RMX-SJ13 整備資料
2016.04.19 ミクニTM30-分離給油ニップルの修復
分離給油キャブレター・TM30のオイルニップルを折ってしまいました。
このニップルを修復します。
ただし、中に分離給油を調整するチェックバルブが内蔵されているので加工に注意が必要です。
★TM30の分離給油ニップルの構造/チェックバルブの働き
-ニップル修復方法-
・負圧キャブレター用のオイルニップルは不可
・キタコのオイルニップルも不可
★ニップルだけを市販パイプで取り替えるのが簡単でよい。
★チェックボールが機能するような工夫が必要。
・このニップルが少々曲がっていても「プライヤーで直そう」としてはいけません。 簡単に折れてしまいます。 ・このニップルが折れると分離給油ができません。 |
・なかなか厄介な作業のようです。 ・ストックキャブレターなのでずっと修復しないでいました。 |
※参考
・今回のキャブレター : ボディはR・S型エンジンに付いていた29E02。中身はRMX①についていた29E00。→→→こちら
・旧RMX②(R・Sエンジン)のキャブレター : RMX①のキャブボディ(29E00)+R・S用キャブレター(29E02)の中身。このキャブレターは現在、RMX③(N型エンジン)に付いている。
・現RMX②(N型エンジン) のキャブレター : 29E00
・今回修復キャブレターは、RMX③に付いているキャブレターとボディを交換して完全な29E02と完全な29E00に戻す。
1.分離給油ニップルの構造と働き
どうなっているのかわからないと修復の方法がわかりません。
まずは分解。
a.構造
・c と a の間にある溝に薄いマイナスドライバーを叩き入れてこじると、 | ・a が抜けます。 ・a をプライヤーではさんで回そうとしたり、引き抜こうとしたりするのは禁物。 このように変形したり削れたりするだけです。 |
中からボール入りのバネが出てきました。
これがエンジン停止時にキャブレターへのオイル流入を止めるチェックバルブです。
ここで説明のために各部品の名前をつけます。 ・a : ニップル台(バルブシート) ・b : バネ ・c : ニップル筒 ・d : チェックボール ・ニップル台に差し込まれるパイプ : ニップル ・ニップル台(a) : 外径/4.15㎜Φ、 差込口長さ/5.0㎜、 ツバの外径/6.0㎜Φ ・バネ(b) : バネの自由長/7.5㎜。※注意1 ・ニップル筒(c) : 内径/4.15㎜Φ、 深さ/14.0㎜、 外径/6.0㎜Φ ・チェックボール(d) : 3.0㎜Φ ※注意1: a にドリル穴を開けるときにバネ玉のバネ右端を損傷、正規の自由長は不明。 |
b.働き
このチェックボールは次のような働きをします。
・エンジン停止時、ボール(d)はバネ(b)によってニップル台(a)に押しつけられている。 これにより、エンジンオイルの流入が止まる。 ・エンジンが動くとオイルポンプがオイルを圧送しボールを押す。 さらにキャブレター側の負圧でオイルが吸い出されボールもキャブレター側へ引っ張られる。 ・ このようにしてエンジン回転数に応じて、ボールが動き、オイルの流入量を調整している。 ・バネ自由長+ボール巾+ニップル台差込口長=7.5+2.0+5.0=14.5㎜ ・ ニップル筒の深さ=14.0㎜ ※「ボールの2.0㎜」はボールがバルブシートに当たった場合の有効長。 ・この寸法で言えば、 「バネが0.5㎜だけ縮んでボールをニップル台に押しつけている」ことになります。 しかし…、 |
c.バネ損傷による弊害
・ニップル台に穴あけをするときにバネ端を損傷したため、 ボールがバネの中に入ってしまい、バネでボールをニップル台に押しつけることができません。 ・これではエンジン停止時にオイル流入を止めることができないだけでなく、 エンジンが動けば、ボールがキャブレター側のオイル吐出孔を塞いでオイルが流れなくなります。 ・バネの端を加工したり、バネ端に何かをはさんだりすれば、バネでボールを支えることができます。 しかし、それらはいつ役に立たなくなるか分かりません。 それらがボールを支えられなくなったら、ボールはバネの中を自由に動き、 キャブレター側のオイル吐出孔を塞いでしまいます。 こうなったらキャブレターにオイルが送られなくなったエンジンは焼き付いてしまいます。 ・また、同じようなサイズの汎用バネを使えそうですが、 このバネは線径/0.2㎜Φで巻数が多く非常に反発力の小さいものです。 もし同じようなサイズのバネがあったとしても材質が違えば反発力が違います。 反発力が違えばオイル流量制限のタイミングが違ってきます。 ・シリンダー側のチェックバルブ( 16910-09C00 )も使えそうです。→→→こちら しかし、キャブレターへの流量制限とシリンダーへの流量制限は異なるでしょうから、 作動圧と流量が同じであることを確認しなければ使うのは危険です。 |
そこで今回は、このチェックボールを外して、オイルパイプ途中に外付けのチェックバルブを取り付けて代用することにしました。
なお、しばらく乗らないと「エンジン始動後、白煙モウモウ」(旧RMX②の29E02キャブレター)は、
このチェックボールやシリンダー側のチェックバルブが正常作動せず、エンジン停止時にオイルがキャブレターやシリンダーに流入しているからでしょう。
※参照したサイト→→→こちら
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・実物を見ると本当に小さなニップルです。 ・もちろん、チェックバルブは内蔵されいてません。 |
・オイルパイプ取り付け口は3.0~2.7㎜Φ。これは純正の取り付け口と同じです。 ※純正取り付け口は 凸/3.0㎜Φ~凹/2.5㎜Φ |
不具合①-固定が必要
・ただし、ニップル筒の内径は4.1㎜Φ、このオイルニップルの差し込み口外径は4.0㎜Φ。 だからニップルをニップル筒に差し込むと、0.1㎜の隙間ができます。 ・この隙間を埋めるために、エポキシ接着剤などで固定しなければなりません。 エポキシ接着剤はニップル筒内に流れ込んで、ボールの動きを阻害する危険があります。 ろう付けでできるかどうか分かりませんが、接着剤以外の方法が必要です。 |
不具合②-チェックボールが使えない
さらに、
・チェックボールを使う場合、このニップルを根元まで差し込むと、 純正のニップル台より3㎜長いのでバネを3.0㎜だけ縮めることになります。 ・バネが3.0㎜縮まればそれだけボールは強く押しつけられ、 エンジン回転数に応じた「オイルポンプ圧+キャブレター負圧=ボールの離れ量」が 仕様とは異なってきます。 ・だから、このニップルを使うなら、 3.0㎜短くするか、3.0㎜を残してニップル筒に取り付けなければなりません。 3.0㎜を残す(出す)ためには ニップルの根元に3㎜巾のアルミテープを巻くか、銅線を巻けばよいでしょう。 ・ただし、ボールが当たるニップル口が平坦でテーパー加工がされていないため、 このニップルにボールが押しつけられてもオイルをうまく止めることができないでしょう。 ・これも不適合です。 |
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・これはホームセンターで売られている一番細いパイプです。 外径/3.0㎜Φ、 肉厚/0.5㎜、 内径/2.0㎜。 材質はアルミ,銅,真鍮,ステンレス。 値段は1mで200円程度。 ・純正ニップルと同じサイズです。 ・今回は真鍮を選びました。 ・必要長さの二倍くらいをニッパーで切断し、ニップル台に打ち込んだあと整形します。 |
ロ.作業
・ニップル台の穴を2.0㎜Φドリルで拡張。 ※写真は穴あけ前。 ・この穴を 2.99㎜Φリーマで整形。 ・ニップル台を取り外し、木片の上に置いて上からパイプを打ち込む。 ・打ち込みは「少し堅い」程度。 小さいプラスチックハンマーで「コン・コン・コン」と叩き、 最後は強く「カン・カン」と叩いて入れました。 |
ハ.仕上がり
・しっかりと刺さっています。 ・中心が少しずれていますが使用上問題はないでしょう。 ・ハンドドリルで真っ直ぐに穴あけするのは難しいものです。やはりボール盤…。 ・もちろん、この状態ではチェックボールを使えません。 ニップル筒のバルブシート部分(テーパー部)がなくなっているからです。 ・チェックボールを使う場合は、 バルブシート部分を損傷しないように ニップル筒のテーパー部分の手前で穴あけを止めなければなりません。 これはハンドドリルでは至難の技となります。。 |
・ニップル台のツバが変形・損傷しているのは、 当初はこのニップル代の代わりにキタコオイルニップルを取り付けるつもりだったからです。 「ニップル台は不要になるから」と、ぞんざいに扱っていたからです。 |
見栄えは、
・ニップル台の穴あけが真っ直ぐでないのでパイプが斜めになってしまいました。 ・これくらいなら使用上問題はありません。 |
・ニップル台の損傷が目立ちます。 ・途中で方法を変更しましたから仕方がありません。 今度やるときはもっときれいに仕上げられるでしょう。 |
オイルパイプ取付は、
・ニップル台に打ち込んだパイプの外径は、純正ニップルの凸外径と同じです。 だから、問題なくオイルパイプが差し込めるはずです。 しかし、実際には結構堅いです。 パイプを細いプラスドライバーで拡げるか、ドライヤーで温めるかして差し込んだ方がよいでしょう。 ・キャブレター設定でキャブレターを取り外すときにオイルパイプを抜き差ししなければなりません。 簡単に抜き差しできないのでチョット煩わしくなりそうです。 ・またオイルパイプがこのまま拡がってしまうと、ニップルに凸凹がないので外れてしまうかもしれません。 容易に外れないようにして抜き差しを簡単にするためには、 ②の方法でキタコニップルを取り付けなければなりません。 ・それはいつでもできますから、これで使ってみることにしました。 と言っても、このキャブレターはストック部品ですが…。 |
※参考
・「このキャブレターのボディ+RMX③のキャブレターの内部部品」で29E02キャブレターにしてストック。
・「RMX③のキャブレターボディ+このキャブレターの内部部品」で29E00キャブレターにして、N型エンジンのRMX③に取り付ける。
ニ.ベストな方法
この方法で、チェックボールを使えるようにする手順は次の通り。
①ニップル台をニップル筒に付けたまま、ニップル穴を2.9㎜Φドリルで、深さ4.0㎜だけ拡張。
※ツバ端から4.0㎜ならニップル台のバルブシートを損傷しない。
②ニップル台ニップル筒に付けたまま、張した穴を2.95㎜Φリーマで整形。
③市販の外径/3.0㎜Φ、内径/2.0㎜Φの真鍮パイプを40㎜くらいに切り取る。
④ニップル台をニップル筒から取り外し、ニップル筒の切り粉を取り除く。
⑤ニップル台をツバ側を上にして木片の上に置き、上からパイプを打ち込む。
⑥パイプを必要な長さ(20㎜程度)に切断し、オイルパイプ取付口を整形する。
⑦ニップル台のツバを叩いて、ニップル台をニップル筒に取り付ける。
※以上、実際に試していませんのでご了解ください。
今回はチェックボールが機能するように加工していませんし、バネ損傷でチェックボール機構自体に不具合があります。
当然、外付けのチェックバルブを取り付けることが必要です。
外付けチェックバルブの選定と取付は次回にやります。
候補としては、
①ヤマハ2stスクーター(VINO-YJ50Rなど)のオイルポンプに付いているチェックバルブ( YAMAHA 5GD-13183-00 / 1123円)
②カワサキKDXのオイルポンプに付いているチェックバルブ( KAWASAKI-16087-1001 / 1069円)
③スズキではストリートマジックのチェックバルブ( SUZUKI-16910-41D00 )
①はプラスチック製、②は真鍮製。
①をSJのオイルパイプに取り付けたという実例あり。
②については、②に取り付けるオイルパイプの内径が3㎜Φ(※「3×6×40」と表記)だから、SJのオイルパイプ(内径2㎜×外径5㎜)にはきつくて挿入できないかもしれない。
3.その他
・前回の排気バルブの損傷(こちら)、今回の分離給油用ニップルの修復、 走ったあとにはエンジンオイルを継ぎ足し。 サイレンサーからはタール飛散、走らせないとキャブレター詰まり。 じわじわと無くなっていく純正部品。 Yahooオークションでせっせと部品捜し。 ・やはり2サイクルはシーラカンス。 ときどき、「三台のSJ13を処分して、DRZ400-SMにしようか」とも思います。 ・しかし、オフを走らないのにRMXから離れられません。 その理由は、「2サイクルのロケット加速と、かん高い排気音」だけではないような気がします。 案外、「自分で整備できるから、自分が整備してきたから」かも知れません。 その相手がたまたま RMX だったのでしょう。 老夫婦の関係に似ています。 ・と、しんみりしていますが、 本音は、 『金があれば、KTM690SMC に乗るワイ!』 |
つづく
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