SPnet私服保安入門


         
h.警察官が「無罪放免」とした事例

 




私が『えっ?事件にしないの!』と驚いた事例である。

万引きをしようとしている方は参考にしてほしい。

「否認する」ことはこれだけ有利なのである。


・事例49.猛り狂う旦那をなだめる警察官


初夏・18時30分すぎ。

2F子供服売り場。

女性が男の子にTシャツを合わせている。男の子は4歳くらい。

女性は25歳すぎ。ジーンズにノースリーブシャツ。両肩にタトゥー。

尻の高さ・胸の豊かさで日本人でないと分かる。

女性は男児Tシャツをレジで支払い、カートを押して玩具売場に移った。


・現認


18時45分。

女性が“箱入りのテレビゲーム機(5980円)”をカート下段に載せた。

「いろいろとカートに載せて店外だな…。」


しかし、女性は家電 → 文具 → ダイニング と移動したが2点目を載せない。

そのまま、カートを押して男児と一緒に2F専門店街へ出ていった。

女性が盗ったのは“カート下段のゲーム機”だけである。

「単品禁止」に引っかかる。


しかし、これから専門店街で盗るかもしれない。

私は尾行を始めた。


女性が靴専門店に入り男児の靴を品定めし始めた。

私は玩具売場mgr に連絡した。

「女性がカートに載せたゲーム機が今日売れているかどうか」を確認するためだ。

売れていれば、女性が少し前にそのゲーム機を買って商品棚に忘れ、それを取りに戻った可能性がある。

売れていなければ、その可能性はなくなり、女性がゲーム機を盗った可能性が高くなる。

売場mgrは『少し時間がかかります。』と答えた。


私は靴専門店に入り、女性のカート下段のゲーム機を確認した。

“買い上げシール”が貼ってない。

“買い上げシール”とは、商品をレジ袋に入れない場合に商品に貼る「清算済み」を示すシールである。


女性と男児は靴屋を出て、ショッピングセンター2F端のフードコートに入った。

売り場からの連絡はない。

このまま出ていかれたら見送るしかない。

彼女たちはハンバーガーを注文して食べだした。

私は少し離れてコーヒーを飲む。


売場mgrから連絡が入った。『今日その商品は売れていません。』

私は検挙するかどうかを考えた。

“単品禁止”は次の理由から課せられている。

・現認間違いを防ぐ。
・犯人が盗った商品を密かに捨てる。
・“はめ込み”。


現認は確実である。商品はカートに載せたままで見えている。

あとは“はめ込み”だけである。

しかし、女性は私の尾行に気づいていない。スーパーマーケットゾーンを出てもう30分が経っている。

「はめ込みなら、こんなに時間をかけることはないだろう。」

私は、単品検挙を決めた。


・「確実に店外させよう」


スーパーマーケットゾーンを出ているので女性を捕まえることができるが、女性は外国人のようである。

『ニホン、システム、ワカラナイ。ドコデデモハラエル、チガウカ?』と逃げられてしまう。

私は女性をショッピングセンターの建物外に出てから捕まえることにした。


女性と男児が席を立った。

そして、近くの100円ショップに入った。

女性は台所用品2~3点を買って100円ショップを出た。

そして、フードコートの前を通りエレベーターに乗った。

カート下段の商品はそのままである。


私はエレベーターに駆け込んだ。

女性は『あ~っ、びっくりした。』と独り言。


エレベーターが1Fに着いて女性たちが降りる。

私が続いて降りると女性が振り返った。

勘づかれたかな?

女性は1Fショッピングセンター端のスポーツショップに入った。


このスポーツショップの出入口は一つだけ。

・女性が私の尾行に気づいたのなら、カートのゲーム機をショップ内に放置して出てくるだろう。

  女性が出てきたときにカートにゲーム機がなければ、ショップ内を捜してそれを回収すればよい。


・女性がゲーム機をカートに載せたまま出てくれば、私に気づいていない。

  女性はそのまま建物外に出るだろう。

  建物出口はこのショップのすぐ横だ。


私は建物出入口の風除室で女性がショップから出てくるのを待った。


女性がショップから出てきた。ゲーム機はそのままだ。

私は女性が建物出入口に向かってくるのを待った。


しかし、女性は私に背を向けてエレベーターの方に向かっていく。

「出ないのか!」

私は風除室を出て女性を追った。


私がエレベーター前に着いたとき、エレベーターのドアが閉じた。

中にカートを押した女性と男児が乗っている。

私はエレベーターに乗りこめなかった。

「逃げられる!」


エレベーターランプが3Fで止まった。

私は階段を駆け登った。

しかし、3F立体駐車場に女性と男児はいない。


「落ち着け!女性は最初に1Fに降りた。車は平面駐車場にあるはずだ。女性は1Fに下りたのだ!」

私はすぐにエレベーターで1Fに向かった。

しかし、1Fエレベーター近くに女性はいない。

「遅かった!逃げられた!」


そのとき私の乗ってきたエレベーターのとなりのエレベータードアが開いた。

そして、女性と男児が出てきた。カート下段にはゲーム機。

まだ、ゲームセットではなかった。


ここで、女性は私に気づいた。

彼女は子どもを急せかし、カートを押してスポーツショップに逃げ込んだ。

振り出しに戻ってしまった。


しかし今度はショップ内にゲーム機を放置していくだろう。

私はショップ出口で女性が出てくるのを待った。


女性は入口付近のシューズコーナーで男児の靴を見ている。

カートにはゲーム機。

女性が私の方をチラチラ見ているので、私に気づいているはずだ。

しかし、女性はゲーム機を放置しない。


私は女性に精神的圧力をかけ、商品を置き去りにさせることにした。

ショッピングセンターの警備室に連絡して、制服警備員に来てもらった。

私がショップの出口に立ち、制服警備員がショップ内で女性を露骨に尾行する。

「これで商品を捨てていくだろう。」


女性はレジで子ども靴を支払った。カートのゲーム機はそのままである。

彼女は露骨につけ回す警備員と出口で待ち構えている私を気にしている。

しかし、なんと女性はそのまま私の前を通り建物外に出たのだ。


・声かけ


20時30分。“声かけ”。


私『店の保安係ですが、その商品の支払いがまだ済んでいないのですが…。』

女『こんなものは知らない。子供が勝手に載せた。』

私『ここじゃあなたも嫌だろうから、とにかく保安室に来てください。そこで事情を伺いましょう。』


女性は暫く私に吠えまくったが、最後には保安室へ行くことを同意した。

しかし、保安室への道中が大変だった。

旦那に電話して言い争いを始める。

『旦那が来るまで、動かない。』と座り込む。

私と警備員はなだめたり追い立てたり。

やっと保安室に連れてきた。


女性は東洋系外国人。

彼女が、店の女性担当者と私に日本語で吠えまくる。

その日本語は“カタカナ”を超えた上手なものだった。

女『私は万引きなんかしていない!金はいっぱいある!
     万引きするつもりなら、他の物を買うはずがない!
     これは子供が勝手に載せた物だ!旦那が来るまで名前も住所も言わない!』


20時40分。警察連絡。


ここまでは普通の万引きと変わらない。

これから先が少し違う。


・怒り狂う旦那さん



警察官2名が着くのと同時に、怖そうな旦那が保安室に入ってきた。

すぐに、旦那と女性の罵声が警備室に響きわたる。


旦『お前!俺に恥をかかせたな!どうしてくれるンや!』

女『私は知らない!子供が載せた!』

旦『そんなことが通るか!金を払わなンだら、万引きなンじゃ!いつもゆうとるやろ!』

女『私は知らない!子供が載せた!』


旦那が壁を叩き、机を蹴飛ばす。

警察官たちが「目を白黒させて」旦那をなだめる。

私と女性担当者は、冷やかに彼らのドタバタを見ていた。

旦那さんが本当に怒っているのか「勧進帳」なのかは分からない。

21時15分。警官達は女性と旦那を交番に連れていった。

旦那が『商品は返す。』と言って、ゲーム機を置いていった。


22時15分。交番から連絡が入る。

警『女は〇〇人で旦那と籍も入っている。
     自分が盗ったことを認めないので、二人に厳重に注意して始末書で決着した。
     それで了解してほしい。』

私は了解した。


あのとき警察官がいなければ、私はこう言っただろう。

私『そこまで言い張るのなら、商品の箱に着いた指紋を調べようか?
     あんたの指紋がバッチリ出てくるぞ!』

これで女性は観念しただろう。

「あの警察官たちがそのくらい言ってくれたらなぁ…。」

警察官たちは旦那の凄さに腰が引けてそう言えなかったのだろう。


もっとも、女性が他に何点も盗っていれば、「子どもが勝手に載せた。私は盗っていない。」と言い張っても、警察官は動いただろう。

盗った商品が多ければ、それだけ「犯人の否認」を覆しやすい。

“単品禁止”は「誤認・はめ込み」を防ぐだけではない。
「警察官が腰を引く」のも防いでいるのだ。

私はそれを知った。


※子供を使った間接正犯 → 子供に万引きをやらせる親はどうなるか?


つづく

 





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