SPnet私服保安入門


       
・“カマかけ”に耐えた女子高生

 




この女子高生は“カマかけ”に引っかからなかった。

しかし、もう一人の女子高生が簡単に白状してしまった。

この事例では中断があった。

しかし、使う言葉は同じである。『あの商品をどこに置いてきたの?』


・事例28.女子高生は“カマかけ”に耐えたが…。


私服保安には担当店がある。

しかし、ときどき別の店に入って研修する。

いつもと違った客層や雰囲気を味合わったり、その店の私服保安とふれ合ったりするためである。

また、担当私服保安が急用・急病で入店できないときに「代打入店」をするためでもある。


その日、私は担当店とは別の店に入っていたが、その店に女性私服保安Hを研修入店させていた。

この頃は私の育てた私服保安が何人かいた。

私がHを教えたのは最初の2週間くらいである。

あとは私が教えたDが彼女を教えて一人前にさせたのである。


Hに会うのは久しぶりである。

私は彼女に彼女の担当店の様子や検挙状況を聞き、店を案内した。

そして、『名刺代わりに捕まえていってよ。』と冗談を言って彼女と分かれた。


1時間くらい経っただろうか、Hから連絡が入った。


H『化粧品売場で女子高生が口紅をバッグに入れました。二人連れです。』

私『腕を上げたじゃない!すぐに行くから。』


Hは化粧品売場の向かいにある台所用品売場にいた。

化粧品売場の制服女子高生二人を見ている。

二人とも学校指定の黒いカバンを持っている。


私『あの二人?』

H『手前の女の子が口紅2本をバッグに入れました。』

私とHは女子高生二人を監視する。


・現認


口紅を入れた方の女子高生が、ファンデーションとマスカラをバッグに入れた。

もう一人が、ファンデーションとマスカラをバッグに入れた。

そして、二人はさらにヘアカラーをバッグに入れた。

私『本当に名刺代わりだね。』


女子高生二人がバッグのチャックを閉じて、化粧品売場を出た。

私たちは尾行を始めた。

彼女たちはエスカレーターで1Fから2Fに上がり、あちらこちらを見て歩く。

私とHは彼女たちに気づかれないように「父と娘」を演じる。


二人がエレベーターに向かう。

私たちも一緒に乗り込む。

しかし、エレベーター内で女子高生たちに気づかれてしまった。


エレベーターが1Fに着くと、女子高生たちは駆け出して食品売場に逃げ込んだ。

私たちは後を追ったが彼女たちを見失ってしまった。


・中断


私『食品売場を捜せ!まだ出ていないはずだ。』

私とHは分かれて彼女たちを捜した。


2~3分後、私は女子高生の一人がチョコレート棚のところにいるのを見つけた。
最初に口紅を入れた女子高生だ。

Hに連絡。

私『一人を見つけた。もう一人を見つけたか?』

H『見つけました。出口前の女子トイレに入りました。いまトイレから出ます。』


チョコレート前にいた女子高生が、トイレの前でもう一人の女子高生と合流した。

トイレから出てきた女子高生の後をHが尾行してくる。

彼女たちが店外した。

完全な中断である。


彼女たちはバッグに入れた化粧品を食品売場やトイレに手放したかもしれない。また、それらを食品レジで清算したかもしれない。

それをする時間は充分にあった。

女子高生たちが自転車置き場の自転車にまたがった。


・声かけ


私はHに「検挙する」ことを告げた。

私『せっかくの“名刺代わり”だからネ。あの手を使うか…。』

私は彼女たちに近づいた。


私『キミ達、キミ達。チョット待って!あんなことをしては困るじゃないか。』

女子高生『…。何のこと?』

私『あんなことが流行っているの?
    最近この店のあちらこちらから、他の売場の商品が見つかるンだよ。』

女子高生『私たち何にもやっていませんよ…。』


私『君たちは化粧品売場から化粧品を食品売場に持ち込んだじゃない。
    あの化粧品をもとの売場に戻しておかないと売り物にならなくなるンだよ。
    店からも言われているンだ。置いた場所を教えてよ。戻しておくから…。』

女子高生『……』


女子高生二人は自転車から降りて、私たちと店内に戻った。

自転車を降りたということは、少なくとも「化粧品をどこかに置き去りにした」ということだ。

Hが「トイレから出てきた女子高生」を、私が「チョコレート前にいた女子高生」を担当する。


私はチョコレート棚の前に女子高生を連れていって尋ねた。


私『ここのどこに化粧品を置いたの?』

彼女は『どこだったのかなぁ?ここだったかな?違うなぁ…。』と私を連れ回した。

その態度を見ていれば、まだ化粧品がバッグに入っていることが分かる。

しかし、それを言わせた方が安全である。


私は女子高生にさりげなくこう言った。

私『商品が戻ればそれでいいンだけど…。』

女高生『ここだったのかなぁ…。いや、別の所だったのかなぁ…。』

彼女はなかなか引っかからない。


そこへ、Hがもう一人の女子高生とやって来た。

そして、Hが私に言った。

H『この女子高生が白状しました。トイレから化粧品も回収しました。』


私は白状した方の女子高生に言った。

私『こっちの彼女は頑張っているのにダメじゃない!』

私の“カマかけ”に耐えていた女子高生が言った。
『オジサンのカマかけにもう少しで引っかかるところだった。』


保安室で二人はバッグから残りの商品をすべて出した。

彼女たちは警察官に連れられていった。


私はHにトイレでの状況を聞いた。

H『トイレに入って、「どこに捨てたの!」と叱ったら、すぐに「ごみ箱に捨てた。」と白状しました。』

私『…。ちょっとストレートだね…。』

女性私服保安は怖いのである。


中断があるときの“カマかけ”は、「犯人が商品を出した場合に中断をつなげること」の進化形である。
中断をつなげられる場合事例12.これが「稲葉の白うさぎ」

どちらも「犯人が中断中に商品を手放していないか」を確認するものである。

“カマかけ”はそれを「犯人に積極的に働きかけてする」だけなのである。


次に、別のカマかけを紹介しよう。


★2020.05.追記


最近の話である。

この食品スーパーは地方都市の中心から少し離れたところにある。
いわゆる、いなかの店で万引きの少ない店だ。

保安業務を受注してから、数件検挙したらもう終わり。
単品常習も一度尾行したらもう絶対にやって来ない。

「万引きの居ない・少ない店」は私服保安が嫌がる。

検挙がないと店長は『さぼっているのでは?』と疑う。
食品万引きは売場に入ってきてからDでいくまでが5分。
私服保安は勤務時間中ずっと売場にいなくてはならない。
万引きを捕まえない以上、休むことができない。
他の者が嫌がるので私が入っている。

80歳前の男性が売場に入ってきた。
彼は布バッグを持っている。
挙動から一目で「盗るつもりである」ことが分かる。

彼は、菓子コーナーで「ABCチョコ袋入り」を棚取りした。

そこから、畜産・鮮魚・農産と移動して店外した。
その間に布袋に入れたのだろう、店外するときにはチョコレートを持っていなかった。
「入れる現認なし・中断あり」である。

しかし、私は久しぶりの“カマかけ”を使った。


軽トラのドアを開けた老人に声かけ。

私『お父さん、オトウサン。あのチョコレートをどこに置いていたの?』

老『はっ?ハッ?』耳が遠いようだ。

私『菓子のところで、チョコレート一袋を手に取ったでしょう?
    それから、そのチョコレートをどこに置いてきたの?
    別のところに置かれるとチョコレートが売れないから。』

老『はっ?ハッ?』

彼は私の言っていることを理解していないようだ。


私はしびれをきらしてこう言った。
『その布袋に入っているチョコレートを盗ったンだろう!』

やっと、ここで私の言っていることを理解してもらえた。

ABCチョコレート一袋・198円。
単品・低額そして“カマかけ”。

“小蠅”しか残っていない食品スーパー。
そろそろ“潮時”かと思わせられる。


つづく

 





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