SPnet私服保安入門


(3)のぞき・盗撮・女子トイレ入り込み

 




これも、私服保安 を悩ます問題である。

女子従業員に対してもなされるが、多くは一般客に対してなされる。

これらは法律で刑罰の対象となり現行犯逮捕ができるが、犯罪行為の立証が難しい。

犯人を捕まえて否認され、犯罪の立証ができなければ誤認逮捕となってしまう。

私服保安 は犯人を捕まえようと思わずに、ソフトな方法で抑止・防止するのが得策である。


a.のぞき


女児のスカートの中をのぞきこむ者が増えた。

玩具売場にしゃがんでいる女児をオジサンが商品棚の向こうから覗いている。

こんな現場を女児の親が見たら大変である。

父親ならその男に制裁を与えるだろうが、母親はそんなことができない。

店に「警備をしっかりとしてくれなければ困る。」と文句言ってくる。

そして私服保安 は“のぞき男”にかかりきりとなる。


手鏡で女性客や女子従業員のスカートの中を見る者、床に顔をこすりつけて覗く者。

世間には“変わった男”がいるものだ。


イ.のぞきを罰する法律・条例


“のぞき”を禁止している法律には軽犯罪法と迷惑防止条例がある。


(軽犯罪法)


・軽犯罪法第1条23号
「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所を
   ひそかにのぞき見た者は拘留・科料に処す。」


・ここで禁止しているのは「人が通常衣服をつけないでいるような場所をのぞく」ことである。

  つまり、風呂場やトイレをのぞく者が対象となる。
  売場で女性のスカートの中をのぞく者は対象とならない。


・「ひそかに」とは「相手の許しを得ないで」と言う意味で、堂々と見てもこの犯罪は成立する。


・なお、軽犯罪法の“のぞき”は「そこに人がいなくても」成立する。
  「その場所をのぞいただけで」犯罪となる。


(迷惑防止条例)


条例とは、その地方(都道府県等の地方公共団体)にだけ適用される“法律に似たもの”である。

条例は国の定める法律・命令に反しない限りで、その地方の議会で定められる。(憲法94条・地方自治法第14条1項)

また、一定の範囲内で刑罰を定めることもできる。(地方自治法第14条3項)


簡単に言えば、

「国の法律・命令で行き届かないところがあれば、自分たちで相談してルールを作りなさい。
   でも、国の法律・命令に背いてはダメだよ。」というものである。

その地方にはその地方特有の問題があるからである。


迷惑防止条例も各都道府県によって定められる。

その都道府県の実情により細部は異なるが、だいたい同じ内容である。


“のぞき”に関するものは、

「何人も、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由がないのに、
   人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。

 ・人の身体に、直接又は衣服その他の身に着ける物の上から触れること。
 ・衣服等で覆われている人の身体又は下着をのぞき見し、又は撮影すること。
 ・前2号に掲げるもののほか、ひわいな言動をすること。」

・刑罰は「6カ月以下の懲役・50万円以下の罰金」である。
  当然、現行犯逮捕の対象となる。


売場でなされる“のぞき”は
「衣服等で覆われている人の身体又は下着をのぞき見し」と「そのほか、ひわいな言動をすること」に該る。


ロ.「のぞいた」証明が難しい


・「覗いたか覗かなかったか」・「見たか見なかったか」は犯人だけにしか分からない。

犯人が否認すれば、犯人の行動を見ていた者の証言だけでこれを証明することは難しい。

もちろん、「のぞいている行為」自体が「ひわいな言動」に該るが、
それが「人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で」に該るかどうかの判断がむずかしい。

のぞき検挙専門の特殊な警官が複数で見た場合は別であろうが、私服保安 一人が見ていたのでは証明できないだろう。
“のぞき”を安易に『迷防の現行犯逮捕じゃっ!』と捕まえてはならない。


・のぞかれている被害者に「あの男がのぞいていますよ。」と知らせてもいけない。

それだけで、のぞき男の人権を不当に害することになる。
それどころか、女性が騒ぎだし男に食ってかかったら大変である。

男の“のぞき”を証明できないからである。
男は「私服保安 に変態扱いをされた。」と人権侵害を問題にする。
場合によっては名誉棄損罪となってしまう。


・私服保安 は男をソフトに牽制するしかないだろう。

のぞいている男に、「お客さん!どうされました?ご気分でも悪いのですか?」と“親切に”尋ねてもよい。


・“のぞき”とよく似たものに“マスターベーション”がある。

売場の女性客・女子従業員を見て、ズボンのポケットに手を入れたままマスターベーションをするのである。
書店の本を見ながらやる分には見過ごしてもいいだろうが、人間相手だと見過ごすわけにはいかない。

もちろん、そのものを出してマスターベーションをすれば
公然猥褻わいせつ罪(刑法174条)に該るし、迷惑防止条例の“卑猥な言動”に該る。
しかし、そうでない場合が問題となる。

男がポケットに入れた右手をしきりに動かしたり、上気した顔で足をガクガクさせたりしても、
それだけで迷惑行為防止条例の“卑わいな言動”に該るとは言えないだろう。

だから、このような男に対しても“親切な声かけ”をするしかない。

男が“その瞬間”を迎えようとする。

私服保安 が男の顔をのぞき込んで叫ぶ。
『お客さん!どうされました!ご気分でも悪いのですか!救急車を呼びましょうか!』

その日以来、男のプライベートな”その瞬間“にも“親切な私服保安 の顔”が目に浮かぶだろう。


つづく

 





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