警備員編



6.施設警備員と 守衛のオッチャン



1.守衛のオッチャンワールド


a.損をしてでも公共調達を受注する理由

5月より ある公立学校の施設警備を受注しました。

業務内容は
・その日使用した教室や施設の内部点検と施錠
・休日の施設利用者に対する鍵授受
・施設内巡回による不審者や施設異状の発見
・火災等事故発生時の緊急対応

いわゆる 1ポストの宿直日直業務です。


毎年、市内業者が指名され、最低価格落札制で受注者が決まります。
最低価格の制限はありませんので、受注しようと思えば安く入札するしかありません。

そのため毎年落札価格が月額10万円ほど下がり、
今年は「労働時間合計×最低賃金」の半分くらいになってしまいました。

もちろん利益など出るわけがありません。
まともに賃金を支払えば、賃金だけで年間300万円の損失となります。


なぜ警備業者が損をしてでも公共調達を受注するのでしょう。

実績を作るためです。

公共調達では、大きな物件の入札に参加するために実績が必要となります。
「過去○年以内に○○u以上の施設警備を△年以上やったことがある」というのがそれです。

また、総合評価方式といって、入札価格の他に警備業者の規模や実績を総合的に判断して落札者を決めるものもあります。

実績を必要とする調達や総合評価方式の調達では、入札参加者が少なくなり競争が緩くなります。
競争が緩くなれば、その分だけ落札価格が上がり利益が出しやすくなります。

公共調達では、
「儲かる物件ほど参加条件が厳しく、会社規模や実績のある大手警備会社しか参加できない。」という仕組みになっているのです。

『越後屋…、お前もワルじゃのぉ〜…。』と同じだ と思うのは貧乏人のヒガミです。

消費税を上げて、生活保護や社会保障を下げる。円安で生活必需品の値段を上げて大企業の利益を増やす。
庶民は「※風が吹けば桶屋が儲かる」と簡単に騙される。
打ち出の小槌があるわけじゃない。結局、弱者から幅広く絞り上げて、それを金持ちに与えているだけ。

こう思うのも貧乏人のヒガミです。

話を戻しましょう。
零細警備業者は、少しでも利益の出る調達に参加できるように、損をしてでも実績を積もうとするのです。

『でも、零細警備業者が負担するその損は、結局儲かる調達を受注する大手警備業者の利益になっていくンじゃないですか?』

は、は、は…。それは零細警備業者のヒガミです。

※風が吹けば桶屋が儲かる
風が吹けば土埃が舞う→土埃が眼に入り眼を痛める人が増える→盲目の三味線弾きが増える→三味線の需要が増える
→猫の革がたくさん必要になる→猫が減る→ネズミが増える→ネズミが桶に穴を空ける→桶の修理が増える→桶屋が儲かる


b.損を警備員に押しつけると、守衛のオッチャンワールドが生まれる。


実績造りのために安値で落札したのですから、その損は警備会社が負担しなければなりません。

しかし、実際はそうではありません。
ひどい警備会社になると、落札価格の10〜20%を警備会社が取り、残りを警備員の賃金にします。
その施設の落札価格が下がれば、その施設に配置する警備員の賃金が下がるのです。

結局、労働基準法とはほど遠い労働環境が現れます。

もっとも、長時間で低賃金だけど労働自体はきつくありません。
70歳を越えていても、立ったり歩いたりすることができればやることができます。

こうして、警備未経験・施設警備未経験の高齢者が集まってくる。

損を警備員に押しつける会社が、警備員に十分な教育や訓練をするはずがない。
仕様書で必要とされる資格者配置も無視、巡察なしで一年間放りっぱなし。

発注側も『そんなものだ』と思っている。

「警備のなんたるか・施設警備のなんたるか」を知らない現場のオッチャン達は、自己流のノウハウを創り上げます。
ここに”守衛のオッチャンワールド”が誕生するのです。

守衛のオッチャンワールドは安値競争の公共施設警備にだけ特有のものではありません。
施設警備未経験のイベント・交通警備会社が施設警備を受注した場合にも現れます。

そう言えばあるショッピングセンターの防災センターで、
立哨任務の警備隊長サンが、従業員出入口に背を向けてせっせとカウンターを片づけていました。

では守衛のオッチャンの特徴を説明していきましょう。
あなたの周りの警備員の「守衛のオッチャン度」をチェックしてください。


2.守衛のオッチャンの特徴


a.守衛のオッチャンは立ち姿が綺麗でない


「施設警備は立ち姿で施設を護る」と言われています。

施設警備の役割は、鍵管理や出入り管理、巡回による異状発見だけではありません。
警備員がその施設に居ることで、施設内に緊張を感じさせなければなりません。

施設利用者が最初に見るのは正門や出入口にいる警備員です。
その警備員のイメージがその施設の警備イメージになります。
そして、施設利用者の感じる警備イメージがその施設を護るのです。

凛々しい立ち姿,端正な言動。
磨き込んだ靴にシワのない制服。

『カッコイイ〜ッ!』
施設警備員はパフォーマーなのです。

無精髭や目ヤニ、抜けている前歯など問題外です。


b.守衛のオッチャンは気さくである


施設警備は施設の安全を護ることです。
そのためには、施設利用者・関係者に規則を守らせ、不正・不法行為の芽を摘まなければなりません。

これは相手が、施設の長であろうと地方公共団体の長であろうと同じです。

そのために、施設利用者・関係者と一定の距離を置かなければなりません。
近寄り過ぎると、『まあ、固いことを言うなよ』が常となり、不正行為・不法行為の兆候を見逃してしまいます。

警備員には近寄りがたい雰囲気が必要なのです。

いかに立ち姿が凛々しくても、冗談好きでおもしろいオッチャンでは警備イメージが下がってしまいます。


c.守衛のオッチャンは危機意識がない


・ドアを開錠する前に、施錠してあるかどうかを確認する
・開錠したドアを不用意に開けない
・室内に入ったらドアを施錠する
・階段や曲がり角は大回りで
・ハンドライトは左肩越しに、警棒は右腰後ろに
・トイレ個室は用具入れの中も調べる
・施錠・開錠のときは背後に注意

基本中の基本です。

受け取った施設キーを警備室に置きっぱなし。

マスターキーをそのままポケットに突っ込む。

『キーチェーン? キーケース? そんなもの見たことないよ。』

『警備室にあるこのカギ? 壊れたこのキーボックスにたくさんかけてあるカギのこと?
  何のカギか知らないよ。使ったこともないよ。自分がここに来たときにはもうあったよ。』

守衛のオッチャンに危機意識という言葉はないのです。


d.守衛のオッチャンはなんでもやってくれる


『すいませんけど、花に水をやっておいてくださいね。』
守『ハイハイ、分かりました。』

『ゴミが散らかっていますから片づけておいてください。』
守『ハイハイ、お安いご用です。』

守衛のオッチャンは自分から仕事を探します。
水撒き、片づけ、草むしり…。

『どうせ何も起こらないしヒマだから、少しでも皆様のお役に立ちましょう。皆様の喜ぶ顔がやりがいです。』

こんなことをしてはいけません。
施設警備員は警備業務以外のことをしてはいけません。

その理由は、

@責任が取れない

警備業者は警備業賠償責任保険に入っています。
警備員が警備業務を行う上で与えた損害を賠償する保険です。

これは警備業務以外の業務や警備業務でも業務時間外のものには適用されません。
契約内容にない業務についても同じです。

守衛のオッチャンが気安く引き受けた仕事,善かれと思ってした仕事から生じた損害はこの保険の対象になりません。
その損害は警備員と警備業者が賠償しなければなりません。

また、その仕事でケガをした場合、労災が適用になるかどうかも問題になります。

『そんな大げさな…。』

花に水をやっていて、通路を濡らした。
歩いてきた施設利用者が足を滑らせてケガをした・頭を打って死んだ。

頼むときはニコニコ顔の施設側は手のひらを返したように冷たくなります。

草むしりをしていた警備員が熱中症で死んだ。
労災が適用されますかねぇ…。



A警備がおろそかになる

施設警備の目的は施設の危険を察知しその危険から施設と施設利用者を護ることです。

そのために、警備員の眼は危険の兆候発見に、その手は危険から施設と施設利用者を護るために使わなければなりません。
花の水やりやゴミ拾い,草むしりに使ってはならないのです。

『そんな大げさな…。どうせ毎日平穏だよ。』

今の平穏が次の瞬間も続くとは限りません。
危険は突然やって来ます。
いつ来るかわからない危険に対処するのが警備員です。

『どうせ何も起こらないしヒマだから、少しでも皆様のお役に立ちましょう。』と思ってはなりません。
次の瞬間に起こるかもしれない危険に備えていなければならないので、ヒマではないのです。

ヒマと感じるのは、あなたがしっかりと警備をしていないからなのです。


B警備イメージが壊れる

凛々しい立ち姿、端正な言動、近寄りがたい雰囲気。
施設を護るために作り上げた警備イメージが壊れてしまいます。

花の水やりや草むしり、ゴミの片づけや自転車の整頓。
施設利用者がそんなことをしている警備員を見れば、施設内に張りつめた緊張が緩んでしまいます。

また、そんな仕事を警備員に気安く頼む施設関係者は、その警備員を“気さくなオッチャン”と思っています。
だから、少なくともその施設関係者に対しては警備イメージが壊れています。


このような理由から、現場の警備員は警備指令書にない仕事を気安く引き受けてはいけません。
必ず、警備会社と顧客(施設)の話し合いで決めてもらわなければなりません。

守衛のオッチャンの常識が、警備会社に損害を与え、ハラスメントを助長することを十分に理解しなければなりません。


※今回、警備業務を受注した公共施設でも、警備員によるゴーヤ苗の水やりが慣行となっていました。
  土日・祝日には施設関係者が出勤しないので、水やりをすることができないからです。

  今年も、その水やりを「お願い」されました。

  私は上に挙げた理由を説明して断りましたが、慣行となっているものをそう簡単に変えることはできません。
  事が起こった場合の責任の所在を明らかにするために、文書による業務指示を要求しました。
  しかし、『水やりの協力のお願い』という文書しか出してくれませんでした。

  うまく逃げられましたが、“ハラスメント慣行”を改善する第一歩になったと思い矛を納めました。
  次にはもう一歩進めようと思っています。


e.守衛のオッチャンは警備員室に棲みつく


警備員室を引き継いで、その汚さに驚きました。

エアコンのフィルターは完全に目詰まり、部屋の隅や机の下はホコリが厚く固まっている。
換気扇は油とホコリで真っ黒、その周りもベタベタ・ネチネチ。
ステンレス調理台の上のカセットコンロはサビサビ。
カセットコンロの調理汁が垂れて、調理台のステンレスもサビサビ・ガリガリ。
流し台側面と冷蔵庫側面は調理汁が飛び散って虎ジマ。
シンクの排水口はドロドロ・ヘドロ。掃除したら大量の梅干しの種。

その他・その他。
こんな所にオッチャンは棲息しているのです。

警備員室を“まともなもの”にするのに、大量のマジックリンとパイプフィニッシュ、そして二週間を使いました。


警備員室は仕事場であり、生活の場所ではありません。

仕事場である警備員室は、警備員の制服と同じです。
制服がヨレヨレで汚ければ、凛々しい立ち姿の警備員イメージが下がります。

汚い警備室から出てくる警備員も同じです。
この警備員室を見れば今までの警備品質が分かります。


私は警備指令書に次のように付け加えました。

(警備員室)
・火気使用禁止・室内禁煙
・冷蔵庫,電子レンジ・エアコン,テレビ,ポットなどの電気製品は使用可。
・凶器になるようなもの(ナイフ,カッター,アイスピック,花瓶など)は置かない。
・個人情報に関するものは置かない。
・室内整頓に心がけ、出たゴミはすべて持ち帰る。
・持ち込んだ食品や書籍はその都度持ち帰る。
  翌勤務日に食べたり読んだりしたい場合は、次の勤務日にまた持ってくる。
・家具を持ち込まない。
30分で室内をきれいにして引き渡せるようにしておく。
・警備員室は仕事場であり休憩所ではない。
・テレビやラジオをつけっぱなしにしない。
・寝ころんだり談笑したりしない。
・炊事をしない。
・「ドアを開けたら見えるところ」で飲食をしない。

あなたの警備員室を見回してみましょう。


3.まず、これをやれ


5月1日・朝、この施設警備の初日に私のやったことは正門立哨です。

正門前に立ち、学校の前を通る人に『おはようございます!』と挨拶する。

職員がやって来たら、敬礼。

職員はそれぞれに驚きの表情。

付近の人は口々に  『今日は何かあるのですか?』

今まで、こんな当たり前のことがやられていなかったのです。
付近の人は「この施設に警備員がいること」も知らなかったのでしょう。

自分の守衛のオッチャン度を心配する警備員サン、守衛のオッチャン隊員に喝を入れたい警備業者サン。
まずは正門立哨から始めましょう。

綺麗に立つことが施設警備員の第一歩、脱守衛のオッチャンの第一歩です。


なお、これら基本動作や施設警備の基本は実技試験のある検定講習で徹底的に教えられます。
指導教育責任者資格講習ではほとんど教えられていません。

警備員を指導する立場にある方で検定資格を持っていない方はぜひ検定資格を取得しましょう。

2013.06.16



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