SPnet私服保安入門


2.犯人を同行させるときの注意

 




一口に言えば「逃げられるな、捨てさせるな、人目を避けて保安室へ」である。


犯人は隙すきがあったら逃げる・商品を捨てる。

私服保安はこれを充分に覚悟しなければならない。

逃げられたら犯人からのクレーム。商品を捨てられたら誤認逮捕となる。

注意点をいくつか説明しよう。


(1)犯人のバッグを取り上げてしまえば逃げない


「逃げられない・捨てさせない」ためには、犯人の持っている「商品の入ったバッグ」を取り上げてしまえばよい。

バッグの中には犯人の財布や免許証が入っているだろう。

それを取り上げてしまえば、犯人は逃げようとしない。

もっとも、“万引き慣れ”している者は身元が分かるようなものを持っていないが…。


もちろん、バッグを取り上げるには犯人の同意を得なければならない。

保『そのバッグの中に店の商品が入っているから、持たせてもらうよ。』

必ず“依頼”しなければならない。


(2)犯人の同意があっても衣服を掴(つかむ)な


逃げられないように、犯人の腕を掴んだり衣服を掴んだりするのは問題である。

保『ちょっと、服を持たせてもらうよ。』と“依頼”して犯人の同意を得たとしても問題である。

周りの者には“強制連行”と見えてしまうからだ。


そして、『あの子は万引きしたンだな。だから私服保安に連れられていくンだ。』と分かってしまう。

「犯人の身体を掴ませてもらう」のは「犯人のバッグを持たせてもらう」のとは見えかたが違うのだ。

それを犯人の知り合いが見ていたら、犯人の社会的信用が著しく低下する。

そうでなくても、犯人は“さらし者”にされたことになり人権を侵害されたことになる。


一方、犯人が逮捕されるときに、それを犯人の知り合いが見ていたり、犯人が“さらし者”になったりしても仕方がない。

それによって犯人の信用・人権が侵害されても仕方がない。

現行犯逮捕は「犯人の意に反して行われる強制行為」だからである。


しかし、保安室への同行は「犯人の自由意思による行為」である。

保安室への同行中に犯人が「自分の信用・人権を侵害される理由」はないのである。


(3)いつでも犯人を捕まえられるようにする


私服保安は「犯人の斜め後ろに付く」。

犯人に通路の端を歩かせ、そのすぐ右後ろを歩く。

通路の端には商品棚や売場がある。

犯人が逃げようとしても商品棚が障害物になって逃げにくい。

犯人が売場に逃げ込んでも“袋のねずみ”となる。


研修生に犯人を同行させると、商品の入ったバッグを持って意気揚々と犯人の前を歩いていく。

私が定位置にいるからよいが、私がいなければ
『ウェ~ン!振り向いたら、犯人がいなぁ~いッ!』。

犯人に逃げられたら、『ウェ~ン!』だけでは済まない。
そのあとには恐ろしい「誤認逮捕扱い」が待っている。


(4)できるだけ早くバックルームへ入れてしまう


私服保安が犯人の腕や衣服を掴まずに平静を装っていても、周りの者には「万引き犯と私服保安」であることがすぐに分かる。

だから、人目の少ない場所を通り、できるだけ早く人目のない場所に入らなければならない。

売場を通るよりも店外を通る。売場の中よりもバックルームを通る。

私服保安は「どの経路を通れば早くバックルームに入れるか」を知っておかなければならない。


バックルームへ入れば、犯人は逃げにくくなる。

少々の強制があっても一般客は見ていない。

バックルームにはこのような副次的効果もある。


(5)同行中に犯人を洗脳する


同行中に犯人を洗脳することも必要である。

たとえば、

・『素直に認めてくれればそれでいいンだよ。オオゴトにしないから…。』
・『嘘をついたり変な言い訳をしたりすると、手続が遅れるからね。協力してくれたら、それだけ早く終わるから。』
・『そうか、これから遊びにいくのか。いいなあ、若い者は!じゃあ、パッパッとやってしまおうよ。』

女子高生なら、遠足に行くように浮かれて小走りに保安室へ向かっていく。
すぐあと始まる“地獄”を予期していないのだ。


とにかく、なだめすかして保安室へ連れてくることが大切である。

保安室へ入れてしまえば、「もう、こちらのもの」である。

あとはどのようにでも料理できる。


以上に説明した注意点は、場数を踏んで初めてできることである。

私服保安は犯人逮捕という大事を済ませたばかりである。その興奮がまだ冷めてはいない。

犯人が逃げてこれを捕まえた場合はなおさらである。

犯人の襟首えりくびを掴んで引きずってきたり、
犯人の腕をねじり上げて見せびらかすように連れてきたりしてしまうのである。

私の遠い記憶の中にも“そんな場面”があるようだ。

A『もっと、凄い場面がありましたよ…。』


つづく

 





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