SPnet私服保安入門
(7)犯人と一緒にいた仲間をどうするか?
万引き犯人と一緒にいた者は「万引きをしている」可能性が高い。
私服保安が現認していないだけで、彼らも盗った商品を持っていることが多い。
彼らから盗った商品を回収できれば、それだけ店の被害を少なくすることができる。
そこで、私服保安は万引き犯人と一緒にいた者を犯人と一緒に保安室へ連れていき、盗っているかどうかを調べることがある。
これについて検討しよう。
a.「連れてきて自白させる」やり方
犯人と一緒にいた者にこう言う。
・『これから、この子(犯人)に保安室でいろいろ事情を聞くンだけど、この子独りでは可哀相じゃない?
この子が心細いと思うから、傍にいてやってよ。友達でしょう?』
・『君はこの子(犯人)と一緒にいたのだから、この子の行動については君が一番よく知っているだろう?
友達が不利にならないように弁護してやってよ。』
犯人と一緒にいた者を保安室へ連れてきたら、次のように言って持ち物を出させる。
・『別に君を疑っている訳じゃないンだ。でも、一緒に行動していたからねぇ…。これも我々の仕事なンだよ…。
嫌なら無理にとは言わないけれど、一応、バッグの中を見せてくれるかな…。』
ここで、不審な商品が出てきたら、問いただして「盗ったこと」を自白させる。
不審な商品が出てこなかった場合は次のようにする。
・まず諭さとす。
『君はこの子が万引きするのを見ていたンだろう?
だったら、それを止めなければいけないじゃないか!
友達が悪いことをしているときに、それを止めるのが友達だろう?』
・そして、一筆書かせる。
「私は友達の○○君と一緒にいました。
○○君が万引きをするのを見ていましたが、何も注意をしませんでした。
これからは、友達が万引きするのを見つけたら、その友達のためにそれを注意して万引きを止やめさせます。日付・署名」
決して、『あっ、ゴメン、ゴメン。』で済ませてはならない。
後で、その者や保護者が『万引き扱いされた。』と文句を付けてくるからである。
一筆書かせておけば、これに対抗できるのだ。
b.「欲を出すとけがをする」から、連れてこない方がよい
犯人と一緒にいた者を上のように取り扱うのは危険である。
・その者が不審な商品を持っていて「盗ったこと」を自白しても、後で自白を翻せば「盗ったこと」を証明できなくなる。
私服保安の現認がないからである。※棚取り現認とは
また、その者が不審な商品を持っていなかった場合、つまり万引きしていなかった場合には、
「私服保安が万引き扱いをした」とクレームをつけてくる。
「これからは友達の万引きを止めさせます。」との念書を書かせてあっても、
その者が「無理やり書かされた。」と言えば念書の意味がなくなってしまう。
それどころか、「無理やり書かせた」として強要罪や人権侵害が問題となる。
では、犯人と一緒にいた者でばなく「犯人自身」のバッグ・コインロッカー・車の中から出てきた盗品についてはどうだろう。
これらの商品も私服保安の現認がないから、犯人の自白がなければ「盗ったこと」は証明できない。
これらの商品について犯人を問いただすことは許されるだろうか?
この場合はこれらの商品について問いただしてもかまわない。
なぜなら、
・私服保安は他の商品について犯人の犯行を現認している。
・現認した商品については犯人の自白がなくてもその者が盗ったことを証明できる。
・犯人の自白がなくても盗ったことを証明できるから、その者は万引き犯人である。
・万引き犯人を「万引き扱いする」のは当然のことである。
・店の商品を盗った者に、その者が盗ったかもしれない商品について事情を聞くのは許される。
私服保安は“+α”を欲張ってはいけない。
“+α”は「万引き行為を現認した犯人」から引き出すべきである。
万引き行為を現認していない、犯人と一緒にいた者から引き出そうとしてはいけない。
c.犯人と一緒にいた者の法律上の立場は、しかし…。
万引きを唆(そそのか)したり見張りなどをして万引きを助けたりすると、
窃盗罪の共犯(教唆犯・幇助犯)として犯罪になる。
※第13講.教唆犯・間接教唆犯,第14講.幇助犯(選任のための法律知識)
「唆す」・「助ける」こと自体が犯罪になるので、商品を持っていなくても構わない。
また、わが国の裁判所は、『万引きしよう。』と相談していたら、
一方が盗ってもう一方が盗らなくても、盗らなかった者にも窃盗罪が成立する。
※第15講.共同正犯・共謀共同正犯(選任のための法律知識)
私服保安が万引き犯と一緒にいた者を“窃盗罪の共犯・共謀共同正犯”と疑うのは当然である。
だから、一緒にいた者に保安室へ来てもらって事情を聞いてもそれなりの理由がある。
しかし、その者が教唆・幇助・共謀を認めなければ、教唆・幇助・共謀を証明することはできない。
一緒にいた者を教唆・幇助・共謀共同正犯で有罪にできなければ“誤認”と同様の結果になってしまう。
つまり、私服保安の取り扱いが刑法上それなりの理由があっても、店に迷惑がかかってしまう。
だから、私服保安は「相手を確実に有罪にできる場合」だけしかアクションを起こしてはならない。
万引犯人と一緒にいた者を窃盗罪の共犯や共謀共同正犯として扱うのもやってはいけないのである。
なお、万引き犯人と一緒にいた者が、犯人から“盗った商品”をもらうことがある。
これは、窃盗罪とは別の犯罪である。
「それが盗られたものであることを知って、もらう・買う・運ぶ・保管する・売買を斡旋する」のは盗品等に関する罪(刑法256)である。
※もらうのは3年以下の懲役、その他は10年以下の懲役・50万円以下の罰金
これを証明できる事実があれば、犯人と一緒にいた者を現行犯逮捕できることは当然である。
つづく