SPnet私服保安入門


2. 万引き以外の店内犯罪・迷惑行為

 




店内犯罪は“万引き”だけではない。また犯罪に至らない迷惑行為もある。

「店内の安心・安全」を護るために、私服保安はこれらにも対処しなければならない。


その場合にまず知っておかなければならないのは、

・「法律でどのような行為が禁じられているか」である。

  その行為が禁じられていなければ、その行為を阻止することはできない。


・次に、「法律で禁じられた行為に対して、何をすることが法律で認めているか」である。

  阻止行為が法律で認められた限度を越えれば、その阻止行為は犯罪となってしまう。


・さらに、「犯人の自白がなくても、その犯罪を立証できる“物証”を確保しているか」である。

  “万引き”の場合は犯人の持っている商品が動かぬ証拠となる。
  しかし、“詐欺・盗撮・のぞき”などでは物証を確保することが難しい。


この点を詐欺・つきまとい・盗撮・のぞき・女子トイレ入り込み・クレーマーについて説明する。


結論から先に言っておこう。

「これらについては、牽制・抑止を原則とし、犯人への実力行使よりも警察に対処を頼んだ方がよい。」


(1)詐欺行為-値札替え・返金詐欺


詐欺罪と窃盗罪は「他人の財物を自分のものにする」点は同じである。

違いはその方法にある。

「知らない間に持っていく」のが窃盗(万引き)、「騙して持っていく」のが詐欺である。

刑罰はどちらも「10年以下の懲役」だが、詐欺罪には罰金刑がない。

店内でよく行われる詐欺行為に“値札替え”と“返金詐欺”がある。


万引き(窃盗罪)は店の商品を支払わずに店外に持ち出せば「盗ったこと」が証明できる。

しかし、詐欺罪ではさらに「騙したこと」を証明しなければならない。

この証明が難しい。“値札替え”がそうである。

“返金詐欺”では「その商品が犯人のものでないこと」を証明することが難しい。


私服保安は「詐欺罪の立証は窃盗罪より格段に難しい」ことを知っておかなければならない。

危険を冒して検挙するより、店に抑止策をとってもらったり警察に頼んだりした方がよいだろう。

      
a.値札替(ねふだがえ)


イ.“値札替え”とは


・1万円のジーンズに5千円のジーンズの値札を付け替えてレジ清算する。
・1万円のプラモデルと5千円のプラモデルの中身を入れ替えてレジ清算する。
・半額シールの貼られた弁当から半額シールを剥ぎ、半額になっていない弁当にこのシールを貼ってレジ清算する。

これらが“値札替え”である。

「レジ係を騙して安く買う」ので詐欺罪となる。


私服保安に言わせれば「そんな面倒なことをしないで、盗っていった方が楽なのに。」となるのだが、この方法に執着する者がいる。

「見つかったときに言い訳しやすい」からだろうが、「そのやり方がおもしろい」からやっていると思われる者もいる。

・わざわざ糸と針とを持参して、売場の隅で値札を付け替える努力家。
・手芸店の“展示用ぬいぐるみ”に玩具売場の安いぬいぐるみの値札を付けて、
  手芸店レジで『これは売り物ではないンですが…。』と断られるドジな者。

彼らを見ているとおもしろい。


ロ.「値札を替えたこと」の立証が難しい


“値札替え”では「犯人が値札を付け替えたこと」を立証しなければならない。

「値札を付け替えたこと」が「騙したこと」だからである。


犯人の自白があれば、「私服保安が値札替えの現場を現認したこと」と「付け替えられた値札」があれば充分である。

しかし、犯人が否認したらこれだけでは不足である。

「やってない」と「やっているところを見た」では5対5となり、「やっていない」の判定。


・付け替えられた値札は証拠とならない。

  犯人は「初めからその値札が付いていた」ととぼけるからだ。


・値札から犯人の指紋が出てきても役に立たない。

  「買おうとしている商品の値札を見る」のは客として当たり前のことである。

  値札に犯人の指紋が付いていても不思議ではない。


・防犯カメラに「犯人が値札を付け替える現場」が写っていても、映像は積極的な物証とはならない。


私服保安と店員が目撃しても「犯人のやってない」と「私はそれを見た」の「5対5」のままである。

結局、犯人が自白しなければ犯人の勝ちとなる。

そして犯人が「犯罪者扱いされた」と騒げば、私服保安は誤認逮捕をしたことになる。


“値札替え”を検挙するのは、「確実に犯人を自白させることができる」場合だけである。

犯人の“器(うつわ)”を判断することも必要だが、犯人を自白させるテクニックと度胸が必要である。

新人私服保安には扱えない犯罪だろう。


・なお、値札替え犯人を逮捕するときには“店外10m”は関係ない。


“店外10m”は、「スーパーマーケットの代金清算システムに従っている者」の窃盗故意を立証するためのものである。

値札替えはこのシステムに従ってはいない。

値札やパッケージを捨てた者と同じである。

値札替えは犯人がレジ清算をすれば逮捕することができる。


ハ.最良の防止策


立証の難しい値札替えを苦労して捕まえる必要はない。

レジで簡単に防ぐことができるからである。


・私服保安が値札替えを見つけたらレジに連絡する。
・犯人が値札を替えた商品をレジに持って来る。
・レジ係が言う。
  『あっ!お客様。私どもの手違いで値札が違っています。
    少々お待ちください。正しい値札の付いた商品をお持ちしますから。』
・犯人は『なんだ、それなら要らない。』と商品を置いていく。

そう言われて何だかんだと文句を言う犯人はいない。

話がこじれて警察が入ってきたらヤブヘビになるからである。


これを繰り返せば、犯人はその店で「値札替えをすること」を諦めてしまう。

別の店でやればよいからである。


ちなみに、「店の手違いで値札を付け間違ったり他の者が値札を付け替えたりした場合、
客がその値段で買うことを主張すれば、店はその値段で売らなければならない」そうである。

『私どもの手違いで…。』とか『他のお客さんのいたずらで…。』という理由は“一般客”には通用しないらしい。


つづく

 





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