SPnet 選任業務編
・新任教育・2号業務別教育資料・道路交通法-交差点での優先順位(36条・37条・43条)
今回は「交通整理の行われていない交差点」での優先順位です。
まず、交差点,交通整理の行われていない交差点の意味をしっかり教えなければなりません。
優先順位の原則は「交差道路を左からやって来る者が優先」(道交法36条1項)、
例外として「あきらに優先道だと分かる場合はそちらが優先(道交法36条2項)。
さらなる例外として「右折する場合は直進車と左折車が優先(道交法37条)。
劣後車は「相手の進行をじゃましない」だけでなく「交差点に入るときに徐行しなければならない」場合があります。
駐車場の交通誘導に必要な知識ですからしっかりと教え込みましょう。
T字路で右折する場合、右折車が優先するのか(36条1項)直進車が優先するのか(37条)、解釈が分かれます。
裁判例や過失割合では「直進車優先」どしているようです。
この部分は新任教育では受講生の頭を混乱させるので省略しましょう。
教えるときには「何を教えないか」が大切です。
・言葉の意味-交差点,交通整理の行われていない交差点
★赤点滅の信号は「交通整理の行われていない交差点」か?
・どちらが優先するか分かる場合-優先の標識・標示,明らかに広い道(36条2項)
★どちらが優先するか分からない場合-交差点に左側から入ってくる車が優先(36条1項)
★ボディガードの立ち位置、施設巡回の方向(余談)
★相手が優先の場合は「相手のじゃまをしてはいけない」+「交差点に入る前に徐行する」(36条1項~3項)
・優先者への戒め(36条4項)-奢れる者には罰則
★右折する場合 → 直進してくる車・左折する車が優先(37条)
・交差点の手前に一時停止の標識がある場合と優先(43条)※講義では省略可
★駐車場交通誘導での間違い事例
-T字路での左方右折車と右方直進車の優劣(以下は選任さん用)-
★「36条1項の左方優先」と「37条の右折する場合は直進優先」との競合
★36条1項と37条の関係をどう考えるか?-意見が分かれる
★37条についての裁判所の解釈
★T字路での交通事故損害賠償請求での基本過失割合
・警備員はどうするか?
1.交差点での優先順位は駐車場での交通誘導に必要
「交差点の交通誘導」と聞くと警備員には関係ないように思えます。
しかし、「交差点とは道路と道路が交わるところ」でT字路も含みます。
T字路は駐車場から公道に出る場合やスーパーマーケットの駐車場内にたくさんあります。
一般人が通行できる駐車場は道路ですから道交法が適用されます。
スーパーマーケット駐車場内の交差点には信号がありません。
警察官の交通整理もありません。
駐車場内での円滑な交通と事故防止のためには警備員の適切な誘導が必要です。
「交差点でどちらの車が優先するのか」を知っていないと、『道交法違反の誘導をされた。』と文句が来ます。
『指導教育責任者はどんな教育をしているンだ!』と警察から叱られるのは選任さんです。
だから、「どちらの車が優先するか」をしっかりと教えておく必要がありますす。
ただ、道交法36条は文言が絡まって「何を言っているのか何をどう定めているのか」さっぱり分かりません。
それに37条が出てくると余計分からなくなります。
現場の警備員には簡単に結論だけ教えてください。
ここでは「条文を読み取らせること」は不要です。
しかし、選任さんは教える者です。
教える者が「結果だけしか知らない」のでは講義に力が感じられません。
36条を読み解いておく必要があります。
2級検定受講者も困っている条文だと思います。参考にしてください。
さあ、講義の開始です。
2.言葉の意味-交差点,交通整理の行われていない交差点
まず、条文に出てくる言葉の意味をハッキリさせておきましょう。
『道交法2条の定義ですね!』
順調に「道交法で飯が食える」ようになっていますね。
道交法のプリントを見てください。
a.交差点 → 二以上の道路が交わる場合における当該二以上の道路
交差点とはどんなものですか?
『はいっ!2条5号に書いてあります。
・十字路、丁字路その他二以上の道路が交わる場合における当該二以上の道路
・歩道と車道の区別のある道路においては、車道の交わる部分です』
そうです。
十字路だけでなく、「T字路やY字路の交わった部分も交差点になる」ことをしっかり覚えておいてください。
それから、交差点とは「点」ではなくて「交わっている二つの道路部分」であることにも注意しておいてください。
b.交通整理の行われていない交差点 → 信号なし・警察官の交通整理なし・赤点滅信号
「交通整理の行われていない交差点」とはどんな交差点ですか?これは2条に書いてありませんよ。
『信号機がない。警察官が交通整理をしていない交差点ですか?』
そうです。
交差点で警備員が交通誘導をしていても、信号なし・警察官の交通整理なしなら「交通整理の行われていない交差点」ですからね。
・赤信号点滅の場合は「交通整理の行われていない交差点」か?
では、信号が赤の点滅の場合は「どういう規制」の意味ですか?
『一時停車です!』
そうです。これは道交法施行令2条1項に定められています。
それでは、信号が赤の点滅なら「交通整理の行われていない交差点」なのですか?
『「一時停車をしなさい」と信号が言っているのだから、交通整理かなぁ‥。』
「一時停止をすれば交差点に入ってもよい」のですよ。
『「一時停止のあとを指示していない」から交通整理の行われていな交差点になるのですか?』
そうです。「一時停止をして交差点の中に入ったら、あとは勝手にやってちょうだい」と言っているだけです。
だから、「赤の点滅信号は交通整理をしていない交差点」になります。(2級講習)
「信号なし・警察官の交通整理なし」ではどう進んでいいのか分からない、皆が勝手に進むと事故や渋滞がおこります。
そこで、36条で優先順位が決めてあるのです。。
あっ、ここでは歩行者は関係ありませんよ。
路面電車は説明から省きますから、車両と車両の優先順位です。
車両ですから、リヤカーや自転車も入りますよ。
●●
選任のための法律知識・
3.どちらが優先するか分かる場合-優先の標識・標示,明らかに広い道(36条2項)
二つの道の一方が優先道路の場合、どちらが優先するかハッキリしていますね。当然、優先道路が優先します。
a.標識・標示があるとき
優先道路を示す標識・標示は次のものです。
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①自分の方が優先道路 |
②相手の方が優先道路 |
③Aが優先道路 |
④左が優先道路 |
b.標識・標示がないとき-明らかに広い道(36条)
優先道路の標識・標示がなくても、どちらが優先するかハッキリしている場合がありますね。
『広い道と狭い道が交差する場合ですか?』
そうです。
ただし、「明らかに広い場合」でないといけません。
道幅の違いが明らかでないと「どちらが優先するか」ハッキリしないからです。
36条では、「その通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いものであるとき」としています。
簡単に言えば、「優先道路VS非優先道路」では優先道路の勝ち。
「明らかに広い道VS狭い道」では明らかに広い道の勝ち。
ここまでは大丈夫ですね。
※道交法36条2項
「2.車両等は、交通整理の行なわれていない交差点においては、
その通行している道路が優先道路(…)である場合を除き、
交差道路が優先道路であるとき、又はその通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いものであるときは、
当該交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない。」
4.どちらが優先するか分からない場合-交差点に左側から入ってくる車が優先(36条1項)
a.「どちらが優先するのか分からない場合」とは
「どちらが優先するのか分からない場合」とはどんな場合でしょう?
「優先標識・標示がなく、道幅が同じくらいの場合」です。
道交法36条2項は「明らかに広い」と規定しているので、「こちらが広とハッキリと分からない場合」ですね。
道幅以外にありますか?
『チョットおかしいと思いますが‥。』
ドンドン発言してください。遠慮しないでね。
『優先道路VS優先道路の場合ですか‥?』
そうですよ。私もそんな交差点を見たことはありませんが、ちゃんと2級検定のテキストに書いてあります。
まだ、ありますよ。
・自分が優先道路だけど道幅が狭い。
・相手は優先道路ではないけれど道幅が明らかに広い。
・つまり、(優先道路+道幅狭い) VS (非優先道路+道幅広い) の場合です。
これらの場合に「どちらが優先するのか」を決めておかなければなりません。
つまり、「五分五分の場合の判定基準」です。
どちらが優先するか知っていますか?
b.左方車優先(道交法36条1項)※まず直進と直進で理解させる。
『左から来る車が優先です!』
・自分から見て左から来る車が優先ですね。
・自分から見て右から来る車に対しては自分が優先ですね。
※道交法36条1項
「車両等は、交通整理の行なわれていない交差点においては、…次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に掲げる車両等の進行妨害をしてはならない。
一.車両である場合 → その通行している道路と交差する道路(…)を左方から進行してくる車両…。」
c.なぜ、左方優先なのか-見つけやすいし危険回避の可能性が高い
なぜ、左から来る車が優先するのですか?
『これは知っています。自動車学校の先生が言っていました。』
そこまでしっかり説明しましたか!
『何を言っているのですか!そんなの教師として当たり前じゃないですか!』
そうですね。受講生の疑問を予測して教えるのが教師ですからね。
で、なぜ「左から来る車が優先」なのですか?
『自分が交差点に入るとき、自分は道路の左側を走っていますから、左側から交差点に入ってくる車が見つけやすいのです。
右側から交差点に入ってくる車は対向車があるので見つけにくいのです。
さらに、左から交差点に入ってくる車を見つけるのが遅れても、相手も左側を走っていますから衝突するまでに相手の道路の右側分だけ余裕があります。
だから、事故を回避できます。
右から交差点に入ってくる車を見落としたら、この余裕がないので一発で衝突事故です。
交差点に左側から入ってくる車は見つけやすく、危険を回避できる可能性が高いので優先としたのです。
逆に言えば交差点に右側から入ってくる車は見つけにくく、危険を回避できる可能性が低いので、そちらを劣後させたのです。』
明快な説明ですね。
★★03
選任のための法律知識・
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d.余談-きまりには理由がある(省略可)
何事もルールにはそれを決めた理由があります。
ちょっとリフレッシュタイムです。
イ.ボディガードはVIPの後ろに立つ
私が4号の指導教育責任者資格取得の講習を受けたときのことです。
4号とは身辺警備・ボディガードです。
警備対象者(VIP)を一人でガードするときのポジションです。
まず、VIPの前に立ちますか後ろに立ちますか?
『これは分かります。後ろです。』
なぜですか?
ボディガードがVIPの後ろにいたのでは、襲撃者が襲ってきたときにその襲撃者を制止することもVIPをかばうこともできませんよ。
『襲撃者は前から来るとは限りません。後ろかも来るし横からも来ます。
ボディガードがVIPの前にいたのでは前からの襲撃しかVIPを護れません。後ろにいる方が危険を回避する可能性が高くなります。
さらに、後ろにいた方が視野が広くなり、それだけ襲撃者を発見しやすくなります。
また、VIPの様子を見ることができますから、いざというときにVIPに応じた対応ができます。』
素晴らしい分析ですね。
ボディガードの基本ポジションはVIPの後ろです。
私服保安が万引き犯人を同行する場合も犯人の後ろですね。
ロ.深夜の施設巡回方向-建物の外では左回り・室内では右回り
次はちょっと難しいですよ。今度は1号業務の巡回方法です。
警備員が深夜に施設・建物の回りを不審者がいないかどうか見回ります。
このときに警備員は建物に沿って左回りに巡回しなければなりません。
左回りですから、時計の針と反対に回ることになります。
なぜですか?
『時計の針と反対回りということは‥、警備員は道路の左端を歩くことになりますよ。道交法の「歩行者の右側端通行」に反しますよ!』
深夜ですから大丈夫です。
『分かりません‥。』
ではヒントです。
警備員は不審者から襲われても対処できるように警棒を持って巡回しま。(通常、左手でハンドライトを左肩上に構え、右手は右腰につけた警棒をすぐ抜けるようにして巡回する)
建物に沿って左回りということは、警備員の左手が建物側になりますよ‥。
『分かりました!そうです!分かりました!』
万引きGメンの研修生が、初めて万引き現場を見たときのように興奮しないでください。警備員は常に常に危機意識を持って冷静に。
『警備員は右手に警棒を持っています。建物側が警備員の左手側ですよね。
襲撃者は建物側から襲ってきません。道路側から襲ってきます。
襲撃者が道路側から襲ってきたときに、警備員は右手に持った警棒を自由に使えます。
建物に沿って右回りに巡回すると、警棒を持っている右手が建物側になって、とっさに警棒を使えないからです!』
その通り!
今度は建物の中、深夜の室内を巡回する場合です。
室内の巡回では部屋の壁に沿って見回りますが、左回りですか右回りですか?
『ええっと‥。とにかく右手の警棒が自由に使えたらいいのだから‥。壁が左手側になればよいのか‥。
分かりました分かりました。今度は右回りです。』
そうですね。室内の壁に沿って右回りだと、左手側が壁ですね。だから右手が自由に使えますね。
ただ、これは「その方が危険を回避する可能性が高い」とういうことで、危険を100%回避できるということではありません。
壁に張りついていた襲撃者が上から飛びついてきたり、地下に潜んでいた襲撃者がマンホールに引きずり込んだりする場合は知りませんよ。
「スタローンのランボーⅠ」ではランボーが崖の泥の中から出てきましたからね。
ハ.VIPが車から降りて前へ進むときにボディガードのポジションは「後右」の理由-「決めておかないとボディガードが困るから」?
今度は難しいですよ。
・ボディガードは一人。
・VIPが車の後部座席から降りて演説会場へ向かいます。
・演説会場への道の両側に人だかり。
・ボディガードは車のドアを閉めてVIPをガードして歩きます。
・先に説明したように、ボディガードはVIPの後ろを歩きます。
・では、VIPの「後ろ左」ですか「後ろ右」ですか?
今度は建物や壁はありません。
『‥‥。』
・4号指導教育責任者の教本では、「VIPの後ろ右」
『なぜですか?』
私も不思議に思ったので、講師の先生に質問しました。
私『なぜ、左ではなくて右なのですか?』
講『それは、右と決めたからです!』
私『左後ろではなく右後ろと決めたのには、何らかの理由があるはずですが‥。』
講『理由なんかありません。どちらか決めておかないとボディガードが困るからです!』
まあ、「警備員を教育する者」を教える講師戦線だから間違いはないと思いますが、この答えはチョットねえ…。
もしそうであっても、受講生の疑問に付き合ってくれてもいいでしょうに。
たとえば、
『VIPは車の後部座席から下りて前へ進んでいるよね。
ボディガードは車の後部ドアを閉めて、VIPに後ろからついていこうとしているよね。
今、ボディガードは車のどの辺にいる?
車の後部ドアの前だよ。
もし、VIPの左後ろにつけば、車のトランクの所に立つことになるよ。
右後ろにつけば、ボディガードは車の後部ドアと・前部ドアの間、つまり車の真ん中に立つことになるよね。
VIPの右後ろなら、ボディガードは車を背にしているから自分の背中を護れることになるよ。』
そして、皆でいろいろ考えたら、講師の知っている答えよりもっといい答えがでるかもしれませんね。
教えるとは自分の知っている知識を伝えることではなく、受講生に考えさせて育てることなのですから。
私の質問に講師が「決めておかないとボディガードが困るから」と答えたあと、受講生はしらけきっていましたね。
●●
選任のための法律知識・
5.「優先する」とはどんなこと?(36条1項~2項)
a.法律の定め-「交差点に入る前に徐行・入ったら相手をじゃましない」
道交法はこのように規定しています。
※道交法36条
「車両等は、交通整理の行なわれていない交差点においては、次項の規定が適用される場合を除き、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に掲げる車両等の進行妨害をしてはならない。
一.車両である場合 → その通行している道路と交差する道路(…)を左方から進行してくる車両及び…
二.…。
2.車両等は、交通整理の行なわれていない交差点においては…、
交差道路が優先道路であるとき、又はその通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いものであるときは、
当該交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない。
3.車両等(…)は、交通整理の行なわれていない交差点に入ろうとする場合において、
交差道路が優先道路であるとき、又はその通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いものであるときは、徐行しなければならない。
36条の条文では「優先する」という言葉を使っていません。
「優先する」の内容として次の二つを定めています。
・①.交差点の中 → 相手の進行妨害をしてはならない」(36条1項・2項)
・②.交差点に入る前 → 徐行しなければならない」(36条3項)
b.「相手のじゃまをしてはいけない」と「相手のじゃまをしてはいけない+徐行」の場合
ここで注意してほしいのは「相手が優先」の場合はいつもいつも自分は「相手のじゃまをしてはいけない+徐行」ではないことです。
条文をよく読むと、
「相手のじゃまをしてはいけない+徐行」は相手が優先道路・明らかに広い道の場合(36条2項・3項)で、
相手が左方車である場合は「相手のじゃまをしてはいけない」だけです。(36条1項)
つまり、
・相手が優先道だとハッキリ分かる場合(相手のKO勝ち) → 相手のじゃまをしてはいけない+徐行
・相手が優先道だと分からないが左方車を優先する場合(相手の判定勝ち) → 相手のじゃまをしてはいけない
具体的にいえば、
「自分が非優先道路で相手が優先道路」、「相手の道幅が明らかに広い」場合。
・交差点に入ったら相手のじゃまをしない。
・交差点に入る場合は「優先道路に車がいなくても」徐行。
「五分五分」で相手が左から交差点に入ってくる場合
・交差点に入ったら相手のじゃまをしない。
・交差点に入る場合に徐行しなくてもよい。
結果をまとめてみましょう。
「はっきりと優先が分かり」KO勝ち
・優先道路・道幅同じ VS 非優先道路・道幅同じ → 交差点に入る前に徐行、交差点に入ったら相手のじゃまをしない。
・非優先道路・道幅広い VS 非優先道路・道幅狭い → 交差点に入る前に徐行、交差点に入ったら相手のじゃまをしない。
「五分五分」で左方の判定勝ち
・非優先道路・道幅同じ VS 非優先道路・道幅同じ → 交差点に入ったら左から来る車のじゃまをしない。
・優先道路・道幅狭い VS 非優先道路・道幅広い → 交差点に入ったら左から来る車のじゃまをしない。
・優先道路 VS 優先道路 → 交差点に入ったら左から来る車のじゃまをしない。
余計に分からなくなりましたネ。
6.優先者への戒め(36条4項)-奢れる者には罰則
36条4項には優先する者に対する戒めが規定してあります。
※道交法36条4項
「4.車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、
当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、
かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。」
これは、交差点内のきまりで、優先する者にも劣後する者にも適用されるので、優先する者への戒めとなります。
ここで、
・交差道路を通行する車両 → 非優先道路から交差点に入っていくる車(こちらが優先)
・反対方向から進行してきて右折する車 → 直進VS右折で直進が優先(37条・こちらが優先)
・これち劣後車や歩行者に注意して、安全に交差点を通過しなければならない。
・罰則あり。
なお、4項には「交通整理の行われていない交差点では」という限定がありません。
だから、交通整理の行われている交差点、つまり信号がある・警察官が交通整理をしている交差点でも適用されます。
青信号で交差点を通行する場合も他の車両や通行者に対してできる限り安全の速度と方法で走らなければならないのです。
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7.右折する場合 → 直進してくる車・左折する車が優先(37条)
※道交法37条
「車両等は、交差点で右折する場合において、当該交差点において直進し、又は左折しようとする車両等があるときは、当該車両等の進行妨害をしてはならない。」
(罰則 第百二十条第一項第二号)
これはよく知られていますね。
・交差点で右に曲がるときは、直進してくる対向車を待ってから右折。
・対向車が自分と同じ方向に曲がるとき(対向車が左折するとき)は対向車の曲がるのが優先。
・交差点に先に入っても、直進車・左折車が優先ですよ。
※注意-「交通整理の行なわれていない交差点においては」という限定がない
・2級検定の試験にでそうですね。
①交通整理の行われていない交差点においては右折車は直進車の通行を妨害してはならない。 → × か〇か?
②道交法37条は「交通整理の行われていない交差点において、直進車が右折車に優先することを」定めている → × か〇か?
③道交法37条によって「交通整理の行われていない交差点においては直進車が右折車に優先する」 → × か〇か?
・①は〇、②は × 、③は〇
・理由は選任さんに聞いてください。
※後で説明するように、この37条(右折するときは直進車優先)と36条1項(左方車優先)が競合する場合があります。
この競合については学説が分かれているので新任教育では取り上げない方がよいでしょう。
だから、ここではそれに触れず「サラッ」と流しましょう。
8.交差点の手前に一時停止の標識がある場合(43条)-「交差点前で一時停止」+「交差点内で相手をじゃましない」(駐車場警備では関係ないので省略可)
交差点での優先順位に関し、43条があります。
※道交法43条(指定場所における一時停止)
「車両等は、交通整理が行なわれていない交差点又はその手前の直近において、道路標識等により一時停止すべきことが指定されているときは、
道路標識等による停止線の直前(道路標識等による停止線が設けられていない場合にあつては、交差点の直前)で一時停止しなければならない。
この場合において、当該車両等は、第三十六条第二項の規定に該当する場合のほか、交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない。」
(罰則 第百十九条第一項第二号、同条第二項)
a.43条の意味
・①交通整理の行われていない交差点で、
・②一時停止の道路標識・標示があるときは、
・③停止線の直前・交差点の直前で、
・④一時停止しなければならない。
ここまでは当たり前。
・⑤「36条2項に該当する場合の他は」交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない。
これは相手を優先させるということ。
ということは「36条2項に該当する場合」は「相手を優先させなくてもよい=自分が優先する」。
36条2項ってどんなのでした?
b.36条2項に規定に該当する場合(KO勝ちの場合) → 「一時停止」だけ
・36条1項 → どちらが優先かハッキリ分からない場合 → 左方優先(判定勝ち)。
・36条2項 → どちらが優先かハッキリ分かる場合 → 優先する方が優先(KO勝ち)
・「36条2項に該当する場合」 → KO勝ちの場合 → 「自分が優先道路」または「広い道」の場合
交差点では自分が優先だから相手を優先させなくても良い。
交差点に入る前に「一時停止の標識・標示」があったのでこちらの優先度が少し低くなったけど、こちらの優先がハッキリしているから優先。
たとえば、
・自分が優先道路、相手が優先道路ではない。
・入ろうとする交差点は信号なし・警察官の交通整理なし。
・入ろうとする交差点に一時停止の標識がある。
この場合は、
・交差点に入る前に、一時停止(④)
・交差点に入ったら、自分が優先されるので、進行妨害してはならないのは相手方。
c.36条2項に該当しない場合(左方優先で判定勝ちの場合) →「一時停止」+「相手のじゃまをしない」
「36条2項に該当しない場合」とは「36条1項の左方優先が適用される場合」です。
どちらの道が優先かハッキリ分からないから、左方車を優先するとい「判定勝ち」の場合です。
たとえば、
・道幅が同じくらいの交差点。
・入ろうとする交差点は信号なし・警察官の交通整理なし。
・自分の道には一時停止の標識。
・右側から交差点に入ろうとしている車がある。(自分が左方車だから優先)
この場合は、
・交差点前で一時停止(④)
・交差点に入ったら「交差道路を通行する車の進行を妨害してはならない」(⑤)。
左側から来る車は当然優先(36条1項)ですが、右側から来る車も優先しなければなりません。
・要するに、一時停止の標識がある場合は「左方優先の判定」が覆されて「相手の判定勝ち」になってしまうのです。
この場合は「五分五分で左方車の判定勝ち」が「交差点前の一時停止標識・標示」で覆って「相手の判定勝」ちとなったのです。
ここで、どちらが優先道かはっきりとわからない場合(五分五分)の判定基準が追加されます。
・交差点前に一時停止の標識があれば標識のある方が負け(43条 )
・一時停止の標識がなければ右方が負け(左方が勝ち)(36条1項)
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9.駐車場交通誘導での間違い事例(受講生にしっかりと考えさせましょう)
・あなたはスーパーマーケットの広い駐車場で交通誘導をしています。
・駐車場には白線で車道が描いてあります。
・あなたの立っているところは“T字路”の交差点。
・“Tの━”は長い真っ直ぐな車道、これに駐車スペースから出る車道“Tの┃”が交わっている。
・二つの車道の道幅は同じくらい。
・“Tの━”車道では駐車スペースに入ってくる車、次の駐車スペースへ入ろうと通過する車、別の駐車スペースから出て駐車場出口へ進む車がドンドンやって来ます。
・“Tの┃”車道では駐車スペースから出て、“Tの━”車道に入ろうとする車が来ます。
・あなたが立っている“T字路”の交差点に、駐車スペースから出た一台の車が“Tの┃”車道をあなたの方に向かって進んできました。
・その車は左ウインカーを点滅させています。車がドンドン通過する“Tの━”車道に左折で入るつもりなのです。
・あなたは、その車に徐行の誘導合図をして車を停止させました。
・そして、“Tの━”車道を右から来る車が途切れたところで、一礼して左折誘導。
・『ありがとうございました!またお越しくださいませ!』と笑顔で見送る。あなたは、駐車場誘導の充実感を感じます。
・『あれっ?さっきの車からきれいな奥さんが降りてこちらにやって来るぞ‥。缶コーヒーをくれるのかな?それとも‥〇〇△△かな?ヘ・へ・へ‥』
・しかし、その美人奥さんはあなたに、『〇△〇△!〇×△□!×××〇!』
言った内容は分かりますね?
あなたは優先車両を止めて、非優先車両を優先させたのです。
道交法違反の誘導をして美人奥さんの正当な活動を妨害したのです。当然、警備業法15条違反です。
『げっ!今度は、いかつい旦那が下りてきた!』
あなたは、どの条文のどんな場合に違反したのでしょう?
※答え
・道交法の適用される道路か?
・交差点か? → 二つ以上の道が交わる(2条5号) → 交差点
・交通整理のされていない交差点か? → 信号なし,警察官の交通整理なし → 交通整理のされていない交差点
・どちらが優先道かハッキリしているか? → 標識・標示なし、道幅同じくらい → ハッキリしていない。
・どちらが優先か? → 左方優先(36条1項) → 交差点内で直進車は右折する奥さんの車の進行をじゃましてはいけない。(36条1項)
・どのような間違いをしたか?
・交差点前で徐行させたこと → 42条の徐行すべき場所に該らない。 → ダメ
・一時停止させたこと → 一時停止の標識・標示がない(43条) → 奥さんの車は一時停止する必要はない。 → ダメ
・一時停止させたこと → 交差点の側端から5m以内は停車禁止・危険防止のためではない(44条2号) → ダメ
・相手に義務亡きことをさせた → 強要罪(刑法223条)に該るか → 害を加えることの告知・暴行がない → 強要罪にはならない → 警備業法15条違反
※刑法223条(強要)
「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。」
(どうすればよかったのか?)
・直進車を停めて、左折車を出す → 直進車には交差点前での一時停止義務がない(43条)
・直進車の義務は「交差点の中で左折する奥さんの車の進行を妨害してはいけない」だけ。(36条1項)
・どちらを停めても文句が来ます。
・解決策は両方の道路の交差点前に「止まれ」の白線を描いてもらうか、一時停止の標識を置いてもらうか。
こうすれば43条で優先する左折車にも劣後する直進車にも「交差点前の一時停止」が正当化される。
しかし、店側はそんな経費を使ってくれない。「そこを何とかするのがアンタら警備員の役目だろう!」
だから、警備員はお客の罵声に耐えて交通誘導をしなければならないのです。
★ここから先はややこしいので、新任教育では使いません。選任さんと2級受験者だけ読んでください。
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選任のための法律知識・
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これで「もの」になるようなら
「65 か 85」にステップアップ。
10.T字路での右折と直進の優劣(36条と37条)
※駐車場の事例に合わせて、「T字路」としていますが、問題は「右折車両と、右側交差道路から来る直進車の優劣」で「十字路」でも起こります。
a.「36条1項の左方優先」と「37条の右折する場合は直進優先」との競合
『質問です!』
どうぞ。
『上の例で、きれいな奥さんの車が右折する場合だったら、どちらが優先するのですか?』
なぜ、そのような疑問が出るのですか?
『36条1項では左方優先です。“Tの┃”車道から“Tの━”車道に出る奥さんの車と、“Tの━”車道を右からくる車では、左方の奥さんの車が優先します。』
もう一度条文を確認してみましょう。
※道交法36条1項
「車両等は、交通整理の行なわれていない交差点においては、次項の規定が適用される場合を除き、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に掲げる車両等の進行妨害をしてはならない。
一.車両である場合 → その通行している道路と交差する道路(以下「交差道路」という。)を左方から進行してくる車両…。」
ここで、
・T字路は「交通整理の行われていな交差点」
・どちらも道幅が同じくらいで優先を示す標識・標示がないから「優先・非優先がハッキリ分かる場合(36条2項)」ではない。 → 36条1項が適用される。
・奥さんの車は“Tの┃”車道から右折して“Tの━”車道に出る。
・“Tの━”車道を直進してくる車からみれば、奥さんの車は「通行している道路と交差する道路を左方から進行してくる車」
・右折する奥さんの車が優先。
こういうことですネ。
『そうです。しかし、37条によると奥さんの車が劣後します。』
確認してみましょう。
※道交法37条
「車両等は、交差点で右折する場合において、当該交差点において直進し、又は左折しようとする車両等があるときは、当該車両等の進行妨害をしてはならない。」
・「交差点で右折する場合において」 → 「“Tの┃”車道から右折して“Tの━”車道に出ようとしている奥さんの車」。
・「直進しようとする車両」 → 「“Tの┃”車道を直進してくる車」
・直進してくる車が優先、右折する奥さんの車は劣後。
なるほど、奥さんの車が右折する場合は36条1項と37条で反対の取り扱いになりますネ。
b.36条1項と37条の関係はどう考えるか?-意見が分かれる
もう一度、問題を整理してみます。
・36条1項は「交差する道路を左方から進行してくる車両の進行妨害をしてはならない」としている。
・36条では「左方から進行してくる車」が「直進するのか・右折するのか・左折するのか」については定めていない。
・37条は「交差点で右折する場合において、当該交差点において直進‥する車両等があるときは、当該車両等の進行妨害をしてはならない」としている。※左折は外します。
・37条は「右折車が直進車に劣後する」と定めている。、
その「直進する車」が「対向車の直進」なのか、「交差する道路の直進」なのかハッキリ定めていない。
このように36条1項と37条が細かく規定されていないので問題が起こるのです。
こういう場合は、規定の文言解釈だけでは解決できません。立法趣旨から判断しなければなりません。
立法趣旨とは「その条文がなぜ置かれたか」という理由です。
この場合二つの立法趣旨解釈がなりたちます。
イ.36条 は「交差点での交差する車道の優劣関係を定めた」。37条は「 交差点での対向車との優劣関係を定めた」。
・36条 は 交差点での「Ⅰ」と「-」の優劣を定めた → 左方車優先 → 交差する左側の道路が優先。
・「直進VS直進」、「直進VS右折・左折」、「右折・左折VS右折・左折」のすべてにおいて、左から来る車が優先。
・37条は交差点での「↑」と「↓」の優劣を定めた → 37条は対向車の優劣 → 右折<直進
つまり、「36条と37条は同じく交差点内での優劣関係を定めたものだが、優劣関係の対象が違う」と考えるのです。
この立場では、「“Tの┃”車道から右折して“Tの━”車道に出ようとしている奥さんの車」と「“Tの━”車道を走ってくる車」では右からくる車では「Ⅰ」と「-」の関係
→ 36条1項が適用される → 左方車優先 → 奥さんの勝ち
ただし、この立場では「対向車同士の右折」(対向車右折VS対向車右折)では適用条文がなくなってしまいます。
・36条1項は「交差する車道の優劣関係」 → 「対向車同士の右折」には適用されない。
・37条は「対向車同士の優劣関係」 → 「右折VS直進」だけしか規定されていない。
・この場合は、「お互いが曲がろうとしている」から「Ⅰ」と「-」の関係だと逃げるのでしょうか?
ロ.37条は36条の例外を定めた → 左方車優先だけども左方車が右折する場合は直進車と左折車が優先。
・原則 → 36条1項の左方車優先 → 「直進VS直進」、「直進VS右折・左折」、「右折・左折VS右折・左折」の全てにおいて左方車が優先。
・左方車が右折する場合だけ → 例外として直進車と左折車が優先(37条)
たとえば、
・直進VS直進 → 原則(36条1項) → 左方車優先
・直進VS対向車の右折 → 右折する対向車は直進車の左方車ではない → 左方車の右折ではない → 原則(36条1項) → 左方車(直進車)優先
・直進VS交差する右側からの右折 → 右折車は直進車の左方車ではない → 左方車の右折ではない → 原則(36条1項) → 左方車(直進車)優先
・対向車の右折VS対向車の右折 → 左方車の右折の場合だが、直進が相手ではない → 原則(36条1項) → 左方車が優先
・直進VS交差する左側からの右折 → 左方車の右折VS直進車 → 例外(37条) → 直進車が優先
この立場では「“Tの┃”車道から右折して“Tの━”車道に出ようとしている奥さんの車」と「“Tの━”車道を走ってくる車」では、
左方右折車VS直進車 → 例外(37条) → 直進車優先 → 奥さんの負け。
「37条が36条の次に置かれていること」からこちらの立場が妥当なような気がします。
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c.裁判所の解釈
『面倒くさい立法趣旨解釈は学者に任せておいて、結局、どちらが優先するのですか?』
解釈論では解決しませんね。
ただ、解釈には人の解釈(学説)・下級裁判所の解釈(裁判例)・最高裁判所の解釈(判例)の三つがあります。
どれだけ著名な学者の解釈でもは、それは“その人個人”の解釈で、裁判になった場合にその解釈が採用されるとは限りません。
裁判所の解釈は、その裁判での裁判官の解釈で、別の裁判で別の裁判官が異なる解釈をするかも知れません。
最高裁判所の解釈は、下級裁判所の裁判官の解釈を拘束するものではありません。
しかし、争いは最終的に最高裁判所に持ち込まれるますから、実質的に下級裁判所の裁判官の解釈を拘束することになります。
また、以前の最高裁の解釈と違った判決がなされた場合は上告理由となります。
ただし、最高裁判所の解釈も最高裁判所によって変更される場合があります。
どの解釈でも不安定なものですが、解釈の強さは、「最高裁の解釈(判例)>下級裁判所の解釈(裁判例)>学説」の順となります。
『それで、最高裁の解釈はあるのですか?』
あります。
『それならそうと先に言ってください。』
ただし、36条1項と37条の関係について明言していません。
イ.最判昭46.7.20・判時638・102-37条の直進車とは向かってくる直進車だけではなく全ての直進車を含む
「法37条にいう交差点において直進しようとする車両等とは、交差する道路のすべての方向への交差点を直進する車両等をいうものである。‥」
※事案
・“トの字”三叉路で、Bが“トの字┃”を下から直進、AはBの右側道より右折して“トの字┃”に入り、Bの進行を妨げた。
・右折したAから見ると、直進してくるBは左方車。
・36条1項と37条の関係を「36条1項は交差する道路の優先関係、37条播対向する道路の優先関係」(イ説)とすれば → 直進するBが左方車 →
Bの勝ち。
・36条1項と37条の関係を「(36条1項)の左方車優先が原則、左方車が右折する場合は例外として直進車が優先(37条)(ロ説)としても
→ 右折するAは直進するBの右方車であり左方車でない → 例外の37条は適用されない → 原則の36条1項で左方車優先
→ Bの勝ち。
※もし、例外として37条が適用されても → 直進車が優先 → Bの勝ち
※右折したAの主張
・37条は「向かってくる直進車と左方右折車の優劣を定めたもの 」→ 37条を適用してBの勝ちとしたが、Bは後から直進してきたので37条の適用は間違い。
多分、原審が37条を適用してBの勝ちとしたのでしょう。
それで、「37条は左方右折車VS対向直進車の場合だ」と反論したのでしょう。
しかし、37条が適用されなければ36条1項が適用されてAの負け。(この部分米川)
※判断
・37条の「直進車」とは向かってくる直進車だけでなく「全ての直進車」の意味 → 37条適用でBの勝ち。
※考察
・この最高裁の判断では 「36条1項と37条の関係についてイと解するのかロと解するのか」について答えを出していません。
・Aが「37条の直進車とは向かってくる直進車のことだ」と主張したので、「37条の直進車とはすべての直進車である」と解釈してAの主張を退けただけです。
・しかし、この判断で「37条の直進車はすべての直進車」という解釈になりました。
ロ.札幌高判昭50.11.27・判タ333・352-「37条が直進車を優先したのは右折車の方が危険回避措置をとることが容易だから」
「直進車と右折車とを比較すれば、一般的に右折車の方が危険回避措置を採ることが容易なのであって、
右折車は、たとえ自車が左方車(注:左方から進行してくる車両)であっても、右方直進車の進行妨害をしてはならないと解するのが相当である。」
※事案不詳
※考察
・37条の立法理由について「右折車は直進車より危険回避をすることが容易である」としています。
・しかし、
『「左方車と右方車では右方車の方が危険回避措置をとることが容易」だからこれが原則、しかし「左方右折車と直進車では左方右折車の方が危険回避措置をとることが容易」、
だから37条ができた → 37条は36条1項の例外』と読み取れるのでロ説に立っているように思えます。(この部分米川)
(参考) 小川賢一著・新実務道路交通法・立花書房発行平成20年11月10日第1刷・137頁
d.T字路での交通事故損害賠償請求での基本過失割合
「“Tの┃”車道から“Tの━”車道に右折する車」:「Tの━”車道を右から直進する車」=7:3 とのこと。
過失割合の判断は、法律の他さまざまな要因を総合してなされます。
しかし、基本割合で圧倒的に左方右折車が悪くなっていますから、交通事故損害賠償でも「右方直進車が左方右折車に優先する」と解釈しているようです。
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11.警備員は予め店に相談すること
『質問です!』
どうぞ。
『結局、「“Tの┃”車道から“Tの━”車道に右折する奥さんの車」と「“Tの━”車道を右から直進してくる車」の優劣の答えは出ていないじゃないですか!
最高裁の判断や高等裁判所の判断を説明してもらいましたが直接の答えになっていません。
「36条1項と37条の関係」をイと解釈すれば「右折する奥さんの車の勝ち」、ロと解釈すれば「直進してくる車の勝ち」。
そして奥さんの車には「コワイ旦那」が乗っている。
警備員としてはどちらを優先させればいいのですか?』
その通りです。困りましたネェ。
道交法37条で「右方直進車が左方右折車に優先する」としても、それはあくまで最高裁判所の解釈や交通事故賠償裁判での過失割合判断でしかありません。
解釈としては逆の解釈も成り立ち、それを争う余地があります。
警備員は法律に反した誘導だけでなく、個人の正当な活動に干渉することは許されません。(警備業法15条)
争う余地のある問題に警備員が介入することは避けるべきでしょう。
これは、顧客である店に予め相談しておくことが必要です。
「36条と37条の解釈では、どちらとでも考えられるが、最高裁の判断では左方右折車より(右方)直進車を優先させている。
最高裁の判断に沿って、左方右折車より(右方)直進車を優先させる誘導をしてよいか?」と店の指示を仰ぎましょう。
店の判断・指示どおりに誘導してクレームが出ても、店が対処してくれます。
店の指示を仰がずに警備員が勝手に誘導すれば、クレームの責任はすべて警備員になります。
T字路の両方に「止まれ」の停止線を引いてもらうか、「一時停止」の標識を設置してもらいましょう。
そうすれば、どちらの車も止めることができます。
そうすれば、「コワモテ」が乗っている方の車を優先させられますよ。
『あのう‥、質問です。』
どうぞ。
『店が、「そこを上手くやるのが警備員じゃないか。臨機応変だよカメレオンだよ。
「停止線引いてくれ」?、「一時停止の標識を設置してくれ」?、それなら警備員のポストをカットするぞ!」と相手にしてくれなかったらどうするのですか?』
そうですねぇ、やはり“Tの━”車道・右方直進を優先しましょう。
『コワモテの旦那にはどう説明するのですか?』
こう言いましょうか?
『お客さんは、交差点では左方優先だから、私が右方直進車を優先させたことを怒っているのですね。
しかし、道交法では左方右折車と右方直進車の優先についてハッキリと定めてないのです。
ただ、最高裁の解釈は左方右折車より右方直進車が優先するとしています。
また、交通事故損害賠償事案での過失割合は左方右折車が悪くなるのが一般です。
当店はお客様第一ですから、お客さんが不利になるような交通誘導はできません。
お客さんが不利にならないように誘導させてもらいました。』
ここまで、説明できて「道交法で飯を食っている交通誘導警備員」と言えるのです。
あなたを見る美人奥さんの目が、ハートになっているかも知れませんよ。
つづく。
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