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第14講.幇助犯





前回は「犯罪をやる気のない者を、そそのかして犯罪をやらせた場合」、今回は「犯罪をやる気のある者を助けた場合」。
犯罪をそそのかした場合は、犯罪を行った者と同じ法定刑となるが、「助けた場合は、犯罪を行った者の法定刑の半分」となる。

幇助の方法は「正犯の実行を容易にするもの」であればなんでもよい。助言・激励などの「精神的な方法」でも幇助犯は成立する。
相手が「助けられていること」を知っていなくても、幇助犯が成立する。(判例・通説)
また、不作為による幇助犯も認められている。(判例・通説)
万引き行為を見て見ぬふりをした警備員や私服保安は不作為による窃盗罪の幇助犯となる。
警備員の不祥事を知って、それを握りつぶしたりその警備員に対して教育指導をしなかった選任の刑事責任は?


幇助犯の成立要件-幇助故意・過失による幇助(不可罰),事後幇助犯(不可罰),片面的幇助犯(通説・判例は可罰)
不作為による幇助(判例・通説)-警備員の暴行を握りつぶした本部長(架空事例)
幇助犯の刑罰


     
4-b.幇助犯  -「助ける」のは「する」より悪くない


※刑法62条(幇助)
  「1.正犯を幇助した者は、従犯とする。
    2.従犯を教唆した者には、従犯の刑を科する。」

※刑法63条(従犯減軽)
  「従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。」


“幇助(ほうじょ)”とは「助けること」である。

他人の犯罪行為を助けたのが幇助犯である。

幇助犯は従犯(じゅうはん)とも呼ばれる。

教唆犯には「正犯の刑」が適用されるが、幇助犯には「正犯の刑を減軽したもの」が適用される。
「助けた」のは「そそのかした」よりも悪さの程度が低いからである。
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イ.幇助犯の成立要件  -「助けたこと」が犯罪になる場合


①.幇助行為とは「犯罪実行行為以外のもの」でなければならない  -万引きをする者に、『頑張ってネ!』と勇気づけたら犯罪

幇助行為とは「正犯の犯罪実行行為以外のもので、正犯の実行を容易にするもの」である。
正犯の実行行為の一部をすれば、幇助犯ではなく共同正犯として正犯となる。


・「正犯の実行を容易にするもの」であればなんでもよい。凶器を貸す・場所を貸す・資金を渡すなど。
・助言・激励などの「精神的な方法」でも構わない。
・「その幇助行為が正犯の実行行為になくてはならないもの」である必要もない。


②.幇助する故意が必要  -『頑張ってネ!くらいでは勇気づけられないと思っていた。』なら許される。

幇助故意とは、
「正犯者がその犯罪を実行すること・実行していること」と「自分の行為が正犯者の実行行為を容易にするものであること」を認識・認容すること。

そう思わなかった場合は幇助故意がないので幇助犯とはならない。


③.過失によって幇助しても幇助犯とはならない  -『普通なら、お前が言えば勇気づけられるに決まっているじゃないか!』でも許される。

「うっかりしていて」幇助行為をやってしまった場合は、幇助犯とはならない。

理由は「過失によって教唆しても教唆犯とならない」ことと同じである。
※「あっそうか」で済ませてないで、過失によって教唆した場合をもう一度読んでみましょう。


④.正犯者がその犯罪を実行したことが必要  -『頑張ってね!』と勇気づけたのに、頑張らなかったら犯罪じゃない

幇助者が正犯の犯罪に資金援助をしたが正犯が犯罪を実行しなかった。

「教唆したが被教唆者(正犯)が犯罪を実行しなかった」場合と同じである。

幇助行為をしても、正犯が犯罪を実行しない以上幇助犯とはならない。


⑤.正犯者が犯罪をし終わった後に幇助することはあり得ない  -万引きをした者に『頑張ったね!』と勇気づけてもかまわない

幇助行為は「正犯者の犯罪実行を容易にする」ものである。

正犯が犯罪行為を終了してしまえば、それを幇助することはあり得ない。


正犯の逃亡を助けたり、正犯をかくまったりして、正犯の犯罪終了後に協力するのは幇助犯ではない。

正犯の犯罪終了後の幇助行為は、“犯人隠匿罪”や“盗品に関する罪”などで特別に定められている。

それ以外は犯罪とならない。


・友達が万引きをしてきて、『見つかったかも知れない。』と心配している。
・『大丈夫だよ!あの店の警備員は歩いているだけだから、絶対に見つかっていないよ!』
  このように励ましたり、ハグしたりしても窃盗罪の幇助犯とはならない。

もちろん、友達が万引きをする前にこんなことをしたら窃盗罪の幇助犯となる。


⑥.正犯者が「幇助を受けていること」を知っていなくても幇助犯は成立(判例・通説・片面的従犯)  -相手が知らないうちに助けても犯罪

・あなたは「友達が化粧品を万引きしているところ」を偶然見かけた。
・向かいの売場から私服保安がその友達を監視している。
・「このままでは、友達が私服保安に捕まってしまう。」
・そこで、あなたは私服保安に近づいてこう言った。
  『すいません…。お店の方ですよねぇ? 気分が悪いンですが、休むところはありませんか?』
・私服保安はあなたを店の救護室に案内した。
・友達は万引きを成功させた。

あなたは、友達の万引きの幇助犯となるのか?

「幇助犯が成立するには、正犯と幇助者の間に意思連絡が必要か?」という問題である。

判例・通説は「意思連絡は必要ない」としている。

あなたは窃盗罪の幇助犯となる。

もっとも、あなたが「友達の万引きを成功させるためにした」ことを話さない以上、誰にも分からないが…。
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⑦.不作為による幇助犯は成立する(判例・通説)  -私服保安が万引きを見つけて何もしなければ窃盗罪の共犯!

「犯罪を防止しなければならない」者が、「犯罪が行われる・行われていること」を知りながら何もしなかった場合である。

もちろん、「何もしなかったこと」に「その犯罪を幇助したこと」と同じ程度の悪さがなければならない。

判例・通説は、不作為による幇助犯を認めている。

幇助は教唆と違って「正犯に積極的に働きかける行為」ではない。
だから、不作為による幇助行為は簡単にできるのである。


(例1.見て見ぬふりをする警備員)

警備員や私服保安が、万引き行為を見て見ぬふりをした。

警備員や私服保安には「店の盗難を防ぐ」という契約上の義務がある。
その義務を知りながら、何の抑止行動もせずに「見て見ぬふり」をすれば、「窃盗罪の不作為による幇助犯」となるだろう。

もっとも、その警備員や私服保安が「自分の職務・義務」を知っていなければならない。
「立っているだけ・歩いているだけ」が自分の仕事だと思っている警備員や私服保安なら幇助犯は成立しないだろう。


同僚の警備員が客に暴行・傷害するのを見ていて止めなかった警備員も「傷害罪の不作為による幇助犯」となるだろう。
店内で客同士が喧嘩しているのを見ていて止めなかった警備員も同じである。


(例2.警備員の不祥事を握りつぶす上役)

・ある警備会社の警備本部長が「自社の警備員が客に暴行・傷害をしたこと」を知らされた。
・しかし、その警備本部長は「問題が表面化すること」を嫌って、本人から事情を聞いただけで何もしなかった。
・その警備員が再び客に暴行・傷害を加えた。

警備本部長の刑事責任は?


警備員のした第一の暴行・傷害については、「不作為による犯人蔵匿罪」が問題となる。
これは「3.不作為犯-b-例4」で説明した母親と同じである。

・不作為による犯人蔵匿罪の成立は、本部長に「この警備員の暴行・傷害を警察に連絡したり、この警備員を警察に突き出したりする義務」があるかどうかで決まる。
・警察官でない以上そんな義務はないだろう。

本部長に犯人蔵匿罪は成立しない。


警備員のした第二の暴行・傷害についての本部長の刑事責任はどうだろうか?

・警備本部長は部下の警備員を監督しなければならない。
・当然、問題を起こした警備員に適切な指導・教育をしなければならない。
・このような「作為義務」があるのに何もしなかった。
・そして、その警備員が再び暴行・傷害を行った。

「不作為による幇助」が問題となる。


・問題は、本部長に「幇助する故意」があったかどうかである。
・幇助故意とは、「正犯者がその犯罪を実行すること」と「自分の行為が正犯者の実行行為を容易にするものであること」を認識・認容していることである。

・つまり、本部長には次の二つの認識・認容が必要である。
1.その警備員が再び客に暴行・傷害をすること。
2.自分が何もしなかったら、その警備員が再び客に暴行・傷害をすることを容易にしてしまうこと。

・本部長はこう言った。
  『本人に事情を聞いたら、すごく反省していました。だから、二度目はないと絶対に思っていました。そこで、私はこの警備員に指導・教育する必要はないと思いました。』
  これなら①②の認識はなく「幇助故意はなかった」ことになるだろう。


・本部長が次のように言ったら問題となる。
  『本人がすごく反省していたから二度目はないと思いました。そりゃあ、どんなことにも“絶対”はありません。
    「絶対に二度目はない」と思っていたと言えばウソになります。心のどこかでは、「もしかして…」と思っていたでしょう。
    しかし、そんなことを心配していたら現場を回していくことができません。
    正直なところ、「またやったら、そのときに対策を考えればよい」と思っていました。
    それに、また握りつぶしてもいいし…。』

こうなると、1と2について「不確実に認識し認容していた」として未必の故意が認定され、「幇助故意あり」となる。[第八章-Ⅱ-2-c]


もっとも、そんなことは言わないだろうから本部長が「不作為による幇助犯」となることはないだろう。

しかし…、三回目があれば、完全にアウトとなる。

“握りつぶし本部長”は暴行・傷害罪の「不作為による幇助犯」として犯罪者となってしまうのだ。


なお、この例はあくまで法律解釈を説明するための「架空の事例」である。


⑧.従犯を教唆した者も罰せられる  -『「頑張ってね!」と言って勇気づけたら?』とそそのかしても犯罪

・CがBに『Aが万引きするときには、お前は下見をしてAにその情報を教えやってくれ。』と頼んだ。
・Bがその通りにした。
・CがBに「幇助行為をするように」教唆した場合である。
・Aが万引きをした。

・Aは窃盗罪。
・Bは窃盗罪の幇助犯。
・Cは「窃盗罪の幇助犯」の教唆犯となる(刑法62条2項)

教唆犯であるから、教唆犯で説明したことが当てはまる。
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ロ.幇助犯の刑罰  -「助けた者」が「した者」より刑罰が重いときがある


条文の「正犯の刑を減軽する」とは「正犯の行った犯罪の法定刑を減軽する」ことである。
「正犯に言い渡された刑」を減軽するのではない。

刑を減軽する場合は、通常“半分”となる。

※刑法68条(法律上の減軽の方法)
  「法律上刑を減軽すべき一個又は二個以上の事由があるときは、次の例による。
    1.死刑を減軽するときは、無期の懲役若しくは禁錮又は10年以上の懲役若しくは禁錮とする。
    2.無期の懲役又は禁錮を減軽するときは、7年以上の有期の懲役又は禁錮とする。
    3.有期の懲役又は禁錮を減軽するときは、その長期及び短期の2分の1を減ずる。
    4.罰金を減軽するときは、その多額及び寡額の2分の1を減ずる。
    5.拘留を減軽するときは、その長期の2分の1を減ずる。
    6.科料を減軽するときは、その多額の2分の1を減ずる。」 


たとえば、

・Aの窃盗をBが幇助した場合。
・Aは窃盗罪で「1月~10年の懲役・50万円以下の罰金」
・Bは窃盗幇助罪で「半月~5年の懲役・25万円以下の罰金」
・この範囲でAとBは別個に刑罰を言い渡される。

幇助犯のBが正犯のAより重い刑を言い渡されることもある。

これは教唆犯の場合と同じである。


つづく。





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