SPnet私服保安入門


4.検挙条件④.単品禁止

 




「単品で検挙する」とは「犯人が商品を1品盗った場合に検挙する」ことである。

もちろん、その1品について「棚取り現認・入れる現認・中断のないこと」が必要である。


私服保安は「単品で検挙すること」を禁じられている。

万引きを捕まえるためには、「2品以上の各々について、棚取り現認・入れる現認・中断のないこと」が必要なのである。

これを“単品(たんぴん)禁止”とか“複数点主義”と言う。


(1)単品禁止の理由-見間違えのための安全策・はめこみ防止


a.誤認防止


犯人が商品を1品盗った場合でも、「棚取り現認・入れる現認・中断のないこと」が確実であれば誤認することはない。

しかし、「確実」と言っても人間のする判断であるから「絶対」ではない。

焦りや緊張から見誤る危険がある。


また、犯人が私服保安の尾行に気づいて商品を捨てる(手放す)ことがある。

犯人を保安室へ連れてくる途中で、犯人が商品を捨てることもある。

それを私服保安が見落とす危険がある。


犯人が「たくさん盗っていれば盗っているほど」これらの危険が少なくなる。

“単品禁止”は「私服保安の誤認を防ぐためのシートベルト」なのだ。


b.“はめ込み”対策


“はめ込み”とは、万引きを装ってわざと自分を捕まえさせ、「誤認であったこと」をネタに見返りを要求することである。

これで金を稼いでいる者もいれば、万引きが「捕まったことへの仕返し」にすることもある。

警備会社や店の信用を下げるためにも行われる。


相手が金銭目的なら、警備会社が1~3万円を支払えば済む。

しかし、相手の目的が「店の信用を下げるため」なら、金では解決できない。
店に大きな損害を与えてしまう。


はめ込みをする者は私服保安のノウハウをよく知っている。

元私服保安なら経験の浅い私服保安をはめ込むことは簡単である。
あらかじめ支払い済みの商品を商品棚に置いて、私服保安に現認させればよい。


単品禁止はこの「はめ込みに引っかからないため」のものでもある。

犯人がたくさん盗っていれば盗っているほど、「はめ込みの危険」を下げることができるからである。


(2)単品禁止を「守ることは難しい」- 私服保安の自制心が必要


「棚取り現認・入れる現認・中断のないこと」はその判断が難しい。

これに比べ、「単品かどうか」の判断は簡単である。

「一つなら見送り、二つ以上ならOK」だからである。


しかし、単品禁止を守らないで誤認した例は多い。

“事例5.キャベツ誤認事件”もそうである。

「単品による誤認」がなくならないのは、私服保安が単品禁止を知っていても、「それを守らない」からである。

私服保安社会の検挙至上主義が単品禁止を守らせないのである。


そしてベテラン私服保安ほど、この誘惑に負けてしまう。

それは、自分の目と腕に自信があるからである。


私服保安は「単品検挙の誘惑」に勝たねばならない。

単品禁止は「私服保安の自制心が強く求められる」検挙条件である。


(3)単品とは「1個の商品ではない」- 「盗ることを繰り返したかどうか」が問題


このように、単品禁止は「見間違い・見落とし・はめ込みの危険」を下げるためのものである。

上では分かりやすいように「単品=1個」と説明したが、単品とは「商品の数」ではない。

犯人が手を伸ばして、2個の腕時計を手に取ってポケットに入れた。
これも「単品」である。

見間違い・見落とし・はめ込みの危険は、「犯人が1個の腕時計を手に取ってポケットに入れた」場合と同じだからである。


単品禁止で重要なのは「商品の数」ではなくて「犯行の数」である。

「一度の犯行で捕まえてはいけない」というのが“単品禁止”である。


(4)単品禁止は「誤認防止に一番必要」 - シートベルトが一番大切


私服保安の間で議論されることがある。
「棚取り現認・入れる現認・中断・単品禁止の中で、誤認防止のために一番重要なものはどれか?」

もちろん、どれも不可欠である。
しかし、敢えて順番をつけるとしたらどれなのか?


私は単品禁止が一番だと思う。


その理由は二つある。

一つは、棚取り現認・入れる現認・中断が「人間のする判断」であるのに対し、単品禁止は「人間のする判断の間違い」を防ぐものだからである。
※棚取り現認は犯罪行為を立証する面もある。※棚取り現認とは

「車の運転操作を確実にやること・脇見をしないこと」と「シートベルトをすること」の関係に似ている。

人間がすることにはミスがある。ミスがあった時の安全策が一番必要なものだろう。


もう一つは、犯人の盗った商品が多くなればなるほど、私服保安の現認証言が証明力を増すことである。

犯人が否認したときには、犯人の持っていた商品が「店のものである」ことを証明しなければならない。

商品が多くなればなるほど、その証明が楽になる。
「そのまま販売物」は証明力が弱い


単品禁止を守れば、誤認することはないし、犯人が否認した場合にも負けることはない。

       
★2020.05.追記


昨今、「万引きの小者化」が進んでいる。

欲がなくなったのか、控えめになったのか、生活に困窮しているような者でも「チョット一個だけ」が多い。
また、趣味(盗癖)で「なにか一品」を盗る者が増えた。
昔からホームセンターの工具売場では「単品盗り」が多かったが、
最近では食品売場でも同じようになってきた。

万引き自体が減り、今までなら私服保安が相手にしなかったような「単品・少額」の万引きしか残っていない。

さらに、最近の万引きは「育たない」。
昔は「あんパン一個」が「カート一杯」にまで成長した。
私服保安は「万引きが大きく育つまで」待てばよかった。

「小蠅 → 蠅 → 銀蠅 → アブ → セミ → ネズミ → イタチ → 野良猫」とすぐに成長し、
「たくさん盗る」まで時間はかからなかった。
※小蠅 : 夏になると台所の三角コーナーにどこからか現れる1~2㎜の蠅(ノミバエ)

しかし、最近の万引きは「いつまでたっても小蠅のまま」。

しかも、この小蠅は「一度追尾されてヤバイと感じたら」二度とやって来ない。

私服保安が単品禁止を守っていたら「万引き検挙はできない」といっても過言ではない。
「小蠅を追う毎日」にやる気と元気をなくする私服保安も多いことだろう。


つづく

 





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