SPnet私服保安入門

       

・事例24:「立てない」三人は犯人の後を最後までついていった

 




私は独り立ちして2年以上経っていた。

私が育てた私服保安たちも一人前になって腕を上げていた。

他店に入っていた私にAさんから連絡が入る。

Aさんは初めに紹介した女性私服保安である。※こちら

彼女はもう「やり手の私服保安」に育っていた。


A『例の肉を盗っていく外国人が来ました。』


その外国人は、食品売場から検挙依頼をされている常習犯である。

盗っていく肉は安物のパック入りではない。対面販売の高価な肉である。
事例12.これが「稲葉の白うさぎ」

係員が客の注文した量をパックに詰めて値段シールを貼る。
これを客がレジに持っていき代金を支払う。


この常習犯の手口は簡単明瞭。

・事前に電話で肉を注文しておく。
・それを対面販売売場で受け取る。
・そしてレジには行かず、持ってきたレジ袋に詰めて出て行く。

・犯人が来るときには先に電話注文がある。
・犯人から電話があれば、売場から私服保安に連絡するようになっていた。

その連絡がAさんにあったのだ。


私『その男はどこにいるの?』

A『対面肉売場で肉を5パック受け取りました。そして、洗剤通路で持ってきたレジ袋に入れました。』

私『男は食品売場を出ていないの?』

A『まだ洗剤通路にいます。』

私『Dと制服を応援に呼んで、皆で捕まえろ。』


外国人男性相手にAサン一人では可哀相である。

その日はAさんと同じショッピングセンターに男性私服保安Dが勤務していた。

Aさんがスーパーマーケット、Dがスポーツショップだ。


Dは私より一回り若い。

人相も私より格段に悪く、私と同じ空手二段である。

今でも後方宙返りを軽くやれる。

DはAさんの後輩私服保安だ。

制服とは制服警備員のことである。


暫くしてAさんから連絡。


私『どうした?もう捕まえたか?』

A『まだ店外していません。』

私『Dと制服は来たか?』

A『Dさんはいま私と一緒です。制服さんは建物出口で待機しています。』

私『それなら完璧だ。大手柄になるな。捕まえたら電話してよ。』


しかし、5分経っても連絡が入らない。

「もう店外しているだろうに…。」

私はAさんに電話を入れた。


私『まだ店外していないの?』

A『いえ店外しています。店外して50m以上進んでいます。』

私『Dと制服がいるンだろう?』

A『三人で男の10m後をずっと歩いています。』

私『何をやっているンだ!今すぐ男に飛びついて捕まえろ!』


暫くしてAさんから連絡が入った。

A『結局、男は肉を持ったまま逃げていきました。』

私は何が何やら分からなかった。


・なぜ捕まえられなかったのか?


後日、Aさんと同じショッピングセンターに入ったときに事情を聞いた。


・対面肉売場からAさんに「犯人から電話注文があった。」と連絡があった。

・Aさんは「男が肉のパックを受け取り、洗剤通路でレジ袋に入れる」のを現認。

・AさんがDと制服警備員に応援要請。

・Dはすぐに駆けつけて食品売場でAさんと合流。制服警備員は建物出口で待機。

・男は食品売場を出て、専門店街出入口からスーパーマーケットゾーンを出た。

・DとAさんが男を尾行。

・男が尾行されていることに気づいた。

・男は専門店街の酒店に入った。

・DとAさんも酒店に入った。

・男は遠くから二人に何やら大声で叫んだ。

・DとAサンは様子を見た。


・男は酒店からショッピングセンターの建物外に出た。

・外には制服警備員が待機していた。


・DとAさんは、制服警備員と一緒に男の後をついていった。

・男は三人に向かって大声で叫びながら歩いていく。

・三人は男の後を離れずについていく。

・そして、男に駐車場の端までついていった。

・男はそのまま逃げていった。


私『男は走って逃げたのではないの?それなら、三人いれば簡単に捕まえられるじゃない。
    君たち三人は何をしていたの?男の後を歩いていただけなの?Dがいたんだろう?』

私がいれば、「男がスーパーマーケットゾーンを出て10m進んだとき」に男に飛びついて引き倒していただろう。


Dは見かけによらず臆病なところがある。

大声で叫ぶ外国人男性に「腰が退けた」のだろう。

また、「男の犯行を、自分の目で現認していない」という自信のなさもあったのだろう。

そして、「先輩のAさんや制服警備員が何か指示してくれる。」と思っていたのだろう。


Aさんは私の逮捕現場を見て育っている。

Aさんは「当然、武闘派のDが飛びついてくれる。」と思っていたのだろう。


制服警備員は「私服保安が二人もいるのだから、私服保安の後に続けばよい。」と思っていたのだろう。


三人が三人とも「誰かが口火を切ってくれる。」と思っていたのだろう。

三人は「立てなかった」のである。


立たないと、どんどん気迫が萎(なえ)ていく。

「どうしよう…、どうしよう…。まだOKか、もうダメか…。」

三人は犯人の後をぞろぞろと歩くことしかできなかったのである。


自分が「熱い内」に犯人に飛びかからなければならない。

“機”を逸すると“気”が冷めてしまうのだ。


それにしても、Dは一体何をしに来たのだろう?
※Dは事例33・34・35に登場する。


つづく

 





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