SPnet私服保安入門


第四章 犯人逮捕から保安室までのテクニック-依頼という名の強制

 




犯人を捕まえた後は、警察官に事件を引き継ぐ。

警察官に犯人と証拠を引き渡し、証人として状況を説明するのである。

そのために、犯人から事情を聞いたり、商品を確認したり、必要な書類を作成したりしなければならない。

また、犯人の身柄を安全に確保しておかなければならない。

これらのために、犯人を保安室へ連れて行くのである。


この章と次の章では「犯人逮捕後の事後処理」を説明する。

他人が捕まえた犯人を引き継いだ場合も同様の処理をしなければならない。

私服保安以外の警備員もマスターしておかなければならない部分である。


犯人を捕まえた後は、犯人に対してどんなことでも強制ができない。
すべて犯人の自由意思(任意)によって行わなければならはない


つまり、すべてのことに犯人の同意が必要になる。


犯人の同意があっても外形的に「強制があった」と判断されれば、「同意がなかった」ことになる。

強制があれば、私服保安の方に強要罪・逮捕監禁罪が問題とされる。

言葉にも注意しなければならない。犯人に対する侮辱罪・名誉棄損罪が問題とされる。


このような場合、私服保安が刑事責任を問われるだけではない。
それが人権侵害としてマスコミに取り上げられれば、店のブランド・信用が大きく傷つく。


しかし、犯人の言いなりになっていては事後処理がスムーズに進まない。

強制はできないが、“頼むこと・誘うこと・説得すること”は構わない。

それを犯人が“命令・強制”と勘違いしても知ったことではない。

警察官が任意取り調べで行うやり方である。
知っておいて損はない。


1.「盗ったこと」・「保安室へ行くこと」を認めさせる方法


(1)ガツンとかます


万引き犯人に“声かけ”すると、ほとんどの者は「盗るつもりでなかった」と言い訳したり、逆に食ってかかってきたりする。

私服保安はこれに言い負けてはならない。


たとえば次のように言う。

・『何を言っとるンや!ここまで来たらもう言い逃れはできへんのや!
    そんな言い訳が通るとでも思っとるンか!
    こっちはプロなンじゃ!なめとったら痛い目にあうぜぇ!』

※「痛い目にあう」は少々乱暴な言葉だが、逮捕行為には実力行使が伴うので嘘ではない。

・『商品を返してそれで済むとでも思っとるンか!
    お前は窃盗罪で現行犯逮捕されとるンやゾ!分かったか!このボケがぁ~!』

※「ボケ」と言っても人権侵害に該らないだろう。

・『オイ!逃げたら罪が重くなるのを知っとるな!』

※犯人が逃げても、窃盗罪から強盗罪に変わることはない。
 (事後強盗罪-万引きをして死刑になる場合がある・選任の法律知識第7講)
しかし、情状酌量の点から「逃げない方が」刑罰は軽くなる。

・『オット!抵抗したら強盗罪になるぜぇ~!強盗罪なら、5年以上だぞ!』

※これは本当である。(上記事後強盗罪)


とにかく犯人になめられてはいけない。

一発かまして相手の出鼻をくじき、相手の腰をひかせることが大切である。

そのために、少々荒っぽいことを言っても構わない。

言葉は後に残らないから。


(2)安心させて自白させる


ガツンとかませば、犯人は観念する。

ここで「犯人に自白させる」ことを忘れてはならない。

犯人自身の口から「盗った」と言わせれば、犯人は完全に諦めてしまう。

犯人を完全に諦めさせてしまえば、後々の処理がスムーズに進む。


しかし、ガツンとかまされた犯人は、「これから何をされるのか?どうなるのか?」と怖くなり口を閉ざしてしまう。

そこで、犯人を優しくなだめて安心させ、犯人の恐怖心を取り除いてやらなければならない。


たとえば、

・『あなたに言い分があるのは分かりました。
    それを静かなところでゆっくりと伺いましょう。』

・『私はこの店の者で警察官じゃありません。商品さえ戻してもらえばそれでいいのです。』

・『このまま、あなたを帰すわけにはいかないンですよ。
    こちらにはこちらの手続きがありますから。
    まあ、そんなに時間はかかりません。型通りの書類を作るだけですから。』

・『こっちも忙しくてねぇ。こんな少額の万引きにあまり時間を使えないンですよ。
    手続きだけですから、パッパとやってしまいましょうよ。』

このように「大事にはならない」ことを犯人に期待させて安心させるのである。


犯人を安心させた後、『盗ったのでしょう…?』と優しく言えば、犯人は『スイマセン。』と素直に自白してしまう。


犯人が自白したら、それを褒ほめておこう。

・『君の口からその言葉を聞きたかったンだよ。
    「悪いことをした。」と認めることが、人間には大切なンだよ。よく言ってくれたね。』

もう、犯人はこちらのペースに乗せられている。


(3)保安室への同行を認めさせる


次に、「保安室へ来てくれるように」犯人に頼まなければならない


『ちょっと、保安室まで来い。』とか『保安室へ行こう。』と言うと、強制や命令となってしまう。

『それじゃあ、保安室まで来てくれるか。』とか『保安室へ行こうか。』と頼んだり誘ったりすればよい。

犯人にしてみれば、捕まった後で『来てくれるか。』とか『行こうか。』と言われれば、それを強制や命令と思うだろう。

しかし、それは「犯人の勘違い」にすぎない。


保安室への同行を嫌がったり拒否したりする者もいる。

そんな犯人に対しては、「保安室へ来た方がよい」ことを説明してやればよい。


たとえば、

・『嫌なら無理にとは言わないけど…。
    それなら、ここへパトカーを呼んで警官に引き渡すことになるよ。

    もちろん、パトカーが来るまでここで君を捕まえたままにしておかなければならない。
    皆がジロジロと見ていくよ。
    君がパトカーに乗せられるのを近所の人や友達が見るかもしれないよ。
    それでもよければ、そうするけど…。』


相手によっては、これを強い語調で言えばよい。

・『なんやったらここへパトカーを呼んで連れて行かしたろかぁ~!
    それまで、力ずくでお前をここに止めておくからな!
    現行犯逮捕やからそれができるンじゃ!

    皆が見ていくぞ。知り合いが見たら格好悪いンとちゃうか!
    保安室へ来た方が身のためやゾ!』


ここまでで、ほとんどの犯人が保安室へ行くことを同意する。

稀(まれ)に「盗ったことも認めない、保安室へ行くことも拒否する」者がいる。

そんな“したたかな犯人”に対しては、次のようにするしかない。


・『分かった、分かった。これ以上言っても無理だな。』と言って、犯人をその場に押さえつける。
  そして、ケイタイで110番してパトカーが来るまで犯人を押さえつけておく。

最後の最後には実力行使である。

それを犯人が選んだのだから仕方がない。


つづく

 





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