時計・自動巻き 資料



・2012.09.27. RADO・STARRINER-500 の歩度調整





機械式時計の初心者が「びぶ朗」と「スターグラフ」を使って「歩度調整のまねごと」をしています。
今回調整したのは「RADO・STARRINER-500」。
緩急芯に「あおりを調整部」が付いていましたので「あおり」について調べました。
もちろん、この調整は初心者の手に負えませんので調整はしていません。
今回は、「初心者の歩度調整は、日常使用での進み遅れを、許容範囲に収められればそれで充分」。
「歩度グラフ測定は、どれくらい進ませればよいか遅らせればよいかの目安を知るためのもの」ということを実感しました。
「歩度グラフ測定はあくまで手段であり、グラフを水平にすることが目的ではない」ということを知りました。
この点はオートバイのキャブレターセッティングに似た部分があります。


RADO・STARRINER-500
「あおり」,「あおり長」,「あおり調整」についての初歩知識
調整前の歩度グラフ
調整後の歩度グラフ
調整前と痕の歩度比較
測定姿勢は何種類?
各姿勢すべてを水平線にすることはできない
必要で充分な歩度調整の手順
第二回調整後の歩度グラフと歩度

     

1. 調整する時計の緩急針には変なものがついていた



a.RADO・STARRINER-500

・2~3年前に手に入れたものです。
・私の小さい頃にはブランド力があった時計です。
  現在は SWATCH グループに入っているとか。

・風防はプラスチック、手巻き可ですが「ハックなし」です。
・日付も曜日も0時で変わるDay Just

・高級感があるわけでなし、外装の品質がよいわけでもなし。
  “ RADO ” というだけのものです。

  (精度)
・文字盤上平置き → -16 秒 / 日
・室内装着 → -48 秒 / 日

・「遅れる時計」は好きではありませんので、プラスに調整します。

※ケース寸法 : 縦×横=38.5㎜×36㎜、風防 : 28㎜Φ、厚さ : 13㎜ ( 裏蓋・風防含む )、ブレス取付巾 : 26.5㎜・直、ブレス巾 : 26.5~15.5㎜、重さ : 80g
※文字盤状態 : 8時位置に●染み、10時30分位置に・染み、長短針に汚れあり、ラドー錨マーク回転せず。。
※風防素材・形状 : プラスチック風防、表面ラウンド・内部六角形にカット
※風防状態 : 表面傷は目立たないが光にかざすと擦り傷を見つけられる、7時30分と6時30分位置のガラス内部に白点、爪で引っかかるような傷なし。
※ケース裏面状態 : 裏蓋に深い開閉傷が目立つ、小傷・擦り傷・点傷多い。
※ケース側面状態 : 線傷・点傷・打ち傷・磨き傷あるが、爪で引っかかるようなものなし。
※ケース表面状態 : 線傷・点傷・磨き傷あり。爪で引っかかるような傷はないが、光にかざすと傷が目立つ。


b.ムーブメント

 金色だと高級感があります。 ( ※刻印 : 2879 )

  緩急針に 変なつまみがついています。


緩急針の部分をズームアップ。

・Bがヒゲ持ち、Aが緩急針。
・外側の輪がテンプ。回転しています。
・片振りは ヒゲ持ち ( B ) を動かして調整。
・進み遅れ ( 歩度 ) は緩急針 ( A ) を動かして調整。

・緩急針 ( A ) の矢印の部分に変なものがついています。
・これを回して “ あおり ” を調整するのだそうです。
・ “ あおり ” とは何でしょう。 あちらこちらのサイトで調べました。

・時計門者ですから、一つ一つ覚えていかなければなりません。
  億劫ですが、ぼけ防止に役立ちます。

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2.“ あおり ” の役割” (※現段階での理解です。)


a. 理屈では 「 いつも同じ 」


振り子は「 ヒモの長さ 」が同じなら、大きく振っても小さく振っても1往復にかかる時間は同じです。

振り巾大きく元気に振っても、振り巾小さく元気なく振っても、行って帰って来るのにかかる時間は同じです。

ヒゲゼンマイも同じです。ヒゲゼンマイで 「 ヒモの長さ 」 は 「 ヒゲゼンマイの長さ 」、でしょうか。

「 ヒゲゼンマイの長さ 」 が同じなら、大きく振っても小さく振っても1往復にかかる時間は同じです。
テンプが元気があるときも、元気がないときも、1往復にかかる時間は同じです。

機械式時計の動力源は巻いたゼンマイが解ける力です。
ゼンマイの解ける力は、ゼンマイが解けるにつれて小さくなっていきます。

解ける力が小さくなれば、テンプの元気がなくなり振り巾は小さくなっていきます。

しかし、1往復にかかる時間は元気の良さ・振り巾の大きさに関係なく同じですから、
時計はゼンマイが全部解けるまで進んだり遅れたりしないのです。

これが理屈です。


b. 実際は違う


しかし、実際は軸受けでの摩擦、部品同士のかみ合い抵抗により、1往復にかかる時間が違ってきます。

だいたい 「元気大 → 元気中 → 元気小」に対応して、「進み増加  → 進み最大 → 遅れ増加 」になるのだとか。

つまり、「ゼンマイがフル巻き上げから 解けるにつれて、時計はだんだん進み、進みが一番大きくなったところから、だんだん遅れる 」 ことになります。

横軸を「フル巻き上げからの経過時間」、縦軸を「時計の進む量(歩度)」にしてグラフを描くと、山の形になるそうです。


なぜ、そうなるのでしょう?理由はまだ調べていませんが、感覚的には分かるような気がします。

水泳にたとえれば、
・手足を元気一杯に動かすと、無駄な抵抗を受けるてかえってスピードが落ちる。。
・手足を元気なく動かすと水の抵抗の負担が大きくスピードが落ちる。
・無駄な抵抗を受けず、水の抵抗を押さえてスピードが上がる力の分量がある。

こんなところでしょうか。


これを、修正するシステムが “ あおり ” なのだそうです。


c. ヒゲゼンマイと緩急針は 「 当たる → 離れる → 当たる → 離れる 」

・Bがヒゲ持ち、Aが緩急針、Cがヒゲゼンマイの中心。

・緩急針は、そこでヒゲゼンマイを固定しているわけではありません。
  ヒゲゼンマイを挟むように二本の棒が立っているだけです。
  写真の ① と ② はヒゲゼンマイを挟んでいますが、
  テンプ静止時はヒゲゼンマイに当たっていません。
・① と ② を ヒゲ棒 といいます。

・テンプが右回りすると、ヒゲゼンマイが巻かれ間隔が狭くなります。
  そして、ヒゲゼンマイがヒゲ棒 ① に当たります。
・ヒゲ棒 ① に当たると、ヒゲゼンマイの長さは 「① ~ C(中心)」となります。

・ヒゲゼンマイが一杯に巻かれたあと、それが戻る力でテンプが戻ります(左回り)。
・テンプが戻るにつれヒゲゼンマイが緩み、その間隔が拡がります。
・間隔が拡がるとヒゲゼンマイは ヒゲ棒 ① から離れます。
・ヒゲゼンマイがヒゲ棒 ① から離れると、
  ヒゲゼンマイの長さは「B(ヒゲ持ち) ~ C(中心)」となります。

・さらにテンプガ戻って、ヒゲゼンマイの間隔がもっと広くなると、
  ヒゲゼンマイは ヒゲ棒 ② に当たります。
・ヒゲ棒 ② に当たると、ヒゲゼンマイの長さは「② ~ C中心)」となります。

・テンプが精一杯戻ると、また右回りを始めます。
・右回りをするとヒゲゼンマイが巻かれその間隔が狭くなっていきます。
  そして、ヒゲ棒 ② から、いったん離れた痕にヒゲ棒 ① に当たります。


つまり、ヒゲゼンマイは、テンプが1往復する間に、「① に当たる → ① と ② の中間(離れる) → ② に当たる → ① と ② の中間(離れる)」を繰り返します。

それに対応して、ヒゲゼンマイの長さは、「① ~ C」 → 「B ~ C」 → 「② ~ A」 → 「B ~ C」と変わります。

テンプが1往復する間に、ヒゲゼンマイの長さが「短 → 長 → 短 → 長」 と変わりますから、時計の進み遅れは 「進む → 遅れる → 進む → 遅れる」と変わります。


d. 元気がよいときは 「当たるッ → 離れる → 当たるッ → 離れる 」


ゼンマイの巻き上げ量が大きく、テンプが元気に大きく振るときは、ヒゲゼンマイは 「ギュッと縮んで、グッと開きます」。

そして、「ギュッと縮む」分だけ ① に当たる時間が長くなり、「グッと開く」分だけ ② に当たる時間が長くなります。

元気なときは、 「 当たるッ → 離れる → 当たるッ → 離れる 」 なのです。
「当たるッ」・「離れるッ」の「ッ」の分が長くなります。

ヒゲゼンマイが ヒゲ棒 ① や ヒゲ棒 ② に当たっている時間が長いと、 「 ヒゲゼンマイが短い状態 」の時間が長くなります。

「 ヒゲゼンマイが短い状態 」の時間が長くなれば、それだけ時計は進むことになります。

これを調整するのが「あおり」”です。


e. 元気がなくなったら目も当てられない?


時計の進み遅れは、 「 徐々に進むようになって、ピークに達し、ピークを過ぎると徐々に遅れるようになる 」 とか。

進みのピークを過ぎた後はどうなるのでしょう。

・ゼンマイの巻き量がドンドン減るから、元気がドンドンなくなる。
・テンプの振りはドンドン小さくなり、ヒゲゼンマイの変化は少し縮んで少し開く。
・① や ② に当たっている時間が短くなり、「 ヒゲゼンマイが短い状態 」の時間がドンドン短くなる。
・すると、時計はドンドン遅れる。

ピークを過ぎたら、あおりアシストは、足を引っ張る方に作用するのではないでしょうか?


あおりと元気の関係について別の説明もあります。

・ゼンマイの巻き量が十分だと、テンプはいつも元気一杯に動く。
・ゼンマイが解けてくると、元気なときと元気でないときが出てくる。(振りが不安定になる)。
・元気な振りは往復にかかる時間が長く時計は遅れる。
・そこで、あおりによって、元気なときに遅れるのを助ける。

これなら、進みとのピークを過ぎた後もあおりの効果があることになります。


f. あおり調整 は 調整入門者の手に負えない


① と ② の間隔を変えれば、あおりアシストの作動条件を変えることができます。

・① と ② の間隔を拡げれば拡げるほど、元気がたくさんあるときしかアシストしません。
・① と ② の間隔を縮めれば縮めるほど、元気がないときもアシストします。

① と ② の間隔を「あおり長」といいます。

このあおり長を調整するのが、緩急針についているつまみなのです。
このつまみをねじることであおり長を調整します。
この作業が「あおり調整」です。


あおり調整は、その時計の進み遅れの特性によって調整しなければなりません。

さらに、調整には時間がかかります。
巻き量の減少に応じた歩度を調べ、どこからサポートを開始するかを決めなければなりません。
そして、そのサポートが上手く機能しているかどうかもチェックして修正していかなければなりません。

1計測に 「巻き上げ量100% → 巻き上げ量 0% 」 の時間がかかります。
調整結果を知るのにも同じ時間がかかります。
調整は、計測と調整を繰り返す作業なので、調整に何日もかかることになります。

長年の経験と勘があれば、この日数を短縮できるでしょうが、それがなければ大変な労力と時間をつぎ込まなければなりません。

今回の調整では、当然パスです。
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3.調整前グラフ

a.水平(文字盤上) b.12時下(文字盤上)
・片振り出ています。 ・片振りあり。
・aよりも遅れる。


c.6時下(文字盤上) d.9時下(文字盤上)
・片振りなし。
・a(水平)やb(12時下)より遅れる。
・片振りあり。
・一番遅れる。


※グラフ診断


・文字盤上平置き → -16 秒 / 日 、・室内装着 → -48 秒 / 日 と比較してみると、
  「文字盤上平置き」に一番近いのが 「水平」、 「室内装着」に一番近いのが「9時下」。

・歩度は、「水平」 > 「12時下」 > 「6時下」 > 「9時下」 となります。

・片振りは 「水平,12時下,9時下」で現れ、「6時下」では現れない。

・各姿勢の歩度は、だいたい同じような傾きとなっている。

     
4.調整後のグラフ


・片振りはヒゲ持ちを緩急針の方へ 「 グッ 」 と動かしたら一発で消えました。

「動いた量がはっきりと分かるくらい」・「これは動かしすぎたと思うくらい」動かしました。
それで、偶然に二直線が一本に。

そのあと、緩急針を三度動かして次のような結果になりました。


文字盤下と文字盤上ではどのような違いがでるのかを知るために、各姿勢で二つの場合を計測しました。


a.水平方向-文字盤下・文字盤上

水平(文字盤下-3時位置接触 ) 水平(文字盤上-3時位置接触 )



b.12時下 (3時位置接触 )

12時下 (文字盤下-3時位置接触 ) 12時下(文字盤上-3時位置接触)



c. 6時下 ( 3時位置接触)

6時下(文字盤下-3時位置接触) 6時下(文字盤上-3時位置接触)



d. 3時下 ( 3時位置接触 )

3時下(文字盤下-3時位置接触) 3時下(文字盤上-3時位置接触)



e.「12時下・文字盤上」の片振り再計測

「12時下・文字盤下」で片振りは出ないが、「12時下・文字盤上」で片振りが出ています。

計測ミスを疑い、「12時下・文字盤上」を「生音」で計測し、「12時下・文字盤上」についてパルス検知棒接触面を「3時位置から9時位置」に変えて測定。

生音で測定したのはパルス測定ミスかどうかを検証するため、パルス検知棒接触面を変えたのも同じ。

12時下(文字盤上-3時位置接触)生音 12時下(文字盤上-9時位置接触)・パルス 

歩度は違いますが、どちらも片振りが出ています。
「文字盤下と文字盤上」で「片振りが出たり出なかったりする」のはなぜかが今後の課題です。


        

f. 調整前と調整後の歩度


RADO・Sterriner-500
調整前後 調整前 第一回調整後 第二回調整後
方法 文字盤上平置 三姿勢WM 室内装着 文字盤下平置 三姿勢WM 室内装着 文字盤下平置 三姿勢WM 日常使用
実測値 -16秒/日 ×  -28秒/14時 -10秒/日 ※+2秒/12時 -11秒/14時         
換算値/日 -16秒/日 × -48秒/日 -10秒/日 ※-7秒/日 -18秒/日         


イ.第一回調整の評価

・遅れをプラスにしたが、まだマイナスとなっている。
・これを 「 ややプラス 」 に調整した方が “ 好み ” になる。
・あと、プラス「10秒+α 」/日が必要。
・第二回調整では、文字盤下のグラフを使って歩度を 「10秒+α/日分」だけ増加させてみる。


ロ.精度を比較するための測定方法

①.平置では巻き残量の影響を受ける

・第一回調整後の文字盤下平置では、最初の12時間の歩度が → 「-7秒 / 12時」 → 次の12時間が 「-3秒 / 12時」 → 24時間で-10 秒 /日。
  だんだん 「進む」ようになっていく。
  これが、「進むピークに向かっていく」ことなのでしょう。

・平置き測定での歩度数値は「巻き残量の変化」による影響を受ける。

・実際使用では「常に少しずつ巻き上げられている」ので、「 巻き残量の変化」による影響は少なくなる。
  しかし、実際使用ではその使用状況を同じにしないと精度を比較することはできない。

・「巻き残量の変化」の影響が少なく、同じ使用状況を与えるのは 三姿勢ワインディングマシーン ( 観覧車タイプ)。
   精度測定値を比較するためには、三姿勢WM によって測定するのが一番よいことになる。

②.三姿勢WM測定でも巻き残量の影響を受ける

ただし、第一回調整後の三姿勢WMでは、
最初の12時間で 「+2 秒 / 12時」 → 次の12時間で「-9 秒 / 12時」 → 24時間で -7秒/日。

この場合は、遅れる方向に進んでいるので、ここでも、歩度が「巻き残量の影響」を受けています。

これは、「巻き残量の減少 > WMの巻き上げ量」→「巻き残量の減少」だからでしょう。
だから、 「巻き残量の減少 = WMの巻き上げ量」になるようにWMを設定すればよいことになります。

しかし、その時計とWMには相性があり、この設定を見つけるのには苦労します。

そのためWMを24時間フル稼働させ、「巻き残量の減少 < WMの巻き上げ量」→「常にフル巻き上げ」にして測定する必要があります。

やはり、何日間か実際に使ってみて判断した方がよさそうです。


5.姿勢差 と 調整方法
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a. 姿勢は何種類?


上に示したように、同じ12時下・6時下・3時下でも文字盤下と文字盤上ではグラフが違います。
これはテンプにかかる力や摩擦が異なるからだそうです。→→→ こちら

結局、姿勢の種類は、「水平方向」 → 「文字盤上」と「文字盤下」、「垂直方向」 → 「12時下」と「6時下」と「3時下」と「9時下」。

これを組み合わせると、

・①.文字盤上
・②.文字盤下
・③.12時下-文字盤上
・④.12時下-文字盤下
・⑤.6時下-文字盤上
・⑥.6時下-文字盤下
・⑦.9時下-文字盤上
・⑧.9時下-文字盤下
・⑨.3時下-文字盤上
・⑩.3時下-文字盤下

しかし、各姿勢によりグラフが違うのは、時計内部の振動部とピックアップまでの距離や接触形態が違うため。
その点から考えると、上で③ と ④、⑤ と ⑥、⑦ と ⑧、⑨ と ⑩ は同じです
だから、同じと考えてよい。

つまり、姿勢の種類は、「文字盤上」、「文字盤下」、「12時下」、「6時下」、「9時下」、「3時下」 の 6種類。

     
b.緩急針の調整では姿勢差による違いを修正できない


この6姿勢すべてで、歩度グラフが一本の水平線になれば完璧です。

しかし、それは無理なことです。
時計の構造から姿勢の違いによる歩度の違いは避けられません。

さらに、時計の健康度がその違いに影響してきます。

緩急針での調整では、姿勢差による違いを修正することはできません。
姿勢差の違いを存在させたまま、平行移動させて、全体を進めさせたり遅らせたりするだけなのです。

緩急針をどれだけ調整しても各姿勢すべてで水平線を出すことはできないのです。
一つの姿勢で完璧な水平線を出しても、他の姿勢で水平線は出てきません。
苦労に苦労を重ねて、二つの姿勢で完璧な水平線を出しても、残り四姿勢のグラフが大きく狂います。

そんなことは分かっています。
しかし、緩急針を動かすとグラフが変わるので、「すべての姿勢で水平線が出せるかも知れない」という錯覚に陥るのです。


c. 時計の精度はその人のもの


歩度調整の目的は、時計の歩度を理想のグラフに近づけることではありません。

その人が使用する際に進み遅れが少ないようにすることです。

歩度グラフは競技会の記録ではありません。
調整によって、どれくらい進み遅れが出たかを知るためのものです。

12時間平置きして歩度を計測し調整、また12時間平置きして歩度を測定し調整‥。
こんなことをしていては調整に時間がかかるのでグラフを使うだけなのです。

グラフの使用目的をこう考えると、グラフはどれか一つの姿勢のものを使えばそれで足るのです。

     
d.「必要で充分な歩度調整」の手順


緩急針による 「 必要で十分な歩度調整 」 は次のようなものになります。


  ①.事前計測・調整目安の決定

・調整する時計の歩度を調べどれくらい進めるか、遅らせるかの目安を決める。
・実際使用で調べるのが一番よいが、使用状態を一定にできないので三姿勢WMを使う。
・この時点での歩度調べは 「 調整の目安を決めるため 」 のものだから、平置でもかまわない。
・調整は文字盤下で測定しながら行うので、平置で測定するなら文字盤下がよい。


  ②.計測1

・裏蓋を外し文字盤下で計測。
・水平姿勢 ( 文字盤下) と垂直姿勢二つ ( 12時下 or 6時下、9時下 or 3時下 )で合計三姿勢。
・三つのグラフを見比べて、三つが「やや進む、やや遅れる、もう少し進む・もう少し遅れる」の範囲内に入っていればOK。

・三つのグラフのうち、事前チェックで調べた歩度に一番近い姿勢を覚えておく。
  事前チェックが文字盤下平置ならだいたい文字盤下、事前チェックが実際使用なら 12時下 or 6時下 になるでしょう。

・一つの姿勢だけが突出している場合は、計測ミスが考えられるので計測をやり直す。
・計測をやり直しても突出する場合は、機械内部に原因があり調整では修正できない。
  オーバーホールしなければ治らないので、「全体として精度が出れば良し」と考えて、この突出を無視する。


  ③.片振り調整

・計測1 で片振りが出ている場合は片振りを調整する。
・三姿勢すべてで片振りゼロにできないときは、できるだけ少なくなるようにする。


  ④.歩度調整-計測2

・計測1 で選んだグラフの姿勢で計測。
・歩度をややプラスに調整する。
※他の姿勢でどうなったかなど調べる必要はない。


  ⑤.三姿勢WMによる測定

・フル巻き上げから三姿勢WMに12時間セットして進み遅れを調べ、「あとどれくらい進ませるか・遅らせるか」を決める。
・実際使用で測定し、次回調整の目安を決めてもよい。


  ⑥計測3

・計測1で選んだグラフの姿勢で計測・調整。
・他の姿勢のグラフは出す必要なし。


  ⑦.繰り返し

・⑤ と⑥ を満足するまで繰り返す。
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6.第二回調整(2012.09.29)


a.第二回調整前と調整後の歩度グラフ


室内着用や三姿勢WMでマイナスが治らない。もし少し進める必要あり。

現在、「-1 秒 ~ -18 秒 / 日」 だから、全体を 「+20 秒 / 日」くらい平行移動させればちょうどよい。

姿勢は「水平(文字盤下)」で。

水平(文字盤下-3時位置接触)調整前/第一回調整後 水平(文字盤下-3時位置接触)・第二回調整後


調整前とは第二回調整の前という意味ですから、第一回調整後のことです。

第一回調整後の歩度グラフでは「文字盤下は片振りなし」。しかし、今回測定のグラフでは「文字盤下に片振りあり」。
どちらの測定が正しいのか分かりませんが、とにかくこの片振りを治しました。

ヒゲ持ち と 緩急針を あらちこちらへ動かして、やっと第二回調整後のグラフを出せました。

歩度数値は瞬間的なものでその時々によって違いますが、 プラス20秒くらいになっています。
グラフから片振りが消えて、グラフの傾きも良さそう。

あとは、三姿勢WMに。

追加調整はこんな感じでやればよいでしょう。


b.第二回調整後の歩度(2012.10.01)


驚きの結果が出ました。

RADO・Sterriner-500
調整前後 調整前 第一回調整後 第二回調整後-三姿勢WM
方法 文字盤上平置 三姿勢WM 室内装着 文字盤下平置 三姿勢WM 室内装着 ±0秒/12時後 -1秒/24時後 -2秒/48時後
実測値 -16秒/日 ×  -28秒/14時 -10秒/日 ※+2秒/12時 -11秒/14時         
換算値/日 -16秒/日 × -48秒/日 -10秒/日 ※-7秒/日 -18秒/日         


なんと、「日差・-1秒」 です。
もう少し経過を見て、実際使用で測定してみます。


つづく。




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