SPnet私服保安入門
5.犯人が商品を捨てたらどうするか
(1)犯人が商品を捨てたら、犯人を追うより商品を確保する
a.犯人が盗った商品を持っているから「盗ったこと」が証明できる
犯人が逃げ出すとき・逃げる途中で、私服保安の目の前で「持っていた商品」を捨てることがある。
それを持っていると走りにくいからである。
カートに商品を載せている場合など、カートを押していては逃げられない。
手慣れた犯人は、追跡をかわすために商品を逃げる方向とは別の方向に投げ捨てる。
こんなとき『逃げられてたまるか!』と追跡スピードを上げてはいけない。
犯人を捕まえても、犯人が盗った商品を持っていなければ盗ったことを証明できないからだ。
「犯人が店の商品を盗ったこと」を私服保安が現認した。
現行犯逮捕のときに犯人がその商品を持っていた。
だから、犯人がその商品を盗ったことになるのである。
私服保安の現認はあるが犯人がその商品を持っていない。
それでは「犯人の盗ったこと」が証明できない。
犯人は『盗っていない。私服保安の言っていることは自分には関係ない。』と主張する。
私服保安は『犯人が盗った・それを見た』と主張する。
「盗った・盗らない」の水掛け論。
5対5では犯人の主張が通ってしまう。
盗った商品を犯人が持っていない以上、犯人の主張を覆すことばできないのだ。
b.犯人の捨てた商品を私服保安が回収しても、犯人の手を離れているので問題は残る
それでは、犯人の捨てた商品を私服保安が回収すれば、犯人の「盗っていない」という主張を覆せるだろうか?
それでも、まだ問題が残る。
犯人は『そんなものは知らん。俺が持っていたものではない。』とさらに主張するからだ。
今度はその主張を覆さなければならない。
つまり、今度は「それを犯人が持っていたこと・捨てたこと」を証明しなければならない。
その商品に犯人の指紋が付いていても積極的な証拠とはならない。
「店の商品は誰でも触れることができる」からである。
犯人が商品を自分のバッグに入れ、バッグごと捨て、そのバッグに犯人のケイタイや免許証が一緒に入っていたらどうだろう?
それでも「そのバッグを犯人が捨てたこと」を証明できない。
犯人は『それは少し前に盗られたものだ。』と主張するからである。
「犯人がその商品や商品の入ったバッグを捨てるところ」を第三者が見ていれば、
その証言で「それらは犯人が捨てたものであること」を証明できる。
しかし、そんな目撃者がいなければどうしようもない。
そもそも、逃げた犯人を追っている私服保安に目撃者を確保する余裕はないだろう。
もっとも、実際にはここまで否認する万引き犯はいない。
犯人が私服保安に対して強気で否認していても、警察官にどやしつけられたらあっさりと認めてしまう。
犯人の捨てた商品を回収できれば、まず犯人に押し切られることはない。
しかし、犯人の捨てた商品を回収できないときは誤認となってしまう場合がある。
c.犯人の捨てた商品を回収できない場合には誤認となる
犯人の捨てた商品を回収できない場合とはどんな場合だろうか?
犯人が逃げるとき・逃げている途中で持っていた商品を捨てた場合、
私服保安は「犯人を捕まえてから捨てた商品を回収すればよい」と思ってしまう。
それを回収していたら犯人に逃げ切られてしまうからだ。
しかし、犯人の捨てた商品を犯人の仲間や、情を知らない通行人が持ち去ることも考えられる。
そうなれば、犯人を捕まえたけれど「犯人の盗った商品」がなくなってしまう。
万引きの被害品がないのである。
被害品がなければ犯罪のあったこと自体が証明できない。
警察はそんな事案を相手にしない。
翌日、知恵をつけられた犯人が『万引き扱いされた。』と文句を言ってくる。
犯人が騒げば、「誤認事件や人権侵害」に発展してしまうことになる。
犯人が逃げるとき・逃げている途中で商品を捨てたら、犯人を追うことよりも先にその商品を確保しなければならない。
そんなことをしていたら犯人に逃げられてしまうだろう。
しかし、あとで商品を回収できなければもっと大きな問題が待ち構えている。
私服保安は警察官ではない。
商品を取り戻せば、それで万引き被害は回復できる。
また、犯人が逃げたら犯人や一般客がケガをするといけないので「追ってはいけない」と教えられている。
しかし、商品を持ったまま逃げると、私服保安の闘争心に火がついて「その教え」を忘れてしまう。
私服保安から逃げるのなら、商品を捨てることである。
それでも追いかけてくる私服保安がいても私は知らない。
その私服保安はプッツンしているから、どこまでも追いかけてくる。
元陸上選手の私服保安に追いかけられ、400m逃げたがスタミナ切れで捕まった万引きもいる。
※このときは私が商品を回収している。
また、私服保安の声かけ後、「逃げた場合」は「たちが悪い」として警察の取り扱いが厳しくなる。
私服保安に声かけされたら、素直に「すいませんでした」と捕まるのが一番よいだろう。
つづく