SPnet私服保安入門


(9)犯人を独りで帰すな -警察渡し,保護者渡し,学校連絡だけ。職場連絡は不可

 




万引き犯人は警察官か保護者に引き渡さなければならない。

事件を警察沙汰にしないときでも犯人を独りで帰してはならない。

私服保安は保安室に連れてきた犯人の身の安全を守る責任がある。

その責任から開放されるのは、「犯人の身の安全を守れる者」に犯人を引き渡したときである。


a.犯人を引き渡す相手


犯人を引き渡す相手は警察官か保護者である。


・警察渡しが原則


警察官に犯人を引き渡すのが一番よい。

あとあと問題が起きることがないからである。

ほとんどの店がこれを原則としている。

ご丁寧に「貼り紙」をしている店もある。
「当店では被害金額の多少に関わらず、万引きを発見したときは警察に連絡いたします。」


・保護者渡しもある


“警察扱い”ができない場合がある。

・逮捕が弱い場合・私服保安側に何らかの非がある場合である。[※Ⅱ-(9)-d]

・犯人が店関係者で、それを外部に知られては都合が悪い場合もそれである。

・好意的に“警察扱い”にしない場合もある。

  被害額が僅少(きんしょう)・犯人が年少で刑事責任能力がない・特に情状酌量する余地がある・保護者が一緒にいる等々。


しかし、保護者がすぐに来ることができずに犯人引き受けに時間がかかる場合は、“警察渡し”にした方がよい。

犯人を誰かに引き渡すまで、私服保安は犯人の安全を確保する責任がある。

何が起こるか分からない。

私服保安はできるだけ早くその責任から開放された方がよいのである。

『仕事中で、行けません。』と言う保護者には、

『じゃあ、仕方がないので警察に渡します。』と言えばよい。

保護者は何とか都合をつけてやって来る。


・効果のある学校連絡


案外効果的なのが“学校連絡”である。


“警察渡し”にしても、警察から学校へ連絡することはない。

中高生万引きは、警官に叱られ調書を取られて親に引き渡される。

最近の親は子供に甘いから子供を叱らない。
「私たちの夫婦仲がうまくいっていないから…。」とか「仕事が忙しくて、子供を構ってやらなかったから…。」と自分たちを責める。

子供は反省しないから万引きを繰り返す。


・学校へ連絡すれば、教師が教育的見地からいろいろと指導してくれる。

・全校生徒に「万引きをしてはいけない。」と指導もしてくれるだろう。

・私服保安にも大義名分が立つ。

保『おたくの学校の生徒さんが当店で万引きをしましたので保護しています。
     本人たちの将来を考えて、警察に連絡するよりは学校へ連絡した方がよいと考えました。
     当店としては、先生の方からよく指導していただければ事を荒立てることは致しません。
     お忙しいでしょうが、来ていただけるでしょうか?』

先生はすぐにやって来る。

担任・学年主任・生活指導の三人の先生方がやって来ることもある。

私は、夏休み・冬休み前によく学校連絡をした。

効果は上がったようである。

もっとも、“生徒をコントロールできない先生”では効果はないが…。[※事例43]


・勤務先連絡をしてはいけない-犯人の同意なしで連絡すると名誉棄損罪や人権侵害


『警察連絡だけは勘弁してほしい。近親者は近くに住んでいない。
   世話になっている会社の上司に身柄引受を頼んでみる。』という犯人もいる。

こんな場合は勤務先に連絡しても問題はない。

それを犯人が望んだからである。


しかし、犯人が望んでもいないのに勝手に犯人の勤務先に連絡してはならない。


“学校連絡”が“警察渡し”より効果的なのと同じように、“勤務先連絡”も非常に効果的である。

しかし、「効果的かどうか」は店側の都合である。

犯人は自分のやった犯罪について刑罰を負わされる。

犯人は店に与えた損害についての賠償責任を負わされる。

犯人はこれ以上の責任を負わされる理由はない。


犯人の勤務先がその犯罪を知ったら、その者を解雇するかもしれない。

少なくとも犯人への信用・信頼は下がってしまう。


裁判になって勤務先が犯人の犯罪を知ったのなら仕方がない。

しかし、店の都合でそうされたのなら犯人はそれを甘受する必要はない。

犯人は「個人情報の漏洩・それによる人権侵害」を理由に私服保安と店に損害賠償を請求するだろう。

場合によっては名誉棄損罪も問題となる。


じゃあ、学校連絡もダメじゃない!


学校は教育機関である。
「犯人の将来を考えて連絡した」と逃げられる。

犯人の勤務先は教育機関ではない。
「犯人の将来を考えた」とは言えない。

また、警備員には「職務上知り得た事実を他に漏らしてはならない。」という守秘義務がある。

「勤務先への連絡」はこの守秘義務に反することにもなる。


店の従業員や店長は警備員でないので法的な守秘義務はない。

しかし、「現行犯逮捕後に警察官へ犯人を引き渡すことだけしか認められていない」のは同じである。

勝手に勤務先に連絡することは現行犯逮捕の中には含まれていない。


「万引きを発見したときはすぐに勤務先に連絡いたします。」という貼り紙を目にする。

万引きを牽制するためには効果的だろうが、実際に勤務先に連絡するのは止めた方がよいだろう。

「そのような貼り紙をしたから、そうされることに犯人の同意があった。」とは認められない。
「無断駐車された方は、金5万円を支払っていただきます。」という貼り紙と同じである。

貼り紙の効果は「万引きを牽制する」ことだけに止(とど)めなければならない。

安易に“勤務先連絡”をしたら莫大な代償を負わされることになるだろう。


つづく

 





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