FJ1200-4CC 整備資料
2020.06.22.クラッチの点検。
3rdで走行中に加速すると「一瞬、失速してから加速する」。まるで、失火か燃料詰まり。
そんなことが三回も起きると少々気になります。
取り敢えず、クラッチを点検することにしました。
原因となるような「スプリングのへたり,デスクの磨耗・劣化・歪み,プライマリードリブンの爪段差」はありませんでした。
しかし、ドリブンデスクの表面に「焼け」。
取り敢えず、ストックのクラッチから程度のよいデスクを移植して、様子をみることにしました。
FJのクラッチ構成も説明してあります。
・FJのクラッチ構造
・クラッチ点検の状況
1.端緒
a.加速時の失速
最近は、ひまがあれば、FJに乗っています。
それは、加齢による体力低下のため。
年々、身体能力が落ちてきています。
「いつまで乗れるか分からない。来年も乗れるかどうか分からない。あと何回乗れるか分からない。」
130㎏のRMXをアスファルトで走らせるのなら、まだまだ。
しかし、260㎏のFJだとどうなるか分からない。
今のうちにできるだけ乗っておこう。
こんな焦りがあるのです。
気になるのは、3rdで走行中に加速すると、一瞬失速したあと加速すること。
感じとしては「失火or燃料ストップで回転数を失い、すぐに回復する」ようなもの。
これが、今までに三回。
燃料系統や点火系統も疑われるが、それなら他の変速段数でも起こるはず。
まずは、クラッチデスクを点検してみることに。
走行距離 : 34246㎞
b.クラッチが原因なら
・走行中加速するときに失速する → 「しっかりとつながっていない」ので「滑る」。
・失速したあとに加速する → プライマリードリブンギヤ(ドライブプレート)の回転数が上がって「つながる」。
つまり、「ドライブプレートとドリブンプレートがしっかりとつながっていない(圧着していない)」ことが原因。
考えられるのは、
・ドライブプレートの劣化・片減り・減り
・ドリブンプレートの歪み
・プライマリードリブンギヤ(クラッチアウター)の爪段差
・クラッチスプリングの締めつけ不均一
これらをチェックしてみました。
2.ストックのクラッチをチェック
FJのクラッチを点検するのは始めてなので、「どういう構造になっているのか」をストックのクラッチでチェック。
RMXと異なる点は、
・プレッシャデスクを引っ張る(RMX)か押す(FJ)か。
・スプリングがプレッシャデスクの中にある(RMX)か外にある(FJ)か。
a.ストッククラッチ①
・a. スリーブハブ,a1.ウエーブワッシャシート,a2.ウエーブワッシャ(じゃダースプリング),a3.ドライブプレート(巾小),a4.ドリブンプレート,a5.クラッチボスリング(ワイヤー) ※a1 → a2 → a3 → a4 の順でaにはめ、a5で留める。a5はaの溝にはめて穴に押し込む。外すときは頭を狭めて押す。(パーツリストイラストの順番は間違い) ・b.プライマリードリブンギヤ,b1.クラッチベアリング,b2.スペーサ,b3.ワッシャ,b4.ドライブデスク(6枚+巾小1枚) ※a4とa6は同じ、a3とb4(巾小)は同じ。b4(巾小)は一番手前(プレッシャデスク側) ・c.プレッシャデスク,c1.スプリングハンジング,c2.クラッチスプリング,c3.スプリングプレート,c4.プッシュロッド1 ※写真ではスリーブハブを留めるナットが欠けています。 ※ドライブデスク厚 : new/2.9㎜~3.1㎜、使用限度/2.8㎜ ※ドリブンデスクの歪み限度 :0.1㎜ ※スプリング自由高限度 : 6.0㎜以下、スプリング締め付けトルク : 80㎏・㎝ ※クラッチナット締め付けトルク : 700㎏・㎝ ※オイルドレンボルト締め付けトルク : 430㎏・㎝ このストッククラッチ①では、 ・プライマリードリブンの爪段差 → 当たり痕がついているだけで、指の腹で触って平坦。程度がよい。 ・ドライブデスク厚 :巾小/3.1,3.05,3.05,3.05,3.05,3.1㎜。スリーブハブの巾小/3.05㎜、表面に異状なし。 ・ドリブンデスク歪み : 定盤がないのでガラス上においてシックネスゲージを入れる → 全て0.08㎜が入らない。表面状態異状なし。 ・スプリング自由高 (4方向):6.7,6.7,6.7,6.7㎜ → 変形なし。 ・評価は「程度良好」 → デスクを現FJに移植。 |
b.ストッククラッチ②
(プライマリードリブンの爪段差) 指の腹で触って平坦でないことが分かる。見た目もハッキリと段差が分かる。 この程度なら修復の必要性を感じないが、表面を軽くなだらかにした方がよい。 このままでも「まあ使える」程度。 (ドライブデスク厚) 3.0,3.05,3.05,3.0,3.0,3.05㎜。スリーブハブの巾小/3.05㎜、表面に異状なし。 ※一番手前に巾小のデスクを使っておらず、内側が削れていた。 (ドリブンデスク歪み) ところどころに0.08や0.1が入るが、測定方法と定盤代用のガラスに問題もある。 (スプリング自由高) 4方向:6.6,6.6,6.6,6.6㎜ → 変形なし。 ・評価 → ストック ①よりは程度が落ちるが、「まだまだ使える」程度。 |
●●
3.FJのクラッチ点検状況
a.クラッチカバーボルトの長さ
・クラッチカバーボルトは11本。長さは三種類。長,中,短。 頭からの長さ : 長/40.5㎜,中/30.5㎜,短/25.5㎜。 ・①~⑥と⑪ → 短 ・⑧と⑨ → 中 ・⑦と⑩ → 長 ・締め付けトルク : 100㎏・㎝。 ・④にトルクレンチが使えないので、面倒がらずにプレーキペダルを外しましょう。 ・ギヤオイルを抜いて、サイドスタンドで傾ければ残留オイルが流れだすことはありません。 |
b.ガスケットを忘れずに
クラッチカバーを外したら、ガスケットがちぎれてしまいました。 思いつきでの「クラッチデスク点検」なのでガスケットを準備していません。 ガスケットの下や上に液体ガスケットを塗って対処しました。 ※ガスケット,クランクケースカバー2 : 1TX-15461-00 「 パット見」はきれいです。 分解歴がないのでしょう。 スプリング取り付けボルトが均等に締めつけられていないと クラッチのつながりや切れが悪くなります。 外すときにトルクをチェック。すべて150㎏・㎝。(指定トルクは80㎏・㎝) 多分、これが生産組み立ての締めつけトルクなのでしょう。 締め付けトルクが均一だから「スプリングに問題なし」。 なお、締めるときは、「抵抗を感じるまで締めて、そこから100㎏・㎝で締める」 |
c.プライマリードリブンギヤの爪段差
段差ができるのはプライマリードリブンギヤ(クラッチアウター)の回転方向前側。
※プライマリードリブンギヤとスリーブハブは左回転(反時計回り)。
クラッチがつながるとプライマリードリブンギヤ爪の回転方向前側がドライブデスク(コルク)の回転方向後側と当たり、
スリーブハブ(インナー)の回転方向前側とドリブンデスク(アルミorスチール)の回転方向後側が当たる。 → クラッチの爪の段差/なぜできるのか
問題となるのは「プライマリードリブンギヤ爪の回転方向前側の段差。
この段差が深くなると、クラッチを切ってドライブデスクとドリブンデスクの圧着をなくしても、
ドライブデスクがこの段差に引っかかってドリブンデスクときれいに離れない。
クラッチをつなげてドライブデスクとドリブンデスクを圧着しようとしてもきれいにくっつかない。
つまり、クラッチが切れない・つながらない。
スリーブハブとドリブンデスクでも同様のことが言えますが、
スリーブハブの爪が多いこと、
デスクが爪に当たる力が「プライマリードリブンギヤ爪 → ドライブデスク → オイル → ドリブンデスク → スリーブハブ爪」と伝わる内に軽減されるので、
爪段差はそれほど成長しません。
こちらが回転方向前側。 当たり痕はしっかりとついているが、指の腹で触って凹凸を感じない。 ストッククラッチ①より「やや劣る程度」。このまま問題なく使えます。 |
こちらが回転方向後側。 後側は前側より当たりが弱いので、後側がOKなら前側もOK。 結局、プライマリードリブンギヤの爪段差も問題なし。 |
d.デスク厚とスプリング自由高
(ドライブデスク厚) 巾小/2.9,2.9,2.9,2.95,2.9,2.95㎜,スリーブハブの巾小/2.95㎜。※使用限度/2.8㎜。 測定は四カ所で行う → 片減りなし。 表面に劣化なし。 ドライブデスクに問題なし。 (スプリング自由高) 4方向 → 6.6,6.6,6.6,6.6㎜。※使用限度/6.0㎜ スプリングに問題なし。 (ドリブンデスク歪み) 0.1㎜のゲージは入らない。 → OK ドリブンデスクに問題なし。 しかし、気になるのは…、 |
e.ドリブンデスクに「焼け」
気になったのがドリブンデスクの「焼け」。
こちらは表側(エッジが丸くなっている方)
こちらが裏側(エッジが立っている方)
ドリブンデスクの素材はアルミではなく鉄。サビではなく「表面焼け」です。
表側 スリーブハブ一番下のドリブンデスク(a4)には「焼け」がありません。 |
裏側。 a4裏にはジャダースプリングとの擦れ痕がありますがこれが通常です。 |
ドリブンデスクの歪みが「使用限度以内」でも、この「焼け」は「ドライブデスクとドリブンデスクが滑っている」証拠。
通常使用で「強化クラッチを組むほど」エンジンを回していないので、スプリングには問題ない。。
プッシュロッドを押す力が弱くて「スパッ」とつながらないからか? ギヤオイルの品質が悪いからか?
それとも中古車なので「もともとこのようなドリブンデスクが組んであった」のか?
原因はどうであれ、このドリブンデスクをこのまま組むわけにはいかない。
ドライブデスクも使用限度に近づいているので、ストッククラッチ①の程度のよいデスクを組むことにしました。
・これで、「加速中の失速」がなくなるかどうか。
・1000㎞程度走ったあと、この「焼け」がでるかどうか。
・「同様の焼け」が出ていれば、強化クラッチを入れるしかないでしょう。
今後の検証を待つことに。
d.対処
・ドライブデスクとドリブンデスクを「ストッククラッチ①」のものと交換
・スプリングを「ストックのクラッチ①」のものと交換。
・プレッシャーデスク,ウエーブワッシャ(ジャダースプリング),クラッチスプリングを「ストックのクラッチ①」と交換。
・結局、交換しなかったのはスリーブハブとプライマリードリブンギヤ。
これで、まだ「失速 → 加速」するなら、燃料系統と点火系統の点検が必要。
★2020.06.23・24.試乗
「165号 → 163号の右回り」と「165号往復」。
スタートしてまず感じたのが「前へ進む」こと。
そして、走行中「このアクセル開度なら80㎞/hくらいか…」が90㎞/h。
やはり、少しクラッチが滑っていたようです。
低速トルクとパワーがあり、スムーズに回転する4気筒なので気がつかなかったのでしょう。
低速トルクのないギクシャク単気筒のRMXなら「すべり」に気付いたはず。
ただし、3rdでの加速で「つながるまでに間があったこと」が一回。
信号停止から1stで発進、2ndで加速、3rdでさらにアクセルを開けたときに「1~2秒の空転があってからつながって加速した」こと。
例えるなら、クラッチレバーやワイヤーが一瞬どこかに引っかかたような状態。
同じような場面は何度もあったが、そんな症状は起こらなかった。
狭い道路でスピードを乗せずに早めにシフトアップしたからか?
しかし、これは以前の「3rd失速」と似ている。
「クラッチのつながりが鈍い」 → 「ブッシュロッドの戻りが鈍い」 → 「バネは問題なし」 → 「レリーズも問題なし」 → 「プッシュロッドに問題あり?」
今回の、クラッチ点検でプッシュロッドはチェックなし、プッシュロッドの点検が必要。
また、気になるのは「ハンドル変更 → クラッチレバー角度変更」でレバーストロークが短くなっているので、
「二本掛け」ではレバーが薬指に当たって完全にクラッチが切れないこと。
レバーアジャストは「少し遠い②」。①があるけれどこれは遠すぎる。
取り敢えず、停止してニュートラルをだす時は「四本掛け」で。
プッシュロッドを点検して、尾鷲・熊野にもちこんでみましょう。
★2020.06.25.プッシュロッド点検
・摺動部に汚れなし。 ・外に出ている部分にはスプロケットやチェーンからの汚れ付着。 この部分はロッドの動きに関係なし。 ・ロッド曲がり・歪み ガラス上に置いて0.09㎜ シックネスゲージの食いつきが各部同じ。 同様にして 0.10㎜ シックネスゲージでも同じ。 使用限度歪み=0.10㎜以上。 「問題なし」と判断。 ・レリーズにオイル漏れなし。 下部にスプロケットやチェーンからの汚れが付着 → 拭き取った部分にも問題なし。 |
プッシュロッドにも異状がなかったから、「クラッチはすべて問題なし」ということになります。
6.24の試乗で「3rdでの加速でつながるまでに間があったこと」が未解決ですが、一回だけのことであるし、別デスクを組んだばかりの「当たり・馴れ」の問題かもしれないし。
とにかく、これで様子を見てみることにしました。
つづく
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