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2012.01.27  XENLON の タクトスイッチ交換 - omron B3F1020 と B3F1022


1.XENLON と その弱点


a.XENLON について



 XENLON   ( シェンロン ) は10年くらい前に 「 一般向けの高級機種 」 として人気のあったワインディングマシーンです。

MTE 、 SPI 、 LUHW などのように老舗メーカーの製造したものではありません。  
どんなメーカーがどこで作っているのか分かりません。

当時は丸二連、角二連、角四連が多数流通しました。

いまでは見かけません。
中身は同じで、外観と名前の異なるものが流通しているのかも知れません。


b. XENLON の弱点


図体が大きいので場所をとります。
回転が速く・力が強いので、デリケートな時計には不向きです。
よく故障します。

故障個所は、①ドラムの割れ ②スイッチ不調 ③モーター故障 です。

①については前回紹介しました。→→→こちら

③は小さい直流モーターで大きなドラムやプーリーを動かすのですから仕方がありません。
図体の大きさがあだになっているようです。

②のスイッチ不調はよく起こります。
今回はこれを修理します。


2.スイッチ不具合の症状


a. XENLON のスイッチ

角四連と丸二連・角二連とではスイッチの互換性はありませんが基本は同じです。
丸二連と角二連のスイッチはまったく同じです。


・POWER → 電源 on-off
・STAND BY → 電源on で赤ランプ → STAND BY を押して緑ランプ → 回転開始
・B.SCAN → プログラム左回転
・F.SCAN → プログラム右回転
・F/B → プログラム左右回転
・RESET → 回転停止時に押すと直前の回転モードで回転する

写真はプログラム・左右回転をしている状態です。


このRESET モードはどういう時に使うのでしょうか?

『あれっ? この時計はどのモードで巻いていたンだったかな?』
と疑問が出た時にチェックするためのモードでしょうか。

確かに、自動巻きの中には “ 右巻き ” と “ 左巻き ” がありますが‥。

何種類かの自動巻きを 「 取っかえ引っかえワインディングマシーンにかける 」 のでなければ必要ないモードでしょう。
  


b.スイッチの不具合


次の二つです。

①電源は入るがSTAND BYスイッチが入らない → STAND BYスイッチの赤点灯が緑点灯に変わらない ( ドラムが回転しない )
STAND BYスイッチは入ってドラムが回転するが、モード切り換えができない → だいたいF.SCAN 固定になる。

①の場合、STAND BYスイッチを爪先でグリグリしていると緑点灯に変わりドラムが回転することがあります。
しかし、モード切り換えはできません。②の状態になります。

まず考えられるのはスイッチの接触不良。

スイッチがOKなら、回路の故障。
こうなったらお手上げ。



3. XENLON のスイッチ盤


a.電子回路


こうなっています。




拡大してみましょう。


スイッチボックスに矢印で示した on-off 、stand-by の裏に POWERスイッチ、STAND BYスイッチがあります。

スイッチボックスからカプラー線が二組出ています。
これが基盤のAとBにつながります。

STAND BYスイッチから出るカプラー線は 基盤のAにつながります。
※これが後で障害となります。


b.スイッチ盤


スイッチボックスからスイッチ盤を取り外します。


小さいスイッチが並んでいます。

左端の 「 POWER 」 が STAND BYスイッチです。


「 スイッチの接触不良 」 なら スイッチ部にCRC ( シンナーの類 ) を吹いてやれば治るかもしれない。

無駄です。
オートバイのプラグキャップではありません。
※無駄なことをしましたが。


4.スイッチ盤が原因


a.原因はスイッチ盤


スイッチだけに原因があれば、スイッチ盤を取り替えれば動くでしょう。

部品取りの丸二連からスイッチ盤を取り外して角二連につなげる。

あっけなく回転開始。

STAND BYスイッチもモード切り換えスイッチもOK。

これで、スイッチ盤に原因があることが分かりました。


『 なぁ~んだ、スイッチ盤を移植して終わりですか!』


いやいや、ドラム移植のように簡単ではありません。


b.丸二連と角二連はスイッチボックスと基盤の取り付け位置が違う


丸二連はスイッチボックスが下に、基盤が右下にあります。



stand-by スイッチからのカプラーは 基盤のAに接続します。


角二連はスイッチボックスが上に、基盤が左中央にあります。



stand-by スイッチからのカプラーは 基盤のAに接続します。


丸二連と角二連のスイッチ盤と基盤は同じです。

同じものを使って、それらの取り付け位置を変えれば、それらの距離が違ってきます。

具体的に言えば 「 stand-byスイッチ~A の距離 」 が違ってきます。

「 stand-byスイッチ~A の距離 」 が丸二連では短く、角二連では長いのが分かるでしょうか。

設計者は 「 スイッチ下 - 基盤右 」 と 「 スイッチ上 - 基盤左 」 では 「 各々の距離は同じになる 」 と考えたのでしょう。

※警備員の方は “ 命題の真偽-対偶 ” を復習しましょう。 (  と言っても、まだ教えていませんが‥。)
※基盤を右につければ問題なかったのです。

設計者は 「 同じでないこと 」 に気づいたのでしょう。

角二連の「 stand-byスイッチ~A 」 のコードを長くしたのです。


丸二連と角二連のコードを比較してみましょう。



角二連ではBコードは同じでも、Aコードが長くなっていますね。

という事は‥、

角二連のスイッチ盤は丸二連に使えるけれど、丸二連のスイッチ盤は角二連には使えない。


これを使おうとすれば、基盤を取り外して支障のないところに取り付けるしかありません。

基盤を右に取り付けるという方法もありますが、電源線を延長しなければなりません。



移植はここまでが限度になります。

もちろん、家電量販店でカプラー延長コードは手に入ります。

しかし、「 金をかければ意味がない 」


それに、スイッチ不具合が生じているのは角二連が三台、角四連が一台の合計四台。
健全なスイッチ盤が四枚も必要になります。

それだけのストックはありませんので、スイッチの交換をしなければなりません。


これを交換すれば問題解決!

タクトスイッチとかタクタイルスイッチとか呼ばれているものです。

白物家電 ( 洗濯機・冷蔵庫・調理器具 ) に使われている 「 クリ・クリ 」スイッチです。




5.タクトスイッチ交換に必要なもの


a.タクトスイッチの規格


このタクトスイッチは 6㎜×6㎜ですが、スイッチ高の違うものが何種類かあります。


実際に指で押されるのはタクトスイッチの黒ボッチではありません。



タクトスイッチ ( a ) の上に、スイッチカバー ( b ) が置かれます。
このスイッチカバーがスイッチパネル ( c ) から顔を出します。
実際に指で押されるのはこのスイッチカバーです。
タクトスイッチの黒ボッチはこのスイッチカバーを介して押されることになります。


タクトスイッチのスイッチ高が低いと、スイッチカバー ( b ) を押しても黒ボッチ ( a ) は押されません。
逆にスイッチ高が高いと、常に黒ボッチが押された状態になります。

また、黒ボッチ ( a ) の外径が大きいとスイッチカバー ( b ) がはまりません。

タクトスイッチを購入する時は次の寸法に注意しなければなりません。
①タテ×ヨコ
②基盤穴のタテ×ヨコ
③黒ボッチ径
④スイッチ高
⑤スイッチストローク


b.取り外したタクトスイッチの寸法


一つ取り外して寸法を計ります。



ここで重要なのはスイッチ高。
実測では 4.8㎜。
4.6㎜はスイッチを押した時の高さです。

結局、
①タテ×ヨコ=6 ×6
②基盤穴タテ×ヨコ=6.5×4.5
③黒ボッチ径=3.4Φ
④スイッチ高=4.8
⑤スイッチストローク=0.2

実測誤差と使用許容範囲がありますから、これに近いものを選ぶことになります。


c.タクトスイッチの購入



都市部の家電量販店なら売られているでしょう。
しかし、地方ではそうはいきません。
ネット購入となります。

・ ALPS電子・10個単位 → → →  ALPS 電即納
・ omron ・1個単位 → →   → → オムロン FA ストア


実測値に近いのは、ALPS なら SKHH 、omron なら B3F
スイッチ高は 4.3 ・ 5.0 ・7.0 ・ ‥。
選ぶのは 5.0 、ALPS と omron では次の三種です。

ALPS・SKHH omron・B3F
作動力 作動寿命 型番 単価 作動力 作動寿命 型番 単価
0.98N 100万回 AKA 010 20個 / 42円90個 / 37円
※10個単位
0.98N 100万回 1020 46円
※1個単位
1.57N 50万回 AMA 010 1.47N 30万回 1022
2.55N 20万回 ARA 010 2.55N 10万回 1025
代引のみ 送料840円 コンビニ振込他・送料525円 ( 5000円以上で無料 )
 ① 6×6   ② 6.5×4.5   ③ 3.5Φ   ④ 5.0    ⑤0.25 


違いは、作動力 ( 動作に必要な力 ) 、あとは全て同じです。

作動力の強さは誤作動に関係するのでしょうか?

製品情報を見ると、「 耐振動・耐衝撃・誤動作 」 の数値は同じ。
違うのは 「ボタン動作に必要な力 」と「ボタンの戻り力」だけ。
人間の指が押すのなら、単に「タッチの違い」。

しかし、電気的作動寿命は「100万回・30万回・10万回」と大幅に違います。
0.98N や 1.47N が「 どんなタッチなのか 」 が分かりませんから迷います。

XENLON に使ってあるタクトスイッチは一台に 5個 ( 四連は 6個 ) 。
今回修理するのは四台。
必要なタクトスイッチは21個。
部品取り用のXENLONのスイッチも修理しておきたい。
0.98N と 1.47N のタッチの違いも知りたい。

注文したのは、
omron の B3F-1020 ×20個  と B3F-1022 × 20個。

会員登録で単価は41円。
webで注文、即日発送。


翌朝、『宅配でぇ~すッ!』



驚きました。注文は前の日の午後ですよ。

同封の振込票で一週間以内に送金すれば終わり。
しかも、 郵便局・コンピにからなら手数料無料 !

ALPS も同様でしょうが、電子部品の購入がこんなに簡単だとは思いませんでした。

オートバイの純正部品注文もこれくらい早いといいのですが。


裏面の型番マークです。




XENLON から外したスイッチの裏面は、



「 BA 52 」 の刻印と 山のようなマーク。

あとで取り外したスイッチも見てみると、
「 BA 01、03、23、24、36、38、39、44、58、59、67、73、74、89 と NB26 」

やはり型番でしょうか?


d..ハンダ吸い取り器


こんな器具があるのを初めて知りました。



スイッチ盤からタクトスイッチを取り外す時に必要です。


構造はバネの付いた注射器。

レバーを押し込むとピストンがスイッチでロックされます。 ( 写真の上 )
スイッチを押すと、バネの力でピストンが戻り溶けたハンダを吸い取ります。( 写真の下 )


右手で半田ごてを持ち、基盤の裏のハンダを溶かす。
吸い取り器を左手に持ち、ハンダの溶けた部分に吸い取り口を当てて、ボタンを押す。
「 シュポン 」 と溶けたハンダが吸い取られます。




これは便利です。

というよりも、これがないとハンダ付けされたスイッチは取れません。
ハンダが溶けてもすぐに固まってしまうからです。
溶けた状態で 「シュポン」でないと、ハンダが吸い取られないのです。


しかし、この吸い取り器がけっこう高い。
ホームセンターでは1000円~2000円。

「百円ショップにもある」 とのことで、何軒か回りましたがありませんでした。
百円ショップは継続的な品揃えをしませんからね。


Yahooオークションに30Wの半田ごてとセットで出品されていたので落札。

落札価格は 530円。

写真下の二つです。



写真上の半田ごてはいつも使っている60Wのもの。
小さい基盤にハンダ付けするのには大きすぎます。

30Wの半田ごてはホームセンターで980円。
この吸い取り器は1980円。

二つで530円だけど、送金手数料と送料を含めると1300円程度。
到着までに一週間。

「 なんでもYahooオークション 」 というわけにはいきません。


6.実際の作業


道具とスイッチが揃いました。
それでは作業開始です。
角四連を例にとって、改めて説明します。


a.スイッチ盤取外し


角四連のスイッチ盤は真上にビス留めされているので裏から外すことはできません。



正面から外すことになります。


その前にカプラーを基盤から外しておきます。




正面のビスを外せばスイッチパネルごと外れます。




角二連 ・ 丸二連のスイッチ盤は、裏から外せます。
しかも、スイッチパネルを外さなくてもスイッチ盤だけ外れます。

しかし、組み立てるときにスイッチパネルとスイッチ盤の間にスイッチカバーを入れなければなりません。
この作業がスイッチパネルを付けたままだと非常にやりにくくなります。

角二連・丸二連もスイッチパネルごと外す方がよいでしょう。


次にスイッチ盤の取外しです。

スイッチ盤の取り付けビスを外せばパネルから外れます。



スイッチパネルとスイッチ盤の間に黒いスイッチカバーが入っています。


なお、角四連と角二連・丸二連のスイッチ盤に互換性はありません。




b.タクトスイッチ取外し


ハンダ吸い取り器の出番です。

ハンダゴテでハンダを溶かしてもすぐに固まります。
吸い取り器の吸い取り口をハンダゴテの先に当てるようにして 「シュポン」 と吸い取ります。

「 吸い取り器の吸い取り口が溶けないかな‥。 」 と怖がってはいけません。
それが “ 道具 ” の使われ方です。

できるだけ真上から吸い取った方がよく取れます。



この程度でタクトスイッチは外れます。
外れない時はハンダゴテを当てて、もう少しハンダを溶かします。 「 シュポン 」 は必要ありません。

これをしないで、プライヤーで無理やりねじったり引っ張ったりすると基盤配線が損傷します。注意してください。
※スイッチ盤を一つダメにしました。


c.タクトスイッチ取り付け


新しいタクトスイッチを穴にはめればOK。
「 外れないように 」 と 裏に出た足先を折り曲げてはいけません。
よけい緩くなってしまいます。
※スイッチを一つダメにしました。


次に、スイッチ盤の裏からハンダ付けをします。

小学校以来のハンダ付けで少々とまどいました。



ハンダゴテの先を、基盤から出ているスイッチの足先に当てる。
その少し上のハンダゴテのテーパー部にハンダを当てる。
溶けたハンダがテーパー部を伝って、基盤穴のスイッチ足先に流れていく。

この方法に気づくまで、関係ないところにハンダ玉を落としたり、ハンダを一緒にくっつけてしまったり。


準備したタクトスイッチは 「 作動力 0.98N の B3F 1020 」 と 「 1.47N の B3F 1022 」 。

まず、 「 灰色ボタン 」 の B3F 1022 ・ 1.47N を取り付け。

タッチ感は XENLON に付いていたスイッチと同じです。

「 黒ボタン 」 の 0.98N ・ B3F 1020 は 「 クリ・クリ 」 ではなく 「 クニュ・クニュ 」 。

タッチ感なら 1.47 N の
B3F 1022 をお勧めします。

ただし、作動寿命は
B3F 1020 の 1/3以下になります。

もっとも、1/3といっても30万回です。

XENLON は プログラム式のため、スイッチを頻繁に on-off することはありません。
「巻き過ぎ防止とモーターを休ませる」ために、一日おきに on-off する程度です。
モードスイッチなど触りません。

一日に一回スイッチを操作するとして、30万÷365=821.9。
820年間も持つことになります。

安心して “ 作動寿命 ” よりも “ タッチ感 ” を選びましょう。

なお、0.98N の B3F 1020 の作動寿命は100万回。
これだと、
2739年持つことになります。
紀元前700年から現在までの年数ですよ。

こう考えると、XENLON に使ってあるタクトスイッチの品質を疑わなければなりません。


スイッチ交換をしたら、作動チェックを忘れずに。
メーカー品だからスイッチ自体に問題はありません。
しかし、自分の行ったハンダ付けに問題があるかもしれません。



裏から基盤にカプラーを差し込んでスイッチを点検します。


最後にスイッチ盤をスイッチパネルに取り付けて、スイッチパネルを本体に取り付ければ終わり。


スイッチ交換は道具とスイッチが揃っていれば30分くらいで済みます。
しかも、一度交換すれば軽く100年は大丈夫。



  今回スイッチを取り替えたのはこの四台。

  XENLON は図体が大きいので、これだけでやっと自動巻き10本分。

  しかし、いろいろ修理できるので愛着がわきます。

  何よりも 「 調子の悪かったのが治った 」というのが楽しいものです。


  四連の中を見るのは初めてでしたが、丁寧な仕上げには感心。

  モーターの部品供給をするか、一般に入手できるモーターを使えば、
  「 また売れる 」 のではないでしょうか?


  Yahooオークションで狙うのなら、
  「 XENLON ・ 角四連 ・ スイッチ不具合 ・ ジャンク 」 。
  千円くらいなら “ 落札得 ” でしょう。
  送料を含めて二千円までですね。

  角二連と丸二連はジャンクでもやめておきましょう。
  角二連は品質がよくありません。
  丸二連の品質は悪くありませんが、二個巻きにしては大きすぎます。




  ハンダ付けで童心にもどった 「 XENLON のスイッチ交換 」 でした。











つづく。


2011.03.02  時計が増殖しています

2011.03.06 XENLON を修理しました

2012.01.05  BERGEON - FINAL TEST の構造と修理

2012.01.27  XENLON スイッチ交換 - omron B3F1020 と B3F1022

2012.09.07 初めての歩度調整

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