SPnet 選任業務編


10-1-3. 2号業務別教育資料-道路交通法-駐車違反をしようとしている者に警備員は何ができるか


1.問題提起


警備員が道路に面した工事現場の入り口で交通誘導をしています。
そこへ、一台の車がやって来ました。
運転しているのは、神経質そうな初老の男性。
男性は工事現場の入り口のすぐそばに車を停めて車を降り、道路の向かい側にある花屋さんに歩きだしました。

警備員が男性に声をかけます。
警『ちょっとすいません。私はそこの工事現場の警備員です。ここに車を停められると工事車両の出入りに支障をきたします。車を移動してください。』

男性は待ってましたとばかりに日頃のうっぷんを警備員にぶつけます。
男『何をを偉そうに、お前は警備員なんだろう?何の権限も持っていないじゃないか!
警察官じゃあるまいし、何で俺がお前にそんなことを言われなければならないンだ!』

このような状況はよくあります。

警備員は、
『気を悪くなさったのならすいません。
ただ私は職務上、工事車両の出入りの安全を護ることが必要です。
その点からお願いしているだけです。決して強要しているわけではありません。』
と引き下がります。

しかし、実際に工事車両の出入りができなかったり何度も切り返さなければならなくなったりした場合、顧客である工事会社からクレームが出ます。

『あんたは何のために工事車両の出入口に立っているンだ。。工事車両の安全な出入りを確保するために立っているンだろう。
工事現場の出入口から3m以内は駐車禁止じゃないか。警備員教育で道交法を教えてもらっていないのか!
工事車両の出入りに支障をきたす駐車違反にに何もできないのなら、人形を立てておいても同じじゃないか!』

現任教育で出そうな質問ですね。
指導教育責任者としてはどのように答えたらよいでしょうか?

なお、以下の解釈は道交法について素人である私の解釈です。
またこの事例に関連する判例・裁判例についてもチェックしていません。
一般庶民の解釈であり、鵜呑みにしてはいけないことを充分ご承知ください。


2.法律上何ができるのか?

「法律上何ができるのか」と「警備員がそれをしてもよいか」は別問題です。

「法律上何ができるのか」はそれを超えた行為が違法となる場合です。
「警備員がそれをしてもよいか」は、これに加え「無用の争いを避け顧客や警備会社の信用・ブランドが低下することを避ける」という点が含まれます。
前者は「警備員がそれを超えたら犯罪者となる基準」であり、後者は「警備員がそれを超えたら警備員として不合格点がつく基準」です。

しかし、「法律上許される限界」を知っていることは必要です。
この男性を説得するのにも、工事会社からのクレームを退けるのにも必要であるし、何よりも警備員自身が違法行為をしないために必要です。


3.正当防衛

この場合に正当防衛は成立するでしょうか?

正当防衛は「@急迫  A不正の B侵害に対し、C自己又は他人の権利をD守るために  Dやむをえずしてなした行為  はこれを罰せず」です。
@〜Dを検討してみましょう。

A不正

この男性のした行為は道交法45条1項1号で禁止されている「駐車違反」です。

高齢者マークも付いていないし妊婦さんや身障者でもないので駐車違反の例外になりません。
罰則は15万円以下の罰金ですが、すぐに車を動かせる状態なので罰金とはなりません。
しかし、「罰金を課せられないこと」と「駐車違反になること」とは別問題です。

この男性の行為は道交法違反で「不正」です。

B侵害

道交法の目的は「道路における危険を防止すること、交通の安全と円滑を図る、道路の交通に起因する傷害を防止すること」です。(道交法1条)
駐車違反は道交法の目的に反し、安全な社会生活・公共の福祉に対する侵害となります。(社会的法益の侵害)
男性の行為は「侵害」に該ります。

C自己または他人の権利を守るため

他人には社会・公共の福祉も含まれます。
また、「工事会社の工事を円滑・安全に行う権利」も他人の権利です。

警備員が男性にお願いしたことは「公共の福祉や工事会社の権利を守るための行為」です。
「他人の利益」に該ります。

また、警備員はこの男性に対する日頃のうっぷんを晴らすために声かけしたのではありません。
防衛目的があり「守るため」に該当します。

@急迫

「急迫」とはそれが差し迫っていることです。
犯罪や違法行為がまだ終わっていないことが必要です。
犯罪や違法行為が完成したあとでは「急迫」と言えず正当防衛はできません。
駐車違反が完成してしまえば正当防衛は行えないのです。

「急迫」かどうかは「駐車違反がいつ完成するか」にかかっています。

では、駐車違反はいつ完成するのでしょう?

※この点を正しく説明しようとすると、受講生の頭はオーバーヒートして新任教育への意欲をなくしてしまいます。
私の、解釈論は参考として以下に挙げておきます。

講習では次のように、ちょっとごまかしてしまいましょう。

みんな、道交法で駐車とはどんな場合だった?

よく覚えていたね。
道交法2条だよね。

一つは「一定目的で車を継続的に停止させた」場合。
もう一つは「車を離れて直ちに運転できない状態になった」場合。

この男性は「車から降りて、歩きだしたところ」だよね。
駐車したといえるだろうか。(できるだけ2条18号前段の駐車から気をそらせて、後段の駐車に注意を引かせる)

そうだよね。男性はまだ「直ちに車にもどって車を運転できる」よね。

ということは‥。
その通り!男性はまだ駐車違反を完成していないンだ。

まだ駐車違反が完成していないから「急迫」に該るよねぇ。

正当防衛の「急迫」の要件もOKとなるね。

※事例を次のように変えてもよいでしょう。

「男性が車でやって来て、工事車両出入口のすぐそばに車を止めて車を降り歩きだした。」
花屋さん出さないのです。
こうすれば、講習生は2条2項の駐車だけを考えるでしょう。


※参考-駐車違反の既遂時期-道交法1条2項の「継続的な」の意味

.道交法2条18号前段は駐車を「一定目的の継続的な停止」としています。
運転者が車に乗っているか車から降りたかは関係ありません。
「一定目的を持って継続的に車を停止させれば」駐車になります。

問題はどれくらい停止すれば「継続的な停止」になるかということです。

@道交法2条18号前段は「5分を超えない貨物の積卸し」を「一定目的の継続的な停止」から除外しています。。
目的が貨物の積卸しの場合は、5分を超えると「継続的な停止」になるという意味です。
これを反対解釈すれば、「その他の目的の場合は5分以内でも継続的な停止になる」ことになります。
このことから「継続」とは「5分より短い時間」となります。

A次に、18号後段は「車両を停止させ運転者が車両から降り、直ちに運転することができない場合」も駐車としています。
これは「運転者が車から降りた場合」の規定で、「一定目的があるかどうか」は関係ありません。

「目的がない停止」など考えられません。
しかし、1項で「目的のある継続的な停止」を駐車としたので、「何の目的もなかった」と言い逃れする者も出てきます。
そこで、「運転者が車から離れて、直ちに運転できない状態にしたときは、一定目的がなかっても駐車になるぞ」と規定したのです。

18号後段は前段をを補完する規定だと考えられます。
「補完規定であること」は後段に規定したことからもうかがえます。
後段は実質的に“見做し規定“です。。
「車を停止させ、車から離れて直ちに運転できない状態にすれば、一定目的の継続的な停止(1項の駐車)と見做す」ことを目的としています。

これを反対解釈をすると、一定目的がある停止の場合の継続とは「直ちに運転できない場合」と同じかそれより短い時間となります。
見做し規定は余裕を持って見做しますから、「それより短い」と考えた方が妥当でしょう。

Bさらに、119条の2で駐車違反に対する罰則を「車を直ちに運転できる場合」を除外しています。
これは「直ちに運転できる場合は罰則までは適用しない」と言う意味で、「直ちに運転できる場合も駐車違反になる」ことを前提としています。
「直ちに運転できる場合が、駐車ではなく駐車違反にならない」のなら、わざわざ罰則の除外規定を置く必要がないからです。

この規定から「継続とば直ちに運転できない場合より短い」と解釈できます。

@・A・Bを総合して解釈すると、
一定目的の継続的な停止の「継続」とは、「運転者が車を離れ直ちに運転することができないような場所に行くまでに要する時間」より短い時間となります。
どれくらい短いかはこれらの条文解釈からは判断できません。
しかし、駐車違反が「直ちに運転できない状態」よりも前に完成することは確実です。


では、この事例で駐車違反は完成しているのでしょうか。

まず、「一定目的の継続的な停止(前段)」で考えてみましょう。
男性は花屋に行くという一定目的を持っています。
男性が歩き始めたときに警備員が声をかけています。
「車が停止してから、運転者が車を離れ直ちに運転できない状態になるまでの時間」よりずっと短い時間です。
”継続“を「直ちに運転できない状態になるまでの時間より短い時間」と解釈しても、それよりも更に短い時間です。
駐車違反はまだ完成していないと考えてよいでしょう。

次に「運転者が車を離れて直ちに運転できない状態にすること(後段)」で考えてみましょう。
男性はまだ直ちに運転できる状態ですから駐車違反は完成していません。

どちらの駐車を考えても「男性が歩き始めた段階」では駐車違反は完成していないと解釈するのが妥当でしょう。

法律解釈論に馴れていない人は「面倒くさい理屈だな‥。」と思うでしょう。
法律に馴れていない受講生は゛説明自体も頭に入らないでしょう。
新任教育でこんな説明をするのはやめましょう。
時間の無駄ばかりか講習生がやる気をなくしてしまいます。

以前に「教えるためには、何を教えないかを検討しなければならない」と書きましたが、
さらに「ごまかすこと」も大切です。
ごまかさずに正確に教えようとすると、相手の理解能力の限界を超えてしまうからです。

万引きGメン実践教本の法律編でもところどころでごまかしています。
法律を学んだことのない人が理解でき・興味をなくさずに読めるように「正確でない説明」をしています。
教えるとは「おもしろいドラマを見せること」だからです。


Dやむを得ずにした行為

正当防衛の防衛行為は「それが権利を守るために必要であったこと」で「不可欠であったこと」まで要求していません。
工事車両がいつ出入りするか分からないので、警察に通報して男性の車をどけてもらうことでは権利を回復できません。
警備員が男性を呼び止めてお願いしたことは「やむを得ずにした行為」の範囲に入ります。

もし、男性をどやしつけたり、男性の腕を掴んだりすれば「防衛の程度を超えた行為」として過剰防衛となります。


以上から、警備員が男性を呼び止めてお願いしたことは、正当防衛にあたります。
その行為が男性の権利を侵害しても正当防衛により違法性がなくなります。

「警備員が男性を呼び止めたこと」が犯罪になることはないでしょう。
しかし、もしそれが犯罪になるとしても正当防衛で犯罪は成立しません。
また、男性が「自由権を侵害された」と賠償請求を起こしても退けることができます。


E自救行為

駐車違反が完成してしまえば正当防衛はできません。
男性が花屋さんに入ってしまえばどう考えても「直ちに運転をすることができない」ので駐車違反は完成しています。
警備員は正当防衛としての声かけはできません。

犯罪が完成すると正当防衛はできませんが、判例で自救行為が認められています。
ただ、自救行為の要件は正当防衛より狭くなります。

一般的には、
・権利侵害の直後であること
・その行為によって侵害された権利が回復できること
・その行為によらなければ侵害された権利が回復できないこと
・その行為が侵害された権利を回復するものとして社会的に妥当なこと
・その行為により回復した被害が与えた被害より大きいこと


事例では上の要件をすべて満たします。。

「自救行為を自己のためではなく、他人のために行うことができるのか」については争われています。

しかし、警備員は工事会社の権利を代行していると考えられますので、
事例の声かけは「「自己のための自救行為」として認められるます。


4.警備業法との関係

さて、事例の警備員の行為が正当防衛にあたり違法でないとしても、警備業法15条に反しないのでしょうか?

※警備業法15条(警備業務実施の基本原則)
警備業者及び警備員は、警備業務を行うに当たつては、
この法律により特別に権限を与えられているものでないことに留意するとともに、
他人の権利及び自由を侵害し、又は個人若しくは団体の正当な活動に干渉してはならない。」


警備員は単に違法な行為だけでなく、違法な行為でなくても「他人の権利・自由を害し、正当な活動に干渉してはならない」のです。
警備員は警察官のような服装をして、警察官の行うような業務をします。
「お上に弱い一般庶民」は警備員に対して、知らず知らずのうちに「自分の正当な活動を自制する」ようになります。
「そこのところをよぉ〜く自覚して、控えめにな、謙虚にな。きみたちにできるのは立っていることと頭を下げることだけなんだゾ。」という規定です。

『相手の気の弱さまで警備員が背負いこむの?』

そう言いたいでしょうが、この規定を置かなければならないような事情があったのでしょう。
もっとも、今では制服・制帽の警備員を見て『あっ、お巡りさんだ!』と言うのは3歳くらいまでですね。

それはともかく、この規定により、警備員は一般人よりも強い制約を受けています。
刑法でOKでも警備業法でNOとなる場合もあるのです。

この事例で警備員は「自分が警備員であること」を前置きして男性に声かけしています。
警察官のふりをして男性に声をかけているのではありません。
警備員の行為は警備業法15条に反するものではないでしょう。


5.現行犯逮捕はできるか

「道交法違反をした者を一般私人が現行犯逮捕できるでしょうか?」
ネット質問箱でよく見かけるますね。

結論から言えば「できます」。

現行犯逮捕は令状逮捕の例外で、警察官にも一般私人にも認められています。
警察官だけに認められているものではありません。
道交法違反で警察官が現行犯逮捕できるのなら一般私人も現行犯逮捕できます。

ただ、警察官の場合と一般私人の場合は少し事情が違います。
警察官が現行犯逮捕できる場合でも、一般私人が現行犯逮捕できない場合があります。

・一般人が持っていない権限で警察官が現行犯逮捕する時がある

警察官が道交法違反で現行犯逮捕する場合、一般私人が持っていない権限で現行犯逮捕することがあります。
たとえば、飲酒運転の疑いがあれば、警察官はアルコール検査を要求できます。これを拒否した場合にば警察官は「アルコール検知拒否」で現行犯逮捕できます。
道交法違反に際し公務執行妨害があれば警察官は公務執行妨害で現行犯逮捕できます。
一般私人はこのような権限を持っていません。
「警察官が道交法違反で現行犯逮捕した」・「警察官が道交法違反をした者を現行犯逮捕した」からといって、同様の事例で一般私人が現行犯逮捕できるわけではありません。


・犯罪の明白性が一般私人と警察官では異なる

現行犯逮捕は令状主義の例外ですから、「その者が犯罪を犯していること・犯罪を犯したことがはっきりしていること」が必要です。
この中には「犯罪を犯したこと・犯していることを確実に証明できる」ことも含まれています。

スピード違反の場合、警察官ならレーダーや追尾で「速度違反をしていること」がはっきり分かり、これを証明できます。
飲酒運転であればアルコール検知を求めることができます。アルコール検知をして飲酒運転がはっきりし、それを証明できる段階になれば警察官は飲酒運転で現行犯逮捕できます。
無免許運転であれば免許証の提示を求めたり、「氏名・生年月日」を本部に問い合わせたりして無免許であるかどうかをチェックできます。

しかし、一般私人では「速度違反をしていること・飲酒運転をしていること・無免許であること」を確認する手段・証明する手段がありません。

「スピード違反・飲酒運転・無免許運転」は警察官にとっては犯罪の明白性がありますが、一般私人にとっては犯罪の明白性がないのです。
これも、警察官は現行犯逮捕できるが一般私人は現行犯逮捕できない場合です。


駐車違反の場合はどうでしょう。

「駐車違反であること」は明白でその証明も簡単です

万引きの現行犯逮捕は犯人の持っていた店の商品と警備員の現認で窃盗行為は立証できます。
駐車違反の場合は「その者がその車を運転してきたかどうか・その車を停めたかどうか」を証明しなければなりません。
「俺は運転してこなかった・停めなかった」と「アンタが運転してくるところと停めるところを見た」では5:5で相手が勝ってしまいます。
「疑わしきは被告人の利益による」という刑事裁判の鉄則があるからです。
しかし、乗ってきた車がそこにあるし、もう一人現認者でもいれば軽く「5:5」を超えて相手の主張を退けることができます。

この点から「駐車違反の犯罪の明白性」は満たされるでしょう。

では、駐車違反で現行犯逮捕しましょうか?

・逮捕の必要性

その前に、もう一つ現行犯逮捕の要件をチェックしなければなりません。
それは「逮捕の必要性」です。

現行犯逮捕できるのは「逮捕をする必要がある場合」だけです。
これは令状逮捕でも同じです。
令状逮捕は「逮捕の必要性」を令状を出す裁判官が検討します。
令状逮捕の例外である現行犯逮捕も当然「逮捕の必要性」が要件となります。

駐車違反は明白性がありますが逮捕をする必要はあるでしょうか。

万引き犯人が逃げてしまえば被害商品を回復することはできません。
殺人者を放っておけば、殺人事件の解決が困難になるし、そのあとまた人を殺すかもしれません。
万引きや殺人・傷害の場合は犯人を強制力を使って拘束する必要性があります。
駐車違反の場合は侵害される利益(法益)・侵害されるだろう利益も小さく、駐車違反をした者を強制力をもって拘束する必要はないでしょう。

道交法違反で「逮捕の必要性がある」のは次のような場合です。

繁華街で、男が皆の見ている前で一升瓶を空にして、フラフラになりながら車に乗り込んで発車しようとしている。
再三の制止にも関わらず車を発車させた。
飲酒運転は明白であるし人身事故を起こすのは目に見えている。
警察に通報して警察官を待っていたのでは間に合わない。
もう、飲酒運転は完成しているから正当防衛もできない。
自救行為の範囲では制止できない。
こんな場合なら、一般私人でも現行犯逮捕できるでしょう。
男の車を追いかけて、男を停止させ男を引きずり出して拘束することができるでしょう。

※この場合の飲酒運転は一般私人においても「犯罪の明白性」があります。

駐車違反の場合は「逮捕の必要性」がないので現行犯逮捕することはできないでしょう。
これは警察官でも同じです。

警察官が「駐車違反そのことだけ」で現行犯逮捕したというのは聞いたことがないでしょう?


6.現行犯逮捕の特例

現行犯逮捕をする場合それが軽い犯罪であればもう一つ絞りがかかります。

刑訴法・217条(軽微事件と現行犯逮捕)
「三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪の現行犯については、
犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡するおそれがある場合に限り、第二百十三条から前条までの規定を適用する。」

飲酒運転の法定刑は3年以下の懲役または50万円以下の罰金(道交法65条・117条の2の2)ですからこの要件は不要です。
しかし、駐車違反は15万円以下の罰金です。

この規定により駐車違反をした者を現行犯逮捕する必要性がある場合でも、「その者の住居か氏名が明らかな場合」や「逃亡するおそれのない場合」は現行犯逮捕できません。
「犯人の所持品等から住居や氏名が分かる場合」は「住居か氏名が明らかな場合」に含まれます。
駐車違反の場合は車のナンバーから運転者の住居か氏名が分かります。
この点から駐車違反をした者を現行犯逮捕することはできないでしょう。

『あのぉ‥質問があるのですが‥。』

質問があれば遠慮しないでください。どうぞどうぞ。

『盗難車であればナンバーから運転者の住所か氏名は分かりませんが‥。』

そうですねぇ‥。
その時は相手に住所や名前を尋ねましょう。
でも、相手が『俺の名前か、サ・カ・モ・ト・リ・ョ・ウ・マ じゃ!』といえばそこで現行犯逮捕することはできません。
まあ、坂本龍馬では嘘っぽいので「氏名が明らかでない場合」と言えるでしょうが、相手が免許証を見せたらそれで終わりですネ。

結論は、駐車違反は「逮捕の必要性がない」ので現行犯逮捕はできません。


7.警備員はどうすればいいのか

『質問です!』

今度は元気がいいですネ。あなたたちは新任警備員なのですから分からないことがあればドンドンと質問しましょう。
なんですか?

『この事例の場合、警備員は駐車違反の正当防衛として相手を呼び止めて「車を移動してくれるよう」お願いすることしかできないンですよね?
それ以上のことをすると正当防衛の範囲を超えるのですよね?』

男性にしつこくつきまとって“お願い”を繰り返したり、両手を拡げて立ちふさがったり、大声を 出せば正当防衛の範囲を超えて過剰防衛になりますね。
過剰防衛にならなくても警備業法15条に反しますよ。

『では、男性が警備員のお願いに応じてくれなければどうするのですか?
顧客の土木会社から「何のために立っているんだ。人形と同じじゃないか!」と言われてしまいますよ!』


そう言われてじっと唇をかんでいるのが警備員なのです。
土木会社から警備会社にクレームの電話が入ったら、すぐに“揉み手のペコペコ上役”がやって来てうまく取りなしてくれます。
警備員を悪者にする場合もありますがネ‥。

冗談、冗談。本気にしないでね。

簡単な解決策がありますからご心配なく。

110番通報すればいいのです。
土木会社の現場監督には『今、警察連絡しましたからすぐにパトカーが来ます。15万円の罰金ですね。』と言ってクレームをかわしましょう。

しかし、男性に黙って110番するのはチョットかわいそうです。
逆恨みをされると厄介なので、男性にこう言いましょう。

『そうですか‥。車を移動していただけませんか。
仕方がないですね。私はこれ以上のことをあなたに要求することはできませんから‥。
それでは解決を警察に任せましょう。
今から110番通報しますけれどよろしいですね?
これは脅迫でも強要でもありません。あなたのためを思って言っただけですから。』

そして、スタスタと工事現場の出入口に戻り、車のナンバーを見ながらケイタイを取り出しましょう。

男性は走って戻り、車を移動させるでしょう。

男性は警備員にこう毒づきます

『俺はここの警察署長をよく知っているンだ。公安委員会のやつらもよく知っている。オマエはどこの警備会社の警備員だ!』

こう答えましょう。

『これはこれは失礼しました。そんな偉い方とは存じませんでした。
私ですか?SPnetという警備業者の警備員です。「安全を護り・安心を与える技能集団」を目指しています。
お名刺などいただければ代表の米川にご挨拶にうかがわせます。』

男性が名刺など渡すわけがありません。
男性は悔しさを隠しきれずに車を急発進させて行くでしょう。
警備員その車に敬礼をしましょう。

警備員は卑屈になってはいけません。
『たかが警備員が!』・『オマエたちは何の権限もないンじゃないか!』に臆してはいけません。
そんな弱気では顧客の利益を護れません。

私がある公共施設の駐車場で交通誘導をしていました。
若い男がタイヤをきしませながら駐車場に入ってきて、公用車の駐車スペースに車を停めました。

私が『そこは公用車の駐車スペースですから、来庁者の方は駐車をご遠慮ください。』と言うと。
その男はこう言いました。
『警備員がナンボのモンじゃ!オマエたちは何の権限も持っていないだろう!偉そうなことを言うな!オレはションベンがしたいンじゃッ!』

そして、車のそばで立ち小便をしようとしました。

私は男を見据えてこう言いました。
『アンタのキタナイものを出してみな。出したら公然猥褻罪で現行犯逮捕するゾ。』

男はアタフタと庁舎内のトイレに急ぎ、用を足して車を急発進させて駐車場を出ていきました。
その日以来、その男を見かけたことはありませんでした。

警備員には「顧客の安全を護る気概」が必要なのです。


8.新任警備員のためのワンポイント

@停車・駐車違反に対しては正当防衛・警備業法15条の範囲でお願いするだけ。
A現行犯逮捕はできない。
Bにこやかに110番通報で対処。
C卑屈にならず、法に沿って、臆せず顧客を護る。



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