しかし、安心してください。
予定価格の低い「実績不要・価格勝負」の調達入札では、入札保証金・契約保証金が免除されるのが一般です。
『なぁ~んだ、驚かさないでよ!』
問題はこれからです。
b.支払い条件が悪い
仕事を受注すれば隊員に賃金を払わなければなりません。
警備業者では「20日締めの25日支払い」というのは中堅規模以上。
だいたいが「末締めの翌月20日支払い」でしょう。
しかし、公共調達では「請求書を受領してから60日以内に支払う」のが一般です。
末締めで請求書をすぐに出しても、支払われるのは翌翌月末つまり二カ月先です。
隊員賃金を「末締めの翌月20日支払い」としても、40日間は隊員給料を立て替えなければなりません。
これは契約金額を毎月分割して支払ってくれる場合のことです。
「一年分を四回に分けて支払う」場合ならもっとたくさんの“つなぎ資金”が必要となります。
また、三カ月程度の短期調達なら三カ月が過ぎてから支払われるのが通常です。
しかも、三カ月の仕事をこなして、請求書を出してから30日以内支払い。
三カ月で600万円程度の小さい仕事を落札しても、600万円が手に入るのは四カ月先。
開業したばかりでそんな資金がありますか?
『何を言っているのですか!商売に元手が必要なのは当たり前でしょう!』
ごもっともです。
しかし、それは利益が出る場合のことですね。
c.価格切り下げ競争
「実績不要・値段勝負」の公共調達には実績のない業者が殺到します。
ギリギリの価格で落札しても、次年度にはそれ以下でなければ落札できません。
最低落札価格など設定していませんから、発注する方はおもしろくて仕方がないでしょう。
実例を上げましょう。※1万円以下切り捨て・消費税含む
| 年度 |
落札者 |
落札金額 |
予定価格 |
落札金額/予定価格 |
| 23年度 |
C社 |
399万円 |
514万円 |
77.6% |
| 22年度 |
B社 |
547万円 |
659万円 |
83.1% |
| 21年度 |
A社 |
583万円 |
593万円 |
98.2% |
| 20年度 |
A社 |
585万円 |
未公表 |
未公表 |
| 年度 |
落札者 |
落札金額 |
予定価格 |
落札金額/予定価格 |
| 23年度 |
D社 |
332万円 |
529万円 |
62.76% |
| 22年度 |
D社 |
398万円 |
8190円/人・日 |
不明 |
| 21年度 |
D社 |
443万円 |
12600円/人・日 |
不明 |
こんなのもあります。
| 年度 |
落札者 |
落札金額 |
予定価格 |
落札金額/予定価格 |
| 23年度 |
E社 |
390万円 |
1057万円 |
不明 |
| 22年度 |
E社 |
1377万円 |
2015万円 |
不明 |
| 21年度 |
不明 |
不明 |
不明 |
不明 |
※23年度については低入札価格調査実施:、「問題なし」。
もちろん、その年度によって仕様書が違い入札する価格基準も違ってきます。
しかし、それは祝祭日による稼働日数の違いでそんなに大きなものではありません。
なお、予定価格は毎年一定ではありません。
次年度の予定価格はその年度の落札価格を基準にして決まります。
その年度の落札価格が低くなれば、次年度の予定価格も低くなります。
おおざっぱに考えて「落札価格は毎年5%~10%下がる」としてよいでしょう。
ある公共調達を先年度の落札価格で算定したところ、隊員賃金を最低賃金にしてもマイナスになりました。
この算定には隊員にかかる装備品や教育費・交通費、社会保健料などは含まれていません。
どう考えても「落札=自分の首を締める」ことになります。
なぜ、これだけ低い価格で落札するのか私には理解できません。
●●
選任のための法律知識・
4.開業したばかりで人材が足らない
a.検定資格者の配置が必要
公共調達では法定の配置基準に関わらず検定資格者配置が要求されます。
資格者を毎日配置しなければならないもの、配置隊員の責任者として資格者を配置しなければならないもの。
警備対象物の規模によってさまざまですが、一物件に最低一人の検定資格者配置が必要です。
ある「実績不要・値段勝負の公共調達・期間三カ月」の例です。
・現場数9、一つの現場に1~5人の隊員を配置。
・各現場に検定2級以上の者か当該警備業務3年以上の者を配置。
この仕事を受けるためには、毎日9人の「資格者 or 3年以上経験者」が必要となります。
これだけの資格者・経験者を、三カ月間だけ配置できるのは中規模以上の警備業者だけでしょう。
『あのう‥。新任警備員を「3年以上経験者にしてしまう」という手もありますよ‥。』
そんなことをしたら、入札資格取り上げになってしまいます。
b.再委託禁止
どの公共調達でも“丸投げ”は禁止されています。
正当な理由があれは、一部の再委託が認められる場合もあります。
しかし、最低賃金で計算してもマイナスになるのに再委託すればもっとマイナスとなります。
ある「一日限りのイベント警備・見積もり合わせ」の例です。
・当日配置するのは9現場で合計36名。
・実績不要、資格者・経験者配置不要、契約保証金免除、請求書を受領してから30日以内支払い。
・勤務時間は7時~13時の6時間10分。
賃貸マンションの広告のようですね。
誰ですか身を乗り出しているのは。
『日曜日だけど、あちらこちらから隊員をかき集めればなんとか36人揃えられる。30万円で受けてもそれだけ売上アップだ!』
再委託についてこう書いてありますよ。
「受任者は、委託業務の全部または一部の実施を第三者に委託し、または請け負わせてはならない。」
忙しい日曜日に36名の隊員を自前で揃えられますか?
もちろん、開業したばかりの警備業者にとっては不可能です。
5.零細警備会社は連合しなければ生き残れない
以上のように、開業したばかりで「実績無し・資金力無し・人材無し」の警備業者は参加できる公共入札が限られてきます。
そして、参加できる入札には利益の出るものはありません。
なんとか資金繰りをして仕事をやりとげても、開業当初から負債を抱えることになります。
公共調達を頼みにすることはできません。
「大手警備会社の残り物をありがたくいただく・他の警備会社が受けないような仕事に群がる」という図式は公共調達でも同じなのです。
そもそも商売には信用・商品・資金が必要です。
警備業者の商品は警備であり、それを行う警備員です。
商売で利益を上げるためには「質のよい商品を、安く・多く」売らなければなりません。
そのためには経験と失敗から積み上げた商品開発力、実績に裏打ちされた信用、営業・販売力が必要です。
そして、これらを支えるのが資金力です。
これは民間調達であろうと公共調達であろうと同じなのです。
そんな当たり前のことに初めて気づきました。
新規参入の警備業者や零細警備業者が既成路線を今まで通りに走っていたのでは生きていけません。
平成23年の警察庁生活安全局の発表では、
・平成21年度末の全国の警備業者数は8998業者、警備員数は54万554人。
・このうち、隊員5名以下の零細警備業者は2146業者、全体の23.8%。
・隊員100名以上の中堅・大手警備業者は1037業者、全体の11.6%。
23.8%の零細警備業者が中堅・大手警備業者と同じ線路上を走っていても、残り物を拾えるだけです。
食べ残しに群がっていては隊員を養うことはできません。
質のよい警備を売ることなど「夢の又夢」となります。
しかし、23.8%の2146業者が集まれば大きな力となります。
具体的には零細警備業者の中小企業組合・連合組合を作ることでしょう。
組合で仕事を受ければ、人材不足・資金不足を解決できます。
実績・信用などすぐに得られるでしょう。
さらに、教育や事務処理にかかる労力・費用も軽減できます。
零細警備業者の小さな力を集めれば中堅・大手警備業者と互角に闘えるのです。
「低賃金・過重労働→警備員の質の低下→警備料金引き下げ→低賃金・過重労働」の連鎖を断ち切るために、
零細警備業者の創業の志と意地を集めてみませんか。
★★04
選任のための法律知識・
【広告】
電動トライクです。
シニアカーの代わりに。
孫には
こちら


6.警備員の請負雇用とは?
a.雇用と請負
最近気になっているのが「警備員の請負雇用」です。
ハローワークの求人でよく見かける文言です。
請負雇用は、雇い主が「雇用する労働者の社会保険料負担を免れる」ための便法でしょう。
しかし、「警備員の請負雇用」は警備業法上問題があるように思えます。
雇用とは「労務の利用それ自体を目的とする契約」で、報酬は労務の提供に対して支払われます(民法623条)。
雇用では、働けばそれだけで契約を履行したことになります。
それゆえ、契約相手からいろいろと指図を受けることになります。
請負とは「仕事の完成を目的とする契約」で、報酬はその仕事の完成に対して支払われます(民法632条)。
請負では、その仕事を完成すれば自分がやらなくても契約を履行したことになります。
逆にいくら自分が頑張ってもその仕事が完成しなければ契約を履行したことにはなりません。
それゆえ、契約相手からいろいろ指図を受けることはありません。
雇用契約には労働基準法が適用されますが請負契約には適用されません。
警備員を請負契約で雇えば労働基準法の適用を免れることができます。
b.警備業務を請け負えるのは警備業者だけ
しかし、警備業法で警備業務を請け負えるのは「公安委員会の認定を受けた警備業者」だけです。
「警備業の認定を受けていない者」が警備業者と請負契約をして警備業務を行えば警備業法違反となります。
・請負契約で雇われた警備員は、認定を受けないで警備業務をしたことになり100万円以下の罰金(警備業法57条1号)、
・罰金刑を受ければ、警備員の欠格事由に該り5年間は警備員になれません(警備業法14条1項・3条②)。
・一方、警備員を請負契約で雇った警備業者は、警備員名簿虚偽記載で30万円以下の罰金(警備業法58条⑩)、
・罰金刑を受ければ、警備業者の欠格事由に該り認定取消、5年間は警備業者となれません(警備業法3条②)。
・さらに、「認定を受けていない者に警備業務をさせた」として、間接正犯・共謀共同正犯・教唆犯・幇助犯も問題となります。
もっとも、国が所管運営するハローワークが警備員の請負雇用求人を認めているのだから問題はないのでしょう。
しかし、警備業法を検討しないで他の業種と同じように考えているのなら、警備業法違反に手を貸していることになります。
そもそも「警備業者が警備員を請負契約で雇って、社会保険料負担を免れようとする」のは警備料金自体が低過ぎるからでしょう。
警備業者も「やりたくてやっている」わけではないでしょう。
そうでもしなければ、弱小警備会社は隊員の生活を守ることも自分の生活を守ることもできないからでしょう。
「実績不要・値段勝負」の公共調達に最低価格を設定せず、弱小警備会社の値引き合戦を傍観している公共機関にも責任があるように思えます。
c.厚生労働省の回答(2011.12.17 追記)
以上の点を厚生労働省に問い合わせたところ、次のような回答がありました。→→→
厚生労働省への質問送信フォーム
「お寄せいただいたご質問について、返信いたします。
請負雇用に関してご指摘いただきました。
ハローワークは職業安定法に基づき設置され、職業紹介を通じて雇用関係の成立をあっせんする機関とされております。
このため、雇用契約ではなく、請負契約や業務委託契約となるようなあっせんは行っておりません。
なお、求人票の職種欄に「(請)警備員」や「請負」との表記があるものについては、
自社が他の企業と請負契約を結んで業務を行い、
その業務実施場所(就業場所)が自社内でなく、他の当該請負契約の発注元事業所内であるような業務に係る従業員の募集のための求人となります。
何卒、以上をご理解いただきますようよろしくお願いいたします。(厚生労働省職業安定局首席職業指導官室)」
つまり、
・①.警備員募集で「請負」と表記されているのは請負契約ではなくて労働契約である。
・②.「請負」と表記されているのは、警備会社が雇った警備員を、請負契約先の就業場所で働かせる場合である。
要するに、「警備員の就業場所が警備会社内でなければ請負という表記を使う」ということ。
警備員の就業場所がスーパーや工場なら請負。
土木工事の現場でも請負。
しかし、警備員が警備会社内で働くことはありませんが‥。
少々疑問が残るところですが、ハローワークの警備員求人で請負という文言が使ってあっても請負契約ではありません。
請負契約ではないので、労働基準法が適用され警備会社は社会保険負担が必要となります。
警備員になろうとする方は安心してください。
警備会社の採用担当の方も安心してください。
ハローワークに請負雇用求人をして警備員を雇っても、請負契約ではなく雇用契約なので警備業法違反とはなりません。
社会保険も心置きなく負担してやれますネ。
c.警備業を開業するかどうかは自分次第
私は今まで、現場の隊員に警備業開業を勧めてきました。
しかし、開業しても「簡単に生活していけるものではない」ことが分かりました。
生活の安定を望むなら、警備会社にとどまるべきです。
給料が安くても仕事がきつくても、生きていくことだけはできるでしょう。
管理職になればそこそこの給料をもらえます。
隊員に低賃金・過重労働を課さなければなりませんが、自分の生活のために我慢しましょう。
会社の理不尽な方針には自分を殺して従いましょう。
それがサラリーマン管理職の務めです。
そんな我慢ができない方にだけ開業を勧めます。
「自分の納得する警備を売るンだ。そのためには食えなくても構わない」
この覚悟を持っている方だけにしか開業を勧めません。
なお、「開業して仕事がなければ、他の警備会社で警備員として働けばよい。検定資格も持っているから‥」という甘い考えは捨てましょう。
どこの警備会社が警備業者を雇いますか!
皆様はどちらを選びますか?
私は開業してしまいましたので、前へ進むしかありません。
「猿さん、犬さん、キジさん、力を貸してくれるのなら“きびだんご”は自前です。」
つづく