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第13講.教唆犯・間接教唆犯
前回は「善悪の判断能力のない者・事情を知らない者」を道具として使って犯罪行為をさせる間接正犯。
これは自分が犯罪行為をしたとみなされる。(正犯になる)
今回は「善悪の判断能力のある者・事情を知っている者」をそそのかして犯罪行為をさせる場合。
こちらは、教唆犯として「自分が犯罪行為をしたことにはならない(正犯にならない)」が、「自分が犯罪行為をした場合と同じ」刑罰が与えられる。
また、教唆犯を教唆する場合も同じに扱われる。(間接教唆犯)
判例は再間接教唆・再々間接教唆も認めている。
最高裁は共謀共同正犯理論とともに、最後の黒幕までさかのぼって処罰しようとしているのだ。
今回は、教唆犯の成立要件を簡単に説明する。
過失による教唆や不作為による教唆、教唆の未遂などを受講生に議論させるのがよい。
繰り返しになるが、警備員教育での法律知識は「結果を教えること」ではない。
法律に親しませること、筋道をたてて考えさせることである。
講師が、「結果を教えよう」とすると、その講義はまったく面白くないものになってしまう。
★教唆犯,間接教唆犯,再間接教唆犯・再々間接教唆犯(判例)
★教唆犯の成立要件,教唆故意と過失による教唆,不作為による教唆,教唆の未遂
4.共犯(教唆犯・幇助犯) -そそのかしたり助けたりすると犯罪になる
a.教唆犯(きょうさはん) -「そそのかす」のは「する」のと同じくらい悪い
※刑法61条(教唆)
「1.人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
2.教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。」
イ.教唆犯の取り扱い
教唆犯とは、「犯罪をやろうと思っていない者」をそそのかして、「犯罪をする決意」をさせ、その者に「犯罪を行わせた」者である。
そそのかした者を“教唆者”、そそのかされて犯罪を行った者を“被教唆者”と呼ぶ。
被教唆者がその犯罪で罰せられるのは当然である。
しかし、教唆者も教唆犯として正犯と同様に扱われる。
たとえば、
・Aが「自分の靴を買おう」と友達のBと一緒に店にやって来た。
・Aが靴を選んでいたら、BがAに『万引きは簡単にやれるから、お前も一度やってみたら?』と話した。
・Aは最初『馬鹿なことを言うな。万引きは犯罪だぞ!』とBを相手にしなかった。
・しかし、Bは「自分も盗ったこと・CもDも盗ったこと」を話して万引きを勧めた。
・Aは『それなら、俺もやってみるか!』と決心して、買うつもりだった靴を万引きした。
Bは、Aと一緒に万引きをしたわけでもないし、Aの万引き行為を助けたわけでもない。
しかし、「やる気のない者をそそのかして、犯罪を発生させた」ことに対して責任を取らされるのだ。
ロ.教唆犯の刑 -「そそのかした者」が「した者」より刑罰が重いことがある
条文にある「正犯の刑を科する」とはどういうことか。
Aは窃盗罪だから、「10年以下の懲役・50万円以下の罰金」。
この範囲でAの刑罰が決まる。
Aに懲役1年が言い渡されたとする。
Bは窃盗罪の教唆犯で「正犯の刑を科する」。
正犯とは犯罪行為をしたAである。
Aが懲役1年だから、Bも懲役1年か?
そうではない。
「正犯の刑」とは「正犯の行った犯罪の法定刑」のことである。
つまり、Bは「Aの行った窃盗罪に定められている刑」を科せられる。
だから「10年以下の懲役・50万円以下の罰金」。
この範囲でBの刑罰が決まる。
Bの「悪さの程度」によって、Aの刑より軽くなることもあるし重くなることもある。
また、Aが起訴されないのにBが起訴されることもある。
Aに執行猶予がついたのにBにはつかないこともある。
もちろん、Aが窃盗罪の未遂なら、Bは窃盗罪未遂の刑の範囲内で刑を課せられる。
間接正犯は「善悪の判断能力のない者・事情を知らない者」を使って犯罪を行わせる場合。
これは、自分が犯罪行為をしたことになる。
教唆犯は「善悪の判断能力がある者・事情を知っている者」を唆して犯罪を行わせる場合。
こちらは、自分が犯罪行為をしたことにはならないが、自分が犯罪行為をしたのと同じ刑罰を与えられる。
ハ.間接教唆・再間接教唆・再々間接教唆 -「そそのかす」のをそそのかしても同じ。最後の黒幕まで追及される
・間接教唆
「そそのかすこと」を「そそのかした」場合である。
・CがBに「Aを教唆して万引きをやらせたら面白いぞ」と、「Aを教唆すること」を教唆した。
・BがAを教唆してAが万引きをした。
・Bは正犯を直接教唆した者である。当然、窃盗罪の教唆犯となる。(刑法61条1項)
・Cは間接的にAを教唆したのだが、Cも窃盗罪の教唆犯となる。(刑法61条2項)
これを“間接教唆”と呼ぶ。
こうして、“黒幕”を逃がさないようにしているのである。
・再間接教唆・再々間接教唆
それでは、D→C→B→Aと教唆が行われ、Aが犯罪を行った場合はどうか?
これを“再間接教唆”と呼ぶ。
黒幕を逃がさないためには、Dも教唆犯とした方が都合がよいだろう。
しかし、これを認めると際限なく教唆犯の範囲が広がっていく。
「刑法61条2項が再間接教唆以上を含めているかどうか」については争われている。
・多数説は条文の文言通り「間接教唆だけ」としている。
・判例は「再間接教唆以上が含まれている」とする。
判例の立場では、再々間接教唆・再々再間接教唆と最後の黒幕まで刑事責任が追及されていくことになる。
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