SPnet私服保安入門
(2)店外10mは「一応の基準」
店外10mは、「犯人の窃盗故意を立証するためのもの」である。
だから、それを立証できない事情があれば、店外10mでも不足となる。
逆に、それを立証できる事実があれば、店外10mまで待つ必要はない。
それを説明しよう。
a.「常習犯」にはもう少し待つ
常習犯はしたたかである。
店外10mで声かけしても、まだ言い訳をする。
『車で待っている女房に、このセーターが似合うかどうか聞きにきたンだ。』とか
『車の中に財布を忘れたので取りにきたンだ。』と。
そして、こんな言い訳が通ってしまうのである。
常習犯には「店外10mを過ぎて、商品を車に積み込むところ」まで待たなければならないだろう。
b.パッケージ・値札を捨てたらその時点でOK
店外10m原則は「スーパーマーケットの代金清算システムに従っている」犯人の窃盗故意を立証するためのものである。
「犯人がその清算システムに従っていない場合」はこの原則による必要はない。
たとえば、
・犯人が商品のパッケージを破り、中身を取り出してパッケージを捨てる。
・犯人が商品の値札を外して捨てる。
このような場合、レジで商品の清算ができなくなる。
だから、犯人はスーパーマーケットの代金清算システムに従ってはいない。
犯人の窃盗故意は「店外10m」だけでなく、「パッケージや値札を捨てたこと」で立証できる。
この時点で犯人を現行犯逮捕してもよいのである。
しかし、犯人がパッケージを破ったり値札を外したりしても、そのパッケージや値札をまだ持っている場合は不十分である。
パッケージや値札を持っている以上、その代金をレジで支払うことができるからだ。
犯人はスーパーマーケットの代金清算システムにまだ従っているのである。
客が商品をレジに持っていく方法は、手に持っていくだけではない。
寒ければ、商品のセーターを着てレジに行ってもいいし、
腹がすいているのなら、コロッケのパックを破ってコロッケを食べてからレジに行ってもよい。
パッケージや値札を持っている以上、「窃盗故意」は立証できない。
窃盗故意を立証するためには、「犯人がパッケージや値札を捨てること」が必要なのである。
c.食品はレジ外で食べたらその時点でOK?
店の方針・警備会社の方針で、食品に限って 上記b をさらに緩めることがある。
「犯人がレジで支払わずに食品売場を出て、パッケージから商品を取り出してそれを食べた場合は、
パッケージを捨てていなくてもその時点で捕まえてもよい。」とするのである。
つまり、
・①.商品を食品売場のレジで支払わなかったこと。
・②.食品売場外でパッケージを破ったこと。
・③.食品売場外で中身を食べ始めたこと。
これらのことから、「犯人に支払う意思がなかった」と判断するのである。
食品の場合にだけ、bの「パッケージ・値札を捨てたこと」を必要としないのである。
そのような取り扱いをしている警察もある。
この取り扱いには「犯人が商品の中身を食べてしまっては証拠がなくなってしまう。」という配慮も働いている。
このような判例があれば問題はない。
しかし、それが単なる警察の判断や学者の意見であるなら、それに従うのは危険である。
「警察の判断・学者の意見」と「裁判官の判断」が同じとは限らないからである。
私は上の ①,②,③ が揃っても、
犯人がまだパッケージを持っている以上「支払う意思がなかったこと」を完全に立証することはできないと思う。
それは、食品売場の商品は店内のどこの売場のレジでも清算できるし、パッケージを持っている以上レジ清算ができるからである。
万引き犯に「反論の余地」を残してはならない。
万引き犯が争えば、それだけで店の信用やネームブランドが傷ついてしまう。
犯人が商品の中身を食べたのなら、パッケージを捨てるまでにそんなに時間はかからないだろう。
それまで待って検挙した方が安全ではないだろうか?
つづく