SPnet私服保安入門


(5)単品で捕まえる場合の注意点・方法

 




・家電売場で、男が段ボール箱入りの炊飯器を棚から取り出した。
・私服保安がそれを現認。
・男がその箱をかついで家電売場を出ていく。

これは単品である。

「単品禁止」だから男をそのまま見送るのか?

商品が大きいので現認は確かである。

捕まえてもよいのではないか?


しかし、どんな場合にでもシートベルトをしなければ意味がない。

駐車場の中でも事故は起こる。

男に「何かの事情」があったのかもしれない。

そして、「はめ込みの危険」は変わらない。
むしろその危険は大きくなっている。

「はめ込み」を成功させるには、私服保安にはっきり現認させなければならない。

「わざとらしい盗り方」をする者ほど疑ってかからなければならない。


しかし、『単品禁止ですから…。』と私服保安が何もしないのでは店から文句が出る。


どうすればいいのか?


a.ジャブで相手の様子を見る


店外した男にジャブを入れて反応を見る。

たとえば、

・『お客さん、お客さん!失礼しました。レジ係が“お買い上げシール”を貼るのを忘れました。ご面倒ですが、お貼りしますのでレジにお戻りください。』
・『お客さん、お客さん!レジ係が保証書をお渡しするのを忘れました。ご面倒ですが、レジにお戻りください。』


「はめ込み」ならここでレシートを見せて噛みついてくる。

『なんや?お前は俺を万引き扱いするのか!』


そんな場合は、

『当店の商品ではなかったのですか、それでは“当店のお買い上げシール”をお貼りしては失礼ですね。
  保証書もお持ちでしょうから、故障のときもご安心ですね。』などと、とぼければよい。

相手はこれ以上突っ込んではこない。

自分が「はめ込みをしよう」としていることが感づかれるからである。


それでも突っ込んできたら、

『お買い上げシールを貼ることは、お客様への礼儀です。私は、レジ係にその点を謝らせるつもりでいたのです。』とか、

『保証書をお渡しするのをレジ係が忘れたのと思いました。
  お客様にご迷惑をお掛けしたら大変ですからネ。当店は“お客様第一”ですから。』と逃げればよい。

とにかく、相手を万引き扱いしていないのだから、相手は付け入る隙がない。

相手が万引き犯ではなく「代金支払い済み」の客であった場合でも、こう言えば問題は起こらない。


b.相手が万引きであった場合はストレートで倒す


このようにジャブを入れた場合、相手が「並の万引き」なら、
なんやかやと言い訳をして商品を戻そうとしたり、レジに戻ろうとしたりする。

これで「盗ったこと」がはっきりする。

『そうはいきません。それなら万引きです。』と相手を捕まえればよい。


相手が「したたかな万引き」なら、こう言うだろう。

『買い上げシールなんか貼らなくてもいいよ。保証書なんか要らないよ。』

しかし、相手は万引きではなくて本当に支払った客かもしれない。

近くのレジで支払わなくても、他のレジで支払ったのかもしれない。

奥さんがその商品を買って売場の棚に置き、旦那がそれを取りに来たのかもしれない。


こんな場合は、もう一回ジャブを入れる。

『それでは、お客様に失礼です。保証書をお付けすることは私どもの義務です。
  お客様に失礼があったことを見すごしたのなら、私が店から叱られます。ぜひレジにお戻りください。』

相手が万引きでないなら、ここで説得されるはずである。


しかし、頑固な客もいるだろう。


これでダメなら、「店から文句を言われる可能性」と「誤認の危険の程度」を比較して、
「店から文句を言われる可能性」が高ければ、運を天に任せてストレートを出すしかないだろう。


私ならどうするだろうか?

こんな場面に遭遇したことはないが、ここまできたらストレートを出すと思う。


c.現認は絶対に必要


以上は「現認している場合」の話である。

「現認・中断・単品禁止」の中で単品禁止だけを外す場合である。

「現認がない場合」の話ではない。


たとえば、

・私服保安が家電売場を通りかかった。
・炊飯器コーナーから、男が箱入り炊飯器を担いで出てきた。
・私服保安は「男が炊飯器を棚取りしているところ」を見ていない。

こんな場合に、運を天に任せてストレートを出してはいけない。


もし男が万引き犯だったとしても、犯人が否認すれば「盗ったこと」を証明できない。
私服保安の現認証言がないからだ。※棚取り現認とは

私服保安が裁判で、『現認しました。』とウソの証言をすれば偽証罪となる。


どうしても何かしたいのなら、ジャブ一発だけは構わないだろう。

しかし、そのジャブで「相手が万引きと分かった場合」でも検挙してはいけない。
現認がないからだ。

現認のない場合は、犯人から商品を取り戻すだけに止めるべきである。


★2020.05.追記


以上は、もっともな説明である。

しかし、果たして、このような冷静な行動ができるだろうか?


新人のころ、家電売場で「箱入りのCDコンポ」をカートに載せて出ていこうとした男を捕まえたことがある(事例15)

このときは、男が商品同士をつなげてあるタイラップをカッターで切ったので、「棚取り現認OK」、
カートに載せるところを見ているので「入れる現認OK」、そのままカートを押して売場を出たので「中断なし」。
商品が一個なので「単品」。

まさに、上で説明した「単品禁止だけを外す場合」である。
※厳密に言えば、犯人がタイラップを切っているので、
  単に棚に置いてある商品を取るのとは違い「それが店の商品であること」はハッキリしている。
  しかし、「単品」であることに違いない。

私は上記説明のような「ジャブで様子を見た」だろうか?
そんなことは頭の片隅にもなかった。

では、経験と場数を積んだ今なら「ジャブ」が出せるだろうか?
その場になってみないと分からないが、はなはだ自信がない。


つづく

 





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