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b.返金詐欺

 




返金詐欺とは、「その店で盗った商品をレジに持って行って返品し商品代金を得る」こと。

「買った商品でないものを買ったもの」と騙すので詐欺となる。

手口はいろいろある。


イ.単純な手口では成功しない


・盗った商品をレジに持って行って、『返品・返金してくれ。』と言う。
・レジ係は『レシートをお持ちですか?』と尋ねる。
・犯人は『レシートを無くしてしまった。』と答える。
・レジ係は『それでは販売記録を調べてご連絡いたします。1週間くらいかかりますので、ご連絡先をお教えください。』と言う。
・犯人が自分の住所・氏名を教えるはずがない。
・犯人は『そんなに時間がかかるのなら、レシートを捜してくる。』と返品・返金を諦める。

こんな手口では絶対に成功しない。

返金詐欺を成功させるには、その商品のレシート手に入れなければならない。

レシートを手に入れる方法にはいろいろある。


ロ.一度買う


・商品を一度買う。そのレシートが手に入る。
・次の日、自分の買った商品と同じものを売場からレジに持っていき、前日手に入れたレシートを見せて返品・返金をしてもらう。
・買っていない商品を「別のレシートを見せて、買ったものと騙す」ので詐欺となる。
・昨日買った商品の代金が“タダ”になる。

・犯人には商品が手に入るだけで、金は入らない。
・しかし、実質的には「その商品を盗った。」ことと同じになる。


ハ.レシートをもらう・拾う


・友達がプラモデルを買う。そのレシートをもらう。
・次の日、売場から友達が買ったのと同じプラモデルを持ってレジに行き、そのレシートを見せて返品・返金をしてもらう。

・この場合は、犯人に金が手に入る。
・それを友達と分ければ、友達もプラモデルを半額で買えたことになる。


ごみ箱からレシートを拾っても同じことができる。

この場合は、どんな商品のレシートかわからない。
レシートには、簡単な商品名と値段しか印字されていないからだ。
しかし、家電・薬品・靴などでは商品の種類がそれ程多くないので、その商品を特定することは簡単である。


ニ.買った直後に返品する


・犯人が商品をレジで支払う。
・レジ係は代金を受け取り、商品とレシートを犯人に渡す。
・暫くして、犯人がそのレジに戻ってくる。
・犯人は『やはり、これを買うのは止めた。』とか
  『いま女房に見せたら、似合わないと言われた。』などと適当な言い訳をして商品を返品する。
・レジ係は『それでは、レシートをいただけますか?』と言う。
・犯人はポケットの中や財布の中を捜して、『変だなぁ…。確かにここに入れたのだけど…。』と嘘を言う。
・レジ係は少し前に犯人のレジ清算をしたばかりである。
  レジ係は『いま買っていただいたばかりですものね…。』と犯人の嘘に騙される。
・そして、返品・返金に応ずる。

・ここで、犯人はその商品のレシートを手に入れたことになる。

・犯人がこのレシートを知り合いに渡す。
・この者が別の日に売場から商品を持ってレジに行き、犯人から渡されたレシートを見せて返品・返金をしてもらう。
・ここで初めて金が手に入る。


これは、私が勤務していた店で実際に起こった事件である。

なんと、手が込んでいることだろう。

こんなヤヤコシイことをするよりも、商品を万引きしてネットオークションで売った方が簡単だと思う。

しかし、値札替えと同じように、犯人には「犯罪手口へのこだわり」があるようだ。


ホ.返金詐欺も万引きも同じ


万引きも返金詐欺も商品を売場から持ち出す点は同じである。

万引きはその商品をそのまま持っていくのに対し、返金詐欺はその商品をレジで自分が買った商品として返金させるだけである。

返金詐欺はレシートを持っている。
そのレシートには「リーバイス502の33㏌」の記録がある。
しかし、犯人がレジに持ってきた「リーバイス502の33㏌」はそのレシートの「リーバイス502の33㏌」ではなく、
犯人が売場から持ち出した「リーバイス502の33㏌」である。

犯人は売場から持ち出した商品をレシートの商品だと騙しているのだから詐欺行為は立証できる。

もっとも、返金詐欺を検挙する場合でも検挙条件は同じである。

返金詐欺はほとんどが単品なのでその点のハードルがある。


ヘ.これからの返金詐欺への対応


半額シール貼りは「この半額シールは自分が貼ったものではない。初めから貼ってあった」と逃げられる。
しかし、返金詐欺ではこんな逃げは通用しない。
だから、返金詐欺は半額シール貼りよりも詐欺行為の立証は簡単だ。

しかし、万引きと異なり返金詐欺では犯人がレシートを持っている。
犯人が頑強に「これは自分が持ってきたものだ」と主張すればその主張が通る危険もある。

私服保安のした現認の証明力の問題だが、単品ではその証明力も弱くなるだろう。


私は返金詐欺を検挙したことがないので、返金詐欺を行う犯人がどのような者なのかを知らない。
値札替えのような気の小さい者か、万引き犯よりしたたかな者か。
どんな言い訳をするのか、警察はその言い訳をどこまで信じるのか。

だから、返金詐欺検挙について助言できることはない。
読者で返金詐欺を検挙したことのある方は情報を与えていただきたい。


もっとも、、商品の一つ一つとレシートが紐づけられていたら、返金詐欺はできない。
レシートに「リーバイス502の33㏌」ではなく「どのリーバイス502の33㏌」かが記されていたら返金詐欺ができなくなる。

ショッピングセンターでの盗犯の主流は万引きである。
返金詐欺は少数である。
しかし、返金詐欺が増えてきたら店はそれを防ぐ手だてを新たに講じることだろう。


また、法律の改正によって返金詐欺は防げる。

近年、窃盗罪に罰金刑を付加された。
これは、万引きをひろく窃盗罪で処罰して万引きを抑止するためである。


詐欺罪には罰金刑がない。

これは知能犯と呼ばれる詐欺罪が万引きよりも“もっと悪いヤツ”を対象にしているからだ。

しかし、スーパーマーケットの返金詐欺は実質上万引きと変わらない。
これから先、返金詐欺が増えてくれば、詐欺罪にも罰金刑を付加して返金詐欺を抑止していくかもしれない。


つづく

 





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