SPnet私服保安入門


(3)ショッピングセンターでの「建物外」とは

 




犯人の窃盗故意を立証するための「店外10m」であるが、
「店外=建物外」とは何を指しているのだろうか?


a.ショッピングセンターの形態による取扱-「はっきりと区別されているかどうか」で決まる


①.独立店舗型の場合は、一つの建物に一つの店舗だから問題はない。

「店外=建物外」である。


②.共同店舗型の場合は、一つの建物に複数の店舗が入っているので問題となる。

次のように取り扱われている。


非分離型(百貨店形式)の場合は、核店舗についても小さな専門店についても「店外=建物外」とされている。

  核店舗で万引きしても専門店で万引きしても、
  そのショッピングセンターの建物の外に出なければ捕まえてはいけないことになる。

それは、核店舗ゾーンと専門店ゾーンとの区別がはっきりしていないからである。

区別がはっきりしていないから、万引き犯の「小さな専門店を核店舗の売場だと思っていた」との言い訳が通ってしまう。

小さな専門店同士についても、それらを核店舗の売場だと思っていれば、一つ一つの独立性がなくなってしまう。

実際には犯人が核店舗や一つの専門店の外に出ても、犯人にとっては一つの売場から出ただけになる。

犯人が売場から出ただけなら犯人の窃盗故意は立証できない。

だから、建物の外に出ることが必要なのである。


・分離型の場合は、核店舗については「店外=核店舗ゾーン外」、
  専門店については「店外=その専門店の店舗外」とされている。

  核店舗で万引きした者が核店舗ゾーンを出れば捕まえてもよいし、
  専門店で万引きした者がその専門店を出れば捕まえてもよいのである。


それは二つのゾーンが外形上分かれているので、誰にでもはっきりと区別できるからである。

はっきりと区別できるから、犯人の「小さな専門店を核店舗の売場だと思っていた」との言い訳は通らない。

犯人が核店舗(スーパーマーケット)ゾーンを出れば、いくら犯人が「売場から出ただけだ」と主張しても、「店外した」と判断されるのである。


小さな専門店同士についても「それらを核店舗の売場だと思えない」のだから、「一店一店が独立した店と思える」ことになる。

犯人が専門店の一つから出れば、いくら犯人が「売場から出ただけだ」と主張しても、「店外した」と判断されるのである。


但し、警察によっては、分離型の場合でも「店外=ショッピングセンターの建物外」とすることがある。
店関係者の中にもそう思っている者がいる。

これは「なぜ店外10mなのか」を理解していないからである。

そして、次に説明する「現行犯逮捕の制限」を知らないからである。


b.「どんな場合にでも建物外」で違法逮捕


イ.疑問


次のような疑問を感じるであろう。

なぜ、「店外」についてそんな細かいことを考えるのか?

分離型でも非分離型でも、すべての場合を「店外=ショッピングセンターの建物外」とすればよいではないか?

その方が、犯人の窃盗故意をより強く証明できるのではないか?


ロ.現行犯逮捕の制限


現行犯逮捕には「時間制限・距離制限」がある。

現行犯逮捕ができるのは、「犯行の時刻から1時間以内・犯行の場所から300mまで」とされている。

これを越えると、違法逮捕となってしまうのである。
現行犯逮捕には時間制限・距離制限がある(選任のための法律知識第8講)


逮捕が違法であれば、「犯人を捕まえたこと・犯人の身柄を拘束したこと」が逮捕罪となることがある。

また、逮捕手続に反したことで、犯人の持っていた商品の証拠能力が問題となることがある。
違法収集証拠排除則(選任のための法律知識第16講)

「建物外10m」とすると、この現行犯逮捕の制限を越えてしまう場合があるのだ。


それを次に説明しよう。


ハ.万引き行為の既遂時期


万引き行為は「店外10m」で初めて既遂になるのではない。

「店外10m」は「万引き犯の窃盗故意を立証するための事実・証拠」であり、
「万引き行為が既遂になるための条件」ではない。


犯人が「店外10m」まで進んだら、
犯人が商品をポケットやバッグに入れたときに、「盗るつもりがあった」と判定されるだけである。

万引き行為の既遂時刻・既遂場所は「犯人が商品をポケットやバッグに入れた時刻・場所」なのである。
それらをどれだけ遅くしても「犯人がその店舗エリアを出た時刻・場所」なのである。


ニ.「建物外10m」が現行犯逮捕の制限を越える場合


現行犯逮捕の時間制限・場所制限は「犯人の既遂時刻・場所」からスタートする。

つまり、「犯人が商品をポケットやバッグに入れた時刻・場所」または「犯人がその店舗から出た時刻・場所」から
1時間・300m以内でなければ現行犯逮捕ができないのである。

これを実際の場合で考えてみよう。


・例1

分離型ショッピングセンターの核店舗(スーパーマーケット)の2F時計売場で、犯人が12時に腕時計をポケットに入れた。

犯人は核店舗ゾーンを出て専門店ゾーンにはいり、ウィンドショッピングを楽しみ、
昼御飯を食べて2時にショッピングセンターの建物を出た。

ここで捕まえると、現行犯逮捕の1時間制限を越えてしまう。

それは違法逮捕なのである。


・例2

分離型ショッピングセンターの核店舗(スーパーマーケット)の2F時計売場で、犯人が腕時計をポケットに入れた。

犯人は核店舗ゾーンから専門店街に出て、そのままショッピングセンターの端にある出口から建物外に出た。

しかし、そこは核店舗ゾーン出口から300m以上離れていた。

ここで捕まえると、現行犯逮捕の300m距離制限を越えてしまう。

それは違法逮捕なのである。


このような問題があるので、捕まえることができるのなら、できるだけ早く捕まえなければならないのである。

「念のために建物外で捕まえよう」と思っていると、違法逮捕をしてしまうことになるのである。


・例3

非分離型ショッピングセンター(百貨店形式)では「店外=建物外」と取り扱われている。

非分離型の場合は、建物出口まで300m以上あることはないだろう。

しかし、犯人が犯行時刻から1時間以上経って建物外に出ることは少なくないだろう。

こんな場合には、万引き犯を現行犯逮捕できないのである。


実務では現行犯逮捕をしているが、犯人がそれを争えば違法逮捕が問題となるのである。

今までそれが問題になっていないのは、万引き犯が『おっしゃる通りです。』と長いものに巻かれているからである。

百貨店のような非分離型ショッピングセンターでの万引き犯逮捕は大きな問題が潜んでいるのである。


つづく

 





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