SPnet私服保安入門
(3)「盗った者」と「商品を持っている者」のどちらを追うか?
警備研修会でよく出される問題である。
・問題
・男と女が食品売場にいる。
・二人とも店内カゴを持っている。
・男が自分のカゴに商品を入れた。
・女も自分のカゴに商品を入れた。
・男と女は離れて、別々に買い物をする。
・女はポケットからレジ袋を取り出し、自分のカゴの中の商品をレジ袋に詰めた。
・暫くして、男と女が合流する。
・女は『私の分は払ってきたので、あんたの分を払ってくるワ。』と言った。
・そして女は、男の持っている「商品の入ったカゴ」を受け取り、
自分の持っている「盗った商品の入ったレジ袋」を男に渡した。
・男は『先に帰るから。』と、女の盗った商品を持って売場を出ていこうとする。
・女は『あんたの商品を払ったあと、私の服を見て帰るワ。』と、レジに行こうとする。
さて、私服保安は男と女のどちらを追えばいいのだろう?
・女は窃盗犯人。
・女の盗った商品は男が持っている。
・男は窃盗罪とは無関係。
・私服保安は一人。
女を捕まえるか男を呼び止めるか?
・答え① 男を呼び止める
女を捕まえたところで、女は「盗った商品」を持っていない。
盗った商品がなければ、女の窃盗行為を立証できない。
後から男を調べて、「女の渡した商品」を回収すればよいではないか?
しかし、男がその商品を消費していれば商品は回収できない。
男が女の共犯者であれば男はとぼける。
そして、女が騒げば「誤認事件」に発展してしまう。
男を呼び止めるとどうなるだろうか?
男は持っている商品を盗っていないし、それが「盗られたもの」であることも知らない。
しかし、男の持っているものは「未払いの商品」である。
男が『これは連れの女が買ったものだ。』と主張しても、レジの販売記録などで「未払いである」ことが証明できる。
そして、その商品を取り戻すことができる。
女を追えば、被害品は取り戻せないし、女の窃盗行為を証明することができない。
下手をすると、誤認事件に発展する。
男を追えば、女を捕まえることはできないが被害品を取り戻すことができる。
だから、“ブツ(被害品)”を持っている方を追うのである。
・答え② 女を捕まえる
警察OBや警察官の中には、『女を追う。』と答える者が多い。
それは、警察には権力や犯罪捜査能力があるからである。
・自分が現認しているのだから女を現行犯逮捕できる。
・女に「男が誰であるか」を喋らせる。
・男に「女の盗った商品」を任意提出させる。
・男を「共犯容疑」で取り調べることもできる。
・男が「女の盗った商品」の提出を拒めば、令状を取って家宅捜索もできる。
そもそも、警察に楯突くような万引き犯はいないだろう。
こんなことをしないでも、女に職務質問をすれば、
女は「盗ったこと」を認めて男に連絡し、「渡した商品」も持ってこさせるだろう。
しかし、私服保安にはそんな権限もないし、万引き犯人が怖がるような存在でもない。
そして、私服保安の後には「騒ぎが起こる」のを病的なまでに嫌がる「お客様第一」の店がいる。
店に迷惑をかけてはいけない。
私服保安の仕事は「犯罪人を捕まえること」ではない。
「店と店の商品を守ること」である。
だから、「犯人より商品を追う」のが当然である。
つづく