)は少なくありません。

 

「後をつけ回された」・「態度が悪い」・「万引き扱いされた」等々。

 

匿名の電話や投書でなされるのが普通です。

 

これらのほとんどは「万引きをしようとしてできなかった者」からです。

しかし、保安係への中傷のためになされることもあります。

 

匿名の電話や投書によるクレームはさほど大きな問題は起こりません。

店は一応謝罪し、保安係に「もう少しソフトにやってくれ」と要望されるだけです。

 

問題は、売場で客がクレームをつけてきた場合です。

 

SPが不審行動をする客を監視している。

その客が『なぜ俺を見るのか!なぜ俺をつけ回すのか!』と文句を言ってきた場合です。

 

このような客はほとんどが万引き犯です。

通常の客なら我々が監視していることにまったく気づかないからです。

 

このような場合は相手によって応対を変えなければなりません。

 

①万引きで検挙したことのある者

 

これらの者のクレームはきっぱりと跳ね返します。

 

『あなたはこの店で万引きをして捕まっているじゃないですか!

  そんなあなたを我々警備の者が監視するのは当然でしょう?

  それはあなたが我慢するべきことでしょう?

  あなたにやましいことがないのなら堂々としていればいいじゃないですか!』

 

これで相手は引き下がります。

 

もし、引き下がらないで店に文句を言ってきても店は取り合いません。

表面上は謝罪してもSPに対しては『よくやってくれた。』と感謝します。

決して我々の信頼を下げることにはなりません。

 

②外国人

 

外国人に対してはこう言うのがベストです。

 

『私はポリス。この店のポリス。私は皆を観るのが仕事。だから、皆を観ている。』

 

外国人は“ポリス”という言葉にドキリとします。

少なくとも「それが仕事であること」を理解してくれます。

 

このようにして仲よくなった外国人万引き犯は少なくありません。

私の顔を見ると、挨拶したり、盗るのを諦めたりします。

 

外国人が店にまでクレームを持ち込むことはありません。

もし、持ち込んでも店側はそのクレームを取り合いません。

当然、我々に対する店側の信用を下げることはありません。

 

③それ以外の日本人

 

これは少々厄介です。

 

彼は万引きをしようとしていたのです。

しかし、万引きをしなかったのです。

彼らの「万引き扱いされた」というクレームは理由のあるものとなります。

 

場合によっては人権問題・賠償問題に発展します。

当然、我々に対する店側の信頼は低下します。

事案が表沙汰になれば契約解除になります。

 

こんな客に対しては「自分が店の保安係であること」を認めてはなりません。

相手はこちらが保安係であることを知って文句を言っているのです。

しかし、それを認めれば大問題に発展していきます。

 

こう言いましょう。

 

『はぁ~?私は買物に来ているだけですよ。

  あなたの言っていることが分かりませんねぇ。

  あなたは私が“ガンつけした”とでも言いたいのですか?

  不愉快ですねぇ。警察に入ってもらって話をつけましょうか?』

 

万引きをしようとしていた相手は「警察を入れる」という言葉に腰が引けます。

そして、引き下がります。

 

相手がこれで引き下がらない場合は、

『こんなことで大人が言い争うことはごめんだ。』と言ってその客から離れます。

そして、警備室に戻って時間を潰します。

 

やましいところのある客はそれ以上文句を言ってくることはありません。

「なんだ、保安係じゃなかったのか。」』と胸をなで下ろしていることでしょう。

 

もし、再度その客に会って文句を言われても『はぁ~?何のことですか?』ととぼけられます。

もっとも、そんな客はもう売場に居ませんが。

 

その者が万引きをしていったのかも知れません。

しかし、万引きされてもクレームが問題にならなかったのですから良いのです。

商品が盗られたことは、SPが黙っていれば店に知られないからです。

 

b.相手が暴力をふるってきたら-相手にケガをさせても、自分がケガをしても大問題

 

今まで、万引き犯捕捉の際に相手から暴力をふるわれたことはありません。

しかし、暴力をふるわれた場合の対処法を決めておかなければなりません。

 

万引き犯が我々の捕捉に対して暴力をふるえば窃盗罪から強盗罪に変わり、その刑罰は一段と重くなります。

また、万引き犯の暴力に対してSPが暴力(実力)を使うことは正当防衛や逮捕行為として認められます。

 

ところが、SPが行う「法律で認められる実力行使」がマスコミに取り上げられると大問題になります。

マスコミは“面白いネタ”を探し回っています。

 

保安係が万引き犯人に暴力を使ったことは彼らの“格好のネタ”になります。

「大手スーパーの保安係、万引き犯にケガを負わせて捕まえる。

  たかが弁当二つにここまでする必要があるのか!」

 

巨体の万引き犯が突進して殴りかかったことを伏せておけば、読者は保安係が行き過ぎたとものと誤解してしまいます。

 

これをネタ不足の週刊誌やテレビが取り上げれば、店は致命傷を負うことになります。

保安係の実力行使が正当なものであったと証明されても、

マスコミに取り上げられたこと自体が店のネームバリューと信用を害し、株価を下げることになります。

 

当然、店は警備会社との契約を解除します。

 

このような事を考慮して対処法を考えなければなりません。

 

・相手にケガをさせるな、自分もケガするな

 

向かってくる相手にケガをさせないで捕まえるのは合気道の達人でなければ無理でしょう。

受けても投げても相手はケガをします。

自分の体がうまく動けずに突き飛ばされたり殴られたりすることもあります。

 

実力に対して実力で応じれば、相手も自分もケガをすることになります。

 

万引き犯にケガをさせることはもちろん、保安係がケガをしてもマスコミネタになります。

また、そのような捕物劇自体が「安心で安全な買い物空間」を害してしまいます。

 

万引き犯人に実力を行使させないことが必要です。

 

犯人を精神的・肉体的に追い込まないこと。

犯人を安心させること、犯人に逃げる余裕を与えること。

犯人の不意をついて動けないようにすること。

 

密かに見つけ、密かに監視し、密かに捕まえる。

それができないときは密かに逃がす。

 

保安係の職務は「店の商品を護ること」以上に、「店の雰囲気・信用と一般客の安心・安全を護ること」にあります。

犯罪人を捕まえるのは警察官の仕事です。

保安係は正義のヒーローではありません。

 

・相手の実力行使が避けられない時

 

まず、回りの一般客を避難させましょう。

常駐警備や売場係員と協力して一般客の安全を図りましょう。

 

そして、警察に連絡しましょう。

皆で捕まえようとしてはいけません。

 

ショッピングセンターの防犯訓練で「凶器を持った犯人を皆で囲んで逃げられないようにすること」が行われています。

それはそれで役に立つのですが、やらなければならない訓練は「一般客をスムーズに避難させること」です。

 

一般客の安全を確保したら、犯人を逃がしましょう。

犯人と一定の距離を保ち、犯人の人相・服装・逃走方向・逃走手段を自分の手の平にメモしましょう。

 

後は警察官がやってくれます。

 

 

【8】日報に書く内容

 


a.新人SPからの質問

 

この店は万引きが多いようです。今日も3件を“防止”しました。

私は、これを日報に次のように書きました。これでいいのでしょうか?

 

①〇時〇分、2Fインナーを巡回中、不審な女性(35歳位)に出会い尾行・監視。

  女性は20分くらいしてからやっとレジにて清算。万引き予防をする。

②〇時〇分、玩具売場、高校生男子たちが不審な行動。一時間ほど監視。高校生たちは何も盗らず売場を去る。

③〇時〇分、婦人服売場、バーゲン商品をカゴ一杯に入れてウロウロしている中年の女性を監視。

  女性はやっとレジにて清算。

 

日報にこんなことを書いてはいけません。

あなたは「なぜ万引きを予防した」と分かるのですか?、

 

たくさん買い物をする客は少なくありません。

1時間も2時間も同じ売場に居る客も少なくありません。

 

「盗ろうとしていた」というのは、値札をちぎったり、パッケージを破ったり、自分のバッグや他の袋に商品を詰めたりした場合です。商品を持ってトイレに入ろうとする場合もそうです。

また、商品をカートに載せて“カゴ抜け道”に沿って歩き、店のゾーン出口でキョロキョロしてチャンスを伺っている場合もそうです。

 

あなたの遭遇した3件は、このような場合ではありません。

これは“普通の客”です。

単にあなたが「こいつは万引きだ」と思い込んでいるだけのことです。

そんな客がレジ清算しても、あなたが万引きを防止したことにはなりません。

 

百歩譲って、その客が万引き犯だったとします。誰が見ても「怪しいやつ」だったとします。

しかし、この日報を読む総務課長は現場に居合わせていないのです。

 

総務課長は、

『こんなの普通のお客さんじゃない!

  あなたは、普通のお客さんをつけ回したの?

  こんなことをされたらクレームが来るよ!勘弁してよぉ~!』

 

そして、店長に『あの保安係は替えた方がいいですよ。』と進言するでしょう。

 

b.SPが日報に堂々と書けるのは“万引き処理”だけです

 

SPに要求されるのは“万引き検挙”です。

これ以外はありません。

 

SPが日報に堂々と書けるのは“万引き処理”だけなのです。

 

しかし、毎日“検挙”があるわけではありません。

何日も検挙なく「異状なし」の日報が続くことがあります。

 

そうなると、総務課長は不安になります。

『このSPはチャント仕事をしているのかな?』・『このSPは検挙能力が低いのではないのかな?』

 

そこで、「ちゃんと仕事をしていますよ」・「検挙能力はありますよ」とアピールするために、「予防した」と書くのです。

 

だから、「予防した」というのは、「検挙に匹敵する場合」でなければなりません。

そして、その書き方も総務課長を信用させるほど具体的なものでなくてはなりません。

 

c.「予防した」場合の処置と日報の書き方

 

「予防した」と言えるのは、aで挙げた「盗ろうとしていた場合」だけです。

 

このような場合に万引き犯が犯行を中止し、商品を捨てたり・置き去りにしたり・元の場所に戻したりした場合は、

まず、その商品を回収し、売場係員かマネージャーに事情を説明して下さい。

次に、商品のスキャンをして、集計表を作成してください。

そして、その商品を売場係員かマネージャーに引き渡して下さい。

 

日報には次の様に具体的に書いてください。

 

(万引き防止)

○時○分頃、インナー売場で女性下着を大量に店内カゴに入れて、ウロウロする35歳位の女性に出会う。

暫く監視していると、店内カゴの商品を肩から下げているバッグに詰め始める。

商品の棚取り現認がないので、露骨に貼りついて“防止”に努める。

○時○分、当方の監視・尾行に気づいたのか、女性はバッグから商品を店内カゴに戻し、そのカゴを放置して△出口から退店。

○時○分、放置された商品を回収し、売場係員の○○さんに事情を話し、商品のスキャン後、○○さんに商品を引き渡す。

今後、この女性には注意する。

 

この様に具体的に書けば、現場に居合わせていない総務課長も信用します。

 

しかし、“ウソ”は絶対に書いてはいけません。

ウソは必ずばれます。

ばれたら、今まで苦労して作り上げたあなたの信用が一度にゼロになってしまいます。

 

 

【9】新人SPが注意すべきこと

 

a.店側の人達に誤解されるようなことはしてはいけない

 

・あなたはこんなことをしていませんか?  チェックしてみましょう。

 

    呼んでもすぐに来ない。

    連絡がつかない。

    売場で見掛けない。

    売場に背を向けて商品を見ている。

    携帯で話し込んでいる。メールを打っている。

    売場の係員と話し込んでいる。

    夕食の買物をしている。

    喫茶コーナーでコーヒーを飲んでいる。

    喫煙所でたばこを吸っている。

    食品売場で試食を食べている。

    自販機の前で缶コーヒーを飲んでいる。

    家電売場でテレビに見入っている。

    上番時間後の入店、下番時間前の退店。

    店内出口から「チョット車まで」と忘れ物を取りにいく。

    保安室で常駐警備員やメンテ員と長時間話し込んでいる。

    身なり化粧が派手、オーデコロンがきつい。

 

SPの仕事内容

 

我々SPの仕事は変則的です。

集中力を回復するために、いつどれだけ休憩してもいいけれど、トイレも我慢して尾行しなければなりません。

食事中でも要請があれば駆けつけなければなりません。

拘束9時間・休憩1時間を自分の自由に組み立てて勤務します。

 

・周りの信頼が大切

 

我々の周りには、警備、施設、清掃、売場係員、店長等事務所の人達がいます。

 

この人達に信頼されていると、検挙がなかったり、クレームがあったりしても評価は下がりません。

信頼されていないと、検挙をしても評価してもらえず、クレームがあれば「やはり…。」と評価を下げられてしまいます。

 

周りの信頼を得るためには、我々が、その人達に「怠けずに、まじめに仕事をしている」と映らなければなりません。

 

・誤解を受けてはなりません

 

そのためには、誤解を受けるような行動や態度をしてはなりません。

 

我々は周りの人達から見られています。

上でチェックした行動は誰かに見られ、「怠けている、まじめに仕事をしていない」との誤解を受けます。

そして、その人の信頼を無くしています。

 

・買物はやはり勤務時間外に

 

昼食の買物、ちょっとした買物は勤務時間内でも問題はありません。

 

しかし、夕食の材料を買い込むのは問題です。

「今は休憩時間内だからかまわない」とも言えますが、我々の休憩時間は外部からはっきりと分かりません。

自分が「休憩時間内」と思っていても、周りの人達には「勤務時間内」と誤解されます。

 

特に、勤務終了前の買物は誤解を受けます。

下番時間までしっかり売場を見て、下番後にゆっくりと買物をする方が良いでしょう。

 

・上番・下番時間はしっかり守る

 

少しの遅刻、早めの退店。

 

入退店記録は残ります。総務がそれをチェックしなくても、目の前の常駐警備員に分かってしまいます。

 

入退店手続きをする常駐警備員はこう言います。

 

『今日は道が混んでいたのだね?仕方がないさ。』

『今日は2件も検挙したから早めに帰っても誰も文句は言わないさ。』

 

しかし、彼のあなたに対する信頼は確実に失われています。

 

・店内ルールは誰よりも厳しく守る

 

保安係・常駐警備員は店の警察官です。

自らが誰よりも厳しく店内ルールを守らなければなりません。

 

店の商品を疑われずに・簡単に盗めるのは我々です。

 

我々がルールを守らないと、すぐに大きな誤解を受けます。

 

店への出入りは従業員出入り口からしなくてはいけません。

買った物は常駐警備員の検品を受けてから店外に持ち出さなければいけません。

 

「チョット車まで忘れ物を取りに行こう」・「買った物をチョット車に置いてこよう」、と売場の出口から出て行ってはいけません。

誰かが必ず見ています。

そして、あなたに不信感を抱いています。

 

・勤務日報を書くのは下番時間後?

 

私は「下番時間が来るまでは売場を護るべきだ」と考えています。

 

日報を書く時間を考えて、早めに売場を離れるSPもいます。

周りの誤解を避けて、信頼を得るためには勤務時間一杯売場を護り切って、それから日報を書くべきでしょう。

 

休憩時間に少しずつ書いておけばそんなに時間はかかりません。

 

b.自分の立場をわきまえる

 

・客から見れば店の人間

 

我々はお客から見れば店の人間です。

 

お客に対して、失礼のない身なり・態度で勤務しなければなりません。

 

派手な服装や装飾品、濃い化粧、露出の多い身なり、ヒールやサンダル履き、きつい匂い、だらしない歩き方や仕種は避けてください。

展示してある椅子に腰掛けたり、食品で試食をしたりするのは厳禁です。

 

・店から見れば出入り業者

 

我々は店からみれば、「仕事をやらせている業者」の人間です。

 

バックヤードでは従業員に対して失礼のないように心がけなければなりません。

特に挨拶は自分からはっきりとしましょう。

言葉づかいにも気をつけましょう。

 

・噂の種になるな

 

ショッピングセンターは女の職場です。

噂には尾ひれが付いて大きくなっていきます。

 

気の合った係員と話す時には周りの目を気にしてください。

 

目をハートマークにするのはもっての外です。

 

c.検挙がないのには理由がある

 

・万引きは必ずいる

 

どう少なく見積もっても、万引きは10件/日を下らないでしょう。

まじめに売場に出ていたら、必ず万引き犯に出会うはずです。

 

万引き犯に出会えないのには必ず理由があります。

自分のやり方のどこかに誤りがあるはずです。

 

・常に工夫する

 

「なぜ、万引き犯に出会わないのか?」・「どうすれば万引き犯に出会えるか」を常に考え、自分のやり方を修正しましょう。

 

SPに助言を求めること、他SPのやり方をまねる事も必要です。

 

有能なSPになるためには反省と工夫と向上心が不可欠です。

 

・時間給稼ぎでは自分がかわいそう

 

一生懸命やっても、やらなくても賃金は変わりません。

 

8時間が無事に過ぎればそれで賃金がもらえます。

空調の効いた売場で、時間を潰していれば日当がもらえます。

 

それではあまりにも自分がかわいそうです。

どうせやるなら精一杯やりましょう。

あなたの8時間はあなたの命の一部なのです。

 

d.何かあったら、すぐに連絡

 

・問題を起こしたらすぐに連絡

 

客からのクレーム、常習万引きからのクレーム。

うっかり店内で声かけしてしまった、犯人を追いかけて事故をおこさせた、誤認逮捕をしてしまった、等々。

 

問題が起きたら、すぐに上司に連絡して指示を仰いでください。

 

起こった事は仕方がありません。

早急に対応すれば傷口はそれ以上開かずに済みます。

事態を隠したり、逃げ出したりせずに、すぐに報告してください。

 

・分からないことがあったらすぐに連絡

 

新人SPは場数を踏んでいません。

研修中に出会わなかった事態に出会います。

 

対処の方法が分からなければ指導SPに連絡してください。

 

書類の書き方や検挙後の手続きで不明な点があったらすぐに連絡してください。

 

遠慮をしてはいけません。

先輩SPや指導SPもそうして育ててもらったのですから。

 

 

 

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