spnet保安-私服保安教育教材を作りましょう
店長のための 「保安のイ・ロ・ハ」
前書き.伝承された私服保安ルールを次の世代へ
私服保安の世界では師匠から弟子へ「私服保安ルール」が伝承されてきました。
そのルールの根拠が何かは説明されず、「そのルールを護ることだけ」を教え込まれてきました。
しかし、「教え・教えられ・教える」中で、その内容が少しずつ変えられ、現在では「違法行為になるようなもの」も含まれるようになりました。
今こそ、私服保安を育てる者は「伝承された私服保安ルールの根拠」を検証し、
「現在の私服保安ルール」を「正しい私服保安ルール」として次の世代に引き継がなければならないのです。
私服保安教育の教材に満足なものはありません。全国の私服保安は協力してその教材を作らなければなりません。
・私服保安は攻める警備
★職人私服保安が作り上げたルールは魔法の薬
★伝言ゲームで「毒のあるルール」に変わってしまう
★私服保安教育の教材が必要
★「私服保安が犯人を追っているときに犯人が他人の土地に入った場合、この土地に入れば住居侵入罪になる」(全警協の指導教育責任者テキスト)に対する疑問
1. 私服保安警備は 「 攻める警備 」
警備はすべて顧客を護ることを目的としています。
しかし、私服保安警備は他の警備とは違った方法で顧客を護ります。
私服保安警備で顧客を護る方法は 「万引き犯人を捕まえること」 で す。
野球の守備で投手だけが 「 攻めて守る 」 のと似ています。
「私服保安は現行犯逮捕で飯を食っている」 と言われるほど 「 攻める警備 」 なのです。
だから、私服保安警備では 「 犯人検挙時の違法行為 」 や 「 犯人に対する人権侵害 」 の危険が大きくなります。
これらは他の警備と比べ物になりません。
警備業法15条は警備業務実施の基本原則を定めています。
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国産ではないけれど「いい味」。
※トライクの法的取り扱い
※参考(法律好きの店長さんと指導教育責任者さんと私服保安だけ読んでください)
警備員指導教育責任者講習教本1-77頁(平成17年2月15日発行六訂初版)には次のように書いてあります。
※機械警備業務管理者講習教本64頁(平成19年11月17日全国警備業協会編集発行・2版2刷 ) も同じ。
『…(刑訴法220条1項1号の規定からみれば)、一般私人は現行犯人を逮捕することはできるが、
現行犯人を逮捕するために人の住居等へ立ち入ることはできないと解すべきである。
一般私人の場合は、
現認した現行犯人を逮捕のため追跡中、犯人が他人の住居に逃げ込んだ場合には、
その逃げ込んだ住居権者の承諾を得たときに限りその住居内に立ち入って逮捕することができるにとどまる。
真に現行犯人逮捕の目的であっても、承諾なく勝手に他人の住居に侵入するときは、その行為が住居侵入罪を構成することがある。
裁判所も
「何人でも現行犯を逮捕し得るが、
司法警察院・検察官・検察事務官等でない通常人は、逮捕することを義務づけられていないし、
また、通常人は逮捕するため住居に侵入することは許されない。」旨判示している。 』
しかし、ある法律書には次のように書いてあります。
『本号による捜索は、被疑者を発見するための処分である。
したがって、いまさら被疑者の発見を必要としない場合、すなわち、被疑者の追跡が継続されているときは、
被疑者を追って人の住居・建造物等に立ち入ったとしても、それは逮捕行為そのものであって、捜索ではない。
そのような行為については、本号の適用がなく、また捜索に関する各種の制限も適用されない(伊藤・実際問題78)。
追跡者がいったん被疑者を見失った後においては、本号によらなければならない。』
※注釈刑事訴訟法第二巻・立花書房・昭和54年1月20日発行初版4刷・203頁・伊藤栄樹執筆部分「被疑者の捜索(刑訴法220条1項1号)」
この書物によれば、
刑訴法220条1項1号の“捜索”とは「犯人を捜すこと」であり、
「犯人を見失っておらず、犯人を捜す必要がない場合」は“捜索”に該らないことになります。
そして、
「見失っていない犯人を人の住居に入って逮捕すること」は刑訴法220条1項1号の対象外となります。
つまり、
「犯人を見失っていなければ人の住居等に入っても現行犯逮捕権の行使(正当行為・法令行為)として住居侵入罪が成立しない」ことになります。
なお、教本の挙げる裁判例は“名高判昭和26.3.2集4-2-148”でしょう。
この裁判例は多数の法律書に挙げられています。
『捜査機関以外の私人が現行犯逮捕のために他人の住居に入ることは許されない。(名高判昭和26.3.2集4-2-148)』
※刑事訴訟法(改訂版)現代法律学全集28・高田卓爾著・青林書院新社・323頁
『(住居侵入罪の)「故えなく」というのは…違法性の原則を表現したものであるから、
正当防衛・緊急避難・自救行為等の違法性阻却事由が存在する場合には、正当の事由があったということになろう.
…通常人が現行犯逮捕の目的で承諾をえずに他人の住居に侵入した場合(名高判昭和26.3.2集4-2-148)…などは
いずれも侵入行為の違法性は阻却されない。』
※注釈刑法3-各則1・有斐閣・昭和50年10月30日発行初版第10刷・240頁・福田平執筆部分
この裁判例の事案は、
違法なもてなしが行われている料亭に、もてなしをしている者(県知事)を一般私人が現行犯逮捕するために料亭に押し入ったものです。
犯人を追跡して見失っていない場合ではありません。
学説や裁判例は、それが実際に裁判で問題とならなければ争われたり論じられたりすることはありません。※下記に判旨抜粋
「犯人を見失っていない場合に人の住居に入って犯人を現行犯逮捕することが刑訴法220条の“捜索”に該るのか、現行犯逮捕の逮捕行為に該るのか」について実際に争われたことがないようです。
もし、それが争われた場合、通説や下級審・最高裁が上記注釈刑事訴訟法にあるように「“捜索”に該らずに“逮捕行為”に該る」と解釈するかどうかは分かりません。
つまり、「見失っていない犯人を人の住居に入って現行犯逮捕することが住居侵入罪になる可能性がある」ということです。
警備員はその業務を行う場合、他人の権利を侵害することのないようにしなければなりません。
この点から警備員指導教育責任者教本は「できるだけ警備員の行為を制限する」ように書いたとも思えます。
しかし、
「追跡中の犯人を見失っていない場合にも、承諾を得ないで他人の住居に入れば住居侵入罪が成立する」と判断した裁判例があるように書き、
そして、あの「アッカンベェ~ビデオ」。
もしかして、法解釈論を無視した短絡的記述なのかも知れません。
施設警備の検定講習や指導教育責任者講習で講師に質問するとよいでしょう。
※名高判昭和26.3.2集4-2-148) より抜粋
原判決挙示の証拠によれば、
被告人等がG知事等の政令違反の現行犯を逮捕するための目的で原判示H館に侵入したこと
並に被告人等が現行犯逮捕のためならば、何人も他人の住居その他建造物に侵入するも、違法でないと信じていたことを認むることはできない。
被告人等は、
G知事等が大学設置問題に関し文部省関係係官を招致し饗応していることを聞き、
これは政令違反(飲食営業緊急措置令違反)であるとしこれが摘発であると主張して、
右H館に乗り込みG知事等にいやがらせを為して、政治的効果をねらつたもので、
真に現行犯逮捕以外に他に何等の意思もなかつたとは認められない。
これと同趣旨の認定をした原判決には、判決に影響すること明らかな事実誤認はない。
然し原判決は通常人が現行犯逮捕する場合でも、他人の住居に侵入し得るように解しているが、これは誤りであり、
控訴趣意も同様の誤りをおかしているから、この点につい<要旨>て説明する。
現行犯人は、何人でも、逮捕状なくして、これを逮捕することができるものであることは、刑事訴訟法第二一三条に規定するところであるが、
司法警察職員、検察官及び検察事務官でない通常人は、現行犯人を認めても逮捕することを義務づけられてはいないから、
一旦逮捕にとりかかつても中途からこれをやめることもできるわけである。
然し右の通常人は現行犯逮捕のため、他人の住居に侵入することは認められていない。
このことは、刑事訴訟法第二二〇条によつても、明らかである。
即ち、検察官、検察事務官又は司法警察職員は、
現行犯人を逮捕する場合には人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすることができる旨を規定しているところから見れば、
通常人に対しては右の行為をすることは禁止せられているものと解すべきものである。
われわれの住居は侵すことができないもので、これを侵しても違法でないとするためには、憲法並に刑事訴訟法に規定してある場合でなければならない。
通常人が現行犯人を逮捕し得ることは、憲法並に刑事訴訟法でもこれを認めているが、
この逮捕のため、他人の住居に侵入し得る旨を規定した法律は存しない。
従つて通常人は、屋外若しくは自宅で現行犯を逮捕するか又は住居権者等の承諾ある場合に限り、佳居内で現行犯人を逮捕し得るのである。
若し論旨の如く、
通常人でも現行犯人逮捕のためならば、自由に他人の住居に侵入し得るとするならば、われわれの住居は一日も平穏であることはできない。
従つて真に現行犯人逮捕の目的であつても、承諾なくして、他人の住居に侵入するときは、住居侵入罪が成立するものと解すべきものである。
而して住居とは、一戸の建物のみを指すのではなく、
族館料理屋の一室と雖これを借り受けて使用したり、又は宿泊したり飲食している間は、そのお客の居住する住居と認むべきもので、
本件においては、原判示H館の奥座敷に岐阜県知事Gその他が居て宴席を設けていたのであるから、刑法上、同人等の住居と云うことができる。
被告人等が現行犯人逮捕と主張して、右奥座敷にG知事の招きによらず、無断で入り込んだのであるから、住居侵入罪が成立する。
従つてこの点について論旨は理由がないが、
原判決も前記のように現行犯人逮捕のためならば、住居に侵入し得る旨解し、その旨判示したのは、違法で此の点において、原判決は破棄を免れない。
つづく。
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