FJ1200-4CC 整備資料



 2020.05.03.クラッチレリーズのシール交換





信号待ち・アイドリングでのシフトが固く、リザーブタンクのオイルが減っていたのでクラッチレリーズを点検しました。
オイル漏れがあったのでレリーズを程度のよいものと交換しシールを交換。
しかし、アイドリングでのシフトの固さは改善されず、その原因は「クラッチレバーの角度変更によるストロークの減少」だと判明。
今回のレリーズ交換ではブレーキキャリパとクラッチレリーズの構造の違いからエア抜きのタイミングの違いを考えました。

オートバイの基本仕様を変えるといろいろなところに不具合が出てきます。
セパレートハンドルをバーハンドルに換えてオートバイを自分の体型に合わせれば、レバー角度が変わりストロークが減少する。
ニーグリップ位置が変わってニーグリップがしにくくなる。FJはヨーロッパ向けのツアラーだから欧米人体型に合わせてあるのです。
白バイをみるたびに、「CB1300は日本人体型に合わせてあるのかな?」と感じます。


レリーズのピストンとシリンダーの状態
交換したレリーズのピストンとシリンダーの状態
シール取り付け
プレーキキャリパと同じテンポでエア抜きをやるとエアーを吸ってしまう



1.アイドリングでのシフトが固い


  走行時は問題がないが、信号待ち(アイドリング)でのシフトが固くてNが出しにくい。
  マスタータンクのオイル面が下の方で揺れている。
  フタを開けて確認すると、やはり。
  昨年9月の車検前にマスターを交換、その後ほとんど乗っていないのでこれはおかしい。

  考えられるのはクラッチレリーズ(プッシュレバーCOMP)のオイル漏れ。
  「オイル漏れ → 圧が抜ける → 充分にクラッチが切れない」

  クラッチレリーズの点検・シール交換は第一回ユーザー車検後の2011.10 → こちら
  当時の走行距離は22000㎞、現在のオドメーターは33200㎞。
  あれから8年半、走行は11200㎞。
 


  外してみるとピストン面にこの汚れ。
  表面のオイル汚れを拭き取り、取り付けてレバー操作数回。
  ダストシールを押すとオイルガにじみ出す。
  ダストシールを外すとこの状態。
  ダストシールはつまんで簡単に外れます。

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2.ピストンとシリンダーの状態



  ピストンを抜くのに以前作ったノズルを試してみました。
  ※エアチャックに取り付けるノズルの作成

  もちろん、オイルラインにつないだままレバーを握ればピストンは簡単に外れます。
  単にノズルを使ってみたかっただけ。問題なく使えました。
  50円程度のホースニップルにM10・細目(P1.25)のネジを切っただけです。
  ブレーキキャリパのピストンを外すときに重宝しますヨ。

  なお、レリーズを中古部品で入手したときはオイルシールがシリンダー麺に貼りついて、
  足踏みポンプの圧だけで外れない場合があります。
  そんなときは、レリーズを両手で持って両方の親指でピストンを押し下げてやれば
  オイルシールの張り付きが外れて、空気圧で簡単にピストンが外れます。
  このピストンはプレーキキャリパのピストンのように大きな圧をかけないでも簡単に外れます。


  シリンダー出口付近に赤錆汚れ付着。ここが、オイルシールの上限位置でしょう。
  取り付けたときは結構きれいだったのですが…。こちら
  こちらがピストン。
  シリンダーに接触するのはオイルシールだけだけど、この錆と汚れはダメでしょう。

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3.取り付けるレリーズ


  左が今まで使っていたレリーズ。右二つがストック。
  一番綺麗な真ん中を使います。
  取り外したままの中古部品でこれだけきれいなのは珍しい。
  テフロン加工はピストンの側面全体にしてあることを初めて知りました。
  ピストン側面はシリンダー壁面と接しませんが、側面が錆びると錆びがシールを傷つけるので、
  錆び防止のコーティングなのでしょう。


  シリンダーの各所にオイルシールの貼りつき汚れあり。
  ピカールで最小限の汚れ取り。
  やりすぎるとシリンダーの真円度を損ないオイル漏れが起こるので注意。
  指の腹で触って引っかかりがなくなればOK。ピカピカにする必要はありません。
  しかし、シリンダー出口付近に汚れがないのには驚き。これが普通の状態なのでしょう。


  オイルシールハ簡単には外れません。
  爪切りニッパーで切れ目を入れる、ラジオペンチで引っ張る。
  切るか引きちぎるかお好みで。
  テフロンコートが一部剥げて指の腹に引っかかる状態だったので、
  軽くピカーるで「引っかかり取り」。
  新品のピストンを使うのが一番なんだけど、今回はこれで。

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4.シール取り付け


a.オイルシール


  シールセットは770円。ヤマハのシールにしては安い。
  今回はモノタロウで。
  オイルシールはこの向きでピストンの中央溝にはまります。

オイルシールの取付はタイヤをホイールにはめるような感じで。
・オイルシールの内側にシリコングリスを塗る。
・ピストンを裏返して両方の手で持つ(親指が上、残りの指が下にして挟む)。
・オイルシールの一部(6時位置付近)を両方の親指で押し込む。
・押し込んだ部分(5時位置・7時位置)から両方の親指を12時位置までずらせながら残りの部分を押し込む。


b.ダストシール


取付に少し迷ったので今後のために。
写真は古いピストンと古いダストシールを使っています。

  ダストシールは内側が二段になっています。
  下側の出っ張りがピストンのダストシール溝(上段溝)にはまります。
  ダストシールをはめたあとシールをめくるとこうなります。


  シールを戻すとこの状態。
  これがダストシールがはまった状態です。
  ピストンの裏にスプリングをはめて、シリンダーに入れる。
  シリンダー内面とオイルシールにプレーキオイルを塗るのをお忘れなく。


  ピストンは簡単にはまります。
  ピストンがはまったらダストシールの外縁をシリンダー出口の溝に引っかけます。
  ダストシールはピストンをシリンダーにはめた後でも取り付けられますが、
  ピストンをシリンダーにはめる前に取り付けておいた方が楽です。
  順番は「オイルシールをはめる → ダストシールをはめる → ピストンをシリンダーにはめる」
  これが今回取り付けるレリーズ。



5.シフトは軽くなったか?


  オイルシール交換後もアイドリングでのシフトは固いまま。原因はレリーズの圧力抜けではなかったようです。
  考えられるのはバーハンドルでのレバー角度によるストロークの減少。しかし、ハンドル角度とレバー角度はライディングポジションに合わせてあるので変更はできない。
  レバーの開きを大きくすることにしました。(※3 → 2)

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6.エア抜きで気付いたこと


オイルラインのエア抜きは、レバーに圧がかかるまではクラッチレリーズが「気泡吸い出し法」、ブレーキキャリパが「ピストン押し出し法」。
レバーに圧がかかったら通常の「下からエア抜き法」(レバーで圧をかけプリードバルブを開いてオイルと気泡を排出する)。
今回、気付いたことを付記します。


a.「気泡吸い出し法」でプリードバルブから吸うエアを減少させる


ブリードバルブからエア吸い込みを減少させれば、効率よくオイルラインのエアを吸い出すことができます。
ブリードバルブからのエア吸い込みは二カ所。「ブリードバルブとホースの接合部」と「緩めたプリードバルブのネジ隙間」。

bで説明するように、「ブリードバルブとホースの接合部からエアーを吸う」のはオイルを抜く(吸い出す)とき。
「ブリードバルブのネジ隙間からエアーを吸う」のはオイルを入れるとき。

オイル吸い出しのときにホース接合部から外のエアーを吸っていたのでは、オイル吸い出し力を「オイルラインのエアー抜き」のために充分使えない。
オイルを入れるときに「緩めたブリードバルブのネジ隙間」からエアーを吸っていたのでは、新たにオイルラインにエアーが入る。

そのためには、
①プリードバルブにつなぐホースの径を小さくして、ドライヤーやホットガンで温めたあとでつないで、接合部の隙間をできるだけなくすこと。
  ブリードバルブのホース取り付け出っ張り外径=7.0㎜Φ。ビニールホースの内径=5.0㎜Φでは周りからエアーを吸い込むので、内径4.0㎜Φ(外径7.0㎜Φ)を使う。
  ホースを外したらホースの先を切って、新たに温めて取り付ける。

②ブリードバルブのネジ接合面をプチルゴムかチューイングガムで塞ぐ
※これは試してないので有効かどうか不明。


b.「下からエア抜き」での注意-プレーキキャリパと同じテンポでやってはいけない


クラッチレリーズのピストンはクラッチ側から常に押されている。
プリードバルブが開きオイルが排出され始め圧が抜けると、ピストンはクラッチ側の力で勢いよく押し戻され、シリンダー内のオイルを排出する。
勢い余って戻り過ぎたピストンはピストン後にあるバネで適正位置まで押し出される。
このときにシリンダーが陰圧となり、プリードバルブのネジ隙間からエアを吸う。

ブレーキキャリパのピストンは「ピストンが押しつけたデスクからの反力」で押されている。
ブリードバルブが開きオイルが排出され圧がなくなると、この反力はなくなり、ピストンを押し戻すことはない。
ピストンを押し戻すのはピストンが出たときに撓(たわ)んだオイルシールが元に戻る力。
オイルシールの復元力でピストンはゆっくりと押し戻され、その距離もコンマ何㎜。
「ピストンが勢い余って戻り過ぎ、それが適正位置に押し出され、シリンダーが陰圧になる」ことはないだろうが、もしあってもその距離はほんの少しで、さらに時間がかかる。

つまり、クラッチレリーズの場合はブレーキキャリパの場合よりエアを吸うタイミングが早く、その量も大きい。
だから、プレーキキャリパの場合と同じタイミングでプリードバルブを締めていたのではエアを吸ってしまう。


「レバーで圧を充分にかける → プリードバルブにかけたメガネを開く → 勢いよくオイルとエアーが出る → オイル排出が止まる → プリードバルブにかけたメガネを動かす」
これでは遅いのです。オイル排出が止まったらすぐにエアを吸うので、エアを吸ったあとにバルブを締めていることになるのです。
これは非効率。

オイルと気泡を排出したあとすぐにブリードバルブを締めるのは、「排出された気泡が戻るのを防ぐこと」と「緩めたブリードバルブのネジ隙間からエアーを吸うのを防ぐこと」。
クラッチレリーズはブレーキキャリパよりもブリードバルブのネジ隙間からエアーを吸うタイミングが早く、吸うエアーも多いのでバルブを締めるタイミングを早くしなければなりません。
オイル排出が止まるのを待たず、「ブシュ~ッ → メガネを動かす(締める)」でやらなければならないのです。


なお、排出されるオイルに混ざっている気泡はオイルラインの中にある気泡だけではありません。
オイルが勢いよく排出されるときに、ブリードバルブからエアを吸ってそれも混ざります。
ただし、プリードバルブのネジ隙間から吸い込まれたエアーは混ざっていません。混ざっているのはブリードバルブとホースの接合部から吸い込まれたエアーです。

緩めたブリードバルブのネジ隙間から吸い込まれたエアーは、バルブ先端(下部)の小さな孔からオイルに混ざって出ようとします。
しかし、バルブ先端はシリンダー側(下側)からオイルが流れ込んできていて、陽圧になっているので上から侵入してきたエアーを押し返します。
エアーが吸い込まれるのはオイル排出が止まったときでしょう。しかし、そのときには既にブリードバルブは締められています。
だから、オイルに混ざっている気泡にプリードバルブのネジ隙間から吸い込まれたエアーは入っていません。

これは気泡吸い出し法でオイルを吸い出す場合も同じです。
しかし、オイルを入れる場合はバルブ先端部は陰圧になるのでエアーを吸うことになります。

これに対し「ブリードバルブとホースの接合部」から吸い込まれるエアーは、オイルが排出されるときにホース接合部が陰圧にるので簡単に吸い込まれます。
だから、オイルに混ざっている気泡にはホース接合部から吸い込まれたエアーが入っています。
オイル排出でいつまでたっても気泡がたくさん出てくる場合は、ホース接合部が緩いのです。

なお、気泡吸い出し法でオイルを入れるときはホース接合部は陽圧になるのでここからエアーを吸うことはありません。
オイルを抜くときにエアーを吸うことになります。


  これが内径4㎜Φ×外径7㎜Φのビニールホースを取り付けた状態。
  内径5㎜Φのホースではいつまでたったもエアーが出てきましたが、
  ピタリとなくなりました。
  気泡吸い出し法に使うシリンジにもこの内径4㎜Φのホースを使います。
  シリンジ側のホースとは内径4㎜×外径5㎜の真鍮パイプでつなぎます。
  写真のシリンジは50㎖ 



つづく




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