SPnet私服保安入門


        
2.万引きの見つけ方





「万引きをしようとしている者」を見つけることはそんなに難しくない。

1年~2年もすれば、万引きが店に入ってきただけで分かるようになる。

難しいのは「見つける」ことではない。

「盗らせること・店から出させること・万引きを認めさせること」である。

しかし、「見つける」ことから始めなければならない。

ここでは「万引き犯の見つけ方」を説明しよう。


(1)「盗ろうと思っている」ことは、必ず「しぐさ」に表れる。


万引きは、店に入る前から「盗ろう」と決心している。
それが持ち物やしぐさに表れる。

・バッグのチャックを開ける。
・防犯カメラを捜す。
・表情がこわばる。

これらは「盗ろう」という気持ちの表れである。

また、「盗ろう」という気持ちを、回りに分からせないようにしようとする。


・事例1.一瞬足が止まった-「盗ろう」という気持ちを隠そうとするから見破られる


その店には男性私服保安Dを配属してある。

Dは研修を終えたばかりだ。

私は彼の様子を見るためにやって来た。

Dは独り立ちになってやる気満々だった。(※Dも後の事例でよく出てくる。)


独り立ちした私服保安に「知識」を教える必要はない。

場数を踏ませること・検挙実績を上げさせることが必要なだけである。

私はDの検挙を手伝うために来たのである。


私はDと分かれて食品売場を見ることにした。

私『焦るなよ。今日は閉店までいるから、万引きを見つけたら連絡してくれ。食品を見てくるから。』


食品売場の配置はどの店も同じである。

・向かって右側が野菜・果物(農産)。
・その突きあたりが鮮魚。
・これを左へ曲がると肉・ハムが並ぶ。
・ハムの突きあたりを左へ曲がると、天ぷら・フライ等の惣菜・弁当。
・最後がパン・酒となる。

ここまでで、食品売場の外周を「コの字」に歩いたことになる。


主婦は「野菜・果物」から店内カゴを持って入り、この順で進む。

学生や老人は、逆に「パン・酒」から入り,すぐに食べられるものを買っていく。
彼らは料理をしないからだ。

また、彼らは店内カゴを持たない。
両手で持てるくらいしか買わないからだ。


私は「野菜・果物」から入り、主婦コースをパン売場まで進んだ。

ちょうど、パン売場の方から60歳過ぎの男が食品に入ってきた。

男は手ぶらである。

私と男の目が合った。

男の足が一瞬止まった。

そして、男は食品入り口に積んである店内カゴを持った。

「ん?」

私は男を尾行することにした。


男は「弁当1個・上等のステーキ肉2枚・ほたての刺身1パック・マグロの刺身1パック」をカゴに入れた。

「さあ、どうするのかな?」


男はバッグを持っていない。

だから、商品をバッグに詰めて出ていくことはない。

商品の数から考えて、ポケットに入れることもない。

「商品をカゴに入れたまま出ていくか、使い古しのレジ袋に詰めて出でていくか」のどちらかである。

レジ袋とは食品レジで渡す半透明のポリ袋である。


男は人通りの少ないトイレットペーパー通路に入っていく。

これで、男の手口が判った。

人通りの少ない通路に入ったのは、そこで「商品を何かに詰め替えるため」である。

商品をカゴに入れたまま出ていくのなら、そんなところへ入っていかない。


案の定、男がポケットからクシャクシャのレジ袋を出した。

そして、カゴの中の商品をその袋に詰めている。

男が空のカゴをその場に置いて、「野菜・果物」から出ていく。

男のレジ袋から赤いステーキ肉が透けて見える。

Dを呼び寄せる暇はなかった。

私は男を店外させて捕まえた。

65歳・無職男性。ステーキ等5点・計9000円弱。


男『警察は勘弁してエナァ~。お願いします。警察はアカンのや…。』

私『なぜ?』

男『ワシ、公判中なんや…。』

私『余計、ダメだろうが!』


警備室にやって来た刑事が、男を一目見てこう言った。

『お前かッ!逮捕やゾ!』

男は両手を前に差し出した。

黒い手錠が男の両手首にかかった。


私が「男のどのしぐさ」にピンときたのか判るだろう。


男の年齢・風体から判断すれば、男には店内カゴは必要ないのである。

カゴが必要なほど食品を買わないからである。

しかし、男は私と目が合って足を止め、店内カゴを持った。

男は「盗ろう」という気持ちを隠そうとしたのだ。

それが「あだ」になったのである。


独り言を言う。店員に話しかける。携帯電話をかける。財布を取り出す。

これらも、「自分の気持ちを隠そう」としているのである。


つづく





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