SPnet 選任業務編



・2号業務別教育・遺失物法 その1-公道で拾った場合 (施設外での拾得 )





警備員が「これが落ちていました」と拾得物を渡される時があります。
イベント会場や道路工事現場なら「施設外での拾得」、スーパーの駐車場や建物内なら「施設内の拾得」。
拾得物については遺失物法が定められています。
警備員新任教育には遺失物法についても少し教えておく必要があります。
遺失物とはなにか,ネコババするとどうなるのか、拾った者にはどんな権利があるのか、誰にいつまでに届けなければならないのか。
最低限のことは教えておかなければなりません。
「拾ってから自分のものになるまでの流れ」も参考になると思います。

なお、三重県内の全図書館には遺失物法解説の書物が一冊もありません。
国会図書館に26冊だけありますが、取り寄せができません。
以下では警察庁の「遺失物法等の解釈運用基準」と「遺失物取扱規定」を参考にして書いてあります。
・遺失物法施行規則
・遺失物法等の解釈運用基準 (平成19年8月10日 警察庁通達)
・警察庁遺失物取扱規定 ( 平成19年11月15日 警察庁通達 )


導入-3億円拾った人
ネコババした場合
拾った者の権利-お礼がもらえる
拾った者の義務-誰に、いつまでに渡すか?
拾ってから自分のものになるまでの流れ
警備員はこれだけは覚えておこう

    
1.導入


いまから30年以上も前に起こった事件です。

1980年4月25日、東京は銀座で現金一億円の入った風呂敷包みが道端に落ちていました。
これをトラック運転手が拾って警察に届けました。

落とし主が現れなかったので、半年後、その運転手は1億円を手に入れました。
※所得税は約3400万円。

世間を騒がした事件です。


「落とし物を拾った場合にどうするか・どうなるか」を定めているのが遺失物法です。

警備員は落とし物を預かることがあります。
その場合、警備員はどのようなことをすればいいのか。
遺失物法を知っていないと無用のトラブルに巻き込まれます。
一般人としても知っておいて損はないでしょう。

注意しなければならないのが「公道で拾った場合」と「施設内で拾った場合」の手続が違うこと。
これを知らないとせっかくの一億円が手に入りません。

さあ、あなたも一億円を手に入れましょう。
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2.公道で拾った場合


まず、皆様が警備員ではなく一般人だとしましょう。

あなたが公道で落とし物を拾った場合に「どうするか・どうなるか」です。

ここで、用語を説明しておきます。
・拾った落とし物 → 拾得物
・拾った者 → 拾得者
・落とし物を持っていた者 → 遺失者

なお、持主がいない物は“落とし物”ではありません。野鳥や野良犬は落とし物ではありません。
これを無主物といいます。
また、持主が捨てたものは“落とし物”ではありません。

これらは遺失物法の対象にはなりません。

遺失物法の対象となるのは「持主の意思によらずに持主の手から離れた物」です。


a.ネコババすると占有離脱物横領罪、しかし「持ち主が捨てたもの」だと思っていたら…。


さて、質問です。
一万円札を公道で拾った場合、あなたはどうしますか?

『もちろん、警察に届けます!』

正解です。

しかし、心のどこかで「そのまま自分のものにしてしまえ!」という声がしませんか?

この一万円をネコババすると犯罪となります。


※第254条(遺失物等横領)
「遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。」

※第255条(準用)
「第二百四十四条の規定は、この章の罪について準用する。」

※第244条(親族間の犯罪に関する特例)
「 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
 2.前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
 3.前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。」


『質問です!』


どうぞ。

『その一万円が「持主が捨てたもの」だったらどうなるのですか?「誰かが捨てた一万円札」をネコババしても犯罪になるのですか?』

ネコババする時に「誰かが捨てた物」であることを知っていた場合ですか、それとも知らなかった場合ですか?

『知らなかった場合です。誰かが落とした物だと思ってネコババしたが、本当は誰かが捨てたものであった場合です。』


なかなか、細かい点を突いてきますね。

これは事実の錯誤という問題になります。

結論は犯罪になりません。

私服保安教本の法律編で説明しましたが、もう一度説明しましょう。
殺人罪を例にとります。

・殺人罪とは「人を殺す」ことです。
・殺人罪が成立するためには「殺人の故意」、「殺すという行為」、そして「人が死んだという結果」が必要です。※行為と結果の間には相当因果関係が必要

・殺人の故意があるためには「相手が人であること」を知っていなければなりません。
  相手が人であるのに「それが熊だと思って」殺した場合に、殺人の故意がなく殺人罪は成立しません。※過失致死罪が問題となる。

・逆に相手が熊であるのに「それが人だと思って」殺した場合は殺人の故意があります。
・しかし、実際には熊が死んだだけで「人が死んだ」という結果が発生していません。
  だから殺人罪は成立しません。
・この場合は殺人未遂罪となります。
  相手が人だと思って殺人行為をしたが、「人が死ぬ」という結果が発生しなかったからです。
  相手が人だと知ってピストルを撃ったが、弾が当たらずに「人が死ぬ」という結果が発生しなかった場合と同じ扱いになります。


『えっ? チョットおかしいンじゃないですか?』

なぜですか?

『だって、熊を人だと思って殺人行為をしたけれど、熊が死んだだけで人が死ぬという結果が発生しなかった場合は殺人罪の未遂罪でしょう?
  だったら、「誰かが捨てた物」を「誰かが落とした物」だとと思ってネコババしたけれど、「誰かが落とした物をネコババした」という結果が発生しなかったのだから、
  遺失物横領罪の未遂罪になるじゃないですか?』

遺失物横領未遂罪というものがあればね。
殺人罪には殺人未遂罪がありますが、遺失物横領罪には遺失物横領未遂罪というものがありません。
だから、犯罪にならないのです。


『では、一万円札が落ちていた時に「誰かが捨てたものだと思った」と言い張れば一万円札は自分の物になるのですネ!』

残念ながらその一万円札はあなたの物になりません。

『だって、遺失物横領未遂罪がないから犯罪とならないのでしょう?』

犯罪にはなりませんが、民法の不当利得( 703条~)により落とし主から返還請求されることになります。
犯罪の成立・不成立は刑法の問題、所有権や利得の帰属は民法の問題です。

もっとも、落とし主は誰が拾ったか分かりませんので返還請求のしようがありませんね。
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b.遺失物法で定める「どうするか・どうなるのか」


遺失物法では拾得者の権利と義務を定めています。
遺失物法は平成18年に改正されていますので注意してくださいね。


イ.拾得者の権利-報労金がもらえる

・遺失者が現れた場合は、拾得物の5%~20%の報勞金を請求できます。
・拾得物の保管にかかった費用も請求できます。
・遺失者が一定期間現れなかった場合は、拾得物の所有権を得ることができます。

なお、拾得物の所有権を得ることは遺失物法ではなく民法に定められています。

※遺失物法27条(費用の負担)
「物件の提出、交付及び保管に要した費用(誤って他人の物を占有した者が要した費用を除く。)は、
  当該物件の返還を受ける遺失者又は民法第240条(第3条において準用する場合を含む。以下同じ。)
  若しくは第241条の規定若しくは第32条第1項の規定により当該物件の所有権を取得してこれを引き取る者の負担とする。
 2.前項の費用については、民法第295条から第302条までの規定を適用する。」

※遺失物法28条(報労金)
「物件(誤って占有した他人の物を除く。)の返還を受ける遺失者は、
  当該物件の価格(第9条第1項若しくは第2項又は第20条第1項若しくは第2項の規定により売却された物件にあっては、当該売却による代金の額)の
  100分の5以上100分の20以下に相当する額の報労金を拾得者に支払わなければならない。
 2.前項の遺失者は、当該物件の交付を受けた施設占有者があるときは、同項の規定にかかわらず、
   拾得者及び当該施設占有者に対し、それぞれ同項に規定する額の2分の1の額の報労金を支払わなければならない。
 3.国、地方公共団体、独立行政法人(独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第2条第1項に規定する独立行政法人をいう。)、
   地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成15年法律第118号)第2条第1項に規定する地方独立行政法人をいう。)
   その他の公法人は、前2項の報労金を請求することができない。」

※民法240条(遺失物の拾得)
「遺失物は、遺失物法(平成十八年法律第七十三号)の定めるところに従い、
  公告をした後三箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得する。」

※民法241条(埋蔵物の発見)
「埋蔵物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後六箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを発見した者がその所有権を取得する。
  ただし、他人の所有する物の中から発見された埋蔵物については、これを発見した者及びその他人が等しい割合でその所有権を取得する。」

※民法239条(無主物の帰属)
「 所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。
2.所有者のない不動産は、国庫に帰属する。」


・保管にかかった費用の例としては迷子犬を拾った場合の餌代や飼育費。
・報勞金は世間一般常識の 1割でなく、5分~2割です。
・拾得者が拾得物の所有権を得られるのは三カ月後です。※遺失物法改正前は六カ月でした。
・埋もれていた小判などの埋蔵物については六カ月のままです。
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ロ.拾得者の義務-誰に、いつまでに渡すか?、


拾得者が上の権利を得るためには遺失物法で定めた相手・期間に拾得物を届けなければなりません。

遺失物法には罰則がありますが、次回に説明する施設占有者や新たに設けられた特例施設占有者に対するものです。
拾得者に対する罰則ではありません。


拾得者の義務を簡単に言えば、
・①拾得物を遺失者に返還するか、警察に届ける
・②拾得物が法令で所持が禁止されている物の場合は遺失者に返還せずに警察に届ける

※遺失物法4条(拾得者の義務)
「拾得者は、速やかに、拾得をした物件を遺失者に返還し、又は警察署長に提出しなければならない。
  ただし、法令の規定によりその所持が禁止されている物に該当する物件
  及び犯罪の犯人が占有していたと認められる物件は、速やかに、これを警察署長に提出しなければならない。
 2.施設において物件(埋蔵物を除く。第3節において同じ。)の拾得をした拾得者(当該施設の施設占有者を除く。)は、
    前項の規定にかかわらず、速やかに、当該物件を当該施設の施設占有者に交付しなければならない。
 3.前2項の規定は、動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)第35条第2項に規定する
    犬又はねこに該当する物件について同項の規定による引取りの求めを行った拾得者については、適用しない。」


(拾得物を渡す相手)


①遺失者が分かっているときには遺失者

・まず、遺失者が分かっている場合は遺失者に返還しなければなりません。
  財布を拾ったら落とし主が駆けつけてきて遺失者が分かった場合です。
  拾得物を遺失者に返すのは当然ですね。

・そうでない場合は警察署長に提出しなければなりません。
  もちろん、警察署長に直接提出しなくても構いません。
  警察署や交番に届けたら警察署長に提出したことになります。
  警察署では遺失物係という部門があります。


②警察署や交番ではなく、巡回中の警察官に渡してもよいか?

この点につき、警察庁の遺失物法解釈・運用基準 ( 以下では運用基準とします )は、
「受け取らないで警察署か交番に届けてくれと頼み、支障がない限りその警察署か交番に案内せよ」としています。

※運用基準 第3-1-(4)  (警ら等の際に提出の申出を受けた場合)
「警察官が警ら等の所外活動に従事している場合には、拾得者から物件の提出の申出を受けたとしても、
  物件の内容を確認して関係書類を作成することや物件を適切に保管することが困難である。
  したがって、このような場合には、拾得者に対し、警ら等の用務に従事しているため物件の提出を受けることができない旨を十分に説明し、
  最寄りの警察署又は交番等(交番若しくは駐在所又は指定を受けた警備派出所若しくは警察本部の施設をいう。以下同じ。)において提出を行うよう教示するとともに、
   支障のない限り警察署又は交番等まで案内するなどの措置をとること。」


③拾得物が法令で所持が禁止されている場合は警察書長

拾得物が法令で所持が禁止されている物である場合は、遺失者が分かっていても遺失者に返還してはいけません。
警察署長に提出しなければなりません。

たとえば、山で下草を刈っていたら、近くでイノシシ撃ちの一行が弁当を食べていた。
その中の一人が猟銃を置き忘れて行った。
あなたがその猟銃を持って置き忘れた人を追いかけようとしたら、その人が戻ってきた。
あなたはその猟銃をその人に渡してはいけません。
警察署長に提出しなければなりません。
猟銃は法令で所持が禁止されている物です。
特別に許可を得て所持することが認められている物です。
その猟銃保持者は猟銃の保管義務違反で猟銃所持許可が取り消されます。

お巡りさんがピストルを忘れて行った場合も、お巡りさんにそのピストルを渡してはいけません。
運用基準 第3-1-(4) により、そのお巡りさんに近くの交番か警察署に案内してもらいましょう。

運用基準は法令で所持が禁止されているもの・拾得者が遺失者に返還してはいけないものとして次のものを上げています。

※運用基準 第3-1-(6)  ( 法令の規定によりその所持が禁止されている物 )
「法第4条第1項中「法令の規定によりその所持が禁止されている物」には、行政庁の許可、免許等があれば所持することができる物も含まれる。
  これには、例えば、爆発物取締罰則(明治17年太政官告示第32号)第1条に規定する爆発物、
  銃砲刀剣類所持等取締法(昭和33年法律第6号)第2条第1項に規定する銃砲、同条第2項に規定する刀剣類、
  麻薬及び向精神薬取締法(昭和28年法律第14号)第2条第1号に規定する麻薬、
  火薬類取締法(昭和25年法律第149号)第2条第1項に規定する火薬類、
  覚せい剤取締法(昭和26年法律第252号)第2条第1項に規定する覚せい剤等が該当する。
  他方で、
  銃砲刀剣類所持等取締法第22条に規定する刃物、
  特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律(平成15年法律第65号)第2条第2号に規定する特殊開錠用具のように、
  正当な理由がない場合にその所持が禁止されているに過ぎないものについては、「法令の規定によりその所持が禁止されている物」には該当しない。
  ‥中略‥、
  なお、拾得者が、当該物件について、法令の規定によりその所持が禁止されていることを知らなかった場合については、
  警察署長に提出せずに当該物件を遺失者に返還したとしても、法第4条第1項ただし書には反しない。」


・「拾得物が法令で所持を禁止されているものだ」と知らなかった場合は、遺失者に返還しても許してもらえます。
  しかし、巻き添えを喰らうと面倒なので、ヤバいものはすぐに警察に届けましょう。

・また、犯罪の犯人が持っていたと思われる物も警察署長に届けなければなりません。
  これは犯罪の証拠物ですからね。


③犬・猫は別扱い


犬や猫などを拾った場合は警察署長でなく都道府県や政令指定都市の係に持っていっても構いません。( 4条3項)

※動物愛護及び保護に関する法律35条(犬及びねこの引取り)
「都道府県等(都道府県及び指定都市、
  地方自治法第二百五十二条の二十二第一項 の中核市(以下「中核市」という。)その他政令で定める市(特別区を含む。以下同じ。)をいう。以下同じ。)は、
  犬又はねこの引取りをその所有者から求められたときは、これを引き取らなければならない。
   この場合において、都道府県知事等(都道府県等の長をいう。以下同じ。)は、その犬又はねこを引き取るべき場所を指定することができる。
 2.前項の規定は、都道府県等が所有者の判明しない犬又はねこの引取りをその拾得者その他の者から求められた場合に準用する。
 3・4・5・6号-略.」

「必ず都道府県・政令指定都市の係に持っていかなければならない」のではありません。
警察署に持っていかずそこへ持っていっても遺失物法の拾得者義務違反にならないということです。

運用基準もこのことを前提にした規定をおいています。

※運用基準 第3-3 (所有者の判明しない犬又はねこの取扱い-法第4条第3項関係)
「法第4条第3項の趣旨は、
  警察署では動物の飼養や保管に関し専門的な知識を有する職員や専門の施設を有しておらず、
  他方で、都道府県等(都道府県、地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条の19第1項の指定都市及び同法第252条の22第1項の中核市(特別区を含む。)をいう。以下同じ。)では
  動物の飼養や保管に関し専門的な知識を有する職員や専門の施設を有しているため、
  都道府県等において犬又はねこを取り扱うこととした方が動物の愛護の観点から見て適切であることから、
  動愛法第35条第2項に規定する犬又はねこに該当する物件について同項の規定による引取りの求めを行った拾得者については、
  法第4条第1項及び第2項の規定を適用しないこととしたものである。
  ‥以下略‥」
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(拾得物を渡す時期)


4条には「速やかに」と規定されています。

しかし、拾得者が拾得物に対する権利を得るためには具体的な期限があります。
拾った日から一週間以内に遺失者に返還するか警察署長に提出しなければなりません

※遺失物法34条(費用請求権等の喪失)
「次の各号のいずれかに該当する者は、その拾得をし、又は交付を受けた物件について、
  第27条第1項の費用及び第28条第1項又は第2項の報労金を請求する権利
  並びに民法第240条若しくは第241条の規定又は第32条第1項の規定により所有権を取得する権利を失う。
 一.拾得をした物件又は交付を受けた物件を横領したことにより処罰された者
 二.拾得の日から1週間以内に第4条第1項の規定による提出をしなかった拾得者(同条第2項に規定する拾得者及び自ら拾得をした施設占有者を除く。)
 三.拾得の時から24時間以内に交付をしなかった第4条第2項に規定する拾得者
 四.交付を受け、又は自ら拾得をした日から1週間以内に第4条第1項又は第13条第1項の規定による提出をしなかった施設占有者(特例施設占有者を除く。)
 五.交付を受け、又は自ら拾得をした日から2週間以内(第4条第1項ただし書及び第13条第1項ただし書に規定する物件
    並びに第17条前段の政令で定める高額な物件にあっては、1週間以内)に
    第4条第1項又は第13条第1項の規定による提出をしなかった特例施設占有者(第17条前段の規定によりその提出をしないことができる場合を除く。)」


ここで、一週間以内とは拾得の翌日から一週間以内です。
1月1日に拾ったのなら、1月2日から一週間以内、つまり1月8日の24時までに遺失者に返還するか警察署長に提出しなければなりません。


※期間計算は初日不算入が原則 ( 民法138条~143条)

※民法138条(期間の計算の通則)
「期間の計算方法は、法令若しくは裁判上の命令に特別の定めがある場合又は法律行為に別段の定めがある場合を除き、この章の規定に従う。」

※民法139条(期間の起算)
「時間によって期間を定めたときは、その期間は、即時から起算する。」

※民法140条(期間の起算)
「日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。」

※民法141条(期間の満了)
「前条の場合には、期間は、その末日の終了をもって満了する。」

※民法142条(期間の満了)
「期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律 (昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日その他の休日に当たるときは、
  その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間は、その翌日に満了する。」

※民法143条(暦による期間の計算)
「週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。
 2.週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。
    ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。」


なお、刑期は初日算入です。
※刑法22条(期間の計算)
「月又は年によって期間を定めたときは、暦に従って計算する。」

※刑法23条(刑期の計算)
「刑期は、裁判が確定した日から起算する。
 2.拘禁されていない日数は、裁判が確定した後であっても、刑期に算入しない。」

※刑法24条(受刑等の初日及び釈放)
「受刑の初日は、時間にかかわらず、一日として計算する。時効期間の初日についても、同様とする。
 2.刑期が終了した場合における釈放は、その終了の日の翌日に行う。」
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c.拾得物を警察署長に提出してから自分の物になるまで


1月1日に拾った一億円はいつあなたのものになるのでしょうか?
ここでは、1月1日に一億円を拾って1月1日に警察に届けたとします。


①.あなたが1月1日に拾った一億円を警察に届ける。

拾得物届書を書いて、遺失物係に提出。
遺失物係は、あなたの面前で一億円を調べ拾得物届を受理
※ 警察庁遺失物取扱要領 ( 以下では取扱要領 )第2-1-(2)


②.警察はあなたに受取証 ( 拾得物件預かり書)を渡す。

拾得物件預かり書は、その場で渡すことになっています。

※遺失物法5条(書面の交付)
「警察署長は、前条第1項の規定による提出(以下この節において単に「提出」という。)を受けたときは、
  国家公安委員会規則で定めるところにより、拾得者に対し、提出を受けたことを証する書面を交付するものとする。」

※遺失物施行規則2条 → 遺失物施行規則
第二条 第五条(第十三条第二項において準用する場合を含む。)の規定による書面の交付は、
  提出を受けた際に、別記様式第二号の拾得物件預り書を作成し、提出者(提出をした拾得者又は施設占有者をいう。次条において同じ。)に交付することにより行うものとする。」

※取り扱い要領第2-1-(2) → 警察庁遺失物取扱規定 ( 平成19年11月15日 警察庁通達 )

この拾得物件預かり書は「あなたが拾得者であること」を証明すると同時に「あなたが拾得者としての義務果たしたこと」を証明するものです。
必ず受け取りましょう。
『そんなものは要らない。』と言ったり、無言で立ち去ろうとしたりしても執拗に受け取ることを要求されます。 → ※運用基準 第4-2


③.警察は拾得物件控書を作成し、拾得物件一覧簿に記載する。

※遺失物施行規則1条・4条


④.あなたは予め権利を放棄できる。

『誰が一億円の権利を放棄するかい!』と思うでしょう?

しかし、高価な飼い犬を拾った場合、持主が現れなければその犬は拾得者のものになりますが、3カ月間の保管費用を払わなければなりません。
「高い保管費用を払うのなら、そんな犬は欲しくない」という人のために権利放棄をすることを認めたのです。

※遺失物法30条(拾得者等の費用償還義務の免除)
「拾得者(民法第241条ただし書に規定する他人を含む。)は、
  あらかじめ警察署長(第4条第2項に規定する拾得者にあっては、施設占有者)に申告して
  物件に関する一切の権利を放棄し、第27条第1項の費用を償還する義務を免れることができる。」


権利の一部について権利放棄をすることもできます。※運用基準 第4-3-1

高価な犬なら、所有権だけを放棄して報勞金を受け取る権利を残しておきましょう。
こうすれば、遺失者が見つかった場合は報勞金をもらえます。


⑤.あなたが権利放棄をした場合、警察は拾得物件控書の権利放棄の欄にあなたの署名を求める。

※遺失物法施行規則3条1項

署名は強制されません。
署名を強く要求されたり拇印を要求されたら、警察署長を呼んで文句を言いましょう。※運用基準 第4-3-(2)
警察署長は平謝りとなりますが、そのあとあなたがどうなっても知りません。


⑥.警察は遺失者が分かれば遺失者に返還する。

落とし主が遺失届をしていたり、財布に免許証が入っていて遺失者が分かる場合です。

※遺失物法6条(遺失者への返還)
「警察署長は、提出を受けた物件を遺失者に返還するものとする。」

※遺失物法施行規則6条・7条


⑦.警察は「こんな落とし物が届いています」というお知らせ(公告)を三カ月間する。

遺失者が分かった場合は公告はしません。する必要もないですね。

公告は警察署掲示板に張り出してもよいし、落とし物一覧を備えつけて誰でもいつでも見ることができるようにしてもよい。

※遺失物法7条(公告等)
「警察署長は、提出を受けた物件の遺失者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、次に掲げる事項を公告しなければならない。
 一.物件の種類及び特徴
 二.物件の拾得の日時及び場所
 2.前項の規定による公告(以下この節において単に「公告」という。)は、同項各号に掲げる事項を当該警察署の掲示場に掲示してする。
 3.警察署長は、第1項各号に掲げる事項を記載した書面を当該警察署に備え付け、
    かつ、これをいつでも関係者に自由に閲覧させることにより、前項の規定による掲示に代えることができる。
 4.警察署長は、公告をした後においても、物件の遺失者が判明した場合を除き、
    公告の日から3箇月間(埋蔵物にあっては、6箇月間)は、前2項に定める措置を継続しなければならない。
 5.警察署長は、提出を受けた物件が公告をする前に刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)の規定により押収されたときは、
    第1項の規定にかかわらず、公告をしないことができる。
    この場合において、警察署長は、当該物件の還付を受けたときは、公告をしなければならない。」

公告が警察署の掲示板にしてない場合は365日・24時間、落とし物一覧を見ることができます。※運用基準 第9-3


⑧.高価な拾得物・大切な拾得物はインターネットで公告する。→→→こちら

一万円以上の現金、額面一万円以上の有価証券、明らかに一万円以上する物。
運転免許証、健康保険証、外国人登録証明書、預金通帳、キャッシュカード、クレジットカード、携帯電話 → ※遺失物法8条、遺失物法施行規則11条・12条


⑨.警察は拾得物が痛んでしまう物、保管に費用がかかり過ぎる物は売ることができる。

・傘・衣類・自転車などの日常生活用品は2週間たったら売ることができる。
・拾得物を売ったときは、その代金から売却費用を差し引いたものが拾得物となる。

たとえば、百万本の薔薇、4トントラック一杯のアイスクリーム。
遺失者は警察に取りにいってもその代金しかもらえません。
拾得者が三カ月後自分のものになってもその代金しかもらえません。
売る時にかかった費用は差し引かれます。

傘・衣類・自転車などの日常生活品は二週間の公告のあと売られてしまいます。
これらの忘れ物はたくさんあり保管場所に困ること、たいていの遺失者が取りにこないこと、
どこにでも売っているから遺失者は同じようなものをすぐに手に入れられるからです。

遺失物法施行令では、ハンカチ・マフラー・ネクタイ・履物を追加しています。
※遺失物施行令3条

運用基準 にはもっと細かく定められています。
自転車に電動アシスト自転車は含まれますが小児用三輪車は含まれません。
なぜだか知りません。
※運用基準 第12-2-(1)

位牌や入れ歯などはどこにでも売っているものではないので売却措置はとれないでしょう。
もっとも、誰も買いませんが。

遺失者や拾得者もその代金しかもらえません。
もちろん、拾得者は三カ月後でしかその代金をもらえません。

※遺失物法9条(売却等)
「警察署長は、提出を受けた物件が滅失し、若しくは毀損するおそれがあるとき
  又はその保管に過大な費用若しくは手数を要するときは、政令で定めるところにより、これを売却することができる。
  ただし、第35条各号に掲げる物のいずれかに該当する物件については、この限りでない。
2.警察署長は、前項の規定によるほか、提出を受けた物件(埋蔵物及び第35条各号に掲げる物のいずれかに該当する物件を除く。)が
    次の各号に掲げる物のいずれかに該当する場合において、公告の日から2週間以内にその遺失者が判明しないときは、
    政令で定めるところにより、これを売却することができる。
 一.傘、衣類、自転車その他の日常生活の用に供され、かつ、広く販売されている物であって政令で定めるもの
 二.その保管に不相当な費用又は手数を要するものとして政令で定める物
 3.前2項の規定による売却(以下この条及び次条において単に「売却」という。)に要した費用は、売却による代金から支弁する。
 4.売却をしたときは、物件の保管、返還及び帰属については、売却による代金から売却に要した費用を控除した残額を当該物件とみなす。」


売却は原則として一般競争入札で行われます。(遺失物法施行令1条・2条)


⑩.⑨の場合買い手がつかないとき、売却代金が売却手続経費より少ないと考えられるときは廃棄などの処分をする。

廃棄されると、遺失者が取りにいっても何も戻ってきません。
また、三カ月後に拾得者が権利を得ても何ももらえません。

※遺失物法10条 ( 処分 )
「警察署長は、前条第1項本文又は第2項に規定する場合において、次に掲げるときは、
  政令で定めるところにより、提出を受けた物件について廃棄その他の処分をすることができる。
  一.売却につき買受人がないとき。
  二.売却による代金の見込額が売却に要する費用の額に満たないと認められるとき。
  三.前条第1項ただし書に該当するときその他売却をすることができないと認められるとき。」

廃棄しない場合はどうするのでしょう。
抽選や先着順もあるそうです。
※運用基準 第13-2-(1)

拾得物を処分する場合は、あらかじめ拾得者に書面で知らされます。
※遺失物法施行規則 14条
※運用基準 第13-3
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⑪.三カ月以内に遺失者が現れた時は報勞金を請求できる

警察署長は本当に遺失者かどうかを確認して、受領書を書いてもらって拾得物を渡します。
※遺失物法施行規則20条

遺失者が望めば拾得者の住所・氏名を教えます。(拾得者が同意した場合に限る)
拾得者が望めば遺失者の住所・氏名を教えます。
ただし、拾得者が自分の住所・氏名を遺失者に教えることを同意していないときは遺失者の氏名・住所も教えてくれません。

拾得者が「自分の住所・氏名を遺失者教えてくれるな」と望むのは「遺失者と関わりたくないからだ」と判断するのです。
だから、遺失者の住所・氏名も教えてくれません。

一億円拾ったら「自分の名前・住所を教えても良い」と同意しておきましょう。
そうしないと、遺失者が現れても遺失者にあなたの住所・氏名は教えないし、あなたにも遺失者の住所・氏名を教えてくれません。
遺失者がどこの誰か分からないでは、5分~2割の報勞金を遺失者に請求することができませんよ。

※遺失物法11条(返還時の措置)
「警察署長は、提出を受けた物件を遺失者に返還するときは、
  国家公安委員会規則で定めるところにより、その者が当該物件の遺失者であることを確認し、
  かつ、受領書と引換えに返還しなければならない。
 2.警察署長は、拾得者の同意があるときに限り、遺失者の求めに応じ、拾得者の氏名又は名称及び住所又は所在地(以下「氏名等」という。)を告知することができる。
 3.警察署長は、前項の同意をした拾得者の求めに応じ、遺失者の氏名等を告知することができる。」


・11条2項・3項は「告知することができる」としています。

遺失者や拾得者の同意があっても、相手の住所・氏名を必ず教えてくれるわけではありません。
遺失者が報勞金を支払うのが嫌で拾得者に危害を及ぼす場合、拾得者が報勞金だけでは満足せずに遺失者に危害を及ぼす場合があるからです。
※運用基準 第16-2

あなたが一億円拾って警察に届け、「自分の住所・氏名を遺失者に教えてもよい」と同意した場合、
「遺失者の住所・氏名を教えてくれ」と言っても教えてくれなかったら、あなたは警察から要注意人物とマークされているのです。。


警察は拾得物を遺失者に返還するときに、遺失者に「報勞金を支払う義務があること」を説明してくれます。
遺失者に確約させてくれます。
※取扱要領 第7-4

また、拾得物を遺失者に返還することを拾得者に通知してくれます。
もちろん、拾得者が自分の住所・氏名を遺失者に教えることを同意している場合だけです。
※取扱要領 第7-5


※遺失物法施行規則18条(遺失者が判明したときの措置等)
「警察署長は、提出物件又は保管物件の遺失者が判明したときは、
   速やかに、当該物件の返還に係る手続を行う場所
   並びに当該物件に係る法第27条第1項の費用及び法第28条第1項又は第2項の報労金を支払う義務がある旨を当該遺失者に通知するものとする。
 2.警察署長は、提出物件を遺失者に返還するときは、
   当該物件に係る法第27条第1項の費用又は法第28条第1項若しくは第2項の報労金を請求する権利を有する拾得者又は施設占有者に対し、
   当該物件を返還する旨を通知するものとする。
   ただし、当該拾得者又は施設占有者の所在を知ることができない場合は、この限りでない。
 3.警察署長は、前項の規定による通知をするときは、
    法第11条第2項(法第13条第2項において準用する場合を含む。)に規定する同意(第26条において単に「同意」という。)の有無を確認するものとする。
    ただし、前項の拾得者又は施設占有者が、あらかじめ拾得物件控書の氏名等告知の同意の欄に署名をしている場合は、この限りでない。」


・遺失者が報勞金を支払うことを確約したのに支払ってくれないときはどうなるのでしょう。

警察はもうタッチしません。( 民事不介入)
拾得者は遺失者を相手にして民事訴訟を起こすしかありません。
勝てる訴訟ですが時間と労力がかかりますので、欲を出さず適当な所で折り合いましょう。


遺失者が拾得物に対する権利を放棄した時は、遺失者は拾得物の保管費用や報勞金を支払う必要はありません。

この場合は遺失者が権利放棄をした時点で(三カ月を過ぎなくても)、拾得物は拾得者の物になります。
ただし、それまでの保管費用は拾得者が支払わなければなりません。
拾得者が保管費用を支払うのが嫌なら、拾得者はこの時に拾得物に対する権利を放棄できます。

※遺失物法31条(遺失者の費用償還義務等の免除)
「遺失者は、物件についてその有する権利を放棄して、第27条第1項の費用を償還する義務及び第28条第1項又は第2項の報労金を支払う義務を免れることができる。」

※遺失物法32条(遺失者の権利放棄による拾得者の所有権取得等)
「すべての遺失者が物件についてその有する権利を放棄したときは、拾得者が当該物件の所有権を取得する。
  ただし、民法第241条ただし書に規定する埋蔵物については、同条ただし書の規定の例による。
 2.前項の規定により物件の所有権を取得する者は、その取得する権利を放棄して、第27条第1項の費用を償還する義務を免れることができる。」


・報勞金は拾得物が遺失者に返還されてから一カ月を過ぎると請求できません。
これは大切なことですよ。

※遺失物法29条(費用及び報労金の請求権の期間の制限)
「第27条第1項の費用及び前条第1項又は第2項の報労金は、物件が遺失者に返還された後1箇月を経過したときは、請求することができない。」
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⑫.三カ月経っても遺失者が現れない場合


さあ一億円があなたのものになりますよ。

もう一度民法の規定をみてみましょう。

※民法240条(遺失物の拾得)
「遺失物は、遺失物法(平成十八年法律第七十三号)の定めるところに従い、
  公告をした後三箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得する。」

1月1日に一億円拾って、1月1日に警察に届けた。
警察が三カ月の公告をした。
三カ月経っても落とし主が現れない。
一億円があなたの物になるのは何月何日でしょう。
2月は閏年ではなくて28日までとしてください。

『4月2日でしょう?』

なぜですか?

『警察署長による公告がいつされるのかで決まります。このことについては規定が見当たりません。

  しかし、遺失物法施行規則4条で「警察署長は、提出を受けたときは、直ちに、‥‥ 物件一覧簿に記載しなければならない。」としています。

  また、公告について遺失物法7条3項で「警察署長は、第1項各号に掲げる事項を記載した書面を当該警察署に備え付け、
  かつ、これをいつでも関係者に自由に閲覧させることにより、前項の規定による掲示に代えることができる。」としています。

  これらの規定から、「公告は拾得物の提出を受けたら直ちに行う」と考えられます。

   つまり、1月1日に提出された一億円の公告の開始は1月1日になります。

   三カ月という月によって期間が定められていますから、初日の1月1日は三カ月に算入されません。(民法140条)。

   だから、1月2日より起算して三カ月となります。

  また、民法143条1項で「月によって期間を定めた時は暦によって計算する」とされていますから、2月が28日で3月が30日であることは関係ありません。

  そして、三カ月という期間は、民法143条2項で「その月においてその起算日に応答する日の前日に」満了します。
  起算日が1月2日だから、4月の起算日に応答する日、つまり4月2日の前日に三カ月は満了します。

  拾得者が権利を取得するのは4月1日が終わったあと、つまり4月2日です。』


その通りです。あなたは本当に警備員になるつもりなのですか?

4月1日が終われば、あなたは一億円の大金持ちになります。
4月2日に遺失者が現れても一億円はあなたのものです。
改正前の遺失物法では「拾得者が権利取得をするのは六カ月間遺失者が現れなかった場合」でした。
遺失者が「落としてから半年以内に受取にいけば返してもらえる」と思っていたら、ラッキーですね。

なお、三カ月は一億円を拾った日からではなく、警察の公告が開始された日からです。
お間違いなく。


※参考-公告開始時期について


拾得物の提出を受けた警察が「いつ公告を開始するのか」規定されていません。
運用基準にも取扱要領にも記載されていません。

・警察が拾得物の提出を受けた場合、まず遺失者を捜します。
  免許証、健康保険証、携帯電話などでは持主を特定し連絡します。
  遺失物届と照合する作業も必要です。
  ※取扱要領 第4 ( 調査 )

・これらの作業のあと、「遺失者不明物件」として公告することになります。

・だから、「拾得物の提出を受けて、即時に公告する」ということはあり得ません。

・しかし、警察署では一般に掲示板による公告を行っていません。
  拾得物件一覧簿を閲覧させることで掲示板による公告に代えています。

・この拾得物件一覧簿に記載した時が公告開始となるでしょう。

・ところが、「拾得物件一覧簿にいつ記載するか」について運用基準や取扱要領に明確に定められていません。
  運用基準 第4-6-(1)と取扱要領 第2-1-(2)を総合解釈すると、
  一覧簿への記載は、拾得物預かり書を作成する時、つまり拾得者から拾得物の提出を受けだ時になされているようです。
・これらと、施行規則4条の「直ちに」を合わせると、公告( 一覧簿への記載 )は、拾得物の提出を受けた当日と考えるのが妥当でしょう。
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⑬.警察からの連絡はない-所有権が発生してから2カ月以内に取りにいかないと国のものになる

4月2日に警察から「遺失者が現れないので、あなたのものになりました。取りに来てください」と連絡が入ります。
実際には警察から連絡はありません。
拾得物を届けたときにもらう拾得物預かり証に「〇月〇日までに遺失者が現れなかった場合はあなたのものになります。取りに来てください。」ということが記載されています。
これで警察は連絡したことになります。

※遺失物法施行規則18条4項・5項
「4.警察署長は、提出物件について、民法第240条又は同法第241条に規定する期間内に遺失者が判明しない場合において、
    次の表の上欄に掲げるときは、同表の中欄に掲げる者に対し同表の下欄に掲げる事項を通知するものとする。
    ただし、同表の中欄に掲げる拾得者又は施設占有者の所在を知ることができない場合は、この限りでない。
    表(略)」
 5.警察署長は、提出物件の遺失者が判明しない場合において拾得者が所有権を取得することとなるべき期日、
    当該物件の引渡しに係る手続を行う場所及び当該物件について法第27条第1項の費用があるときは当該費用は当該物件を引き取る者の負担となる旨を
    あらかじめ拾得物件預り書に記載することにより、前項の規定による通知に代えることができる。」


ただし、その日から二カ月以内に受け取らないと所有権を失います
つまり、4月2日から二カ月経つと一億円はあなたのものになりません。
国のものになります。

※遺失物法36条(拾得者の所有権の喪失)
「民法第240条若しくは第241条の規定又は第32条第1項の規定により物件の所有権を取得した者は、
  当該取得の日から2箇月以内に当該物件を警察署長又は特例施設占有者から引き取らないときは、その所有権を失う。」


では、質問です。
いつまでに取りにいかないと自分のものにならないのですか?

『6月2日までに取りにいかないとダメです。』

えっ?4月2日に所有権を得て、それから二カ月でしょう?
初日不算入で4月3日から二カ月、つまり6月3日が期限になるのではないですか?

『引っかけようとしてもダメです。

  4月1日に三カ月の公告期間が終わります。そして4月2日の0時に所有権が発生します。

  民法140条(期間の起算)には、「日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。」としていますが、
   但書で「その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。」としています。

  4月2日の0時に所有権を得ますから、この但書が適用されて初日は算入されません。

  だから、4月2日から二カ月、つまり6月2日が期限となります。』


‥‥、もう一度聞きますが、あなたは本当に警備員になるつもりですか?

『ハイッ!』


その通りです。
運用基準 にもそう規定されています。

なお、所有権を得られる最後の日 (6月2日) が休日の場合は、その休日の翌日が期限となります。
※運用基準 第44


⑭.三カ月過ぎても、拾得者のものにならないものがあります。

・法律で所持が禁止されているもの

ただし、猟銃や刀剣類は銃刀法の所持許可や登録をすれば所持できます。
拾得者が所持できる資格があれば所有権を取得できます。
猟銃で名の通ったものは軽く500万円を超えますので所持許可を取ましょう。
ただし、2カ月で所持許可が下りるかどうかは分かりません。

・個人情報が入っているもの

個人情報保護の観点から遺失物法改正で定められました。

※遺失物法35条(所有権を取得することができない物件)
「次の各号に掲げる物のいずれかに該当する物件については、
  民法第240条若しくは第241条の規定又は第32条第1項の規定にかかわらず、所有権を取得することができない。
 一.法令の規定によりその所持が禁止されている物(法令の規定による許可その他の処分により所持することができる物であって政令で定めるものを除く。)
 二.個人の身分若しくは地位又は個人の一身に専属する権利を証する文書、図画又は電磁的記録
    (電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)
 三.個人の秘密に属する事項が記録された文書、図画又は電磁的記録
 四.遺失者又はその関係者と認められる個人の住所又は連絡先が記録された文書、図画又は電磁的記録
 五.個人情報データベース等(個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第2条第2項に規定する個人情報データベース等をいう。)
      が記録された文書、図画又は電磁的記録(広く一般に流通している文書、図画及び電磁的記録を除く。)」

    
3.新任警備員のためのワンポイント


①拾ってから一週間以内に遺失者に返還or警察に届ける
②やばいものは遺失者に返還しないで警察に届ける
③遺失者が現れた場合、遺失者に保管費用と5分~2割の報勞金を請求できる
④一カ月以内に請求しないと③の保管費用・報勞金は請求できない
⑤三カ月経てば自分のものになる。
⑥二カ月以内に引き取らないと自分のものにならない


今回は公道で拾った場合について説明しました。
次回はスーパーの駐車場や店内で拾った場合について説明します。


※参考
遺失物法施行規則
・遺失物法等の解釈運用基準 (平成19年8月10日 警察庁通達)
・警察庁遺失物取扱規定 ( 平成19年11月15日 警察庁通達 )


つづく。




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