SPnet私服保安入門


(7)犯人はこちらに気づいていない

 




・私服保安が犯人から逃げる?


不審者の発見、棚取り現認、入れる現認、中断なし。

私服保安は犯人を見続けていなければならない。

特に現認は瞬間である。まばたきも許されない。

前回の事例11のように、尾行中に犯人が突然消えてしまうこともある。


初心者私服保安は「犯人から隠れる・犯人に背を向ける・犯人から逃げる」ことがある。

これは、私服保安が「犯人に気づかれた」と思うからである。


たとえば、
・「入れる現認をしよう」と、商品棚の隙間から見ている。
  犯人がこちらを見た。
  「見つかった!」と顔を伏せた。
  次に顔を上げたときには、犯人の手から商品がなくなっていた。

・犯人を尾行中に、突然犯人が振り向いた。
  私服保安は「見つかってしまう!」と犯人に背を向けた。
  振り返ったときには犯人の姿は消えていた。

・犯人の尾行中に、犯人が近づいてきた。
  私服保安は「気づかれてしまう!」と犯人から遠ざかった。
  そして、犯人を見失ってしまった。


私服保安はどんな場合にでも、犯人から目をそらしたり犯人に背を向けたりしてはいけない。

犯人から遠ざかる必要があるときは、犯人に背を向けずに「犯人の姿を見ながら」遠ざからなければならない。

そうしないと、現認の「一瞬」を捉えることができないし、犯人を見失ってしまうからである。

悪くすれば、その間に商品を手放されて誤認することになってしまう。


・犯人は見ていない


私服保安が「犯人に気づかれた」と思っても、実際には気づかれていない場合が多い。


ある中年女性万引を検挙したときに私は尋ねた。

私『なぜ、私の尾行を知っていたのに店外したの?』


その女性は食料品と化粧品をバッグに入れたのだが、私と何度も目を合わせている。

店外する前に私の尾行に気づいたのか、店内の喫茶店に入って時間をつぶしている。


女『喫茶店から店の外に出て呼び止められるまで、尾行されているとは知りませんでした。』

私『でも、食品売場で盗るときに私の方を見ていたよ?』

女『たしかに、何度か目が合ったことは覚えています。でも、そんなに気にしていませんでした。』


万引き犯は「どのくらいの範囲」を見ているだろうか?

万引き犯になったつもりで商品をバッグに入れてみてほしい。

もちろん、商品をバッグに入れるときには、「誰かに見られていないか」と慎重に周りを見よう。


どのくらいの範囲を見ただろうか。

「5m範囲内」しか見ていないはずである。

しかも、その範囲内をしっかりと見ていないだろう。


万引き犯が「キョロキョロする」のは、単に心配だからする動作にすぎない。

万引き犯には周りがそれほど見えていないのである。


犯人から5m離れたら、犯人はこちらが見えていない。

5m以内でも、商品の間から見ていれば犯人に見つかることはない。

私服保安が「気づかれた!」と思っても、犯人はまったく気づいていないのである。


・近づいても気づかれない方法


犯人に近づいても、犯人の目を隠していれば気づかれない。

『犯人の目を隠す?』


売場にあるポップ(スタンドに付いている宣伝用のポスター)で犯人の顔を隠して観るのである。

「犯人の顔を隠して」観ていれば、相手からもこちらの顔が見えない。

だから犯人は「観られていること」に気づかない。

こうすれば、犯人の1m以内に入っても気づかれない。

5m離れて犯人を監視する場合も、この方法を使えばより気づかれなくなる。


もっとも、男性私服保安がこんなことをしていると一般客に痴漢と間違われてしまう。

正義感の強い男性客から文句を言われたり、仲間の警備員が走ってきたりすることを予期なければならない。


なお、この方法を10m以上離れてやると完全に気づかれるので注意しよう。

遠くからでは私服保安の体全体が見える。
ボップで顔を隠していても、首から下が丸見えになる。

万引き犯から見れば、「手足の付いたポップがこちらを向いている」ことになる。

これでは気づかれるのが当然だ。


つづく

 





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