SPnet私服保安入門


(4)クレーマー

 




どんな仕事にも客がいる。

仕事の出来が悪ければ客から文句を言われる。

“仕事をさせてもらう方”と“仕事をさせる方”では“させてもらう方”が弱くなる。


この関係が極端なのが大手小売業と客である。

個人商店なら、ややこしい客には頑固店主の雷が落ちる。

『おう!気に入らないなら、買ってもらわなくてもいい。
   あんたなんか客じゃない!二度とうちの店の敷居をまたぐな!』

しかし、全国的に名前の知られている大手小売業ではそんなことは言えない。

「皆に好かれるスーパーマーケット」という“全国ブランド・イメージ”があるからだ。

腹の中では舌を出していても、「お客様第一・お客様は神様」を絶対厳守である。


客の買った商品が痛んでいたり壊れていたりすれば、客が文句を言うのは当然である。

店の売場責任者が完全な商品と菓子折りを持って飛んで行く。

これはクレーマーではない。


「普通の客なら問題にしないような店のミス」に文句をつけるのがクレーマーである。

・自販機の釣り銭が出てこなかった。
・出入口の段差につまずいた。
・レジ袋が破れていた。
・店員を呼んだのになかなか来なかった。
・レジの順番を抜かされた。
・カート回収係がエレベーターに先に乗った。
・従業員の接客態度が悪い。

店内を捜せば“ネタ”はどこにでもある。


このクレーマーには二種類ある。

・金品を取ろうとするのが“金品目的クレーマー”。
・自分の欲求不満を解消させようとするのが“欲求不満クレーマー”。

どちらも私服保安の守備範囲となる。


a.金品目的のクレーマー


(店の対処方法)


・金品目的クレーマーの言うことは決まっている


・『俺は気分を害した。そのせいで帰りに交通事故でも起こしたらどう責任をとるンだ。』
・『俺の時間をどうしてくれる。』
・『誠意を表せ。』

彼らは「店に害悪を加える。」とは決して言わない。
それを言えば脅迫罪(刑法221条)になるからだ。

彼らは「要求が何であるか。」も絶対に言わない。
それを言えば恐喝罪(刑法249条)になるからだ。

“店が勝手に出したもの”を彼らが受け取っても犯罪とはならない。
“くれる”ものを“もらった”にすぎないからである。

彼らは「店が何かを勝手に出す」まで辛抱強く文句をつけ続ける。


・金品目的クレーマーに対する店の対処法は3種類ある。


・①.相手が諦めるまで頭を下げる。
・②.相手の力量によって「解決値段」を決め、何回か足を運ばせてその値段以下で解決する。
・③警察に介入してもらう。


ごねればごねるほど、クレーマーに有利になるが、ごねすぎると元も子もなくなる。

どこのショッピングセンターでも“元警察署長クラスの警察OB”を雇っている。

こんな人が出てきたらクレーマーはひとたまりもない。

「怖い人を出させないで、いかに店から多くを引き出すか」がクレーマーの腕であり、

「いかに安く済ませるか」が店担当者の腕である。


・店がクレーマーに金品を出した場合、二度目は絶対にない。


二度目には警察が出てくる。

「店に害悪を加えること・要求が何であるか」を言わなくても、二度目になれば脅迫罪・恐喝罪となってしまう。

クレーマーもこれをよく知っている。


店がクレーマーに金品を出すのは一回限りである。

だから、店は「金品を出すこと」を躊躇ちゅうちょしない。

時間を取られるより“名刺代わり”を出した方が簡単である。


しかし、店にも商売人としての意地がある。

まずは、「徹底的に頭を下げる」ことから始めるのだ。


(私服保安の役割)


私服保安はクレーマーと店担当者のバトルに立ち会う。

その役割は、
・クレーマーに心理的圧迫をかける。
・店担当者のボディガードをする。
・バトル内容の証人になる。
・違法行為があればクレーマーを現行犯逮捕する。


・私服保安は話に口をはさまずに近くに立っているだけである。


そんな私服保安にクレーマーが必ず言う。

ク『なんや、お前は?この店は暴力団を雇っているのか!』

こう答えよう。

保『私ですか?“こんな係”なンですよ。』


クレーマーが言う。

ク『お前は関係ない!向こうへ行け!』

こう答えよう。

保『そうはいきません。私は店に雇われていますから。
     あなたに言われて「ハイそうですか。」では、お金をいただけませんからネ。』


これだけで、クレーマーに充分プレッシャーをかけられる。

後は、店の担当者の指示で動けばよい。


・クレーマーと店担当者のバトルは延々と1時間以上続く。


クレーマーは上に挙げた三つの言葉を繰り返す。

店担当者は頭を下げ続けるだけで、決して「誠意をどう表すか」を言わない。

“根負け”した方が負けになる。


つづく

 





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