SPnet私服保安入門
c.犯人の自傷・逃亡・攻撃を防ぐために
次の点に注意しなければならない。
①.保安室に「犯人自傷・攻撃の道具となる物」を置いておかない
「固いもの尖ったもの」なら何でも危険である。
傘や花瓶も要注意。
保安室の机の上には何も置かないようにする。
氏名等を書いてもらうのに犯人に渡したボールペンはすぐに返してもらう。
私服保安が書類作成に使うボールペン・ホチキスなどから目を離さない。
②.犯人を座らせる位置は“机を挟んだ奥”
逃げにくくするためである。
初心者がときどき失敗することである。
・新人女性私服保安が書店で万引き犯人を捕まえた。
・そして、書店の事務室で事後処理をした。
・犯人が男だったので、私服保安はショッピングセンターの制服警備員を呼んだ。
・制服警備員に事務室の中に入ってもらい、出入口ドアの横で犯人の方を見ていてもらった。
私服保安はこれで安心したのか、自分が机の奥に座り犯人を出口側に座らせた。
私服保安が書類作成で犯人から目を離した隙に、犯人が事務室から逃げ出そうとした。
制服警備員はドアの横に立っているだけで、犯人を制止しようとしなかった。
犯人は警備員の目の前を通り、事務室から逃げてしまった。
他人を頼ってはいけない。
どんなときでも、原則を外してはいけない。
必ず、犯人を座らせる。
座らせれば、犯人は落ち着く。攻撃しにくくなる。立たなければ逃げ出せない。
攻撃や逃げ出す気配があれば、机を犯人に向かって押せば防げる。
机をはさむのはそのためである。
③.犯人を独りにしてはいけない
商品の値段を調べるとき、店担当者と秘密の話をするとき、警察へ連絡するとき。
少しの間でも犯人を独りにしてはいけない。
必ず、制服警備員に犯人の監視を頼んでおく。
警備員の監視が行き届かず、犯人が逃げたり自傷したりしてもそれは警備員の責任である。
警備員に監視を頼まなかった場合は私服保安の責任となってしまう。
④.気を抜いてはいけない
・顔を上げたら、犯人が舌を噛んでいた。
・顔を上げたら、犯人が靴下に隠していたナイフを持っていた。
犯人がどれだけ素直でも、どれだけニコニコしていても、次の瞬間に何が起こるか分からない。
危機意識を持って犯人と接しなければならない。
d.前科・前歴のある者や常習犯はかえって楽
前歴がある者や常習犯は「警察渡しになっても、たいしたことにならない」と知っている。
服役経験のある者は「素直にしていないと自分の立場が悪くなる」と承知している。
前科や前歴のある者は、逃げ出そうとしたり、興奮したり、暴れたりすることはない。
私服保安にとって一番扱いやすい相手である。
・事例45.『この前の男なぁ…。』『ええ~ッ!』
私は警備室にいた。
そこへAさんが年配の紳士を連れてきた。
二人は各々食品が一杯詰まった店内カゴを持っている。
Aさんが一つ、紳士が二つ。
紳士がAさんを手伝っているようである。
私と警備員は「お客さんの具合が悪くなったので、警備室に来てもらったのかなぁ…。」と顔を見合わせた。
紳士とAさんが保安室へ入っていく。
「えっ?万引きなの!」
「食堂でもやっているではないか」と思うくらい多量の食品だった。
紳士が警察官に連れられていった後、Aさんに事情を聞いた。
紳士は2~3日前にカップ麺と菓子パンを盗った。
Aさんは少額なので見送った。
今日はカート上下に大量の食品を載せて店外したので捕まえた。
Aさんが声かけすると、紳士は首をうなだれてこう言った。
紳『刑務所に行かなければならないンですね…。』
Aさんは「紳士に万引き逮捕歴がある」と察して彼を励ました。
A『過去のことは済んだこと。そんなにクヨクヨしないで。たかが万引きじゃない!』
その後、彼はとても協力的だった。
後日、警察官が被害届を持ってやって来た。
警察官がAさんに小声で言った。
警『この前の男なぁ…。人を殺していたよ。』
A『え~っ!』
警『しかも殺されたのは女だよ…。』
A『エ~ッ!』
これが本当かどうか分からない。
警察官がAさんに冗談を言っただけかもしれない。
(3)犯人が女性の場合は女性立会人が必要 - 店に断られたらこう言え
犯人が女性で私服保安が男性の場合は必ず“女性の立ち合い人”が必要である。
セクハラが関心事となっているので忘れてはならない。
保安室は密室である。
女性犯人が大声で『キャア~ッ!何をするの!』と叫んだら、男性私服保安の『何もしてないよ!』は通らない。
社会の一般常識では「男はいやらしいことをする動物」なのである。
店には余った人間がいない。
事務所に『女性の立会人をよこしてください。』と頼んでも断られることがある。
事『女性事務員はみな出払っているンだ…。行く者は誰もいないヨ…。
犯人は70歳のオバアサンでしょう?「変なことをした」とは誰も思わないヨ!』
ここで「しかたがないか…。」と遠慮してはいけない。
問題が起これば店に迷惑がかかるからである。
店に危険を及ばせないのがプロである。
保『ダメです。70歳でも80歳でも女性です。
「女性の立会人を付けなかった」こと自体が問題になるかもしれません。
何があるかは分かりません。問題が起こったら店長の首が飛びますよ。』
ここまで言えば、なんとか都合をつけて女性従業員をよこしてくれる。
なお、女性犯人と女性私服保安の場合は、女性立会人を付けないのが一般である。
つづく