SPnet私服保安入門
(5)エレベーター中断- 犯人がエレベーターに乗った場合
犯人がエレベーターに乗った場合も「中断」が発生する。
私服保安もいっしょにエレベーターに乗れれば問題はない。。
エレベーターが動いた時点or他の階へ着いた時点で現行犯逮捕できる。
中断が問題となるのは、犯人だけがエレベーターに乗った場合である。
この中断は「トイレ中断」とは違った点がある。
a.万引きはエレベーターの中で現行犯逮捕できる
私服保安は現認してから犯人をずっと尾行している。
犯人がエレベーターに乗った場合私服保安はどうするか?
通常、私服保安は犯人と一緒にエレベーターに乗り込まない。
・犯人の乗ったエレベーターのドアが閉まる、エレベーターが動く。
・階数表示ランプが点灯して停止階が分かる。
・私服保安は階段でその階へ走る。
このように教えられている。
それは、
「一緒に乗り込むと犯人が尾行に気づく。 そして、犯行を中止して売場に戻り商品を戻していく。
それでは犯人を捕まえられない。」と考えるからである。
こんなところにも私服保安の「検挙至上主義」が災いしている。
犯人を捕まえることができなくても、犯人が盗ることを止めればそれでいいではないか。
商品を戻していけば、それで盗難被害が防げるではないか。
犯人がエレベーターに乗ったときは、私服保安も一緒に乗り込めはよい。
そして、犯人に万引きを思いとどめさせ、商品を戻させればよい。
そもそも、、犯人がエレベーターに乗った場合は、一緒にエレベーターに乗って、
エレベーターが動いた時点、他の階に着いた時点で現行犯逮捕すればよいのである。
古くからの「店外10m原則」を鵜呑みにしいるから、エレベーターに一緒に乗り込めないのである。
法律上、万引き行為の既遂時期は「本来支払うべき場所から離れたこと」。
具体的には「その売場から離れたとき」。
犯人がエレベーターに乗れば、少なくともエレベーターが動けば万引き行為は既遂となり、窃盗故意も明白となる。
なにも、建物外に出るまで待つ必要はないのである。
※万引き行為の既遂時期と店外10m原則(選任のための法律知識)
ただし、「犯人に商品を捨てる機会を与える」ために、犯人がエレベーターを降りるまで現行犯逮捕を待つべきだろう。
それでは、犯人が盗った商品をエレベーターに残して(捨てて)エレベーターを降りた場合はどうすればよいか?
その商品を回収して「万引き防止なる。」という日報で済ませてはいけない。
犯人をそのまま帰してしまえば、「万引き扱いされた・執拗に追跡された」とのクレームが来る。
犯人がエレベーターに乗った時点、エレベーターが動いた時点で万引き行為は完成している(既遂になっている)
だから、盗った商品を捨てても未遂犯や中止犯とはならない。 → 未遂犯と中止犯 (選任のための法律知識)
犯人が商品をエレベーター内に捨てても、
私服保安は犯人がエレベーターを降りた時点(降りなければ他の階に着いた時点)で現行犯逮捕するしかない。
しかし、警察には「犯人が商品を自主的に返した」と説明してやろう。
それで、処分はずっと軽くなる。
エレベーター内で現行犯逮捕しないのはこのチャンスを与えるためである。
b.犯人だけがエレベーターに乗った場合
追尾していた犯人が突然エレベーターに逃げ込んで、私服保安が一緒にエレベーターに乗り込めない場合である。
このときに中断が発生する。
私服保安は階段を走り先回りしてエレベーターを待つが、どうすればよいだろうか?
この場合は、トイレ中断と違った点がある。
イ.トイレ中断との違い
・中の様子がまったく分からない
トイレの場合は、音を聞いて「犯人の個室内の様子」を推測することができる。
しかし、エレベーターの外では何の情報も得られない。
犯人は「何もせずじっとしていたのか、パッケージを破ったのか、商品をバラバラに壊したのか」まったく分からない。
犯人の行動が推測できれば、「犯人が出てきたときに何をするべきか」を決めておくことができる。
犯人が何もしなかったのなら、「商品が置き去りされていないか」だけを確認すればよい。
犯人がパッケージを破っていたら、「パッケージが置き去りにされていないか」も確認しなければならない。
やることを決めておけば、迅速に冷静に対処することができる。
エレベーター中断ではこれができない。
・エレベーター内で商品を他の者に渡せる
エレベーターはトイレと違って、商品やパッケージを水に流すことはできない。
しかし、同乗した者にそれを渡すことができる。
共犯者が他の階から乗り込んで商品を受け取ることもできる。
犯人が「見ず知らずの人」に商品を預かってもらうこともできる。
「どこで、誰が乗り込んできたのか」エレベーターの外では分からない。
ロ.対処法
・大きい商品・消してしまえない商品はOKだが…
商品が「エレベーター内で消してしまえないもの」であれば、犯人がそれを持って出てきたら「中断なし」としてよい。
箱入りのテレビ・ファンヒーター・布団・毛布などである。
ただし、値札やパッケージを確認する必要がある。
それらがなければ、「それが店の商品であること」が証明しにくくなるからだ。
たとえば、
・犯人が毛布を盗ってエレベーターに逃げ込んだ。
・犯人がエレベーターから出てきたときには、その毛布に値札が付いていなかった。
・毛布に値札が付いていなければ、「犯人の持っている毛布が店の商品であること」が証明しにくくなる。
・エレベーター内で値札を消すことは簡単である。
・また、犯人がビニール袋に入った毛布を盗ってエレベーターに逃げ込んだ。
・このビニール袋には値札シールが貼ってあった。
・犯人がエレベーターから出てきたときには、毛布はビニール袋に入っていなかった。
・そして、エレベーターの中にもビニール袋が残っていなかった。
この場合も同じである。
常識で考えれば、エレベーター内でビニール袋を消すことはできない。
犯人がそれをポケットなどに隠し入れているのだろう。
しかし、常識では考えられないことも起こる。
エレベーター内での犯人の行動の様子がまったく分からない以上、常識で行動することは危険である。
犯人を捕まえて、犯人がビニール袋を持っていなければ大変なことになる。
もっとも、値札やパッケージがなくても「私服保安の現認・売場の状況・販売記録」から、犯人の持っていた商品が「店のものである」との証明はできる。
しかし、中断がある分だけ証明力・説得力が弱くなる。
その点を頭の隅に置いておかなければならない。
※そのまま販売物の証明力 → 「そのまま販売物」では証明力が弱い
・小さい商品・消すことのできる商品は見送り
犯人が「化粧品やアクセサリーのような小さい商品」をポケットやバッグに入れて、エレベーターに逃げ込んだ場合は「中断あり」としなければならない。
犯人がエレベーターから出てきたときに、「それを持っているかどうか」が分からないからである。
小さな商品をエレベーター内で消すことは簡単である。
c.万引き犯への注意
これを読んで『そうか、エレベーターに逃げ込んでパッケージから中身を出せば捕まらないのか!』と早合点してはいけない。
それは「私服保安が捕まえない」というだけのことである。
私服保安が捕まえなくても警察は捕まえる。
店が警察に被害届を出して防犯カメラの映像を提出すれば、「悪質な万引き」として警察が捜査を開始する。
すぐに、あなたは特定されて警察の任意同行・任意取り調べのあと通常逮捕となる。
万引きも私服保安に捕まっただけならたいしたことはない。
警察に引き渡されても警察が逮捕しないこともある。
万引きを私服保安に見つけられて追尾されたら、売場に戻って商品を返すのが一番よい。
つづく