退職警備員と現任教育


1.問題の所在


a.設例

(設例1)
・平成29年10月30日に警備員Aが退職した。
・平成29年後期の現任教育はまだ行っていないのでAに対する平成29年後期の現任教育も行っていない。
・Aに対する教育懈怠となるのか?

(設例2)
・平成29年11月1日に現任教育を行った。
・警備員Aは「今期末(平成30年3月31日)までに退職するから」という理由でこの現任教育を欠席した。
・そして、そのまま警備業務を行い、平成30年3月31日付けで退職した。
・Aは平成29年後期の現任教育を受けていない。
・Aに対する教育懈怠となるか?
・Aが平成30年3月30日付けで退職した場合はどうか?


b.条文

・警備業法21条 (警備業者等の責務)

「  警備業者及び警備員は、警備業務を適正に行うようにするため、警備業務に関する知識及び能力の向上に努めなければならない。

  2警備業者は、その警備員に対し、警備業務を適正に実施させるため、
    この章の規定によるほか、内閣府令で定めるところにより教育を行うとともに、必要な指導及び監督をしなければならない。 」


・警備業法施行規則38条
①警備員教育の種類は「基本教育、業務別教育、必要に応じて行う警備業務に関する知識及び技能の向上のための教育」の三つ。
②基本教育と業務別教育の教育内容と教育方法の指定。
③警備員の経験や所持資格による教育必要時間数。
④教育を行う時
  ・「新たに警備業務に従事させようとする警備員」に対する教育 → その警備業務に従事させる前。
  (理由)「新たに警備業務に従事させようとする警備員」とは「まだ警備業務に従事していない警備員」なのでその者に対する教育は「その警備業務に従事させる前」に行わなければならないのは当然。
  ・「現に警備業務に従事させている警備員」に対する教育 → 「教育期(4/1~9/30までの期間及び10/1~翌年3/31までの期間)ごとに行う」。


c.問題の所在

以上のように施行規則38条は、
「現に警備業務に従事させている警備員 ( 現任警備員 ) に対する基本教育と業務別教育 ( 現任教育 )」についてその内容・方法・時期を定めているが、
現任教育の対象となる者を「現に警備業務に従事させている者」としているだけで、
「現任警備員に教育期途中で退職した警備員を含めるかどうか」を明らかにしていないので問題になる。

現任警備員に教育期途中で退職した警備員を含めると、設例1ではこの警備員に対する教育懈怠となるが、退職警備員を含めないとすると教育懈怠にはならないからである。

この点につき殆どの警備業者は、
「現任教育をする前に退職した警備員は現任警備員に含まず現任教育は不要」として扱っている。。

その根拠はどこにあるのだろうか?


要は警備業法21条と施行規則38条の解釈にある。

警備業法の解釈については警察庁がその立場を10年毎に示しているが、そこに退職警備員に対する現任教育の記述はない。→→→警察庁の解釈・運用/平成28年版


それでは各立場の根拠を考えてみよう。


2.A説(「現に警備業務に従事させている警備員」に「退職警備員」を含める)の根拠


a.「現に」の意味

「現に警備業務に従事させている」を「現任教育をするときに警備業務に従事させている」と解釈して、
現任教育をする前に退職した警備員は「現に警備業務に従事させている警備員」に含まれず現任教育不要とする立場がある。

しかし、施行規則は「これから警備業務を行う警備業務未経験者とすでに警備業務を行っている警備業務経験者」に別々の教育を受けさせるため、
警備員を「新たに警備業務に従事させようとする警備員」と「現に警備業務に従事させている警備員」の二種類に分けただけである。
だから、その教育期に警備業務に従事していた警備員は退職しても「現に警備業務に従事させている警備員」であり現任教育の対象となると解することもできる。


b.現任教育の趣旨・目的

現任教育は「現任警備員の警備業務を適正に行わせるための教育」であり「現任教育をしなければ現任警備員に警備業務を行わせてはならない教育」である。
しかし、その警備業務とは「その教育期の警備業務」であるのか「次の教育期の警備業務」であるのか?
つまり、現任教育は「その教育期の警備業務を行わせるために必要な教育」なのか、免許の更新のように「次の教育期の警備業務を行わせるために必要な教育」なのか?

前者に解するのが当然のように思えるが、
施行規則が教育を行う時期について「その教育期の初日に行う」とせず「その教育期中に行う」としているので後者の解釈も成立することになる。


この点については前者が妥当である。

その根拠は施行規則が「新任教育を行った場合、その教育期の現任教育を行わなくて良い」としていることにある。
  
この趣旨は次の通りである。
・未経験者に新任教育をして警備業務に従事させれば、その者は経験者となり「現に警備業務に従事させている警備員」となる。、
・「現に警備業務に従事させている警備員」には新任教育とは別の現任教育が必要なので、新任教育をした教育期にさらに現任教育が必要となる。
・しかし、新任教育の中には現任教育の内容が含まれているので、新任教育をした教育期の現任教育はなされたものと扱う。

・新任教育をしなければその教育期の警備業務を行わせることができないので、
  新任教育に含まれる現任教育の部分は「その教育期の警備業務を適正に行わせるための教育」である。
・現任教育を「次の教育期の警備業務を適正に行わせるためのもの」とすると、新任教育をした次の教育期の警備業務を適正に行わせるための教育がなくなることになる。
  ※平成29年前期に新任教育/新たに警備員になるための教育+平成29年前期の警備業務を適正に行わせるための教育
    → 平成29年後期の現任教育/次の教育期(平成30年前期)の警備業務を適正に行わせるための教育 → 平成29年後期の警備業務を適正に行わせるための教育がなくなってしまう。
・つまり、現任教育を「その教育期の警備業務を適正に行わせるための教育」と考えなければ、
  新任教育に含まれる現任教育の部分と次の教育期の現任教育の連続性がたたれることになる。

・以上のことから現任教育は「その教育期の警備業務を適正に実施させるための教育」であると解される。


現任教育の目的がこのようなものであれば、それは本来教育期の初日に行うべきものである。
しかし、警備業者の都合を考えて「初日でなくてもその教育期中に行えばよい」としたのである。
そして、「現任教育をその教育期中に行えば、その教育期中の警備業務を適正に実施するための教育がなされた」とみなしたのである。

このような取扱をすると「教育期初日~現任教育」の警備業務につきそれを適正に実施させるための教育が存在しなくなる。
しかし、それはその前の教育期の途中に行った現任教育の効果が及んでいると考えることができるので、現任教育の趣旨・目的を無にすることはない。

以上のように現任教育を「その教育期の警備業務を適正に行わせるための教育」と解釈すれば、教育期途中で退職した者も現任教育の対象にしなければならない。
彼らはその教育期の警備業務を行ったからである。


c.教育期末に退職した者は実質的に現任教育なしで警備業務を行ったことになり、現任教育の趣旨・目的を無にすることになる。

「退職警備員を現に警備業務に従事させている警備員に含まず現任教育は不要」とすると次のような不合理が生じる。

平成29年後期の現任教育をその教育期末日の平成30年3月31日にした場合、平成30年3月30日に退職した者に対する現任教育は不要となる。
その結果、この警備員は平成29年後期の殆どにつき現任教育なしで警備業務を行ったことになり、現任教育の趣旨・目的を無にすることになる。


3.B説(「現に警備業務に従事させている警備員」に退職警備員を含めない)の根拠


a.「現に」の文言

A説の「現に」の解釈は納得できる部分がある。

しかし、条文が現任教育の「対象」と「教育時期」につき、「現に警備業務に従事させている者」と「各教育期中に行う」と並べて規定していることから、
「現に」を「現任教育をするときに」と解釈することもできる。

条文が「現に」の判断時期を明示していないので、どちらの根拠も優劣がつけがたい。


b.現任教育の趣旨・目的

これにつきA説の説明は妥当である。
現任教育は「その教育期中の警備業務を適正に行わせるためのもの」であるから、「その教育期中の警備業務を行った退職警備員」も現任教育の対象になる。

しかし、施行規則はそれを前提として、次の理由から退職警備員を現任教育の対象から外していると考えられる。


c.「各教育期中に行う」という文言

退職する者は二週間前に退職予告をしなければならないので、その予告期間中に現任教育をすることは可能である。

現任教育の対象に退職者を含むとすると、退職者が出るたびにその者に対する現任教育をしなければならなくなる。
これは警備業者にとって負担が大きい。

この負担を避けようとすれば、教育期の最初の日に現任教育をしなければならなくなる。

施行規則が「退職警備員も現任教育の対象となる」としているのなら「現任教育は教育期の初日に行う」とするはずである。
そうでないと、警備業者の負担が大きくなるからである。
しかし、施行規則は「現任教育は教育期中に行う」としている。
これは「退職警備員を現任教育の対象から除外する」との前提があるからである。


d.「退職者を含まないとすると、教育期末に退職した者はその教育期の殆どの警備業務を現任教育なしで行ったことになり、現任教育の趣旨・目的を無にしてしまう」という根拠。

(相反する事例)

この点については次のようなことも考えられる。

平成29年後期の翌日(平成29年9月2日)に退職した警備員がいる。
「退職警備員を現に警備業務に従事させている警備員に含み現任教育は必要」とすると
この者にも平成29年後期の現任教育が必要である。
その結果、この警備員はその教育期の殆どを警備業務に従事しないのにその教育期の現任教育が必要となり、現任教育の趣旨・目的を逸脱することになる。

どちらも極端な事例である。
極端な事例について不都合が生じることを根拠にすることは妥当でないので、この事例は両方とも根拠とならないだろう。。


(教育期初日から退職するまでの教育空白)

また、A説が説明するように「教育期初日から現任教育をするまでの教育の空白は、実質的に前の教育期の途中に行った現任教育が埋めている」と解すれば
教育期途中で退職した警備員についても「教育期初日から退職するまでの教育の空白は前の教育期の途中で行った現任教育が埋めている」と解されるので、
退職警備員の現任教育が不要としても現任教育の趣旨・目的を無にする事はない。


4.A説とB説のどちらが妥当か


この判断は裁判所がするものであり、最終的には施行規則に明示することによって解決するものである。

・ある警備業者が「教育期途中で退職した警備陰に対してその教育期の現任教育を行わなかった」
・立入でそのことが問題となり行政処分を受けた。
・その警備業者はそれを不服として行政処分取り消しの行政訴訟を起こした。
・そして、裁判所がA説とB説のどちらをとるかの判断をした。
・これを受けて施行規則が改正され、退職警備員をが現任教育の対象になるかどうか明記された。


私は多数説のB説が妥当だと思う。

だから、最初にあげた設例1では教育懈怠にならないと解する。


5.教育期末日に退職した者に対する現任教育懈怠


a.現任教育を欠席した警備員が教育期末日に退職すると現任教育懈怠が問題となる

注意しなければならないのは、
「現に警備業務に従事させている警備員には退職警備員を含まず、退職警備員に対してはその教育期の現任教育が不要」と解しても、
教育期末日に退職した警備員に対しては教育懈怠が問題になることである。

以前所属していた警備会社の現任教育でのことである。
この会社では顧客の棚卸休業の日に私服保安を全員集めて現任教育をする。
棚卸は年二回だから前期・後期の現任教育が各一日で行えるのである。

その現任教育で教育担当がこのようなことを言った。

『当社の今期の現任教育は今日だけだから、本日欠席した者は来期の仕事ができないことになる。』

この会社では現任教育を「来期の仕事をするための更新講習のようなもの」ととらえているようであった。

しかし、これは間違いである。
現任教育は「その教育期に警備員が行う業務を適正にするためのもの」であり「その教育期の警備業務につかせるために必要な教育」である。

このことについてはすでに述べた。


問題となるのは現任教育を欠席した警備員の退職日である。

現任教育を「来期に警備業務につかせるための更新教育」と考えているその会社は、
現任教育を欠席した警備員はそのまま業務につかせるが、来期の業務につかせることができないので、その教育期末日をもって退職とするであろう。

そうすると現任教育懈怠が問題となる。

現任教育は「各教育期中に行う(行えばよい)」と規定されているだけであり、どこにも「各教育期中に一回行う(行えばよい)」とは規定されていない。
警備業者は「現任教育を一回したから教育義務を果たした」とは言えないのである。
警備業者は現任教育を欠席した警備員に対してその教育期の現任教育をする必要がある。

そこで、現任教育を欠席した警備員を「教育期末日に退職したもの」と扱うと、その警備員が行方不明になるなど再度教育をすることができなかったような理由がない限り、
その警備員に対して現任教育を行わなかった責任を問われることになる。

最初にあげた設例2で「3月31日を退職日とした場合」は教育懈怠が問題となるのである。


b.現任教育を欠席した警備員が教育期末日の前日に退職したら教育懈怠は問題にならない


これに対し教育期末日の前日を退職日とするとこの教育懈怠を免れることができる。

「現任教育を欠席した警備員に対しては教育期末日に再度現任教育を予定していました。でも、前日に退職しましたからネェ…。退職者は現任教育の対象ではないのでしょう?」
と言い訳できるからである。

だから、最初にあげた設例2で「3月30日に退職した場合」は教育懈怠は問題とはならないのである。


c.教育期末日に現任教育をするのは危険


「それなら現任教育は教育期末日にやればよい。そうすれば途中で退職した者に現任教育をする必要がなくなり、その分の手当を支払わなくて済む」と考える者も出てくるだろう。

しかし、これは危険である。

教育期末日の現任教育を欠席した警備員に対しては再度現任教育をすることができなくなるからである。

この場合、教育欠席(業務命令違反)を理由に即日解雇しても教育期末日が退職日となるから以上に述べたように教育懈怠が問題となる。

もちろん、「教育期末日に現任教育をしたこと」は「教育を欠席した警備員に再度教育することができなかった特別の理由」とは認められないだろうからである。


6.まとめ


以上要するに、

・現任教育は「その教育期の警備業務を適正に行わせるための教育」である。
・現任教育は教育期内に行えばよい。
・「教育期初日~現任教育実施日」に行われる警備業については教育がなされていないか、前の教育期の途中で行った現任教育の効果が実質的に及んでいる。
・教育期途中で退職した者に対し現任教育が行われていなくても教育懈怠とはならない。
・現任教育は一回行えばよいというものではない。教育を欠席した警備員に対しては再度教育する必要がある。


この解釈については自己責任でお願いします。
この解釈にそって教育を行い教育懈怠となって行政処分を受けても当方は一切関知しません。




つづく



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