SPnet私服保安入門
(4)犯人の所持品検査の正しいやり方-間違うと大逆転
a.私服保安が案外知らない「違法捜索・違法押収・違法検証になる場合」
イ.犯人の同意があっても犯人にやらせる-『同意なんかしなかった。』と言われたら違法捜索
私人である私服保安は犯人を現行犯逮捕したあと、犯人の所持品を捜索・押収・検証することができない。
・所持品とは「犯人が持っている物すべて」。
・捜索とは「犯人のポケットやバッグの中を強制的に調べること」。
・押収(差押)とは「物を強制的に自分の支配下に置くこと」。
・検証とは「物を強制的に調べること」。
犯人の私物はもちろん、犯人の持っている“盗った商品”も犯人の所持品である。
犯人が盗った商品は店の所有物であるが、犯人の所持品として犯人に法的な保護が与えられている。
犯人が盗った商品を含め、犯人の持っているものを私服保安が勝手に調べたり取り上げたりすると違法行為となる。
もちろん、犯人の同意があれば違法行為にならない。
しかし、犯人が「同意なんかしなかった・無理やり同意させられた」と言い出したら「強制的にやった」と疑われる。
たとえば、
保『悪いけど、そのバッグに入っているものを全部机の上に出してよ。』
犯人はバッグを机の上に置いてこう言う。
犯『構わないから、あんたが出してよ。』
私服保安がバッグを開ける。
突然犯人が声を荒らげる。
犯『何をするンだ!勝手に俺のバッグの中を見るな!違法捜索だ!』
犯人にポケットの中味を出してもらった。
保『もう何も入っていないよナア?』。
犯『疑い深いなぁ!なんなら、調べてみたら?』
私服保安がポケットに触る。
犯『違法捜索だ!』
保『いま、そうしても構わないと言ったじゃないか!』
犯『そんなことを言った覚えはない!』
第三者が私服保安と犯人の会話を聞いていればよいが、誰も聞いていなければ私服保安は窮地に立たされる。
犯人の所持品を出させるときには、犯人にやらせなければならない。
犯人の同意があっても、私服保安が犯人の衣服・バッグに触ってはならない。
犯人が『あんたが出してよ。』と言えば、
保『自分のものだから自分が出せよ!あんた、自分が悪いことをしたンだよ!』
バッグやポケットに何か残っているようだったら、
保『バッグを逆さにしてみてよ。』
保『ちょっと悪いけど、そこで飛んでみてよ。』
まだ、怪しければだめ押しをする。
保『警察官も同じことをするよ。もし、バッグやポケットに何か残っていたらマズいことになるンじゃない。』
犯人が凶器を隠しているような場合は、
保『ポケットにまだ何か入っているようだけど、物騒なものじゃないンだろうネ?』
犯『心配なら自分で調べてみたら?』
ここで、私服保安は周りの者に聞こえるように大きな声で言う。
保『いいンだな?ポケットに触っていいンだな?いまから触るぞ!』
こうすれば「犯人の同意があったこと」を周りの者が証言してくれる。
ロ.スキャンテストで「犯人の盗った商品」を持ち出すときは犯人の同意を得る-勝手に持ち出すと違法押収
犯人の所持品を机の上に出させるのは押収にならない。
私服保安の支配下に置かれていないからだ。
しかし、「値段調べ・スキャンテスト」のために、
犯人の前から商品を売場や事務所へ持っていけば、商品を私服保安の支配下に置いたことになる。
犯人が盗った商品は犯人の所持品である。
犯人の所持品を犯人の同意なしで私服保安の支配下に置けばそれは押収となる。
必ず、犯人の同意を得なければならない。
万引き犯はそこまで法律に詳しくはない。
しかし、詳しい者もいるかも知れない。
周りの者に聞こえるように大きな声で、
『商品の値段を調べるために、商品を持ち出すけれど構わないな?』と犯人の同意を求めなければならない。
※詳細は → こちら
ハ.「犯人の盗った商品」を点検するときは犯人の同意を得る-勝手にやると違法検証
「パッケージが破れていないかどうか」商品を点検するのは“検証”である。
犯人がポケットやバッグから出した「盗ったに違いない商品」を調べるのも“検証”である。
これらのことをするのにも犯人の同意を得なければならない。
・保『パッケージが破れていると売り物にならないから調べさせてもらうよ。』
・保『この商品はどうしたンだ?店の商品かどうか調べさせてもらうよ。』
・保『えっ?盗ったものではなく、自分が使っているものだって?じゃあ、ふたを開けて調べるよ。いいね?』
ニ.犯人の免許証を手に取るときは犯人の同意を得る-勝手に手に取ると違法押収
保『免許証かなにか身分を証明するものを持っている?』
犯『免許証があります。これです。』
犯人が免許証を机の上に置いた。
私服保安がその免許証を手に取る。
犯『なにをするンですか!僕の免許証を勝手に取り上げるのですか!』
犯人が自由意思でしたのは「免許証を提示したこと」である。
犯人は自分の免許証を私服保安が見ることを同意したのである。
だから、私服保安が提示された免許証を見ても構わない。
しかし、犯人は私服保安が免許証を手に取ることまで同意していない。
犯人が提示した免許証を犯人の同意なしで手に取れば違法押収となる。
・犯人が免許証を机の上に出したら、
保『君の氏名・住所を確認させてもらうよ。免許証を少しの間こちらへ預からせてもらうけど構わない?』
犯『はい。』
これで私服保安は免許証を手に取ったり自分の方に引き寄せたりすることができるのだ。
・犯人の身元を確認したら免許証等はすぐに返さなければならない。
書類に挟んだままにして、返すのを忘れていると大問題になってしまう。
ホ.私服保安が違法捜索・押収・検証をすると-犯人が騒げば最低でも無罪放免、最悪の場合は私服保安が犯罪者となる
違法捜索・押収・検証をすると強要罪・窃盗罪が問題となる。
私服保安に犯罪容疑がかかってしまう。
刑法上の犯罪に該らなくても、「プライバシー権侵害」で損害賠償の対象となる。
そもそも、「私服保安が万引き犯人に違法行為をしたこと」自体がスキャンダルとなってしまう。
犯人がこれを問題にすれば、最低でも「犯人に謝罪して、万引きがなかったこと」にしなければならない。
犯人が損害賠償請求を起こしたりマスコミに話したりしたら、その火を消すのに多額の金を積まなければならない。
その火を消すことができなければ、店の信用・ブランドを傷つけてしまう。
もちろん、店は私服保安の所属会社との契約を解除するだろう。
したたかな犯人は「私服保安の違法捜索・押収・検証」を虎視眈々こしたんたんと待っている。
b.犯人は盗った商品を隠す
なぜ、こんなことをするのだろう。
証拠は完全に揃っている。
今さら盗った商品を一つや二つ隠しても何にもならない。
「盗った商品が少なければ、それだけ罪が軽くなる」とでも思っているのだろうか。
・机の下に商品の一部を隠す。
犯人の座っている場所や机の下も調べなければならない。
・机の上に出された犯人の所持品の中から、盗った商品まで「自分のものだ」と選んでバッグに入れる。
犯人が“盗ったらしい商品”を「自分のものだ」と選んだら、犯人を問い質さなければならない。
・盗った商品を犯人が身につけていることもある。
ある万引犯人は、下着から着ているものすべてをトイレで着替えていた。
そして、自分が着ていた下着・衣服をバッグに入れていた。
犯人のバッグから“使用済みの下着・衣服”が出てきたら、犯人の着ているものについて問い質さなければならない。
・犯人の持っているバックも盗ったものかもしれない。
・犯人のしている腕時計やチタンバンド、耳のピアス、ズボンのバンド、履いている靴。
犯人の持っているものすべてを疑う必要がある。
盗った商品の一部を隠されたり、私服保安がそれを見落としたりしても、
警察官がもう一度しっかり調べるので、店に損害が及ぶことはない。
しかし、被害商品が後から増えると私服保安は書類を書き直さなければならない。
また、私服保安としてチョット恥ずかしい思いをする。
私が新人の頃である。女性万引きを捕まえた。
勤務終了後、報告書を総務課長に持っていった。
総務課長の机の上に真新しいハイヒールが置いてある。
私『このハイヒールはどうしたンですか?』
課『いま、警察官が持ってきてくれたンだよ。』
私『落とし物ですか?』
課『山河さんが夕方に捕まえた女性がネ、履いていたンだって!』
つづく