SPnet 選任業務編



・教育期途中で退職した警備員にその教育期の現任教育が必要か?(2017.09.17)





現任教育について施行規則は「教育期中に行う(行えばよい)」としています。
それでは「教育期途中で退職した警備員に対しても、その教育期の現任教育が必要なのでしょうか?」
この点について施行規則に定められていないので解釈が分かれます。
しかし、「退職警備員にもその教育期の現任教育が必要」とすると、
退職願いが出るたびにその警備員に対して現任教育が必要となり、警備業者に過度な負担を強いることになります。
また、退職予告期間を無視して突然退職した警備員に対しては現任教育をする術がありません。
そんな場合にも警備業者に教育懈怠の責任を負わせるのは酷です。
実際を考えれば「退職警備員にはその教育期の現任教育は不要」としなければなりません。
これは施行規則の立法不備ですが、実際の必要性で法令の解釈を曲げる訳にはいきません。
この点について考えてみました。法律好きの方はご一読ください。

なお、設例や説明は2019年改正前の「教育期を前期6カ月と後期6カ月」に分けているときのものです。
2019年改正で「教育期は前期と後期を合わせて1年」となりました。
しかし、同じ問題が生じます。前期を当年度、後期を次年度と読み替えてください。


問題の所在
現任教育は免許の更新のように「次の教育期の警備業務を行わせるために必要な教育」ではない
「退職警備員にはその教育期の現任教育は必要か不要か」・その根拠
どちらが妥当か?
現任教育を欠席した者に対する教育懈怠


   
1.問題の所在


立ち入り前に同業者から聞かれたことです。
「昨年9月の立ち入りの後、10月末に退職者が出た。昨年度後期分の現任教育がまだだった。今年の立ち入りで問題にならないだろうか?」

確かに、この警備員は「昨年度後期開始(9月1日)~退職日(10月30日)」まで「昨年度後期現任教育を受けないで警備業務を行ったこと」になります。
しかし、どの警備業者も「これが警備業法違反や教育懈怠にはならない」と思っています。はたして、問題はないのでしょうか?


a.設例

  (設例1)
・平成29年10月30日に警備員Aが退職した。
・平成29年後期の現任教育はまだ行っていなかったので、Aに対する平成29年後期の現任教育も行っていない。
・Aに対する教育懈怠となるのか?

  (設例2)
・平成29年11月1日に現任教育を行った。
・警備員Aは「今期末(平成30年3月31日)までに退職するから」という理由でこの現任教育を欠席した。
・そして、そのまま警備業務を行い、平成30年3月31日付けで退職した。
・Aは平成29年後期の現任教育を受けていない。Aに対する教育懈怠となるか?
・Aが平成30年3月30日付けで退職した場合はどうか?


b.条文

・警備業法21条 (警備業者等の責務)
「警備業者及び警備員は、警備業務を適正に行うようにするため、警備業務に関する知識及び能力の向上に努めなければならない。
  2警備業者は、その警備員に対し、警備業務を適正に実施させるため、
    この章の規定によるほか、内閣府令で定めるところにより教育を行うとともに、必要な指導及び監督をしなければならない。 」

・警備業法施行規則38条
①警備員教育の種類は「基本教育、業務別教育、必要に応じて行う警備業務に関する知識及び技能の向上のための教育」の三つ。
②基本教育と業務別教育の教育内容と教育方法の指定。
③警備員の経験や所持資格による教育必要時間数。
④教育を行う時
・「新たに警備業務に従事させようとする警備員」に対する教育 → その警備業務に従事させる前。
  ※条文にその文言はないが、「新たに警備業務に従事させようとする警備員」とは「まだ警備業務に従事していない警備員」なので、
    その者に対する教育は「その警備業務に従事させる前」に行わなければならないのは当然。
・「現に警備業務に従事させている警備員」に対する教育 → 「教育期(4/1~9/30までの期間、及び10/1~翌年3/31までの期間)毎に行う」。
  ※改正施行規則は「毎年度行う」(施行規則規則38条5項)
⑤新任教育を受けた者に対する現任教育の免除
・「現任教育は、(新任)教育を行った日の属する教育期は行わなくてもよい。
  ※改正施行規則は「(新任)教育を行った日の属する年度は行わなくてもよい」(施行規則38条5項の備考)


c.問題の所在

以上のように施行規則38条は、
「現に警備業務に従事させている警備員 ( 現任警備員 ) に対する基本教育と業務別教育 ( 現任教育 )」についてその内容・方法・時期を定めているが、
現任教育の対象となる者を「現に警備業務に従事させている者」としているだけで、「教育期途中で退職した警備員に現任教育が必要かどうか」を明言していない。

この点につき殆どの警備業者は、「現任教育をする前に退職した警備員には現任教育は不要」として扱っている。。
その根拠はどこにあるのだろうか?

要は警備業法21条と施行規則38条の解釈にある。
警備業法の解釈については警察庁がその立場を10年毎に示しているが、そこに退職警備員に対する現任教育の記述はない。→→→警察庁の解釈・運用/平成28年版
     

2.現任教育は「その教育期の警備業務を行わせるために必要な教育」なのか、免許の更新のように「次の教育期の警備業務を行わせるために必要な教育」なのか


現任教育は「現任警備員の警備業務を適正に行わせるための教育」であり「現任教育をしなければ現任警備員に警備業務を行わせてはならない教育」である。
しかし、その警備業務とは「その教育期の警備業務」であるのか「次の教育期の警備業務」であるのかが不明。
つまり、現任教育は「その教育期の警備業務を行わせるために必要な教育」なのか、免許の更新のように「次の教育期の警備業務を行わせるために必要な教育」なのかが問題となる。


a.「現任教育は次の教育期の警備業務を行わせるために必要な教育」とする解釈

・現任教育がその教育期のための教育なら、教育期初日に行うべき。「教育期中に行う」としているのは「次の教育期のための教育であること」を示している。
・この立場では「教育期途中で退職した警備員に対してその教育期の現任教育は不要」となる。
  「退職警備員はその教育期の現任教育を受けていないが、退職警備員は次の教育期に業務を行わないので現任教育は不要である。


b.批判

・施行規則は警備員を「新たに警備業務に従事させようとする警備員」と「現に警備業務に従事させている警備員」の二つに分け、
  その各々に対して教育する内容と時間数を定めている。
  a説ように「現任教育は次の教育期に警備業務を行わせるための教育」とすると、
  「現に警備業務に従事させている警備員」を「次の教育期にも警備業務に従事させる予定の警備員」と解釈しなければならなくなり、「現に」の文言と整合しなくなる。

・また、新任教育を受けた警備員に対して次の教育期の現任教育が不在となる。
  平成29年前期に新任教育を受けた警備員(平成29年前期の現任教育免除) → 平成29年後期に現任教育を受ける(平成30年前期のための教育) → 平成29年後期の現任教育が不在。


c.「現任教育はその教育期の警備業務を行わせるために必要な教育」である。

・以上のように「現任教育を次の教育期のための教育」と解釈するのは妥当ではない。

・このように解釈すると「現任教育は教育期の初日に行わなければならない」ことになる。
  しかし、施行規則は警備業者の都合を考えて「その教育期中に行う(行えばよい)」としたのである。

・このような取扱をすると「教育期初日~現任教育日」の警備業務につきそれを適正に実施させるための教育が存在しなくなる。
  しかし、実際上は「新しい現任教育の日までは、その前の教育期の現任教育の効果が及んでいる」と考えられるので、現任教育の趣旨・目的を無にすることはない。
    ●●     
選任のための法律知識・








3.「退職警備員にその教育期の現任教育が必要か?」の問題


a.A説「退職警備員にもその教育期の現任教育が必要」

①施行規則は「新たに警備業務に従事させようとする警備員」と「現に警備業務に従事させている警備員」の二つに分けている。
  その教育期に存在するのはこの二種類の警備員だけ。
  教育期中に退職した警備員も「現に警備業務に従事させている警備員」に含まれ、現任教育が必要。

②退職警備員に現任教育が不要とすると退職警備員に対して「教育期初日~退職日」の現任教育が不在となる。

③「退職警備員に現任教育不要」とすると「教育期末に退職した警備員」に対して現任教育不在となる。
  平成29年後期の現任教育をその教育期末日の平成30年3月31日にした場合、平成30年3月30日に退職した者に対する現任教育は不要となる。
  その結果、この警備員は平成29年後期の殆どの期間を現任教育なしで警備業務を行ったことになり、現任教育の趣旨・目的を無にすることになる。


b.B説「退職警備員にはその教育期の現任教育が不要」の理由。

①「現に」の解釈
・条文が現任教育の「対象」と「教育時期」につき、「現に警備業務に従事させている者」と「各教育期中に行う」を一文にしていることから、
  「現に」を「現任教育をするときに」と解釈することもできる。
  現任教育をする日を基準にすれば新任警備員と退職警備員と現任警備員の三種類になるので、「現に警備業務に従事させている警備員」に「退職警備員を含めない」とも解釈できる。

③退職警備員についての「教育期初日~退職日」の教育不在は、実際には「その前の教育期途中に行った現任教育の効果が及んでいる」ので現任教育の趣旨・目的を無にすることはない。
  これは、現任警備員に対して「教育初日~現任教育日」の教育不在と同じである。

③逆のことも言える。
・平成29年後期の翌日(平成29年9月2日)に退職した警備員がいる。
  A説によるとこの警備員にも平成29年後期の現任教育が必要となる。
  その結果、この警備員はその教育期の殆どを警備業務に従事しないのにその教育期の現任教育が必要となり、現任教育の趣旨・目的を逸脱することになる。
  どちらも極端な事例である。「極端な事例について不都合が生じることは理由とはならない」のでA説の批判は当たらない。

④「退職警備員に現任教育が必要」とすると警備業者に酷な負担を強いる。
・退職する者は二週間前に退職予告をしなければならないので、その予告期間中に現任教育をすることは可能である。
  現任教育の対象に退職者を含むとすると、退職願いが出るたびにその者に対する現任教育をしなければならなくなり、警備業者に過度の負担を強いることになる。
  さらに、突然退職した者に対しては業務命令で教育をすることができないので教育不可能となる。
  こんな場合にまで教育懈怠の責任を警備業者に負わせるのは酷であり、現任教育制度の趣旨・目的を逸脱することになる。

     

4.どちらが妥当か?


・A説の方が解釈論としては一貫性がありますが、「退職警備員にも現任教育が必要」だとすると現場は混乱します。
・B説の解釈論には少し無理がありますが、「そう解釈できる余地」があります。

・B説をとっても、実質的には「前の現任教育の効果が次の現任教育日まで続いている」ので現任教育制度の趣旨・目的を害することはありません。
  たとえば、前期の現任教育を6月1日に、後期の現任教育を12月1日にする場合を実質的に考えれば
  「6月1日~9月30日」・前期現任教育の効果+「10月1日~11月30日」・前期現任教育の効果+「12月1日~3月31日」・後期現任教育の効果…。
  12月1日に後期現任教育を受けた警備員はその後も後期現任教育の効果を受け、
  12月1日前に退職した警備員は12月1日以降の後期現任教育の効果を受けないだけで、退職警備員も現任警備員と同じです。

私は、巷の取扱と同じくB説を妥当とします。


法解釈が分かれるのは条文の意味が曖昧で法的用の場面で混乱が起こる場合です。
最終的には裁判所の判断が出て、それにしたがって法令が改正されていきます。
しかし、裁判所は提訴されない以上、その条文の意味を独自に判断することはできません。

例えば、
・ある警備業者が「教育期途中で退職した警備員に対してその教育期の現任教育を行わなかった」
・立入でそのことが問題となり教育懈怠で行政処分を受けた。
・その警備業者はそれを不服として行政処分取り消しを求める行政訴訟を起こした。
・そして、裁判所が「退職警備員に現任教育が必要かどうか」の判断をした。
・これを受けて施行規則が改正され、退職警備員をが現任教育の対象になるかどうか明記された。

現在のところ、現場の取扱は「退職警備員に現任教育は不要」とされているので混乱は起こっていません。
しかし、この点については警察庁の解釈運用基準ではっきりさせておくべきだと思います。
   ★★03     
選任のための法律知識・

【広告】
200万円なら「傾く」 NIKEN も。
どちらも「立ちごけ」しません。




5.現任教育を欠席した者に対する教育懈怠


a.「現任教育は一回すればよい」のではない


「教育期途中で退職した警備員にその教育期の現任教育は不要」(B説)としても、
その退職警備員に対して退職前に現任教育が充分可能であった場合には教育懈怠が問題となります。

以前所属していた警備会社の現任教育でのことです。
この会社では顧客の棚卸休業の日に私服保安を全員集めて現任教育をします。
棚卸は年二回だから前期・後期の現任教育が各一日で行えるのです。

その現任教育で教育担当者がこう言いました。
『当社の今期の現任教育は今日だけだから、本日欠席した者は来期の仕事ができないことになる。』

この会社では現任教育を「来期の仕事をするための更新講習」ととらえているようです。

この解釈が間違っていることは始めに述べました。
現任教育は「その教育期に警備員が行う業務を適正にするためのもの」であり「その教育期に警備業務を行わせるために必要な教育」です。
「次の教育期に警備業務を行わせるために必要な教育」ではありません。
「現任教育を教育期開始日にする必要はなく、教育期中に行えばよい」としたのは「警備業者の負担を軽くするためのもの」で、
「現任教育が次の教育期のための更新教育」と考えているわけではありません。


また、現任教育は「各教育期中に行う(行えばよい)」と規定されているだけであり、どこにも「各教育期中に一回行う(行えばよい)」とは規定されていません。
警備業者は「現任教育を一回したから教育義務を果たした」とは言えないのです。
つまり、現任教育を欠席した警備員に対しては「再度現任教育を受けさせる努力」をしなければならないのです。

この会社では「現任教育は来期に警備業務につかせるための更新教育」と考えているので、
現任教育を欠席した警備員に対して二回目の現任講習を予定せず、そのまま業務を行わせて「その教育期末日をもって退職」とするでしょう。
そうすると、「二回目の現任教育をしなかったこと」が教育懈怠となります。

また、設例2のように「平成29年11月1日に予定している現任教育」を、
『今期末(平成30年3月31日)までに退職するから』と欠席連絡をしてきた警備員に対しては「そうだね」と納得するでしょう。
しかし、その教育は平成30年3月31日まで警備業務を行わせるための教育ですから、「この現任教育を受けないと業務に就かせられない」と説明し、
その教育を受けさせる努力をしなければなりません。
この努力をしなければ「教育義務を果たしたとは」言えません。


b.「現任教育を欠席した警備員は教育期末日の前日に退職とする」。いっそのこと「現任教育を教育期末日に行う」


それなら、「現任教育を欠席した警備員」の退職日を教育期末日の前日にしたらどうでしょう。(設例2の退職日を3月30日にする場合)

「現任教育を欠席した警備員に対しては教育期末日(3月31日)に再度現任教育を予定していました。
  でも、その前日に退職しましたからネェ…。退職者は現任教育の対象ではないのでしょう?」と言い訳ができます。

いっそのこと、「現任教育は教育期末日にやるようにする」のはどうでしょう?
そうすれば「その教育期中に退職した者」には現任教育をする必要がなくなり、その分の手当を支払わなくて済みます。
一回目の現任教育が教育期末日なら、欠席警備員に対して二回目の現任教育をすることはできません。
だから、「二回目の現任教育をしなかったこと」に対する責任を追及されません。

いろいろ抜け道はあると思いますが、担当警察官に「この警備業者は教育を大切なものだと考えていないナ…。」と思われたら終わりです。
「ホコリを出す方法」はどれだけでもあるからです。


以上要するに、

・現任教育は「その教育期の警備業務を適正に行わせるための教育」であり「次の教育期に業務を行わせるための更新教育」ではない」。
・現任教育は教育期内に行えばよい。教育期内に行えば「教育期初日に行われた」とされる。
・「教育期初日~現任教育実施日」に行われた警備業については教育がなされていないことになるが、実質的には前の教育期の途中で行った現任教育の効果が及んでいる。
・教育期途中で退職した者に対しては現任教育が行われていなくても教育懈怠とはならない。(立法不備・解釈が分かれる・B説を採る))
・現任教育は一回行えばよいというものではない。教育を欠席した警備員に対しては再度教育する必要がある。

もちろん、これは私の結論です。
この結論に従って、教育懈怠となって行政処分を受けても当方は一切関知しません。


つづく。




前へ/別の警備会社の選任になれるか?   次へ/「犯罪とは構成要件に該当する違法・有責な行為」の説明   選任業務編目次へ   警備総索引   SPnet2.TOP   SPnet   SPnet番外