SPnet私服保安入門
-前書き-
1.私服保安との出会い
50歳の転職でこの業界に入りました。
理由は、50歳を超えて仕事があるのは警備と清掃だけだから。
偶然、地元の警備会社が私服保安を募集していたので興味本位で入社。
それから、いわゆる「職人ウーマン」に育てられたあと、保安リーダーとして新店立ち上げ・私服保安教育・育成。
メイン顧客だった全国スーパーが「私服保安を廃止した」ことを契機に別会社に移って私服保安を。
その後、さらに別の会社、独立開業で、20年近く私服保安に携わっています。
今まで続いたのはこの仕事が自分に合っていたからでしょう。
2.私服保安を育てるのには時間がかかる
私服保安は育てるのに費用と時間がかかります。
それは制服警備員よりも要求される適正が多いからです。
私服保安に必要なのは
・犯人に押し切られない「胆力・押し出しの強さ」
・犯人の行動をしっかりと観る「集中力」
・法律知識・検挙技術を高めようとする「向上心」
・万引きが来ないとき・検挙がないときを耐える「忍耐力」
・手を抜かない「まじめさ」
・検挙条件が揃わないときには絶対に検挙しない「自制心」。
私服保安はハンターなので、「護り」を仕事とする常駐施設警備員とは異なり、要求される適正が多いのです。
私服保安として新人を採用すると、試用期間の三カ月を指導員につかせます。
ここで、新人は実際の指導員の万引き検挙を見て私服保安技術を覚えます。
万引きの見つけ方、犯人に気付かれない方法、現認・追尾のやり方、エレベーター・トイレ中断、声かけ・同行・持ち物検査・警察連絡・書類作成など。
だいたい、万引き検挙を10~20件見ます。
最後の方では指導員の助けで実際に万引きを検挙してその処理をします。
ここで、上記の適正のない者は排除されます。
三カ月の訓練期間が終わると、別の店に一人で勤務します。
ただし、自由に万引き検挙ができるわけではありません。次のような「検挙制限」が付きます。
・万引きを見つけて、現認・中断なし・単品禁止の検挙条件が揃ったときには指導員に電話連絡する。
・指導員が状況を聞いて、少し危ないと思えば見送り。大丈夫だと思えば検挙してもよし。
・指導員の見送り指示に従わなかったり、指導員の許可なしに検挙した場合は私服保安から排除して制服警備へ。
この検挙制限が9カ月~12カ月。
ここで20件程度検挙したら、指導員と管理職で検討して検挙制限を外し、自分の判断で検挙できる「一人前」になります。
20件検挙できなければいつまでたっても「検挙制限付き」の半人前です。
いつまでたっても半人前の者は「おもしろくない」と辞めていきます。
彼らはこの仕事を「おもしろくする」ための適正がなかったのでしょう。
この「やっと一人前」になれるのが「20人に一人」です。
「一人前」といってもまだ「ヨチヨチ歩き」です。
その後、5年~10年。誤認が一度もなく、着実に検挙実績を上げた「本当の意味での腕利き」になるのは「100人に一人」です。
このように、「腕利きの私服保安」を育てるのには費用と時間がかかるのです。
※大きな看板と小さな看板の違い(保安のイロハ)
3.私服保安から制服警備への風潮
15年くらい前に全国チェーンの大手スーパーが突然私服保安を廃止しました。
理由は公表されていませんが「ある店で私服保安の誤認と人権侵害があった」と噂されています。
その後、、何年かたって一部の店で私服保安が復活しましたが、以前に比べると本当に小規模なものです。
さらに、近年「私服保安をやめて制服警備に移行する」という店が増えてきています。
「万引き自体が減ったこと、万引きが小者化したこと」により万引き被害が減少したことも関係しているでしょう。
しかし、「忍者のような私服保安」が時代に合わなくなってきたからかもしれません。
それは、指物屋,左官屋,畳屋,仕立屋がなくなっていくのと同じでしょう。
もう「技術や腕」が買われる時代ではないのです。
このような状況で、どの警備会社も私服保安を育てることはしていません。
時間をかけ費用をかけて「20人に一人、100人に一人」を育てても働かせる場所がないからです。
私服保安は「今いる私服保安」で終わりとなるでしょう。
もう、私服保安の技術は次に伝承されることはないのです。
私服保安に20年携わり私服保安を育ててきた者としては寂しいかぎりです。
4.SPnet私服保安教本の公開
ここでは、「SPnet私服保安教本の実務編」を取り上げます。
これは14年前に書いたもので、当方の私服保安教育マニュアルです。
このマニュアルは一年間の無償公開のあと制限的に有償公開としてきましたが、
昨今の万引き状況の変化で書き直す必要を感じ公開を中止していました。
しかし、そろそろ現場引退を考えている昨今、後進のために読みやすいように書き直して公開することにしました。
内容は「新人私服保安~保安リーダー」での5年半のもので、私の私服保安歴の初期のものです。
「あちらこちらに頭をぶつけながら成長していく姿」が新人私服保安の参考になるでしょう。
ベテランの方も「あの頃」を想い出して新人を指導してやってください。
取り上げている事例は実際のものです。
事件の特定ができないように、「季節・性別・年齢・被害商品名など」を変えていますが被害金額は実際のものです。
また、私服本教本の法律編は「選任のための法律知識」として書き直して公開しています。 → 選任のための法律知識
現職の私服保安はまず「選任のための法律知識」で、確実・正確な法律知識を習得してください。
いつか、私服保安を育てられるときが来るのを願いつつ。
2020.05.13
つづく