RMX ・ SJ-13A 整備資料



2014.08.31.RMX・SJ13 クランクケース組立/オイルシールの打込み量と方向





結論から言えば、
①オイルシールの打ち込み量は「クランクケース外端とツライチ」
②オイルシールの方向は「クランクシャフト右だけが外側が凹面で内側が平坦面」。それ以外は外側が平坦面で内側が凹面。
それを、各部品の寸法から構造的に説明しました。
また、クランクシャフトの引き込みについても詳しく説明しています。
「なぜそうなのか」が分かるとメンテナンスも面白くなります。
「軽薄短小」、指一本での文書作成、小学生の夏休み絵日記のようなプログ、経験していない聞きかじりを集めたHP。
そんな風潮に反するこの頁を頑張って読んでください。


クランクシャフト右のオイルシール打ち込み量
ベアリング,オイルシール,スペーサの寸法的な関係/オイルシールとスペーサがベアリングの溝をふさぐ
ベアリング,スペーサ,プライマリードライブギヤの関係/一体となってクランクシャフトに固定される
N型とR・S型のスペーサは長さが違う
フライホイールにも段差があり、ペアリング内輪はこの段差に押しつけられる
クランクシャフトの引き込み過ぎの状態/クランクケース接合で「引き込み適正位置」になる。
クランクケース接合で「引き込み適正位置」にならない場合がある。
オイルシールを留める段差はないので、オイルシールはベアリングに接するまで打ち込める。
オイルシールの打ち込みは「ケース外端とツライチ」。これ以上打ち込むとピストン室へつながる穴を塞いでしまう。
クランクシャフト右スペーサはオイルシールから出ているのが正常。
クランクシャフト左オイルシールの打ち込み量
ドライブシャフトのオイルシール,スペーサの打ち込み量
オイルシールの方向/クランクシャフト右は内側が平坦面、外側が凹面


     
1.クランクシャフト右側のオイルシール打込み量

      
a.ベアリング,オイルシール,スペーサの関係/オイルシールとスペーサがベアリング溝を塞ぐ


まず、クランク軸右側の構成部品を見てみましょう。

・a:ベアリング
・b:オイルシール
・c:プライマリードライブギヤスペーサ
・c2:Oリング ( cのスペーサの中に入る)
・d:プライマリードライブギヤ
・e:プライマリードライブギヤボルト
・e2:プライマリードライブギヤボルトワッシャ

・ベアリングaの外輪と オイルシールb はケースに固定

・ベアリングaの内輪,スペーサc,プライマリーギヤdは、
  e と e2 によってクランクシャフトに固定。


各部品のサイズを計ってみましょう。

・a,b,c は N型のものです。

・R・S型では 右側ベアリングが大きくなったので、
  オイルシールもスペーサも大きくなっています。

・a ベアリング :  外輪内側径/51㎜Φ、内輪外径/36㎜Φ
・b オイルシール :  外径/52㎜Φ、内径/36㎜Φ
・c スペーサ :  太い部分外径/36㎜Φ


このサイズから分かるように重ねます。

・オイルシールはベアリング外輪内側にピッタリはまります。
・ベアリング外輪内径が51㎜で オイルシール外径が52㎜。
  オイルシール外径の方が大きいのですが、
  ベアリング外輪にはテーパー部があるので
  ピッタリはまるのです。
・但し、実際にはこのようにはまりませんし、
  はまるようにしてはいけません。
・スペーサはオイルシールにぴったりはまります。(実際も)
・オイルシールはケースに固定。
  スペーサはクランクシャフトに固定。
・クランクシャフトが回転すればスペーサも回転。
  当然、オイルシールは磨耗していきます。。
  
・オイルシールにはまったスペーサを
  ペアリング側(内側)から見るとこうなります。
・金属製のスペーサがゴム製のオイルシールの中を
  高回転で回る様子を想像してみてください。
  「オイルシールが消耗品」ということが痛感できます。


・スペーサはベアリング内輪とピッタリ重なります。 ・この二つが向かい合っています。
・右側のスペーサとオイルシールが
  ベアリング溝の隙間を塞ぐのです。
・スペーサの中入っているOリングは、
  クランクシャフトとスペーサの隙間を塞ぎます
・このように、オイルシールは
  ペアリング溝の隙間を塞ぐ働きをしています。
・ベアリングとオイルシールはケースに固定されているので、
  オイルシールがベアリングにぴったり重ならなくても、
  ペアリング溝の隙間を塞ぐことができるのです。


      
b.クランクシャフトには段差がある/スペーサはこの段差で止まる


スペーサはどこまで打ち込めばいいのでしょう。

ベアリングとスペーサの関係を見てみましょう。

・クランクシャフトには段差があります。 ・この段差でスペーサは止まり、
  これ以上入れることできません。
・だから、
  「スペーサはどこまで入れるか」は問題になりません。
・シャフトに軽く挿入して、
  プライマリーギヤを取り付ければ適正位置になります。


もう少し詳しく検証してみましょう。

①フライホイールから段差までが16.5㎜。
②段差から取付テーパー部端までが24㎜。
③取付テーパー部端からシャフト端までが16.5㎜。

ベアリング厚は17㎜ですから、 スペーサは段差手前までしか入りません。
ベアリング厚17㎜+スペーサー長さ23.5㎜=40.5㎜。  ④が40.5㎜だから、ベアリングとスペーサでプライマリーギヤ  取付テーパー部端まできます。

・プライマリーギヤの取付面からの巾は18㎜。
・ベアリング+スペーサ+ギヤ=58.5㎜。
・ ⑤シャフト全長が57㎜。
・ベアリング,スペーサ,ギヤをシャフトにはめると
  シャフトから1.5㎜だけはみ出します。

・ギヤは左画像の赤矢印のところまで入れられます。

・右画像のようにベアリングをはめると
  赤矢印の方向にスペーサとギヤが1.5㎜押し出されます。
  この 1.5㎜をボルトで締めることによって
  ペアリング,スペーサ,ギヤをシャフトに固定するのです。


スペーサの中にはOリングがあり、スペーサとクランクシャフトとはこのOリングを介してつながっています。
「だから、クランクシャフトの力全てがスペーサに伝わるわけではない。クランクシャフトの回転をそのまま伝えているわけではない」と思うでしょうがそうではありません。
上のように、ベアリング内輪とスペーサとプライマリーギヤはプライマリーギヤボルトによりしっかりと固定されます。
そして、ベアリング外輪はクランクケースに、プライマリーギヤはクランクシャフトに固定されています。
ベアリング内輪とスペーサとプライマリーギヤとクランクシャフトは一体となって回転することになります。

         
★注意① R・S型ではN型よりスペーサの長さが短くなりました。

・スペーサの全長はN型が23.5㎜、
  R・S型は22.5㎜。R・S型の方が 1㎜短くなりました。
・R・S型ではベアリングがN型より大きくなり、
  ベアリング厚が1㎜増えました。
・これにより、N型と同じスペーサを使うと、
  「ベアリング+スペーサ+プライマリーギヤ」の長さが
  1㎜増えることになります。
・しかし、クランクシャフトは同じなので、
  スペーサ全長を1㎜だけ短くしたのです。
・だから、N型でもR・S型でも、
  クランクシャフトに
  ベアリング,スペーサ,ギヤをはめた場合、
  ギヤ取付部外端が
  シャフト端より 1.5㎜はみ出るのは同じです。
・なお、プライマリーギヤと排気バルブガバナギヤは
  ギヤの中央で噛み合いません。
・この状態が正常です。
・プライマリーギヤをもっと下げようと
  ギヤを叩いてはいけません。
  ギヤはこれ以上下がりません。
   ギヤを叩けばクランクシャフトのセンターが狂います。


上で説明したように、N型とR・S型ではスペーサの長さが違います。

N型にR・S型の1.0㎜短いスペーサを取り付ければ、
プライマリーギヤ取り付け部外端がシャフト外端から0.5㎜しか出なくなり、ベアリングとスペーサとプライマリーギヤかしっかりと固定されません。

逆にR・S型にN型の1.0㎜長いスペーサを取り付けると、プライマリーギヤ取り付け部外端はシャフト外端から2.5㎜出ることになり、
プライマリーギヤ取り付けボルトが1.0㎜だけ余ります。

プライマリーギヤを取り付けるとき、固定が甘かったり取り付けボルトが根元までねじ込めなかったりしたら、スペーサの長さを確認してください。
N型は23.5㎜、R・S型は22.5㎜です。


       
c.フライホイールにも段差がある/ベアリング内輪はこの段差で固定される

・フライホイールにも段差があります。
・この段差は高さが 1㎜ で 外径が 36㎜Φ。 ベアリングの内輪にぴったり重なります。

・ベアリング内輪はクランクシャフトにはめられ、 左側をこのフライホイール段差、右側をスペーサで挟まれます。

・プライマリーギヤが取り付けられるとスペーサが押し込まれ、ベアリング内輪はクランクシャフトにガッチリと固定されます。

・一方、ベアリング外輪はクランクケースに固定されています。

・このようにして、クランクシャフトはベアリングを介してクランクケースに固定され、しかも自由に回転できるようになるのです。


この、「ベアリング内輪とベアリング外輪は別々の場所に固定されている」ことを充分理解しておかなければなりません。

これを忘れるとベアリングの動きを阻害してしまうことになります。

そんな場合が、次の「クランクシャフトの引き込み過ぎ」です。
   ●●      
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d.クランクシャフトの引き込み過ぎの状態


イ.引き込みすぎるとベアリングが動かなくなる

・クランクケースのベアリング穴にはベアリングを止める段差があります。
  この段差(画像の白矢印のところ)でベアリング外輪が止められます。

・クランクシャフトをベアリング内輪に挿入してインストーラーで引き込んでいくと抵抗を感じて行き止まりになります。
  このとき、クランクホイールの段差がベアリング内輪にくっついたのです。

・この状態からさらにインストーラーのネジを締めてクランクシャフトを引き込むとどうなるでしょうか?

・ベアリング外輪はケース段差でストップ、ベアリング内輪はクランクホイール段差に押されて外側へ。
  ベアリング外輪と内輪がずれた状態になり、ベアリングがスムーズに動かなくなります。

・また、クランクホイールの段差はたったの1㎜です。
  もし、ベアリング内輪がベアリング外輪より 1㎜だけ多く出てしまえば、
  クランクホイールがベアリング外輪にくっついてベアリングが動かなくなります。


・では、クランクシャフトをどの程度引き込めばよいのでしょう。

  引き込んでいって抵抗を感じたらインストーラーによる引き込みは終了。
  あとは、左右のクランクケースをボルトで結合するときに自然と適正値まで引き込まれます。


ロ.クランクシャフトの引き込みとクランクケースの接合は別のもの

一方のクランクシャフトを片方のクランクケースに引き込んだ。
もう一方のクランクシャフトをクランクケースに引き込んでいくと、二つのクランクケースが近づいてきます。

そこで 「 クランクシャフトの引き込みはクランクケースの接合作業だ 」 と勘違いしてしまいます。

そして、クランクケース接合がうまく進まないと、「これでもか、これでもか」とクランクシャフトを引き込もうとします。

しかし、クランクケースの接合は止まったまま。

そこで、また 「 これでもか! これでもか!」、


クランクシャフトがクランクケースに規定量だけ引き込まれていないと、クランクケースはピッタリ重なりません。
しかし、クランクケースがピッタリ重ならないのは、クランクシャフトの引き込みが不足しているだけではありません。

カウンターシャフトの入りが渋かったり、クランクケースが傾いていたりしても接合がスムーズに進みません。

クランクケースの接合が止まった場合は、接合の渋いところをプラスチックハンマーでたたくと、
堅かったクランクシャフトの引き込みが軽くなり再びクランクケースの接合が始まります。

「もう少しで重なる 」というところで接合が止まったら、クランクケース接合ボルトを締めてみましょう。
「 パキッ、パキッ 」 と音をたててクランクケースがクランクシャフトに食い込んでいきます。

これらのことをしないで、クランクシャフトを無理やり引き込んでも接合は進みません。
それどころか、上に述べたようにベアリングが動かなくなります。

クランクシャフトの引き込みは 「 クランクケースにクランクシャフトを引き込む作業 」 で、「クランクケースを接合する作業」でばありません。

インストーラーによるクランクシャフトの引き込みは 軽く行き止まったらそれで終了。
もし、引き込み量が不足していても、クランクケース結合ボルトを締めるときに自然と適正値にまで引き込まれます。


ハ.一方を引き込むと他方が抜けることがある

クランクシャフト左側を左クランクケースに引き込んだ。
次ぎに、クランクシャフト右側を右クランクケースに引き込む。

この時に、左クランクケースに引き込んだクランクシャフトが少し抜けることがあります。

左側が少し抜ければ、右側を規定量だけ引き込んでもクランクケースは重なりません。

こんなときに、クランクシャフト右側を無理やり引き込んではいけません。

右側を引き込んで行き止まったら、右側の引き込みはそれで終了。
左側が抜けた分はクランクケースの結合ボルトを締めるときに戻ります。


ニ.クランクシャフトを引き込みすぎた場合はどうするか

引き込みすぎた場合はクランクの回転が鈍くなるのですぐに分かります。

そんなときは、クランクシャフトを内側へたたいてやればベアリング内輪が自由になってクランクは軽く回るようになります。

もちろん、これは救命措置です。
クランクシャフトをたたくとセンターがずれたり、ベアリングの挿入が甘くなったりします。

クランクシャフトを叩かずに済むようにしなければなりません。

「クランクシャフトの引き込みは クランクケースの接合作業でない」ことをしっかりと自覚し、、
「クランクケースの接合は徐々に、クランクシャフトの引き込みは慎重に」行わなければなりません。


手持ちの 1994・KX125・250のサービスマニュアルの「クランクケースの結合」にこう書いてあります。

「クランクケース取り付けボルトをクランクシャフトの周囲より順次外側へ向けて締めつける」

このように、クランクケースの接合は複合的で慎重な作業なのです。

クランクシャフト引き込みでは、「インストーラーでは終わり近くまで、仕上げはクランクケースのボルト結合で」 を留意してください。
   ★★32    
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 e.2019.1.22 追記 .クランクケース接合で引き込みが適正にならない場合がある


上の説明では「クランクシャフトの引き込みを甘くしておいても、クランクケース接合によってベアリングが押されて適正位置になる」としていますが、
それは、ベアリングとクランクシャフトのはめ合いが適正で、クランクケースの接合でクランクケースがベアリング外輪を押した場合ベアリングが動く場合です。

もし、何らかの理由で、ベアリングとクランクシャフトのはめ合いがきつい場合はクランクケースの接合によりクランクケースガベアリング外輪を押してもベアリングは動きません。
「クランクケース接合前(隙間が1~2㎜)はクランクがスムーズに回転していたのに、クランクケースを接合したら回転が重くなったor回転しなくなった。」場合がそれです。

この原因と対策について考えました。


イ.クランクケース間の隙間=「一方の引き込み不足量-もう一方の引き込み過ぎ量」or「一方の引き込み不足量+もう一方の引き込み不足量」

まずは確認事項

①ベアリング外輪はクランクケースのベアリング孔段差に当たって、それ以上外側には動けない。
②クランクシャフトの引き込みではベアリング内輪がクランクホイールの段差に当たって外側に押される。
③クランクホイール段差が内輪を外へ押し込み過ぎると、ベアンリングの外輪と内輪がズレて動きが鈍くなったり動かなくなったりする。
④クランクホイールの段差は片側で1㎜。内輪の押し込み過ぎは最大1㎜。それ以上はクランクホイールがベアリング外輪と当たってしまうので内輪を押すことはできない。。
⑤両側のクランクホイール段差間の距離は、クランクケースに取り付けた両側のベアリング内輪同士の距離に等しい。(※設計上の±αは除く)

 つまり、

 a.クランクシャフトの引き込みが両方とも適正量(位置)ならクランクケースが接合するように設計されている。(⑤)

 b.クランクケースを接合した場合、クランクシャフトの「両方が引き込み過ぎ」または「両方の引き込みが不足」ということは存在しない。
       クランクシャフトは伸び縮みしないから、「片方を引き込み過ぎた場合はその分だけもう一方の引き込みが戻されて引き込みが不足する」

 c.だから、クランクケースガ接合したからといってクランクシャフトの引き込みが両方とも適正量(位置)だとは言えない。
      「片方が引き込みすぎ+片方が引き込み不足」でもクランクケースは接合する。
        この場合は引き込み過ぎの方はベアリングの外輪と内輪がずれているのでクランクの回転が重くなったり回転しなくなったりする。

 d.以上のことから、クランクケース間の隙間=「一方の引き込み不足量-もう一方の引き込み過ぎ量」or「一方の引き込み不足量+もう一方の引き込み不足量」


ロ.通常の引き込み/クランクケースに押されてベアリングが動く場合

通常のクランクシャフト引き込みは、
まず左側をやや甘く引き込み(プーラーが重くなる前に止める)、
次に右側を普通に引き込む(プーラーが重くなったら止める)。
左側は引き込み不足で右側は適正がやや不足。

この両方の不足分だけクランクケースに隙間ができている(1~2㎜)。

クランクケース接合ボルトを締めてクランクケースを接合していくと、両方のクランクケースのベアリング孔段差がベアリング外輪を内側へ押してベアリングが動き、
ベアリング内輪がクランクホイール段差に当たるとクランクケースが接合する。

これはクランクシャフトとベアリング内輪のはめ合いが通常の場合。
クランクケースに押されてベアリングが動く場合。


ハ.クランクケースに押されてもベアリングが動かない場合

しかし、何らかの原因ではめ合いがきつい場合は、クランクケース接合でクランクケースがベアリング外輪を押してもベアリングは動かず、クランクとベアリングの隙間は残る。
ベアリングが動かないまま接合ボルトを締めてクランクケースを接合すれば、この隙間がベアリングの外輪と内輪のズレとなり「引き込み過ぎ」の状態になってしまう。

「クランクケース接合前はクランクがスムーズに回転していたのに接合したら動きが重くなったor動かなくなった」というのはこの場合。


(対処法)

「引き込み過ぎ状態」になっているのだからシャフトを内側へ叩いてやる。
「シャフトを叩く」のはあまりお勧めできません。

それなら、「引き込み過ぎ状態になっている側」のクランクケースを少し引っ張る。

いやいやもっと簡単な方法があります。

「クランクシャフトをもう少し引き込む」のです。

「えっ?引き込み過ぎているのに、さらに引き込む?」

クランクケースが接合していて、片方が引き込み過ぎなら、必ずもう一方が引き込み不足になっています。
その引き込み不足の方を引き込んでやるのです。

通常は「左側の引き込みを甘くしている」から、左側が引き込み不足になっているでしょう。

例えば、
左側引き込み不足0.8㎜ → 右側引き込み適正 → クランクケース隙間1㎜ → クランクケース接合
    a.左ベアリングが動かない → そのままクランクケースを接合 → 右ベアリングの内輪が0.8㎜押される → 右ベアリング引き込み過ぎ状態0.8㎜+左ベアリング引き込み不足0.8㎜
    b.右ベアリングが動かない → そのままクランクケースを接合→ 左ベアリング引き込み不足0.8㎜解消 → 左右の引き込み適正。
   c.左ベアリングも右ベアリングも動かない → そのままクランクケースを接合 → 左ベアリングは動かないからクランク段差と0.8㎜の隙間がありクランク段差は内輪を押さない
          →右ベアリングの内輪が0.8㎜押される → 右ベアリング引き込み過ぎ状態0.8㎜+左ベアリング引き込み不足0.8㎜。

   bの場合はクランクケース接合後にクランクの回転が渋くならないから問題は生じない。
   aとcの場合は左側の引き込み不足になっているので左側を少し引き込めばよい。

ただし、これは左の引き込みが甘い場合を前提にしている。
実際には右の引き込みが甘い場合もある。
また、左の追加引き込みが過ぎて右が甘くなる場合もある。

要するに、両側をすこしずつ追加引き込みをしてクランクの動きの軽さを見なければならない。

クランクケース接合ボルトをしっかりと締めておいて、まず左クランクシャフトをプーラーで少し引き込む。
クランクの動きが少し軽くなったら、もう少し左を引き込む。
左を引き込んでクランクの動きが軽くならなければ、右を少し引き込む。

ただし、「クランク回転のスムーズさ」について神経質になると、無限地獄になってしまいます。

クランクケース接合前の回転具合を覚えておくとよいでしょう。

しかし、それより少し重くなっても気にしないことが大切です。    

「動いているうちに、適正位置に収まっていくだろう」と横着を決め込むのが精神的に良いようです。

※最新の考察も参照→→→こちら
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f.オイルシールを止める段差はない

次は、ペアリングとオイルシールの関係です。

・オイルシールはクランクケースのオイルシール穴にはまっています。

・スペーサはクランクシャフトに固定されていますが、オイルシールはクランクシャフトに固定されていません。

・オイルシールはスペーサの上を移動でき、ベアリングに接するまで左右に動くことができます。
 
・つまり、オイルシールを適正位置にする段差(ストッパー) はありません。

・そこで、「オイルシールをどこまで打ち込むか?」が問題になるのです。


       
g.オイルシールでこの溝(穴)を塞いではいけない

・クランクケースのベアリング孔には溝があります。
・この溝は上部で穴になっています。
・この穴はシリンダーまで貫通しています。 ・この穴の役割は、
  ベアリングを通過した混合気を、
  ピストン室へ逃がすことです。→→→こちら


・オイルシールはまる部分の厚さは12㎜。
・溝部分を除くと 8㎜。オイルシール厚が 8㎜。
・この 8㎜の部分にオイルシールをはめれば、
  溝(穴)を塞ぐことはありません。
・8㎜部分にオイルシールをセットするとこうなります。
 
・クランクケースの外側から見るとこうなります。
・オイルシールの打込み量は「ケースとツライチ」。
  それ以上打ち込むと
  クランク室とシリンダーをつなぐ穴を塞いでしまいます。


確認のためにベアリングをはめた状態で見てみましょう。

クランクケースの外側から見ています。

・ベアリング外輪は段差で止まって
  これ以上外側へは動きません。
・オイルシールは外側から入れます。
・ケース外側からベアリングまでが 12㎜、
  クランク室とシリンダーをつなぐ溝穴を除くと 8㎜。
・この8㎜部分にオイルシールがはまります。
・オイルシールとベアリングには4㎜厚の空間ができます。
・くどいようですが 「オイルシールはケースとツライチ 」。
・オイルシール打込みは
  角ワッシャを上に載せて叩いてください。
  そうすれば、ケースより深く入ることはありません。
・古いオイルシールを重ねて打ち込むと
  打ち込みすぎてしまいます。


オイルシールとベアリングの間に空間を作ることはサービスマニュアルも指摘しています。
しかし、その指摘は直接的ではありません。
SJ13のサービスマニュアルP2-2 の動力装置のイラストにはっきりと「オイルシールとベアリングの間に隙間・空間があること」が描かれています。

       
h.スペーサはオイルシールから出ているのが正常

・ベアリングからケース外側までが 12㎜。
・オイルシールはケース外側にツライチ。
・スペーサはベアリング内輪に接し、 太い部分の長さが 12.5㎜、全長が 23.5㎜。

・つまり、スペーサの太い部分が
  オイルシール/ケース面から 0.5㎜出ているのが正常。

・もう少し細かく言うと、スペーサの太い部分は
  オイルシール内側のリップ部から出ています。
  このリップ部はオイルシール外端から
  1㎜くらいへこんでいます。
  だから、スペーサの太い部分が
  オイルシールから1.5㎜出ているのが正常。

・右の写真の状態で正常です。


スペーサがオイルシールからはみ出ているのを見て、「スペーサの打込み不足だ」と、スペーサを打ち込んではいけません。

スペーサはクランクシャフト段差で止まっているのでこれ以上打ち込むことはできません。
クランクシャフトに衝撃を与えればそれだけ不具合が生じます。


.スペーサはギヤを取り付けたらそれで適正値、打ち込む必要はない 。
★.オイルシールは「ケース外側とツライチ」が適正
★ベアリングは段差があるから止まるまで。
★クランクシャフトの引き込みは、プーラーが重くなったら終わり、あとはクランクケース接合で。

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2.クランクシャフト左側のオイルシール打込み量


右側と同じです。結論は 「 ケース外側とツライチ」


a.ここにも溝(穴)がある

・オイルシールでこの穴を塞いではいけません。 ・A面にベアリング外輪が当たります。
・B面がベアリング溝を塞ぎます。
・B面はA面より1㎜低くなっているので、
  B面がベアリングにくっつくことはありません。
・オイルシールのはまる部分は 7.5㎜、溝を除くと 6㎜
・オイルシール厚は 6㎜。
・この 6㎜部分に厚さ6㎜のオイルシールをはめます。
・だから「ケース外端とツライチ」
・写真ではもう少し打ち込めますね。



b.オイルシールとベアリングの間には空間を作る

・ケースの外側から見るとこうなります。
・ケース外端から 6㎜の部分がオイルシールをはめる部分です。
・ベアリングをはめた状態です。
・①は 溝隙間 で 7.5㎜-6㎜= 1.5㎜。
・②は A面とB面の段差 1㎜。
・オイルシールとベアリングの間には
  2.5㎜厚の空間ができます。
・オイルシールは上に角ワッシャを載せて、
  上から叩けば自然と「ツライチ」。
・古いオイルシールを上に載せて叩いてはいけません。
・オイルシールはあと  2.5㎜ だけ打ち込めます。
  しかし、これ以上打ち込むと、
  シリンダーへ通じる穴を塞いでしまいます。
・また、止まるところまで打ち込むと、
  オイルシールがベアリング内輪とくっつき
   ベアリングの動きを阻害するだけでなく、
   オイルシール自体が損傷することになります。


          
3.ドライブシャフトのオイルシール打込み量とスペーサ


a.構成部品と挿入・取り外し方法

・a:ドライブシャフト左、b:エンジンスプロケットスペーサ、c:Oリング、d:オイルシール。

・Oリング c は二個ともスペーサb の中に入る。
・スペーサb は ドライブシャフトにはまり、ベアリング内輪に接する。
・オイルシールd はスペーサとケースの間に入る。

・Oリングはドライブシャフトとスペーサの隙間を塞ぎ、オイルシールはベアリング溝を塞ぐ。

・ドライブシャフトが回ればスペーサも回るが、スペーサはOリングでドライブシャフトに固定されているだけなので固定が弱い。
・クランクシャフト右側のスペーサのように、シャフトの回転に直結して回るわけではない。
・その分だけオイルシールの磨耗は少なくなる。


(オイルシールの挿入)

①.ドライブシャフトにグリスをたっぷり塗る。
②.Oリングとスペーサの内側にグリスを塗って、Oリングをスペーサにセットする。
③.Oリングをセットしたスペーサをドライブシャフトにはめて、止まるところまで押し込む。
④.オイルシールの内側にグリスをたっぷりつけて、スペーサにかぶせケースに ツライチまで押し込む。
※叩く必要はありません。指で押し込めば簡単に入ります。

(オイルシールの取り外し)

①.スペーサをプライヤーで挟んで引き抜く。
②.オイルシールを引っかけて手前に引き抜く。
③.スペーサの中にOリングが二個なければ、ベアリング付近から回収。


b.オイルシールとベアリングの間には隙間を作る

・オイルシール厚は 6㎜
・スペーサ厚は9.0㎜(※訂正 9.3㎜)
・このような状態でドライブシャフトにはまります。


・ケース外側面からベアリング内輪までは 7㎜。
・オイルシールがはまる部分が 6㎜。
・ここでも、ベアリングとオイルシールが
  くっつかないようになっています。
・オイルシールとベアリングの間には 1㎜厚の空間。
・この空間がないと、ベアリングの動きが阻害されるし、
  ベアリングの回転でオイルシールが損傷します。
・スペーサ厚は 9㎜。スペーサはベアリング内輪に接する。
・ケース外端面からベアリング内輪までが 7㎜。
・オイルシールはケース外端面とツライチ。
・結局、スペーサはオイルシールから
  2㎜くらい出っぱります。これで正常。



c.オイルシールの押し込み過ぎに注意


スペーサはベアリング内輪に接するまで 押し込みますが、ベアリングはケース外端面とツライチにしなければなりません。
オイルシールをベアリングに接するまで押し込んではいけません。

しかし、「 オイルシールはオイル漏れを防ぐためのもの。しっかり最後まで押し込まなければ 」 とついつい止まるまで押し込んでしまいます。

・RMX②でも押し込みすぎました。 ・RMX③でも押し込みすぎです。


ケース外端面より入りすぎたオイルシールをケース外端面とツライチに戻すには、オイルシールを引っかけて引っ張らなければなりません。

もちろん、オイルシールのリップ部が傷ついてオイルシールがダメになります。

オイルシールを押し込みすぎだ場合はオイルシール交換となります。

オイルシールを取り外す作業でスペーサも取り外しますから、Oリングも交換となります。

今回は二台ともこの状態で様子を見ることにしました。
もちろん、オイルシール二個 と Oリング四個 を追加注文して準備をしました。

くどいようですが 「 オイルシールはケース外端面と ツライチ 」 です。

★最新情報→→→・オイルシールがベアリングを削る。スペーサの打ち込みはドライブスプロケットをはめて上から押しつける。


d、.スペーサは要交換


スペーサはオイルシールの中を回転します。

スペーサはスチール、オイルシールはゴム。

しかし、スペーサガオイルシールのリップ部で削られていました。 恐るべし オイルシールゴム。

・左がnew:左がused。
・上から見ている限り交換の必要なし。
・しかし、側面には深い溝が。
・オイルシールのリップ部で削られたとしか考えられない。
・当然オイルシールも磨耗しているでしょう。両方交換です。


トランスミッションに使われているスペーサやワッシャはまったく磨耗していませんでした。
金属と金属が擦れあうトランスミッションと違い、オイルシールが金属を削るはずはありません。
これは驚きでした。

今回、三台のRMXクランクケースを分解しています。
このドライブシャフトのスペーサは三台とも多かれ少なかれこのような削れ溝が付いていました。

このスペーサはオイルシールやOリングと同様消耗品なのです。
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選任のための法律知識・








4.オイルシールの方向


いろいろな質問箱で問題となっているのが、クランクシャフト右側のオイルシールの方向。

重要なことなのに、SJ13のサービスマニュアルに書いてありません。

今回分解した三台のうち、一台が逆に取り付けられていました。

これについては別の頁で紹介しますが、クランクケースの内部は大変なことになっていました。


a.油室が凹、油が漏れていく側が平坦。

オイルシールはオイル漏れを防ぐためのものです。

オイルは油室 ( 内側 ) から外側に漏れて出て行きます。

このオイル漏出を効果的に防ぐために、オイルシールのリップは レを左右逆転させた形をしています。
リップが平坦の方が外側で、オイルシールの外側面は平坦になっています。
そして、リップが斜めになっている方が内側で、オイルシールは凹部になっています。

だから、オイルシールを取り付ける方向は、
外側 ( オイルが漏出していく側 ) が平坦面、内側 ( オイルの入っている側・油室側 ) が凹部になります。

問題は、どちらが油室でどちらが外側かです。


b.ドライブシャフト,ギヤシフトシャフト

・このオイルシールはトランスミッションを潤滑するオイルが外側へ漏れないようにするためのものです。

・油室(内側)はクランクケースの内側、外側はクランクケースの外側。

・オイルシールの取付方向はクランクケース外側がオイルシール平坦面、クランクケース内側が凹面。。


c.クランクシャフト左側

・オイルシールの働きは、クランク室の混合気を外部に漏らさないこと。

・だから、油室はケースの内側、漏れていく側がケースの外側。

・オイルシールの取付方向は、内側が凹面、外側が平坦面。


d.クランクシャフト右側

・このオイルシールの役割はクランクケース右側室内のオイルをクランク室に吸い込ませないこと。

・クランクケースはトランスミッションが入っている中央室と、
     クラッチが入っている右側室の二つに分かれています。

・中央室はクランク室と壁で仕切られていますが、右側室はオイルシールでクランク室と仕切られています。

・このオイルシールは右側室のオイルがクランク室に漏れていかないようにしているのです。

・この場合、油室はクランクケース右側室。外側はクランク室側。
    だから、オイルシールの取付方向はクランクケースの外側が凹面、内側が平坦面。

『それって、本当に確かなの?』

このオイルシールは平坦面に金属プレートが付いていますよねぇ。
これは、クランク室の混合気からオイルシールを保護するためのものなのです。
昔のKXではクランクシャフト右側のベアリングは片面シールドでオイルシールを保護していましたからねぇ。

『でも、それって決定的な根拠になりませんよ…。』

それでは決定的な根拠を示しましょう。( 2018.04.14追記 )

  PJ12のサービスマニュアルです。

  この「トランスミッション,クランクシャフト」の項の
  「クランクシャフトの点検/オイルシールの取り付け」に書いてありました。



◎は主リップ ( オイルリップ ) を押さえつけるスプリングです。→→→こちら

スプリング側がオイルシールの凹部になります。

反対側が補強環が入っている平坦部で、そちら側のリップは副リップ(ダストリップ)です。

クランクシャフト右側のオイルシールは 「 凹部が外側・平坦部が内側 」 になります。

クランクシャフト左側のオイルシールは 「 凹部が内側・平坦部が外側 」 になります。


この「クランクシャフト右オイルシールの逆組み」はサンデーメカニックの1/4くらいがやっているようです。
オイルシール逆組みをすると、オイルシールが損傷しクランクケース右室に生ガスが吹き出し、内部がサビサビ・ガリガリ状態になります。
中古エンジンを入手してギヤオイルを抜いたら変質したオイルが出てきた、クラッチカバーを外したら内部がサビサビだった。
こんな場合は、右オイルシールの逆組みです。
このオイルシールだけならクランクケースを割らないで、外から交換できます。
しかし、「逆組み」をするような前所有者のメンテなど安心できません。
当然、オーバーホールです。

※クランク右オイルシール逆組みと生ガス吹き出しの関係→→→こちら


つづく




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