SPnet私服保安入門


        

(13)被害品を保管するな。なくなれば私服保安が疑われる

 




万引きの被害品商品が店に残される場合、私服保安は店にその保管を頼まなければならない。

「明日、犯人が買い取りにくるからこのままでいいか。」と、保安室のロッカーや机の中に保管してはならない。

もし何らかの理由で被害商品が紛失したとしたら「私服保安が盗った」と疑われるからである。


「私服保安が“万引き犯人の盗った商品”をくすねた。」

マスコミは喜んで取り上げる。

マスコミが取り上げたら、事実の真偽に関わらず話が一人歩きしてしまう。

真偽に関わらず、世間でいろいろ取り沙汰されること自体が店の信用・ブランドを傷つけてしまう。。


そんな事例を紹介しよう。

他警備会社で起きたことで、系列店の事件・事故情報として上がってきた事例である。


・事例52.小さなメモ帳1冊で契約解除。スキャンダルはこれほど怖い


あるショッピングセンターのスーパーマーケットで私服保安が女性万引きを捕まえた。

犯人のバッグから、スーパーマーケットの商品と専門店街にある文具店の商品が出てきた。

私服保安はスーパーマーケットの商品を現認しているが、文具店の商品を現認していない。

犯人は専門店街で万引きしたあと、スーパーマーケットに入って万引きしたのだ。


このような場合、警察はスーパーマーケットの商品だけで事件を処理する。

専門店で盗った商品については私服保安の現認がないので、「犯人がそれを盗ったこと」を証明するのが難しくなるからである。
棚取り現認


専門店の万引きに関しては、専門店がそれを事件にするかどうかを決める。

・通常、私服保安付き添いで犯人が商品を持って専門店を訪れる。
・私服保安が事情を説明して犯人が謝罪する。
・その店が「事件にすること」を望めば、警察はスーパーマーケットの事件と合わせて処理をする。
・ほとんどの場合、事件とせずその商品を犯人が買い取って終わりとなる。
・犯人の専門店訪問はその日にすることが多い。
・しかし、警察での取り調べが長引いたり、犯人の都合が悪かったりすると別の日になる。


話を戻そう。


・残された被害品のメモ帳12冊


犯人が専門店街の文具店から盗ったのは小さなメモ帳12冊。

警察官はスーパーマーケットの商品で事件を処理し、女性を警察へ連れて行った。

保安室にはこのメモ帳12冊が残された。

私服保安は「今日中に犯人がやって来るだろう。」と思って、メモ帳をそのままにしておいた。
しかし、犯人は来なかった。

スーパーマーケット閉店。私服保安の勤務終了。

文具店はすでに閉店していた。


私服保安はスーパーマーケット事務所にメモ帳12冊の保管を頼んだ。

しかし、事務所は「うちの商品ではないから保管できない。警備室で保管してくれ。」と断った。

私服保安は仕方なく保安室の書類入れにメモ帳12冊をそのまま入れた。

そして、連絡ノートに申し送りを書いた。

「書類入れに入っているメモ帳は、万引きが文具店で盗った商品である。
   犯人が保安室を訪れたら、メモ帳を持たせて文具店を訪れ事情を説明すること。」、


次の日、別の私服保安二人が勤務についた。

二人とも新人であった。

二人は連絡ノートを読まなかった。


私服保安の一人が、書類入れに入っている12冊のメモ帳を見つけた。

1『誰がもってきたのだろうネ?』

2『私服保安の誰かが、持ってきてくれたンだろう。』

1『一冊、もらってもいいかな?』

2『いいンじゃない。』


その日も犯人は来なかった。

私服保安の一人はそのメモ帳1冊を持ち帰った。


事件処理を多くこなした私服保安なら、書類入れに入っているメモ帳12冊を見つければ、
「これは未処理の被害商品品かも知れない。」と思うだろう。
そして、連絡ノートを確認したであろう。

しかし、二人にはそれに気づくほど経験がなかった。


・スキャンダルに発展


翌日、犯人を捕まえた私服保安がその店に勤務した。
そして、被害商品のメモ帳が1冊足らないことに気づいた。

私服保安は前日勤務の一人に連絡した。
そして、「もう一人の私服保安が、被害商品とは知らずに1冊持ち帰った。」ことを知った。


普通なら、持ち帰った者に連絡して「メモ帳は被害商品だからすぐに返しなさい。」と指示するだろう。

しかしその私服保安は、
「新人の不甲斐なさに腹を立てた」のか「その新人を育てた者への当てつけ」か、すぐにスーパーマーケットの店長に報告した。

『うちの私服保安が、保管中の万引き被害商品を持ち出しました。』

報告を聞いた店長は驚いて、私服保安の所属する警備会社に調査・報告を求めた。


翌日、警備会社は、

「私服保安は被害商品と知らずに持ち出したものであり悪意はなかった。」と報告。

教育不徹底に対する謝罪・改善報告書を店長に提出した。

メモ帳1冊はすぐに回収。

12冊すべてを文具店に返還して事情説明と謝罪をした。

文具店はこれを諒解した。


しかし、事件はすでに店の外で一人歩きをしていた。

その翌日から、地元新聞や有力新聞が警備会社と店に取材を申し込み始めた。

ある週刊誌は店の本社に取材を申し込んだ。

そして、地方新聞の小さなコラムにこの事件が紹介された。
「店の保安係が保管されていた万引き被害商品のメモ帳1冊を持ち出した」と。

この記事に嘘はない。事実のままである。

しかし、「持ち出した」が「盗った」を推測させるだろう。


スーパーマーケットはすぐに警備会社との契約を解除した。

警備会社はメモ帳を持ち出した私服保安を解雇した。


こんなことで警備会社が契約解除になるのは異例のことである。

警備員が店の商品を盗ったことが発覚しても契約解除とはならない。

この事例は「うっかり間違って持ち出しただけ」である。

契約解除の真の理由は、「話が大きくなって、店の信用・ブランドを低下させた」ことなのだろう。


スキャンダルの怖さが分かっただろうか。

どんな小さなことでも“命取り”になるのである。


それは、「被害商品の取り扱い」だけに限ったものではない。

犯人逮捕・保安室への同行・所持品検査・事情聴取・トイレ・買い取り・出入り禁止…。

話が一人歩きしてスキャンダルになる危険はいたるところに存在する。

私服保安は慎重に慎重を重ねて、犯人と事件に対処しなければならない。


つづく

 





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