1.どちらが優秀ですか?
・捕まえるけど、誤認する。
・誤認しないけど、捕まえもしない。
『 どちらもねぇ‥。 』
なるほど。
では、これはどうですか?
・1年に110件捕まえて、誤認はたったの1回。
・ 誤認は1回もないが、1年に10件しか捕まえない。
『 110件の方が優秀だと思うけど、誤認を1回しているから‥。 「 誤認1回=-検挙100件 」 として、どちらも同じ! 』
妥当な答えですね。
それが世間一般の評価ですから。
しかし、この二つは比較できないのです。
『 えっ? 』
誤認をするような私服保安は 「 プロではなくアマチュア 」 だからです。
プロとアマチュアは評価基準が違うので比較できないのです。
2.検挙条件を守っていれば誤認はしない
私服保安には 「 この条件が揃わないと捕まえてはいけない 」 という四つの条件があります。
これを検挙条件と言います。
①.着手現認(棚取り現認)
「 何も持っていない手を伸ばし、商品棚から、商品を手に取るところ 」 を見たこと。
②.現認(入れる現認)
「 その商品をポケットやバッグに入れるところ 」 を見たこと。
③.注視(中断なし)
追尾の途切れがなく、 「 商品を捨てずに持っていることが確か 」 であること。
④.単品禁止
2点以上の商品について①・②・③の条件が揃っていること。
この条件を確実に守っていれば絶対に誤認しません。
検挙経験が少ない初心者は、冷静に観ることができないので ① ・ ② ・ ③ が不確かです。
しかし、単品禁止によってそれを補います。
複数点の商品について①・②・③を行うことによって不確かを補うのです。
この検挙条件を守らないと誤認が起こります。
検挙条件を守るとは 「 検挙条件が揃わないときは捕まえない 」 ということ。
つまり、自分にブレーキをかけることです。
誤認をする私服保安はこのブレーキがかけられないのです。
3.検挙条件を守っていては捕まえられない
四つの検挙条件を確実に守っていては万引きを捕まえることはできません。
ときどき四つのカードがきれいに揃うことがありますが、ほとんどはどれか一つが不確かです。
それだけ 「 誤認しないための検挙条件 」 は厳しいものなのです。
経験を積んだ私服保安は要所要所で検挙条件を緩めます。
たとえば、
・着手現認がなければ必ずブレーキをかける。
・入れる現認と中断なしは“+α”があればブレーキを緩める。
・単品禁止は何度も通わせ・何度も盗らせてブレーキを緩める。
さらに状況によりブレーキのかけ具合・緩め具合を工夫します。
ベテランは必要なときに必要な分だけブレーキをかけられます。
「 ブレーキをかけられない 」 私服保安とは違うのです。
4.誤認のほとんどが初歩的ミス
誤認原因で一番多いのは、検挙条件のうちどれを守らなかったときでしょう。
なんと何と、ほとんどが 「 棚取り現認 」 なのです。
たとえば、
・カートに食品を満載して、辺りをうかがいながら食品売場を出て行った。
・値札のついたバッグを死角に持ち込み、値札をちぎって足早に売場から出て行った。
・要注意人物が、新商品の美肌化粧品棚の前で、手に持っていた同商品をバッグに入れた。
どれも棚取り現認がありません。
つまり、
・カートに店の食品を載せるところ、
・店のバッグを手に取るところ、
・店の美肌化粧品を手に取るところ
を見ていないのです。
このような誤認事例を聞いて、ほとんどの私服保安はこう言います。
『 オイオイ、素人じゃないンだよ。棚取り現認は基本中の基本じゃないか。問題外だね。 』
こんな問題外のことがなぜ起こるのでしょう。
4.私服保安は捕まえてナンボ
警備にはいろいろなものがあります。
交通誘導・雑踏警備・施設常駐・巡回警備・貴重品運搬・身辺警護・制服保安・私服保安‥。
この中で、私服保安だけが異質なのです。
私服保安以外のものは 「 何事も起こらなくて100点満点。ご苦労さま! 」
しかし、私服保安は 「 何事も起こらなかったら0点 」 なのです。
私服保安は、
『 何事も起こりませんでした。検挙はゼロです。お店は安泰です。良かったですねぇハ・ハ・ハ。 』 と言えないのです。
回りはそのように考えなくても私服保安自身がそう考えてしまうのです。
5.万引きは 「 いつでも・どこにでもいる 」 わけではない
・万引きは季節・場所・店により増減します。
・新しい環境に入る卒業・就職・入学の春と、新しい環境になれた夏。
・年金支給月と、そうでない月。
・高齢者中心の地域と、元気な若者が密集する地域。
・集客力の弱い店と強い店。交通の便。
・食品・化粧品を扱っていない店と扱っている店。
・出入口が限られている店と、どこからでも入って出られる店。
・店員の防犯意識の高い店と低い店。
・それまでの万引き検挙により、手入れされている店と雑草伸び放題の店。
誤認は万引きの少ない時に起こります。
万引きがたくさんいれば、検挙条件が揃わずに見送っても次の万引きがいます。
しかし、万引きが少なければ、
「 この万引きを見送っては、次の万引きがいつ来るのか分からない。
検挙0が続いている。回りの冷たい眼にはもう我慢できない。
「単品」で「入れる現認」がなかったが、「入れたに違いない」から大丈夫だろう。 」
思い切って声かけします。
ほとんどが盗っています。
めでたく検挙一件。回りの冷たい眼は暖かい眼に。
『 あのぉ‥。誤認じゃないですよ‥。 』
誤認するのはこれからです。
6.なぜ、基本中の基本(棚取り現認)を守れないのか
上の事例は検挙条件の小さな不足です。
しかし、これで捕まえられたのが災いします。
『 なぁ~ンだ。検挙条件なんか少しくらい守らなくても大丈夫なンだ。 』
相変わらず万引きの少ない店です。
検挙条件をドンドン緩めて万引きを捕まえていきます。
回りは拍手喝采。 『 腕を上げたネェ! 』
そして、遂に基本中の基本である棚取り現認も守らないようになってくるのです。
棚取り現認は 「 これを守らないと誤認の危険性が非常に高い 」 検挙条件です。
棚取り現認を守らなければ誤認はある日突然やって来ます。
7. 「 それだけ仕事熱心だとも言える 」 ?
『 私服保安は精神的にそんなに追い詰められているのか‥。
しかし、 「 誤認するのは仕事熱心だと言える 」 のじゃない? 』
甘やかしてはいけません。
仕事熱心でもなんでもありません。
ただ、自分の 「 捕まえたいという欲望 」 に負けているだけなのです。
8.アマチュアとプロの違い
一般人が趣味で万引きを捕まえるのなら、自分の 「 捕まえたいという欲望 」 に負けても問題はありません。
誤認しても、そのツケは自分に回ってくるだけだからです。
しかし、プロは店からお金をもらっています。
そして、誤認のツケは自分だけでなく店にも回ってきます。
また、警備員は 「 他人の権利自由を侵害しないよう 」 強く求められています。
プロの私服保安は、自分の 「 捕まえたいという欲望 」 を押さえなければならないのです。
プロの私服保安は「誤認しない」のです。
「 捕まえるけど、誤認する 」
こんな評価はプロ私服保安にはないのです。
9.どうしたらブレーキがかけられるようになるか?
「 他人のために自分の欲望を押さえることができるかどうか 」 は先天的なものです。
ブレーキがかけられない私服保安は、どんな教育・訓練をしてもブレーキをかけられるようになりません。
案外ブレーキが付いていないのかも知れません。
誤認するような私服保安は排除するしか方法はありません。
そもそも、誤認した私服保安はこう思うはずです。
・「 店や相手に申し訳ないことをした。
・自分の捕まえたいという欲望を満たすためにブレーキをかけられなかった。
・自分にプロとしての資格はない。 これ以上、私服保安を続けることはできない。 」
そして、私服保安をやめていくはずです。
「 誤認した私服保安が、図々しく私服保安でい続けること 」 自体が、プロとしての自覚のなさを示しています。
『 午前中に誤認したが、それにメゲないで午後に万引きを捕まえた。 』
プロとしての自覚はどこにあるのでしょう。
『 午前中に誤認して、午後にも誤認した。 』
もうメチャクチャですね。
10.誤認はしないけど、捕まえもしない
「誤認する私服保安がブレーキをかけられない」のと正反対です。
初めから「フルブレーキ」になっています。
「 捕まえること 」 を怖がる私服保安です。
万引きを検挙には誤認の可能性があります。
四つの検挙条件がきれいに揃っても、心の中の100%はありません。
検挙するためにはこの恐怖心に勝たなければなりません。
これができない私服保安がたまにいます。
・「 盗らさなければよい 」 と勝手に解釈して、万引きに自分の姿を見せて盗るのを諦めさせようとする。
・万引きを見て見ぬふりをする。
・売場に背を向ける・売場から逃げ出す。
私服保安になり始めた頃に誤認や誤認に近いことを経験し、誤認を極度に怖がる者です。
「猟欲」のない私服保安です。
もちろん使い物になりません。
11.誤認はしないけど、検挙件数が少ない
これがプロ私服保安です。
検挙件数が少ないのは、自分の欲望にブレーキをかけているからです。
だから誤認しないのです。
『 店としては 「 誤認はしないで検挙件数も多い 」 私服保安がいいな! 』
「 誤認しないけど、検挙件数が少ない 」 私服保安を、 「 万引きの多い店 」 に入れればそうなります。
私服保安の技術・腕は 「 万引きを見つけること 」 ではありません。
万引きを見つけることは誰にでも簡単にできます。
私服保安の技術・腕は 「 盗らせる・出させる・認めさせる 」 ことです。
この技術が高い私服保安はそれだけ万引きをたくさん検挙できます。
しかし、万引きの少なさをこの技術でカバーすることはできません。
「 鯉が二三匹しかいない池で名人が釣る 」 のと、
「 掴み取りできるくらいうじゃうじゃ鯉がいる池で初心者が釣る 」 のでは
初心者の方がたくさん釣るに決まっています。
検挙件数の多い少ないは、万引きが多いか少ないかで決まります。
私服保安の腕の良し悪しとはあまり関係がないのです。
注意しなければならないのは、
「 同じ店に入っているのに、検挙が多い私服保安と少ない私服保安がいる 」 場合です。
この差が大きくなれば誤認が迫っています。
検挙件数は私服保安の腕にあまり関係がなく、その店にどれくらい万引きがいるのかによって決まります。
同じ店なら検挙件数に大きな差が出ないはずです。
検挙数が多い私服保安は検挙条件を緩めているのです。
検挙条件を緩めれば、その先には必ず「誤認」が待っています。
12.選ぶのはお客様次第
・捕まえるけど誤認する
・誤認しないけど検挙件数が少ない
・誤認しなくて検挙件数が多い
我々を鍛えた職人私服保安(ウーマン)はもういません。
私服保安に新規参入してくる警備会社もあります。
検挙件数を売り物にする者もいます。
見様見まね・昨日や今日のアマチュア私服保安もいます。
どんな私服保安を選ぶかはお客様次第です。