SPnet私服保安入門
4. 検挙条件③「中断がないこと」- 犯人を見失ったら捕まえてはいけない
(1)「中断がないこと」が必要とされる理由
万引き犯が商品を盗っても、商品を途中で手放してしまえば捕まえることはできない。
「商品を持っていない犯人」を捕まえたら誤認逮捕となる。
犯人が盗った商品を手放すことは少なくない。
・「やはり悪いことはしてはいけない。」と思い止まる。
・「ヤバイ!見つかった。」と私服保安の尾行に気づく。
・「あとから取りに来よう。」と別の場所に置く。
・「捨てる」だけとは限らない。仲間に渡す場合もある。
万引き犯人を捕まえるときは、「犯人が盗った商品を手放していないこと」が確実でなければならない。
そのためには、犯人が店外するまでその行動を見続けなければならない。
つまり、犯人を見失うことなく尾行を続けなければならないのである。
「犯人を見失ったこと」・「尾行が途切れること」を“中断”という。
中断があれば、犯人は「商品を手放した」可能性がある。
中断があった場合は、「その前にした現認」をすべて無効としなければならない。
改めて現認のし直しをするのである。
中断のあと犯人が何も盗らなければ、そのまま見送りである。
これが検挙条件③の「中断がないこと」である。
(2)どのくらいの中断なら許されるか?
どのくらいの中断があれば「中断あり」とするのか?
これは犯人の手口や周りの状況によって違ってくる。
「カゴ抜け・履き込み」では、少しくらいの中断があっても構わない。
※カゴ抜け : 商品をカートに載せたまま・店内カゴに入れたまま出ていく。
※履き込み : 商品を着たり履いたりして出ていく。
私服保安の現認した商品が見えているからである。
中断後もその商品が見えていれば、「中断なし」である。
しかし、どれだけ商品が見えていても、中断が長くなれば「中断あり」としなければならない。
中断の間に「犯人が何かをすることができる」からである。
たとえば、
・中断の間に犯人がその商品をレジで清算した。
・あらかじめ仲間が同じ商品を買っておき、「犯人が盗った商品」と「仲間が買った商品」を取り替えた。
これらの場合、犯人は「中断前に持っていた商品」と同じ商品を持っているが、それは支払い済みの商品である。
こんな場合も考えられる。
・男が黒いジーンズを買った。
・家に帰って試着してみると色が気に入らない。
・翌日、男は「買った黒いジーンズ」を「紺のジーンズ」に交換してもらおうと店に来た。
・男は先に食料品を買い、食料品をカートに載せて衣料品レジに来た。
・男にジーンズの交換を頼まれたレジ係が言った。
『売場から、紺のジーンズをここへお持ちください。』
・男は『それではこの黒いジーンズとレシートを置いていきます。手続をしておいてください。』と、売場に向かった。
・男はジーンズコーナーに行き、紺のジーンズをカートに載せた。
・これを私服保安が現認し男の尾行を始めた。
・男は「何か他にも買うかな?」と別の売場に移動した。
・私服保安が男を見失った。
・この間に男はレジに行き、レジ係に紺のジーンズを見せた。
・男『袋になんか入れなくてもこのままでいいよ。レシートもいらない。』
レジ係『ありがとうございました。』
・男はカートに「紺のジーンズ」を載せたままレジを離れた。
・私服保安が再度男を見つけた。
・私服保安が現認した紺のジーンズはまだ男のカートに載っている。
・しかし、その紺のジーンズは支払い済みである。
商品が見えていても安心はできないのだ。
次は、商品が見えていない場合である。
犯人が商品をバッグに入れたり、ポケットにいれたりした場合である。
この中断は厳しく判断しなければならない。
犯人のバッグやポケットが「一瞬たりとも」私服保安の視界から消えていなければ、もちろん「中断なし」である。
しかし、そんな場合は稀である。
犯人のバッグやポケットが棚に隠れて見えないときが必ずある。
そのときに犯人は商品を手放すことができる。
犯人が商品をポケットに入れた場合、ポケットに手を突っ込んだままなら、商品を手放すのは“1~2秒”で可能である。
袖に商品を入れたままであれば、商品を手放すのは瞬時にできるだろう。
犯人が商品をバックに入れ場合は、もう少し時間がかかる。
バッグのチャックが開いていれば、時間はあまりかからない。
バッグのチャックが閉じられていれば、商品を捨てるのに「チャックを開ける」という動作をしなければならない。
私服保安はその動作を見ることができるし、そのための時間も必要となる。
また、犯人がバッグを手に持っているのと肩にかけているのとでは、商品を手放すための時間と動作が違ってくる。
「どんな場合にどのくらいの中断が許されるか?」は私服保安の経験で判断するしかない。
しかし、どんな場合でも「3分以上の中断」があれば、「中断あり」としなければならないだろう。
経験の乏しい新人私服保安は「その時間に関わらず、中断があれば見送り」に徹した方がよい。
代表的な中断に、「犯人がトイレに入った場合」、いわゆる「トイレ中断」と「犯人がエレベーターに乗った場合」の「エレベーター中断」がある。
次に、それらを考えてみよう。
つづく